alternativemedicine

Studies about acupuncture and moxibustion and Massage.

Fasciaとオステオパシーのクラニオセイクラル・セラピー(頭蓋仙骨調整療法)

2018-06-27 | 間中喜雄先生
以下は『アメリカオステオパシー学会雑誌』に2006年に発表された論文です。
 
「慢性疲労症候群における脳脊髄のリンパ・ドレナージ:頭蓋リズム脈動の仮説理論モデル」 
Lymphatic drainage of the neuraxis in chronic fatigue syndrome: a hypothetical model for the cranial rhythmic impulse. 
Perrin RN. 
J Am Osteopath Assoc. 2007 Jun;107(6):218-24. 
これは読んで驚愕しました。書いたのはレイモンド・ペリンというイギリスのオステオパシー医師で、博士です。レイモンド・ペリンさんは、慢性疲労症候群患者をオステオパシーの『クラニオセイクラル・セラピー(頭蓋仙骨調整療法)』とマニュアル・リンパ・ドレナージュで治療しました。
 この論文では、「慢性疲労症候群がクラニオセイクラルセラピーで治る機序は、脳からのリンパ・ドレナージ(リンパ排液)による解毒しか考えられないが、解剖学には、脳にリンパ管は存在しない。しかし、患者の身体徴候を、観察すると、やはりリンバ・ドレナージの機序しか考えられない。例え、脳の中にリンバ管が無くても、何らかのリンバ排液のシステムが存在するはずだ」と主張しているのです!!!
   この論文が発表されたのは2015年7月の『ネーチャー』に脳内のリンパ管システムが発見される8年前!の2007年7月です!。一臨床家の実感からの仮説が、8年後に証明されたことに本当に感動しました。
 
   『クラニオセイクラル・セラピー(頭蓋仙骨療法Craniosacral therapy)』はオステオパシーの手技であり、オステオパシーの創始者スティルの直弟子ウイリアム・ガーナー・サザーランド(William Garner Sutherland:1873–1954) が1930年代に始めました。それを1970年代にオステオパシー医師のジョン・アプレジャー(John Upledger1932ー2012)がまとめたものです。

以下、引用。
「慢性疲労症候群患者における脳脊髄の体液・リンパ液の排液ドレナージが探求するには面白い分野として注目を浴びている」
An interesting area of exploration has arisen on the involvement of cerebrospinal fluid and lymphatic drainage in patients with chronic fatigue syndrome (CFS).
 
「過去20年に渡り、私は何百もの慢性疲労症候群患者がリンパ排液ドレナージの問題を持っているのを見てきた。」
During the past 2 decades, I have observed hundreds of patients with this disorder who had CRIs and lymphatic drainage disturbances. 
 
「しかしながら、脳にリンパ管の構造物がないという事実のため、この理論は受け入れられていない。脳の静脈はユニークでその薄い壁には筋肉のバルブがないのだ。」
However, the absence of contractile tissue in the veins and sinuses of the brain makes this theory difficult to accept. The cerebral veins are unique in that they possess no muscular tissue in their thin walls and have no valves.
 
「頭蓋リズム脈動は、交感神経システムによる脳脊髄の液体排出と脳中枢からのリンパ排液ドレナージによって引き起こされる」
The cranial rhythmic impulse is the rhythm produced by a combination of cerebrospinal fluid drainage from the neuraxis (brain and spinal cord) and pulsations of central lymphatic drainage induced by the sympathetic nervous system.  
以上、引用終わり。
この著者は、人間以外の哺乳類の脳のリンパ排液ドレナージシステムを論じ、さらに慢性疲労症候群患者の白色のリンパが停滞した静脈瘤などの証拠から、人間にも、未知の脳からのリンパ排液ドレナージシステムが存在することを示唆しています。そして、脳からのリンパ排液ドレナージによる解毒の方法としてエミール・ヴォダーのマニュアル・リンパ・ドレナージを含む頭頸部のリンパ・マッサージを治療法として提唱しています!。
 
   このイギリスのオステオパシー医師のペリンさんは、自分を信じる力や、オステオパシーを信じる力が凄すぎます・・・。本当に尊敬できます。

Fasciaとキネシオテーピング2

2018-06-27 | 間中喜雄先生
2015年「筋筋膜痛(マイオフェーシャル・ペイン)のコントロールにおけるキネシオテーピング法」
The Kinesio Taping Method for Myofascial Pain Control
Wei-Ting Wu, et al.
Evid Based Complement Alternat Med. 2015; 2015: 950519.
Published online 2015 Jun 21
 論文は、「筋筋膜性疼痛症候群(MPS:Myofascial Pain Syndrome )」と「筋筋膜トリガーポイント(MTrP: Myofascial Trigger Point))」の説明と、トリガーポイント形成仮説から始まります。
 
