たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

医師の役割と働き方 <論点 忙しすぎる勤務医>などを読んで

2018-09-13 | 医療・医薬・医師のあり方

180913 医師の役割と働き方 <論点 忙しすぎる勤務医>などを読んで

 

毎日紙面がウェブサイトに掲載されたのが当日の場合と、結構タイムラグがある場合があります。論点の記事は結構時間がかかりました。<論点忙しすぎる勤務医>は97日付け紙面でしたが、たぶん今日のウェブサイトに登場したのではと思います(しばらく検索していましたが昨日とかは飛ばしたので正確ではありませんが)。

 

この論点記事は、女性医師、医師ユニオンを設立した医師、医療経済学を専門とする医師がそれぞれの視点から「医師がしすぎる医師」の現状を踏まえて問題と対策を提案しています。内容については異論もありますが、結構、賛同できるところがあり、異なる立場からとても興味深い意見と思います。

 

論点で課題を突きつけたのは

<大学医学部入試で、男子の合格率が女子を上回る大学が7割を占めたこと>

<得点を調整していた東京医科大は、激務に対応できる男性医師を確保しようとしたとされる>

<勤務医の多忙さは、相次ぐ過労死や労働基準監督署の立ち入り調査からも明らか>

では、<医師の働き方はどのように見直すべきか>という問題です。

 

片岡仁美氏は、岡山大学医学部教授で、政府の関係する委員会委員もされている立場で、自分の体験や大学での取り組みを踏まえて実践的な指摘をされています。

 

<医師は当直があり、いつ呼び出されるか分からない。先輩からは「自分の時間をいかに差し出せるかが医者の価値だ」と言われてきた。>そのためでしょう。<多くの女性医師が「産休明けの当直などができない状況で戻れば、ただでさえ長時間労働で疲弊している職場に迷惑がかかる」と病院を去っていった。>女性差別は医師の職場環境のためともいえるかもしれません。

 

この職場環境を前提にあれこれ小手先の対応をしても、女性医師の復帰は厳しいわけですね。片岡氏は当初は相談し合えるフォーラムなどを企画しましたがうまくいかず、次は人数増加策を採用したのです。

 

具体的には<定員とは別に柔軟な勤務を認める「キャリア支援枠」を設けた。例えば定員5人の職場でも枠を活用すれば6人目として復帰できる。>という復帰支援制度です。その結果、<これまでに約130人が復職した。戻る職場があることで離職も減った。>他方で、人件費は増加したわけですが、院長決裁で進んだようです。

 

ただ、この復帰支援制度は、現状の職場環境を前提としており、過剰労働の実態は残りますね。その点、片岡氏も、<若いころ、研修先の米国の病院には女性医師が半数もいて、子育てと両立するのが常識だったのに驚いた。日本のように主治医が夜も呼ばれるのではなく、多くの医師がいて交代で勤務する体制がきちんと整っていたからだ。>と主治医制度の問題点を指摘しています。

 

全国医師ユニオン代表の植山直人氏は、国が医療費抑制のため医師の増加を抑える政策をとった結果、<世界一の超高齢社会で医療を提供するためには、医師の過労勤務に頼らざるを得ない。>とか、<国が医師不足や長時間労働を放置してきた>と非難しています。

 

産婦人科が地方で不足していることを含め、<医師の全体数が足りない中、救急や外科などが特に少ないという診療科間の偏りや、へき地で不足がより深刻だという地域間の偏在も問題だ。>とも指摘しています。

 

医療制度の本質的な問題も指摘しています。<医療は国民皆保険制度で維持される公的な仕組みで、医師数は厳しく制限されている。>としつつ、医師には<診療科の選択や、開業する場所には制限がなく、自由が与えられている。>として、<いびつな状態だ。>というのです。

 

これに対して、大学で<進路指導をしていくなど偏在を防ぐルールを作るべきだ>というのですが、これはどのような構想でそういう提案をされているのかわかりませんが、大学にそのような判断をする基本的で適正な手続があるのでしょうか。さまざまな医療のステークホルダーがどのような形で意見形成に関与できるのかが明確でないと、絵に描いた餅になりかねませんし、かえって混乱を招くおそれを感じます。

 

過重勤務状態については、<医療事務補助員を増やしたり、IT(情報技術)を活用したりして無駄を減らすべきだ。>といった医師が担当する役割の選別化は当然必須でしょう。

