李香蘭 forever !
伏見修『「蘇州夜曲」より 支那の夜』(1941年、東宝)
両親を日本軍の爆撃で殺されたらしい少女が自分を助けた軍人に恩を返すべく軍人の下宿に住み込む。ふつうの映画としてみると、ばかにテンポがのろい。
これは歌謡映画あるいはほんらいのいみでの「メロ・ドラマ」であり、演出は物語を前進させることにはない。エキゾチックな風景のなかを人物が歌いながら(「支那の夜」が何度も歌われる)あるいはものおもいにふけりながらさまよいあるく耽美的なイメージショットが延々つづく。
抗日派の賊と日本人の抗争を背景としたメロドラマという筋書きがあるにはあるが、まんまスタンバーグのフィルム・ノワール、長谷川一夫が『脱出』のボガートみたいなハワード・ホークスふうのアクション映画、李香欄が廃墟のなかをさまようロッセリーニふうのネオレアリズモなどいろんな味付けのエピソードがイメージショットのあいまあいまにゆるく繋げられているという印象。
チャン・ツィーを売り出した『初恋の来た道』みたいなアイドル映画の系譜にもつうじるものがあるだろう。スタンバーグのディートリヒものというのも、ようするにそのスタイルを徹底させたところにモダニティーがあるわけだ。
脚本・小国英雄、撮影・三村明、音楽・服部良一。ちょうど戦前から戦中にかけての成瀬を集中的にみていたところなので、成瀬組のなじみのキャストたちの登場ににんまり。
ぼさぼさ髪の浮浪児じみた少女として登場する女史、風呂あがりの再登場シーンのパジャマ姿とド派手な美貌のとりあわせがラブリー。ラスト近く、夫を失ったかなしみをまぎらわせるために山林をうろつく李香蘭の白いマントが強風になびいているロングショットなどはかなりいいかんじ。