脚と角

関西を中心に国内外のサッカーシーンを観測する蹴球的徒然草。

喜怒哀楽の真髄は蹴球にこそ有り。

ファビオ・カペッロの挑戦

2007年12月16日 | 脚で語る欧州・海外


 イングランド代表の次期監督にファビオ・カペッロが就任することが15日に正式決定した。

 当初、ジョゼ・モウリーニョやルイス・フェリペ・スコラーリなど複数の大物候補がカペッロと並んで報道されていたが、モウリーニョはポルトガル代表監督しか自身のキャリアでは最終到達点として見ていないため、再三のリップサービスを放ちながらも、やはり彼自身が一国の代表監督に就任するには大きな迷いがあったはずだ。同じく、ポルトガル国内での信頼は強固なものであり、選手たちにも信頼が厚いスコラーリの噂は現実味に当初から欠けていた。

 ようやく落ち着いたイングランド次期代表監督人事だが、ディレクターのブルッキングが「育成」を次期テーマに掲げるFAとしては、非常に的を得た人選に落ち着いたと思う。前述の2人に加え、マルチェロ・リッピも含めた数人が候補に挙がったが、最終的にはカペッロ本人が前向きにこの話を考えて受諾したところが大きい。
 カペッロに与えられた使命は簡単なものではない。2008年のEURO出場を逃したイングランド代表に数年間のスパンで長期的育成という深いメスを入れなければならない。それはイングランドに多く流れ込む優良外国人選手が、その国内選手の育成を妨げると指摘される近年のプレミアリーグの実情に真っ向から立ち向かわなければならない訳である。指導力ではまずまずの評価を集めていた前監督のマクラーレンは指揮力に決定的に欠けていた。EURO予選を通して、彼の戦術は機能しなかったが、カペッロはEUROの本大会に結果を求められることはない。皮肉にも前監督の本番での無能ぶりがカペッロに至上命題である育成のための期間をじっくり与えた訳だ。もちろんリミットは2010年の南アフリカW杯になるだろう。

 非常に厳しい規律の下、選手たちをその統制下でコントロールするカペッロの方針はこれまでも数々の物議を醸し出したのは周知の通り。選手も含め、国民の意見も十人十色の反応であろう。しかし、そんなことを言っている場合でもない。選手選考も含めた勝てる集団の構築は急務であり、これまでの指導法とうって変わってその強烈なカペッロのリアリズムに新たなスリーライオンズは導かれることになる。
 個人的には、現在のイングランド代表が世代交代に遅れているとは思わない。そして勝てないチームだとも思わないが、右からリチャーズ(マンチェスター・C)、ファーディナンド(マンチェスター・U)、テリー(チェルシー)、レスコット(エバートン)を基盤にしたDF陣はさておき、特に中盤と前線には更なるタレントが軸になるべきだと考える。EUROを逃す要因となったクロアチア戦には出場しなかったが、まずはやはりデイビッド・ベントリー(ブラックバーン)。現在のブラックバーンの躍進を支えるこの23歳の右MFがこれからのイングランドの中盤を牽引するキーマンとなるだろう。やはり武器となるのはベッカムばりの精密さを誇るその右足のプレスキックである。ハーグリーブス(マンチェスター・U)やダウニング(ミドルスブラ)などももっと出場機会を得たいところだ。動きが悪ければ整然とランパードやジェラードを下げてしまうカペッロ流の采配を期待したい。
 ルーニー頼みの前線も貧弱さが否めない。特に徹底した守備重視のカウンターサッカーを持論に掲げるカペッロの下では試合はまず「完封ありき」で最小得点差での勝利も厭わないサッカーである。FW陣は更なるアピールが必要になってくるであろうし、代表だけで結果が残せると思っていたらクラウチ(リバプール)あたりは少々立場が危うくなる可能性もあるだろう。

 とにもかくにも結果をすぐに求めてはいけないが、11月21日のウェンブリーでの悲劇はイングランドのサッカーに大きな影を落としたことは確か。最終到達点は2年半後だと考えれば、肩の荷は少々軽く感じるかもしれないが、それ以上に鬼教官であるカペッロ流がイングランドに浸透する時間は予想以上に要するかもしれない。ACミラン、ASローマ、レアル・マドリーと数々のビッグクラブで結果を残しながらも数々の批判と共生してきたカペッロは新たな挑戦の時を迎えた。それは忍耐の挑戦でもある。