alternativemedicine

Studies about acupuncture and moxibustion and Massage.

セレブリティ・ベースド・アキュパンクチャー

2013-05-16 | 女性と中医学

Celebrity-based medicine
Edzard Ernst and Max H Pittler
Med J Aust 2006; 185 (11): 680-681.

まずは2004年8月13日のイギリス『ザ・テレグラフ』の 

A few pointers for a new face
「伝えられるところによるとマドンナやグウィネス・パルトロウやシェールといった金持ち有名人たちは、毎週、しわをとるために鍼のフェイスリフトを受けている(The rich, the vain and the famous (reportedly Madonna, Gwyneth Paltrow and Cher) are having weekly "acupuncture facelifts" to ward off their wrinkles.)」

2008年の
Mariah Carey: Céline Dion Suggested Acupuncture To Get Pregnant
マライア・キャリーがセリーヌ・ディオンに妊娠する鍼を推奨。

2012年5月10日
セレブリティが鍼を利用
マドンナ、シェール、グウィネス・パルトロウ、ジェシカ・シンプソン、ジェニファー・ロペス、セリーヌ・ディオン、マライア・キャリー、ケイト・ウィンスレット、ジム・キャリー、サンドラ・ブロック、マット・ディモン。

2012年6月14日『エクザミナー』
ホット・セレブリティ・トレンド:鍼
サンドラ・ブロック、ジェニファー・アニストン、アンジェリナ・ジョリー、ショーン・コネリー、マドンナ、ジェニファー・ロペス、グウィネス・パルトロウ、エル・マクファーソンが鍼を受けている。

2013年3月25日
キム・カーダシアンが顔に鍼を受けてリラックス
 


痛経とDysmenorrhea

2012-12-25 | 女性と中医学

 月経困難症(Dysmenorrhea:ディスメノリア)は、月経期間中に月経に随伴して起こる病的症状を言います。
 「経痛(menorrhagia:メノレジア)」は、大多数の若い女性が経験することが知られています。月経困難症は、機能性月経困難症器質性月経困難症に分類されます。

(1)機能性月経困難症(原発性月経困難症)
(2)器質性月経困難症(続発性月経困難症)

 思春期の月経困難症のほとんどが(1)機能性月経困難症といわれており、(2)器質性月経困難症は子宮内膜症や子宮筋腫に続発するものが多いです。

【月経困難症の疫学】
 疫学調査としては、以下のPDFファイルが大変、役に立ちます。

働く女性の身体と心を考える委員会
働く女性の健康に関する実態調査結果 働く女性の身体と心を考える委員会報告書」財団法人 女性労働協会 2004:21-22(PDF

 月経痛は「かなりひどい(服薬しても会社を休む)」は2.8%、「ひどい(服薬すれば仕事ができる)」25.8%で、あわせて28.6%の女性が強い月経痛を訴えています。25歳未満では43.1%が強い月経痛を訴え、年齢が高くなるにつれて月経痛の程度は軽くなります。

【月経困難症の病態生理】
(1)機能性月経困難症(原発性月経困難症)の病態と機序
月経困難症の女性は子宮内膜より産生されるプロスタグランジンが多いことが報告されており、プロスタグランジンは子宮の筋肉を収縮させ、血管の攣縮や子宮筋の虚血を生じると考えられている。

(2)器質性月経困難症の分類
 子宮内膜症、子宮筋腫、子宮腺筋症、骨盤内うっ血、性器奇形、癒着による牽引痛など。

【月経困難症の西洋医学的治療と管理】
 機能性月経困難症の場合、1鎮痛薬、2排卵抑制剤、3抗不安薬、4漢方薬など。カウンセリング(心理療法)

1鎮痛薬としてポンタール(メフェナム酸)、ロキソニン、ボルタレン、インダシン(インドメタシン)など。

2排卵抑制剤としてプラノバール、ドオルトンなど。

3抗不安薬としてソラナックス、デパス、セルシンなど。

4漢方薬として桂枝茯苓丸桃核承気湯当帰芍薬散など。
当帰芍薬散は補血活血・健脾利水・調経止痛。
桂枝茯苓丸は活血化オ、消チョウ。
桃核承気湯は清熱瀉下通便、活血化オ。
加味逍遥散は疏肝解欝・健脾補血・清熱涼血。

【教科書の痛経の弁証論治】
 月経困難症の月経痛は、中医学の「痛経(つうけい)」の概念に含まれます。以下は、教科書である『鍼灸学・臨床篇』335-337ページを抜粋です。

《病因》
(1)寒湿凝滞による痛経
(2)肝鬱による痛経
(3)肝腎虚損による痛経

《弁証論治》
(1)寒湿凝滞による痛経
少腹部の冷痛、拒按、温めると痛みは軽減、暗紫色で血塊。薄白苔、脈沈緊。
治則は散寒利湿、通経止痛
処方は中極、水道、地機。