 そして、【筋筋膜トリガーポイントの治療】として、
(1)ジャネット・トラベルによる「塩化エチルスプレー」と「ストレッチ」、
(2)レウィットとサイモンズによる「ポスト・アイソメトリック・リラクゼーション・エクササイズ(Post Isometric Relaxation (PIR) exercise)」、
(3)ジェームズ・サイリュアックスによる「ディープ・フリクション・マッサージ」が挙げられていました。サイリュアックス・マッサージは筋線維や腱を横切るように刺激します。
 
以下、引用。
「サイリュアックスは、指を筋線維、筋硬結の筋筋膜トリガーポイントの長軸を横切るように刺激するディープ・フリクション・マッサージを発達させた」
Cyriax developed a deep fraction massage requiring that the finger runs across the long axis of muscle fibers or taut bands at level of MTrPs, and it is specific for those located at middle of muscle belly. 
以上、引用終わり。
 
(2)のカレル・レウィットは筋筋膜痛に対して、1979年に最初に鍼(ドライ・ニードリング)を使ったチェコの医師です。
 デビッド・サイモンズ(1922-2010)は、1960年にジャネット・トラベルと出会って共同研究を行い、1983年に『トリガーポイント・マニュアル筋膜痛と機能障害』(邦訳はエンタプライズ社)を出版したトリガーポイント理論の創始者の一人です。レウィットとサイモンズが共同の論文(※1)を書いていたことを初めて知りました!!!
 
 カレル・レウィットとデビッド・サイモンズの提唱した「ポスト・アイソメトリック・リラクゼーション・エクササイズ(Post Isometric Relaxation (PIR) exercise)」とは、オステオパシー分野でオステオパシー医師フレッド・ミッチェル(Fred L.Mitchell:1909-1974)が1948年に開発した「マッスル・エナジー・テクニック(MET:Muscle Energy Technique)」の変法のようです・・・。正直に言って、この情報はまったく知りませんでした。
 
以下、『ポスト・アイソメトリック・リラクゼーション』Post isometric Relaxationのホームページより引用。
「『ポスト・アイソメトリック・テクニック』は、ミッチェルらによって、開発され、レウィットによって修正された。レウィットは、機能を邪魔している筋肉の緊張の増加を減らすことを感じており、ストレッチは必要ないとしていた。レウィットは、ストレッチは、形態学的に結合組織が変化したような不可逆性の拘縮にのみ必要だとしている」
Postisometric technique as developed by Mitchel et al., was modified by Lewit. Lewit feels that to reduce increased muscle tension due to disturbed function, stretch is not really necessary. He feels that stretch is only necessary if there are "irreversible contractures due to morphological connective tissue change."
 
「プロセデュワ(手順)は次のようである」
The procedure is as follows: 
 
「1.筋肉を最大の長さまで、ストレッチすることなしに、ゆるみをまきとる。最小限に、痛み無く行う」
1.Bring the muscle to its maximum length without stretching, taking up the slack. There should be only minimal or no pain.
 
「2.患者は最小限のちからで抵抗し(等張性に)、そして、10秒間呼吸する。」
2.The patient is asked to resist with only minimal force (isometrically) and to breathe in for 10 seconds.
 
「3.患者は、それからリラックスするように言われて、ゆっくりと息を吐き出す。これは、医師にとって待つことが重要であり、リラクゼーションを感じさせる。医師はリラクゼーションが起こるまで10~20秒待つ。純粋なリラクゼーションのために関節可動域が増大する。」
3.The patient is then told to 'let go' (relax) and exhale slowly. It is important for the doctor to wait and feel the relaxation. The doctor could wait 10 to 20 seconds or longer as long as relaxation is taking place. Due to pure relaxation there should be an increase in the range of motion.
 
「4.もし、患者がリラックスすることが難しければ、患者にリラックスさせるまえに等張性の状態で30秒待つ」
4.If the patient has difficulty relaxing, hold the isometric phase for 30 seconds before having the patient 'let go.'
 
「5.普通、3回から5回は、自発的ストレッチをそれぞれのセッションで加えることが必要である。」
5.Usually three to five times is all that is necessary to obtain spontaneous stretch each session.
 
