べそかきアルルカンの詩的日常“手のひらの物語”

過ぎゆく日々の中で、ふと心に浮かんだよしなしごとを、
詩や小さな物語にかえて残したいと思います。

風のレクイエム

2007年01月09日 21時49分21秒 | 叙情

風が吹き抜けてゆく

リビアの砂を巻きあげ
グランドキャニオンの谷をけずり
カリブの海を波立たせ
エアーズロックにぶちあたり
はるばるアルプスの峰々越えてきた風が
ぼくの中の沈黙を吹き抜けてゆく

風が吹き過ぎてゆく

クィーンシャーロットの海峡をわたり
マンハッタンのビル群をすり抜け
シャーウッドの森をざわめかせ
ヴォルガの川にさざ波を立て
ブリックスダールの氷河を滑り降りてきた風が
ぼくの中のわだかまりを吹き過ぎてゆく

46億年もの間
この青い星の上を巡りつづけてきた風は
あるときはトロンヘイムのフィヨルドに歌い
またあるときはボルネオの熱帯雨林にスコールを呼び
ガリラヤ湖畔に安らぎをもたらし
そうしてまたあるときは
ラマンチャの見果てぬ夢を吹き飛ばしてきたのです

悠久の時を旅する風は
ときにはあなたが手にした風車に戯れ
ときにはあなたの黒髪をすき
そうしてときにはあなたの胸を
艶づく香りで満たしたことでしょう

その風がいま
明日を失って真っ白な灰と化したぼくの魂を
吹き散らそうとしています
雲をはこび 雪を舞わせ 花を散らし 鳥をのせ
果てしない時を巡りつづけてきた風が
46億年分の哀れみをもって
いまぼくを
跡形もなく吹き消そうとしているのです


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