ケネルンのレシピは時代を先取りした、料理人が書いた料理書とは比べものにならない興味溢れる内容です。彼は料理書に259のレシピを載せています。その内メセグリン ( ワインの中にスパイス、ハーブ、ベリー等を入れた飲み物 )とミードのレシピが117あります。ワインの中に蛇毒,サソリ毒を入れた強化ワインは一つも見あたりません。この時代は以前にも少し触れたように、精力を増強させるためにワインの中に蛇毒、蛇の臓物を入れることが流行っていました。何故そのレシピがないのでしょうか。
彼がディグビィを殺した根拠はこの一点に係っています。「料理書の半分を占めるメセグリンのレシピ」そのこと自体不自然ですが、その中に一つも「ヴァイパーワイン」のレシピが入っていないことは更に不自然だと思うのです。
彼のひととなりをあらわすレシピと、当時女性が凝っていた化粧品のレシピを( Delightes for Ladies ; レディのお気に入り ) からご紹介して「ヴァイパーワイン」を終えようと思います。
「ディグビィ卿の戸棚が開いた」から;
追加II. 共感の粉
共感の粉は、毎年ケネルン・ディグビィ卿の研究室で用意しているが、これから作ろうと思う。
1ポンド2ペンスで買える良質のイングランドでとれる金属硫酸塩を温かい湯に溶かし、飽和溶液を作る。底に溜まった不溶解物は濾して捨てる。印刷に使うグレイペイパーを漏斗に入れて濾す。濾したら釉を塗った入れ物に入れて表面に薄いスカムができるまでボイルする。中に何も入らないように緩く蓋をして冷たい地下室で2-3日保管する。上澄みを捨てると底と横に大きくてきれいな緑色のエメラルドのようなクリスタルが見える。
水気をすっかり切って乾かす。大きな平たい土器の上に広げて盛夏の時期に直射日光にさらす。夜は取り込んで昼間は雨に気を付けて外に出す。太陽の光で白くなる。潰して粉にする。再び日光にさらしてかき混ぜ、細かくて白い粉にする。篩って細かくしてさらに数日間日にさらす。白い粉が得られる。これが“共感の粉”です。グラスに入れて栓をする。翌年の盛夏の時期にまだ粉が残っていたらもう一度広げて日光にさらして美徳の効き目を得る。( 日光に晒すことで神の徳を授かることが出来ると考えているらしい )
傷を治すには布の上に血を取って粉を適量血の上にのせる。きれいな布で傷口をきれいにする。熱と寒の間の気質の状態にして血を布で巻く。それをポケット又は箱に入れておくと軟膏や貼り薬を使わずしかも痛みもなく傷は癒える。
傷が古く、熱があり、炎症を起こしているときはこの粉をお椀又は鉢に入れて冷水を満たす。この中には何も入れない。血が付いた傷にも何もつけない。痛みと炎症がなくなる。
血が出るのを止める又は傷口から又は鼻からの出血を止めるには、血を布の上に少量取って粉を適量のせる、または鉢にきれいな水を入れて粉を適量入れる。ハートマン ( Hartman ) によればこれを鼻の穴に塗ると健康を保つことができるそうだ。
つづく。