「6.呼吸にあわせて、患者は目だけ見上げる。これはインスピレーションを容易にして、筋肉を楽にする。リラックスを助けるために、息を吐き出す間、患者に下を見させる」
6.Along with the breathing, having the patient look up (eyes only). This helps facilitate the inspiration, which facilitates the muscle. Have the patient look down during expiration to aid in relaxation.
以上、引用終わり。
 確かに、この手技はオステオパシーの「マッスル・エナジー・テクニック(MET:Muscle Energy Technique)」そっくりです。
これは理学療法の世界では、「等尺性収縮後の筋伸長法(PIR:Post Isometric Relaxation)」と呼ばれて、文献まで出版されているようです
(伊藤 俊一著 「Post isometric relaxation―等尺性収縮後の筋伸張法」 http://www.amazon.co.jp/dp/4895903176)。
 
台湾の2015年論文では【筋筋膜トリガーポイントの治療】として、
(1)ジャネット・トラベルによる「塩化エチルスプレー」と「ストレッチ」、
(2)レウィットとサイモンズによる「ポスト・アイソメトリック・リラクゼーション・エクササイズ(Post Isometric Relaxation (PIR) exercise)」、
(3)サイリュアックスによる「ディープ・フリクション・マッサージ」、
 
その次に、
(4)アイダ・ロルフの「ロルフィング(Rolfing)」
(5)筋膜リリース・テクニック
(6)加瀬建造先生の「キネシオ・テーピング」が挙げられています。
 
以下、引用。
「ロルフィング法は、『Fascia(膜・筋膜)』の粘弾性(ヴィスコエラシティviscoelasticity)に焦点を当てている。このマニュアル療法は、硬いタイプのコロイド筋膜をより液体形態のものにすることで機械的摂動を起こします。この筋膜は、豊富な侵害メカノレセプターを含みます。ゴルジ受容体を刺激する筋膜リリース・テクニックは、筋骨格の緊張を変えるように誘導します。最低でも、固有受容の増大による機能障害は減少します」
Rolfing method introduced focuses on viscoelasticity of the fascia . By this manual treatment, firm type of colloid fascia due to mechanical perturbation can be transduced to a more liquid form. The fascia contains abundant innervation with mechanoreceptors. Fascia releasing technique with stimulation of Golgi receptors can lead to changes in the underlying tension of the skeletal muscle. At least, by increasing local proprioception, status of dysfunction will be reduced.
 
「最近、いくつかの研究で、筋筋膜性疼痛症候群へのキネシオテーピングの治療効果が研究されています」
Recently, few studies researched the therapeutic effect of Kinesio Taping (KT) method as a new therapy of MPS and with hope of self-application for this condition.
以上、引用終わり。
 キネシオ・テーピングによる「筋筋膜性疼痛症候群」が効果的であるか、どうか?については、エビデンスが十分ではありません。この2015年台湾論文では、考えられるメカニズムと実験報告をまとめています。加瀬建造先生による「皮膚の持ち上げによるリンパ循環の改善」理論による効果なのか、筋膜リリース的な効果なのか、プラセボ効果なのはハッキリしません。また、鍼と違って、キネシオテープはプラセボをつくりにくく、二重盲検法によるランダム化比較試験が困難なようです。キネシオ・テーピングについては超音波を使った基礎研究がいくつかあるようです。
 
 「Fascia(膜・筋膜)」の研究は、わたしにとっては、
(1)トリガーポイント鍼理論。マイオフェーシャル・ペイン(筋筋膜痛)の解明が、第一義です。「Fascia(膜・筋膜)」の研究はジャネット・トラベルが「マイオフェーシャル・ペイン(筋筋膜痛)」を書くまで、西洋医学では、マジメに取り上げられていませんでした。
 
 同時に、(2)「ストレッチの理論的整理」の問題があります。わたしは筋骨格系疾患の臨床にはトリガーポイント・ストレッチを使っています。トリガーポイント理論の創始者ジャネット・トラベルも『スプレー・アンド・ストレッチ』を使っていました。しかし、現状では、ストレッチの理論は混乱しています。オステオパシーの「マッスル・エナジー・テクニック」や「ストレイン・カウンターストレイン」というストレッチ系手技療法と、トリガーポイント・ストレッチの関係は 「Fascia(膜・筋膜)」研究を使って整理できそうです。今回のレウィット&サイモンズのストレッチは貴重な情報であり、この個人的なFasciaリサーチのターニングポイントになると予感しています。
 