(2)肝鬱による痛経
痛みより張りが強い、拒按、血塊、胸脇脹痛、乳房脹痛、弦脈。
治則は疏肝解鬱、理気調経
処方は気海、太衝、三陰交。

(3)肝腎虚損による痛経
隠痛、喜按、淡色の経色。頭暈、顔色蒼白、精神倦怠。細脈。
治則は補益肝腎、調補衝任。
処方は肝兪、腎兪、関元、足三里、照海。

症状による中医診断と治療(下巻)』(中医症状鑑別診断学)では、
(1)肝欝気滞
(2)血オ
(3)湿熱
(4)寒湿
(5)衝任虚寒
(6)肝腎陰虚
(7)気血両虚
の7つの弁証類型に分類しています。

 以上が教科書的な記述ですが、本当に臨床に役に立たない(笑)。
 清代の古典『医宗金鑑』の「気によりて血の滞るは脹満多し、血により気の滞るは疼痛多し。さらにまさにその滞して脹痛をなすの故を疑いて、あるいはによりによりによりによるを審(つまび)らかにしてこれを分治するなり」という記述は参考にはなりますが。
 わたしなら、『医宗金鑑』の言う通り寒・熱・虚・実は鑑別します。温めると月経痛がマシになるケースがあり、虚証や寒証はあります。一方で温めると悪化する血熱タイプもあります。
 気血津液弁証で気滞・オ血・水滞は鑑別したほうが良いと思います。あとは経絡を切診していきます(経絡弁証)。

 漢方の処方から月経困難症の弁証を類推はできます。桂枝茯苓丸は下焦のオ血、加味逍遥散は熱証に近い肝鬱気滞・肝脾不和、当帰芍薬散は虚寒証で水滞や脾虚があり温めてラクになるタイプかな~、などなど。李世珍先生のように、穴性から配穴をつくることもできますし、それはそれで意味があると思います。

 しかし、教科書の配穴や弁証を丸暗記するのは、あまりに意味の無い作業だと思われます。


新しいマイクロシステム

2012-10-23 | 女性と中医学
これは、2012年10月22日月曜日に学院のサークルでお話しした内容の再録です。

 先ほど、デモンストレーションで手太陽小腸経の少沢で腰の痛みをとるという「根結療法」を紹介しました。これは、『霊枢・根結篇』の理論に基づいています。わたしは基本的に中医学を専門にしていますが、特に『霊枢』の刺法を研究しています。経絡弁証や五刺・九刺・十二刺などです。根結療法もその一つです。
 わたしは学校で、服を脱がずに、できるだけ早く治療するという必要性から、できるだけ早い治療を目指してきました。数年前は奇経八脈の八脈交会穴を中心に使い、次は十二井穴を用いた根結療法が中心になりました。さらに中国式の耳鍼と中国式の手鍼を中心に組み合わせました。昨年から卒業生の冨田先生に教わったYNSA(山元式新頭鍼)をさらに組み合わせました。YNSAはいままで使ってきたマイクロシステムと切れ味と完成度が違います。YNSAと比較した中国式の耳鍼と手鍼の完成度に不満を持って、フランス式の耳鍼の研究をはじめました。ジョゼフ・ヘルムズラファエル・ノジェBeate Strittmatterなどの耳鍼の文献をこの夏は翻訳しながら研究していました。

 そのような時に以下のニュースを読みました。「アメリカ国防総省がNIHのNCCAMと急性痛のワークショップを開いた(『ザ・ジャーナル・オブ・コンプリメンタリー・オルタナティブ・メディスン』September 28, 2012)

 これはリチャード・ニムソウが開発した「バトルフィールド・アキュパンクチャー(戦場鍼)」です。リチャード・ニムソウはアメリカン・アカデミー・オブ・メディカル・アキュパンクチャー(AAMA)の出している『メディカル・アキュパンクチャー』の編集長で元アメリカ空軍の軍医です。

 リチャード・ニムソウの「バトルフィールド・アキュパンクチャー」を研究して、驚きました。彼は、できるだけ早い20分程度の治療を目指して、フランス式耳鍼と韓国式手鍼(高麗手指鍼)を組み合わせた独自のシステムを開発していたからです。また、ジョゼフ・ヘルムズから学んだ中国式頭皮針も幻肢痛の治療に取り入れていましたし、『メディカル・アキュパンクチャー』ではYNSAが何度も取り上げられ、ニムソウ氏は山元敏勝先生を尊敬しているようです。
 これは驚きました。わたし自身がYNSAと耳鍼と手鍼を組み合わせたマイクロシステムの組み合わせたクイック治療について『中医臨床』で書いたばかりだったからです。

