あの青い空のように

限りなく澄んだ青空は、憧れそのものです。

秋山ちえ子さんの取り組み

2011-09-02 10:49:02 | インポート

 最近は,テレビよりラジオを聞く機会が増えています。画像がない分,集中して一つ一つの言葉に耳を傾けることができます。印象的な言葉に出会うと,その言葉が鮮明に心に残ります。朗読等を聞くと,物語の情景や登場人物の表情が,続き絵のように頭に浮かんできます。テレビよりも受身的にならず,ラジオを楽しんでいる感じがあります。

 先日,秋山ちえ子さんの朗読『かわいそうなぞう』を耳にしました。秋山さんは,戦後から継続して,毎年8月15日の終戦記念日に,二度と戦争のない平和な日本であるようにとの願いを込めて,この朗読を続けているとのことでした。

 この物語は,戦争中に東京の上野動物園で起こった悲しい出来事を題材にした物語です。

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上野動物園には3頭の人気者の象がいました。ジョン・トンキー・ワンリーの3頭です。その頃の日本は,アメリカとの戦争が激しくなり,東京も空襲を受けるようになっていました。もし落とされた爆弾が動物園を直撃したらどうなることでしょう。壊された檻から動物たちが逃げだし町の中に出たら大変なことになります。そこで,軍の命令で猛獣のライオンやトラなどに毒薬を与えて殺すことになったのです。猛獣たちが殺され,いよいよ象たちも殺されることになりました。

まずジョンから殺すことになりました。大好きなジャガイモに毒薬を入れましたが,利口なジョンはそれを食べずに鼻でポンポン投げ返します。そこで,しかたなく毒薬を注射することになったのですが,象の体は皮が厚くて太い注射針は折れるばかりです。それで最後は食べる物を一つもやらずにおくことにし,17日目にジョンは死にました。

続いてトンキーとワンリーの番になりました。動物園の人々は,何とかこの2頭をたすけられないかと考え,遠い仙台に送ることも考えたのですが,もし爆弾が落とされ逃げ出したら仙台の人々が大変なことになります。そこで,2頭にはえさをあげないで殺すことにしました。日に日にやせ細っていく2頭の姿を見て,象係はとてもつらい気持ちになりました。

そしてある日のこと,象係の人が檻の前に立つと,2頭の象が最後の力を振り絞るように,後ろ足で立ち上がり,前足を折り曲げ,鼻を高く上げて,万歳をしました。よろけながら一生懸命芸当をするその姿を見て,象係はがまんができず,水と餌を運んできて2頭にあげました。動物園の人たちもそれを黙って見ていました。水も餌もあげてはいけない規則だったのですが,こうして長く生かしておけば戦争も終わって助かるのではないかと,みんなが考えていたのです。しかしこの願いは叶わず,ついに2頭は,どちらも鉄の檻にもたれ,鼻を長くのばし,万歳の芸当をしたまま,死んでしまいました。

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 秋山さんの朗読は,淡々とした読みではありましたが,説得力があり,場面場面のイメージが広がり,3頭の象の最期の場面が目に見えるような気がしました。愛する動物たちを自らの手で殺さなければならなかった動物園で働く人々の悲しみがストレートに伝わってきました。ライフワークとして毎年繰り返し読み続ける中に込めた,戦争のない平和な世界の実現を心から願う熱い思いが,メッーセージのように心に届きました。

 秋山さんは,1917年生まれで,現在93歳です。ラジオでは 番組に出演して朗読することになっていたのですが,体調をくずされ出演できず,代わりに以前に録音されていたものが放送されました。したがって私の聞いた朗読は,現在の秋山さんの声ではなかったわけですが,是非,今の声での朗読を拝聴したいと思いました。

 一つのことを長く続けることの意味と大切さ,そしてそれを自らの生き方として実現されていることに頭が下がります。

 秋山さんの健康のご回復とさらなる元気なご活躍を心から祈ります。