「科学的鍼の原理と実践」
Principles and practice of scientific acupuncture
by Anton JAYASURIYA
January 1, 1978
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アントン・ジャヤスリヤ先生は、1978年の「アルマアタ宣言(DECLARATION OF ALMA-ATA)」を出したカザフスタン・アルマアタのWHOの会議に参加しました。
「アルマアタ宣言」とは、以下のようなものです。
以下、引用。
「この会議は健康(単に病気がないのではなく、身体的にも精神的にも社会的にも健康な状態)は基本的人権であると、強く、再確認する」
The Conference strongly reaffirms that health, which is a state of complete physical, mental and social wellbeing, and not merely the absence of disease or infirmity, is a fundamental human right .
「先進国と発展途上国の間の健康状態の不平等は、政治的にも社会的にも経済的にも受け入れられない。そして、全ての国の関心事である」
The existing gross inequality in the health status of the people particularly between developed and developing countries as well as within countries is politically, socially and economically unacceptable and is, therefore, of common concern to all countries.
「人々は、個人でも、集団でも、ヘルスケアをする計画と実行に参加する権利と義務があります。」
The people have the right and duty to participate individually and collectively in the planning and implementation of their health care.
「プライマリ・ヘルスケアは、地域レベルのヘルスワーカー、医師、看護師、助産師、助手そしてコミュニティー・ワーカーが、ニーズに応じた伝統医療プラクティショナーと一緒に、持続的に、社会的にも技術的にも、地域社会のニーズに応じたヘルスチームとして働く」
Primary health care:relies, at local and referral levels, on health workers, including physicians, nurses, midwives, auxiliaries and community workers as applicable, as well as traditional practitioners as needed, suitably trained socially and technically to work as a health team and to respond to the expressed health needs of the community.
「2000年までに、世界中の全ての人々に受け入れられるレベルの健康を、現在、かなりのレベルで武器と軍事粉争に浪費している資源を用いて、より良い使い方をすることで成し遂げよう」
An acceptable level of health for all the people of the world by the year 2000 can be attained through a fuller and better use of the world's resources, a considerable part of which is now spent on armaments and military conflicts.
以上、引用終わり。
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「健康は基本的人権である」
「先進国と発展途上国の健康の不平等は受け入れられない」
「プライマリ・ヘルス・ケアは西洋医学も伝統医療プラクティショナーもチームとして共に働く」
「軍事紛争に浪費されている資源をより良い使い方をすることで、2000年までに世界の人々に健康を達成する」
これが、1978年の「アルマアタ宣言」の内容です。『医療概論』の授業中、「アルマアタ宣言」を読みながら、涙が出そうになりました。
1978年「アルマアタ宣言」で宣言された「プライマリヘルスケア」の思想は、実は、文化大革命期の中国の「はだしの医者(赤脚医生:Barefoot doctor)」から始まりました。これは、世界中のプライマリヘルスケアの思想を説明した文章には、かならず書いてあります。
第2次世界大戦前の中国は、富裕であるはずの中国人の海外留学生の6割が結核菌保持者という記録もあります。アヘンなどの麻薬と売春が横行し、性病と栄養失調と結核が蔓延していたのが戦前の中国なのです。魯迅先生の言う「人が人を食いものにする社会」でした。
戦後の毛沢東の「はだしの医者」は、農村に衛生状態の指導を行いました。政策的にも麻薬中毒と性病が激減し、衛生状態が劇的に改善しました。これは共産中国が成し遂げた否定できない偉業です。最近ではアフリカのルワンダは、虐殺で医師のほとんどか海外逃亡しましたが、農村に衛生知識をもった女性たちを教育し派遣したところ、衛生状態が劇的に改善し、平均寿命が飛躍的に伸びた事例があります。医師がいくら増えても、都市部の富裕層だけがかかれるというのが、かつての医療でした。
これは許俊(ホジュン)の時代の李氏朝鮮も明清の中国も同じです。プライマリ・ヘルス・ケアという考え方を最初にしたのは、文化大革命の時期の中国でした。毛沢東は、カナダ人医師ノーマン・ベチューン(Henry Norman Bethune、白求恩、1890 -1939)の影響を受けたようです。ベチューンは、貧しい人たちに医療を提供しようと中国に渡り、毛沢東の八路軍の兵士や中国人を治療し続けました。ベチューンが中医を使うべきだと進言したことが毛沢東に影響を与えたようです。ノーマン・ベチューンの思想と生き方が世界を変えたのです。
スリランカのアントン・ジャヤスリヤ(Anton Jayasuriya)教授の業績についての文章を読むと、必ず「アルマアタ宣言」のことが書かれています。きっと、いまの私なんて、比べ物にならないぐらい、ジャヤスリヤ先生も「アルマアタ宣言」に感動したのです。
以下、引用。
「アントン・ジャヤスリヤは、高価な薬を用いる医療で単純な問題を解決するということを信じたりはしなかった。彼は意思として、伝統・代替医療の発展に興味をもっていた。この情熱は、貧しい人たちを助けること、病人を効果的に安価に治療することを探求することに彼を導いたのだ」
Anton Jayasuriya did not believe in using expensive drugs to deal with simple problems of the body, and during his early days as a Doctor an interest in Traditional and Alternative Medicines developed. This passion to help the poor and needy led to him seeking affordable and effective methods for treating sick people.
「1974年に、スリランカ政府とWHOは、アントン・ジャヤスリヤ教授に中華人民共和国で鍼を学ぶための奨学金を与えた。これこそ、彼の探し続けた効果的で安価なヒーリングシステムだったのだ」
In 1974, the Government of Sri Lanka and the W.H.O. granted Anton Jayasuriya a scholarship to study Acupuncture in the People’s Republic of China. Here was the affordable and effective healing system he had been looking for.
以上、引用終わり。
アントン・ジャヤスリヤ教授は、鍼麻酔の専門家となり、1978年に『日本鍼灸治療学会誌』にも、論文を寄稿しています。西洋医学に基づく鍼の臨床であり、スリランカのコロンボ総合病院で、どのような鍼治療をしていたのかが、よくわかります。
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「モーターゲート理論 鍼の運動効果を説明するための新説」
ジャヤスリカ アントン
『日本鍼灸治療学会誌』 Vol. 27 (1978-1979) No. 3 P 270-281
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsam1955/27/3/27_3_270/_pdf