Negative Space

日本映画、文語文学、古代史劇映画、西部劇、フィルムノワール、hip-hopなど。

美しき賭博者:『西部に賭ける女』

2014-01-12 | ジョージ・キューカー
 ウェスタナーズ・クロニクル No.19

 ジョージ・キューカー 『西部に賭ける女』(Paramount, 1960)

 カルロ・ポンティが奥方のソフィア・ローレンのショーケースとして企画した。キューカー唯一の西部劇で、『男装』『Travels with My Aunt』と並ぶ旅役者もの三部作のひとつ。キューカー自身、もともと旅回りの劇団員であり、この三部作にはかれの個人的な経験が随所に投影されているとされる。

 脚本にはダドリー・ニコルスが起用されたが、病気のため降板(本作公開の年に死去)、リライトのためにウォルター・バーンスタインが指名された。

 舞台は1880年頃。アンソニー・クイン率いる旅役者一座。長年の恋人で一座の花形ソフィア・ローレン。ポーカーで体を賭けて負ける。勝ったスティーブ・フォレストが「財産」を守るために一座に加わる。荒野を横断する際に原住民とのいざこざ等があり、ローレンは結局、つけを払うが、最後はクインのもとに帰って行く。

 コメディータッチではじまり、中盤でアクションシーンが出て来て、最後はメロドラマに落ち着くという、トーンのたびたびの変調が魅力と言えば魅力。

 物語は薄っぺらいメロドラマだが、もともと脚本にはなかった、旅する一座のピトレスクなエピソードがいくつも撮影されていた。西部劇らしからぬこれらのエピソードの扱いに困って、スタジオは最終的にこれらをカットしてしまった。

 アリゾナの光はキューカーを魅了した。「原住民のみかけ、フロンティアのようす、メインストリートの泥」のリアリティは、写真などによる時代考証のたまものであるとキューカーは胸を張る。

 原住民との遭遇のシーン。岩に隠れていた二人の原住民(南北戦争の軍服でカモフラージュしている)が一座の前におずおずと姿を現す。頭皮をはがされ、目を見開いて仰向けに倒れている仲間の死体のアップ。振り返りながら、死体から目を離せない少女(かつての名子役マーガレット・オブライエン)のリアクションがリアル。

 見捨てられた劇団の幌馬車から取り出した色とりどりの衣裳をはおってはしゃぐ原住民。このエピソードは実際の旅役者ジョゼフ・ジェファーソンの回想に基づいているとのこと。もはや原住民たちの姿は見えず、色彩だけがスクリーンを覆いつくす目もくらむシーン。スペシャル・カラー・コンサルタントという名目でついているジョージ・ホイニンゲン=ヒューエンとアートディレクターのジーン・アレンの貢献が大きいようだ。

 ユーモアいっぱいではつらつとしたローレンの水も滴る官能美。まちがいなく彼女のもっとも美しかった映画だろう。ジャック・ドゥミも本作に魅了されたにちがいない。テーマ曲の出だしが『ロシュフォールの恋人たち』でダニエル・ダリューが何度か口にするメロディーに似ている。

 精彩を欠くクインの役には、若きロジャー・ムーアが候補に挙がっていたが、スタジオのお偉方を説得するには至らなかった。キャストはほかにエドモンド・ロウ、アイリーン・ヘッカート、ラモン・ナヴァロ。

 本作をキューカーの総決算的な作品とみなす批評家も複数いることを付け加えておこう。