ある小説で、「5×0はどう教えているの」と、問いかける場面がありました。具体的にどう教えているのかという点はストーリー上では重要ではなく省かれているのですが、私はそこで、自分だったらどう教えるだろうかと 立ち止まって考えました。かけ算は、小学校2年で学習します。かっての授業を思い出しながら、遠山啓先生の提唱した指導法:水道方式の考えをもとに、私だったら 次のような段階を踏み、5×0を教えるだろうな と考えました。以下、長くなりますが、その考えを次に紹介します。
1 初めにかけ算の意味を考えます。
問題1 一箱に5個ずつ入っているキャラメルが10箱あります。キャラメルは全部で何個あるでしょうか。
この問題の答えを一人一人に考えてもらいます。その上で、どうやって答えを求めたかについて話し合います。
問題を5×10にしたのには、理由があります。5は、2つで10になり答えが求めやすいという利点があること、10にしたのは、答えを求めるのにある程度の困難さがあること、絵やタイルを使って多様な考えが出しやすいこと、足し算で求めた場合(累加)立式すれば5を10個分も並べて書くことが必要となる などの理由からです。
それぞれの考えを出し合った後に、黒板に 5のタイルを10本並べ 答えが50個となることを確認します。その上で5( )10=50 答え(50個) と板書します。次に、同じ数値を使った問題に挑戦します。
問題2 一つのさらに5個ずつケーキがのっています。さらは10まいあります。ケーキは全部でいくつあるでしょうか。
この問題は、全員で一緒に考えます。初めに答えを予想させ、その理由を発表してもらいます。その中で、前の問題とこの問題の共通点を考えさせます。同じ数値が使われていること、5は1箱あたりと1さらあたりの数であり、どちらも一つあたりの数であるということ。10は、それがいくつ分あるかを表す数であること など。
そこで黒板に、<一箱当たり 5個>、<1さらあたり 5こ> と書き、1あたりのもっている量(数)を意味することを確認します。
次に <1グループあたり 5人>、<1本あたり 5円> と板書し、それぞれが 何を表しているかを考えさせます。1グループに 5人の仲間、1本 5円の鉛筆 といったように、具体的な1あたりの量を イメージさせます。その上で、かけ算は(1あたりの量)が決まっていて、それが(いくつ分)あるかがわかっている時に 成り立つ計算 であるということを教えます。
そして、問題1も問題2も、5( )10 の( )の中には ×<かける> という記号を使って 式で表すことができるということ、 答えが50なので 問題1は 5×10=50 答え(50個)、 問題2は 5×10=50 答え(50個)、 と表すことを確認します。この時に、5+5+5+5+5+5+5+5+5+5=50 でも 間違いではないけれど、かけ算の式にすれば 5×10 と簡単に表すことができるということを 確認しておきます。
発展的に、<1グループあたり 5人> >や <1本あたり 5円>を使った かけ算の問題づくりに挑戦してみるのも いいと思います。問題づくりを通して、かけ算とはどういうもので どんな意味の計算なのかを、意識づけできるかもしれません。
この段階のまとめとしては、かけ算は (1あたり量)×(いくつ分) の 言葉の式で表すことができることを教えます。
2 次の段階では、『1あたりの量探し』と かけ算の問題づくりに 挑戦します。
1…… 1/1人ですと 人間誰でも共通に持っている へそ・鼻・口・命 など
◆問題例 人はだれにでも1人あたりへそが1つあります。6人いれば、へその数は 全部で いくつになるでしょう。 式: 1×6
2…… 2/1人ですと 人間誰でも共通に持っている 耳・目・まゆ毛 など
◆問題例 人はだれにでも1人あたり耳が2つあります。4人いれば、耳の数は 全部でいくつになるでしょう。 式: 2×4
3…… 3/1台 の三輪車のタイヤ
◆問題例 三輪車には、1台あたりタイヤが3つあります。三輪車が7台あります。タイヤの数は全部でいくつになるでしょう。 式: 3×7
4…… 4/1台 の自動車のタイヤ、 5…… 5/1人 の片手、片足の指、 6…… 6/1匹 の昆虫の足、 7…… 7/1週間 の日数 といったように、どれにも共通して同じ数(量)だけあるものを(1あたり量)と言い、それが(いくつ分)あるかが決まれば、かけ算になることを 改めて確認します。
さらには、量の質が異なる 長さ、重さ、液量、金額などの 1あたり量についても 確認しておくことで、理解が深まるのではないかと 思います。
3 次の段階で、九九を取り扱います。教科書では 5・2・3・4・6・7・8・9・1・0の段の順で指導しているようですが、2の段の後に4の段、3の段の後に6の段といったように、習った段の考えを生かして次の段の答えが求められるような取扱いにしてもいいのではないかと思います。また、5の段の答えを、2と3の段の九九を使って求めるなど、学んだ九九を発展的に生かしながら、九九を学ぶようにしていくと、暗記だけの機械的な指導に陥らずにすむのではないかと思います。
■5×0については、次のような取り扱いをしながら、教えていきたいと思います。
金魚がどの水槽にも5匹ずつ入っています。水槽が6個あれば、金魚は全部で何匹いるでしょうか。 この問題を初めに提示し、水槽の数を5,4、3、2、1と減らしていきながら、立式させていきます。そして、水槽がない場合は(0の場合)、どう立式できるか考えさせます。そして、1あたり量の5が成り立ち、いくつ分が0になるので、5×0という式に表せることを確認します。
4 最後に、0の段を取り扱います。1あたり量が0になる時のかけ算になるわけですので、例えば カエルのへその数、へびの足の数 といったように、1あたり量が0になる具体量を考えさせます。その上で、0×(いくつ分) の式が成り立つことを確認し、いくつ分がどれだけ大きい数になっても 0×(いくつ分)=0 となることを 理解させます。
以上のような段階で、かけ算の単元を指導していくことで、5×0 も 0×5も かけ算の式として成り立ち、答えが0であることを理解できるようになるのではないかと考えたのですが、いかかでしょうか。