 

カリフォルニア大ロサンゼルス校助教授の津川友介氏は、一番本質を突く意見を述べているように思えます。

 

<なぜ医師が忙しいのかを検証し、性別にかかわらず医師が働きやすい環境を整備することが重要だ。>と。

 

上記の医師を増やす議論については、財政的余裕がないとし、他方で、<日本の医師数(人口1000人あたり2・4人)は・・・諸外国と比べて必ずしも<見劣りはしない>と述べています。

 

日本と同レベルの人口当たりの医師数である米国の場合数が問題になっていない理由について、<日本の医療サービスの消費量が多すぎることに原因がある。>というのです。医療サービスが過剰というのでしょうね。

実際、<外来受診回数も平均入院日数も日本は米国の3倍。>です。そのため<医療サービスの消費量が多ければ、同じ医師数でも日本の医師の方が忙しいのは当然である。>とするのです。

 

津川氏は3つの政策を提案します。

 

< 一つ目は、「タスク・シフティング」である。>

つまり<医師でなくてもできる仕事は看護師や「ナースプラクティショナー(一定レベルの診断や治療をすることが許されている医師と看護師の中間職)」に任せられている。>と仕事の新たな分担システムです。この点は上記植山氏も指摘していますが、根本的に仕事内容を改革することを求めているように思います。

 

<二つ目は、主治医制からチーム制への移行である。>

<チーム制は数人の医師でチームを作り、患者の情報はチーム内で共有し、夜間の対応などはチーム内の誰かが担当する。非番の医師は、しっかりと休養できる。>この点は片岡氏もアメリカの制度として体験していましたが、わが国に導入できるは容易でない印象を受けます。なにが障害となっているのか、メリット・デメリットを取り上げながら、今後検討してもらいたいですね。

 

<三つ目は、医療の集約化である。>

<病院の機能分化を進めることで、医師も患者も大きな病院への集約が必要となる。これによって、医療の質の向上(医師1人あたりの症例数が増加)や医師の労働環境の改善(チーム制に移行)が期待される。>そういうことが長く叫ばれていますが、現実は亀足のようですね。

他方で、懸念されるアクセスの問題については<救急搬送体制を整備したり、送迎バスを用意したりするなど医療へのアクセスを維持するための制度変更の併用が必要となる。>ということですが、患者側の意識ではなかなか納得できないかもしれませんね。

 

以上は根治療法と指摘されていますが、おそらくこれまでも検討されてきた内容ではないかと思いますが、なぜ一定の導入ができないのか、それは今後よりひろく議論してもらいたいものです。

 

ところで、94日付け毎日記事<厚労省医師の残業、上限どこまで 「応招義務」解釈整理へ>では、長時間労働を生む要因の一つとして、<「正当な理由なく患者を断ってはならない」という医師法上の「応招義務」>の解釈について、厚労省では新たな検討がはじまったようです。

 

<応招義務の「正当な理由」について、医師側から「範囲が明確でないため、全て受けなければいけなくなっている」との指摘がある。このため検討会では、応招義務の解釈について整理する方針だ。>とのこと、津川氏が指摘した3つの対策とは異なる、医療の本質に関わることでもありますが、他方で医療サービスのあり方の問題でもあり、関連性があるでしょう。

 

なお、<西日本のある病院は、医師の働き方改革について「医療の質の劣化につながらないか。若い医師に勤務時間を守るよう指導すると、学ぶ意欲を低下させる可能性もある」と懸念を示した。>という意見はたしかに考慮されても良いですが、あまりに形式的に長時間勤務が望ましいというのは、いま話題のスポーツ界のように、毎日少しでも長く練習すれば良い、といったあまり合理性のない旧来型の考えとの違いを明確にしないと、支持されないように思うのです。

 

最後に昨日912日付け毎日記事<医療基本法望む声><医療基本法望む声 患者の権利法をつくる会常任世話人・鈴木利広弁護士、日本医師会常任理事・平川俊夫医師に聞く>は、医療全体をとらえ根本的な価値観を共有し定義づけることは意義のあることだと思います。紙面では懐かしい利広さんの顔が映っていましたが、40年近くこの問題を提唱して啓蒙してきた彼も、そろそろ落着したいでしょうね。久しぶりに見ましたがお元気そうでなによりです。

 

今日も一時間をオーバーしたようです。これでおしまい。また明日。


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