 あとは、「結合織マッサージ」、「マニュアル・リンパ・ドレナージュ」、「ディープ・フリクション・マッサージ」、「マイオフェーシャル・リリース」といった理学療法系マッサージや「ロルフィング」などのボディワークの理論的整理です。(3)ボディワーク・手技療法の理論的整理、です。
 これらの手技療法は、わたしの中の評価は、「きちんとしたマッサージの基礎知識と技術が無いヒト(理学療法士と無免許のシロウト)がやる『マッサージもどき』」(笑)というヒドイ評価だったのですが、少しは効いている可能性がありそうです。Fasciaリサーチは、これらのソフトなマッサージや吸玉・刮サの理論的整理の意味もあります。

Fasciaとキネシオテーピング1

2018-06-27 | 間中喜雄先生

2015年7月4日MEDLEY

「変形性膝関節症にキネシオテーピング、膝の痛みが軽減  ランダム化比較試験により」
以下、引用。
「キネシオテーピングは、固定するテーピングとは異なり、その伸縮性を用いて筋肉や皮膚の伸縮、患部の治癒を補助する役割を持つテーピング手法です。今回の研究では、大腿四頭筋という太もも前面の筋肉にこのキネシオテープを貼り付けた効果を検証した結果、歩行中の膝の痛みが改善したことが報告されました。」
以上、引用終わり。
「キネシオテーピング」は、1980年に日本の加瀬建造先生が開発した日本発の治療法です。加瀬建造先生は、1974年アメリカ・シカゴの名門ナショナル大学でドクター・オブ・カイロプラクティック(D.C)の資格を取り、ニューメキシコ州でカイロプラクティックのクリニックを経営、1980年に『キネシオ・テーピング』を発表しました。1982年には日本の鍼灸師・按摩マッサージ指圧師の国家資格も取得されています。
   現在は、スポーツ医学分野で「筋膜(fascia)」が大きな話題となっており、スポーツ分野の理学療法士さん達の学会誌にも、キネシオ・テーピングは取り上げられています。
 「キネシオテーピング®の理論と基本貼付法」吉田 一也(人間総合科学大学・講師)
『理学療法科学 』Vol. 27 (2012) No. 2 p. 239-245 
    1980年から、「筋膜(fascia)」に注目してきたことや、皮膚テーピングという革命的方法を創案したことは加瀬建造先生の業績で、鍼灸マッサージ業界の先輩としてリスペクトしています。加瀬建造著「 まちがった健康法 ストレッチングは危ない」(2006年)は、私に初めて予防的ストレッチへの疑問を感じさせてくれました。
 
   しかし、一方で、スポーツ医学界では、キネシオ・テーピングへの懐疑論も根強いです。
 
2015年3月27日『ニューヨークタイムズ』
「キネシオ・テーピングは本当に効くの?」
Does Kinesiology Tape Really Work?
 
以下、引用。
「『キネシオ・テーピングが効果的だという独立した科学的証拠は確定していないんだよ』どナショナル・アスレチック・トレイナー・アソシエーション(NATA)の会長で、ペンシルバニア、クレイトン大学のヘッド・トレーナーであるジム・ソーントンは言います」
 “There is no solid, independent scientific evidence that kinesio tape does what it is supposed to do,” said Jim Thornton, the president of the National Athletic Trainers’ Association and the head trainer at Clarion University in Pennsylvania.
 
「『キネシオ・テーピングは筋肉の柔軟性を増し、痛みを減らすような利点があるかも知れないね』『けど、僕たちはまだ、それについてはわかっていないんだよ』とジム・ソーントンは付け加えた。」
 “It is possible that it has health benefits” like improving muscle flexibility and reducing pain, he added, “but we just don’t know yet.”
以上、引用終わり。
   EBMスポーツ医学の立場からは、キネシオ・テーピングに対して、この『ニューヨークタイムズ』の記事の意見がよくまとまっています。
 
2012年の『IBタイムズ』
「キネシオ・テープ:奇跡のテープか、あるいは不当な詐欺か?」
Kinesio Tape: Miracle Adhesive Or Undeserved Hype?
ロンドン・オリンピックの際にカラフルなキネシオ・テーピングを貼ったアスリートが多かったため、キネシオ・テーピング懐疑論もメディアで多く見られました。
 
現在のEBMの立場は、以下の2014年の『理学療法雑誌』のシステマティック・レビューの論文タイトルにそのまま書かれています。
「現在のエビデンスは、臨床でのキネシオ・テーピングの使用をサポートしていない:システマティック・レビュー」
Current evidence does not support the use of Kinesio Taping in clinical practice: a systematic review. 
Parreira Pdo C, et al. 
J Physiother. 2014.