脚と角

関西を中心に国内外のサッカーシーンを観測する蹴球的徒然草。

喜怒哀楽の真髄は蹴球にこそ有り。

それぞれの天皇杯

2009年09月21日 | 脚で語る天皇杯
 このシルバーウィークに今季の天皇杯1回戦全24試合が行われた。その1回戦を突破したのはJFL勢が6チーム、地域リーグ勢が9チーム、大学勢が8チーム、高校勢が佐賀東の1チームとなっている。10月に行われる2回戦からはいよいよシードのJFL勢とJリーグ勢が登場してくるため、彼らにとってはこの壁を突破するのは困難だが、ここに“ジャイアントキリング”という大会特有の面白さも加わってくる。しかし、どうも地域リーグ勢の一部には決してそこが全てではない実情があるようだ。

 北信越リーグを中心に全国でも地域クラブが将来のJリーグ参入を目指して活動を展開する今日、スポーツナビのコラムにてフォトライターの宇都宮徹壱氏が、1回戦を突破した地域リーグ勢の苦しい胸の内をレポートされている。そう、松本山雅FCやツエーゲン金沢といった地域リーグでもJFLを上回る陣容を揃える彼らにとっては、「全社経由JFL行き」というルートにその舵は取られているのだ。

 関西では、皮肉にも初出場の奈良クラブ以外、天皇杯に出場している地域リーグ勢はない。逆に、天皇杯2回戦の翌週に開幕する全国社会人サッカー選手権(通称/全社)に出場する関西代表の5チーム勢の全ては順当に関西リーグ1部のチームで占められている。しかしながら、全国でもリーグレベルの低い関西リーグ勢からJFLへ送り込めるチームは現状では見当たらない。せめて地域決勝大会へ進めて御の字というところだが、それもまたままならないのが実情だろう。

 宇都宮氏のコラムにはハッとさせられた部分がある。決して関西では存在しないクラブチームのジレンマだ。本気で上を狙える地力があるからこそ、手放しでJチームとの対戦を喜べない。こちらからすればものすごく贅沢な悩みでもある。決して2回戦のJリーグ勢との対戦で手を抜くことは考えられないが、それでも翌週に5日連続で行われる“死のトーナメント”を控えているのであれば、選手のやり繰りは至難の業。もちろん天皇杯の戦いが全社に影響がないとは考えにくい。

 ここまでに及ぶには関西勢もまだまだ時間がかかりそうだ。何しろこの2大会をしっかり戦えるだけの総合力を有するチームは皆無。全社の遠征費の捻出だけでも頭を抱えるチームは多い。無論、前述の2チームも資金が潤沢をいう訳ではなく、松本山雅などもオフィシャルで遠征費の募金を募っている。それでも、彼らには「JFL」という目標地点が見えており、そこへ向かうモチベーションはピークを迎えている。それはそうだ。松本山雅に至っては今季の地域リーグ決勝大会は、自分たちのホームであるアルウィン。ここを目指すのが最大の目標であることは当然である。

 2回戦を金沢は仙台を相手に敵地・ユアスタで、松本山雅は浦和レッズとホーム・アルウィンで戦う。どちらにせよ、両チームのサポーターにとっては大いに盛り上がるであろうマッチアップだ。こちらでは、奈良クラブの天皇杯1回戦突破を手放しで喜んでいる。故に関西と北信越のレベルの距離を感じながらも、この2チームの両大会での健闘を心から祈っている。