べそかきアルルカンの詩的日常“手のひらの物語”

過ぎゆく日々の中で、ふと心に浮かんだよしなしごとを、
詩や小さな物語にかえて残したいと思います。

あの日ふたりで歩いた道を

2007年04月15日 18時46分53秒 | 慕情

そういえばここらあたりは
いつかあなたと歩いた場所
疎水の流れに沿って
桜並木がつづいています
すでにもう花びらは散って
いまはつややかな若い緑が
静かに風にそよいでいます

あの日ぼくたちは
ふたり肩をならべて歩きながら
どんな話をしていたのでしょう
あなたにとってとりとめのないことが
ぼくにはとてもたいせつな
言葉の連なりだったはずなのに
もうそのことは
ほとんど記憶にありません
なのに  
木漏れ陽を見上げて微笑むあなたの横顔を
いまもはっきり思い浮かべることができるのは
いったいどうしたことでしょう

きょうはあいにくの曇り空です
若葉が木漏れ陽にきらめくことはありません
道ゆくひとの姿もまばらです
こうしてひとり歩いていると
あの日のなんでもないひとコマが
ひとつ またひとつ
ふとした拍子に
胸の底からよみがえってきます
こうやって少しずつ
記憶の断片を拾い集めるために
ぼくはまた
この道を訪れてしまうのです
とうに過ぎ去ってしまった
遥かむかしのことなのに

もう少しゆくと
たしか喫茶店がありましたよね
そうです
木立の蔭に隠れるようにして
ひっそりたたずむあの店です
あの日そこでやすらかな時を
いっしょに過ごしたことをおぼえていますか
あなたはしなやかに頬杖をついて
遠くを見つめていましたね
あのときあなたの視線のさきには
いったいなにが揺らめいていたのでしょう

きょうはあいにくの曇り空です
あの日は遠く過ぎ去ってしまったけれど
疎水を流れる水音は
いまも少しもかわりません
ぼくは色あせたアルバムを紐解くように
あの日あなたと歩いた道を
いまはただ
ひとりぽっちで歩いています
過ぎ去った日が
二度とふたたびもどらないということは
だれにもわかっていることだけど
いつまでも忘れられない時があるっていうことを
ぼくは知っているのです

きょうはあいにくの曇り空です
あの日あなたと別れた三叉路に
ぼくはいまもひとりたたずんでいます
そうして徐々に色あせてゆくのです
あなたの中で ぼくの影が
ささやかな想い出のかけらとして

きょうはあいにくの曇り空です
きょうはあいにくの
曇り空なのです








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コメント (2)
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