 リチャード・ニムソウの論文を読んでいくと、さまざまなことがわかりました。まず、ニムソウ氏はフランスのポール・ノジェの耳鍼を学び、ジョゼフ・ヘルムズやラファエル・ノジェの友人であること。ジョゼフ・ヘルムズの鍼灸コースで学び、軍の鍼クリニックで働いている際に、フランスでDavid Almniという神経科医にASPという耳鍼用鍼を神経学に基づいた臨床応用をニムソウ氏は学びました。
 2001年、フランスから帰国直後にテリー・オルセン医師に誘われ、韓国人でカルフォルニア大学アーバイン校で研究していた趙長熙(Zang Hee Cho)教授に紹介されました。趙教授はfMRIを用いて鍼の研究を行い、『ニューズウィーク』で取り上げられ、大きな話題になっていた方です。ここで趙教授が「真の鍼と偽の鍼の違いは、fMRIでは視床と帯状回で判別できる」という情報をニムソウ氏に伝えます。ニムソウ氏はさっそくフランス式の耳鍼の視床と帯状回にASPを使ったところ、強い鎮痛効果を得たそうです。これにオメガ2やゼロポイント、神門を組み合わせて、「バトルフィールド・アキュパンクチャー」として発表し、さらにゴールドASPとシルバーやステンレスのASPを組み合わせて、イオン差で刺激を強めたアップデイト版の耳鍼や韓国の高麗手指鍼をレーザー鍼と組み合わせた「ニムソウのラピッドアキュパンクチャーテクニック」を開発しています。

 ここで、「真の鍼と偽の鍼の違いは帯状回で判別できる」という情報を読んで、わたしは驚きました。3ヶ月前の2012年7月に『プロス・ワン』という雑誌の「fMRIによる鍼刺激の特徴:システマティックレビューとメタアナリシス」という論文にまさに「真の鍼と偽の鍼の違いは、中部帯状回で記述される(Differences between verum and sham acupuncture were noted in brain response in middle cingulate)」という記述があったからです。趙長熙(Zang Hee Cho)教授は1998年に「経絡経穴の特異性を発見した」と騒がれ、後に論文を撤回していますが、この帯状回に関しては、正しかったようです。

【鍼はプラセボか?】
 西洋医学では、ここ数年、「鍼はプラセボか?」という議論が盛り上がっていました。『日経サイエンス』のような一般科学雑誌にも片頭痛の鍼はプラセボかという議論が載っていたので、よく覚えています。
 これはイギリス最初の代替医療の大学教授になったエツアート・エルンストが2009年に『代替医療のトリック』でそのような議論を行った影響が大きいです。また、ドイツの大規模試験で、真鍼と偽鍼はいずれも対照群と比較して顕著に改善したものの、真鍼と偽鍼の違いがなかったことに由来しています。
 ただ、全日本鍼灸学会など日本の学界が批判しているように、欧米のEBMの鍼灸研究はプラセボや選穴に問題がありすぎです。例えば、ブライアン・バーマンさんという学者の腰痛での配穴は、確か腎兪・大腸兪・委中・腰陽関、膝痛の配穴は膝眼、足三里、陰陵泉、陽陵泉と太溪、懸鍾などです。これは日本の鍼灸師から見ると、これで鍼の効果を判定されると非常に不満があります。プラセボだけの問題ではないです。

【ウエスタン・アキュパンクチャー】
 わたしは学問をやっている以上、一応、西洋医学にも目を配っていた程度なので、あまり西洋医学に詳しくないです。しかし、「バトルフィールドアキュパンクチャー」には衝撃を受けました。
 ブリティッシュ・メディカル・ジャーナルのアキュパンクチャー・イン・メディシンの編集長のブライアン・ホワイトさんによれば、現代の西洋医学鍼灸、ウエスタン・アキュパンクチャーはトリガーポイント鍼や脊髄分節による鍼、あるいはエレクトロ・アキュパンクチャーです。

 基礎理論では、最近読んだ、カナダのクイーン大学のローレンス・リヨンさんの論文が面白かったです。
Neurophysiological Basis of Acupuncture-induced Analgesia—An Updated Review

 特に驚きだったのは、朝鮮民主主義人民共和国の金鳳漢(キム・ボンハン)のボンハン学説が完全に復活していたことです。わたしは自由神経終末、ポリモーダル受容器で習ってきたので、半信半疑ですが、現在、論文を4本ほど読んで、新しいボンハン学説について、理解しようと努めています。





冷え症の電気鍼治療と弁証

2012-10-22 | 女性と中医学
 日本の電気鍼に関する文献を調査していると、「冷え症の電気鍼治療」に関する論文を多数発見できる。

 電気鍼は、中医学では理気(活血)の効能がある。だから、スポーツの使いすぎ症候群(overuse syndrome)や外傷の後療法に用いられる。

 日本の冷え症は、中医学の陽虚ではなく、気滞オ血である。だから、パルス鍼や刺絡が効果がある。

脾胃学説と妊娠期の中医体質保健

2012-04-10 | 女性と中医学
 以前、現代の標準的な中医学理論における脾胃の理論が、女性疾患の臨床での実情とあっていないことを少し書いたが、『中医臨床』2011年12月、通巻127号はさすが専門誌だけあって、関連する論文を載せていた。

脾胃学説と妊娠期の中医体質保健
著者:佛山市南海区婦幼保健院
『中医臨床』2011年12月、通巻127号、80-83ページ

胃経は乳中線を通って下行し、乳房は胃に属することから、産後の母乳の量は胃気の強さと関係する。母乳は気血の変化したものであり、胃が壮健であれば気血生化の源が充足すれば、乳汁も充足する。それゆえ『胎産心法』乳少無乳併乳汁自出論でも『妊婦の衝任の血が旺盛で、脾胃の気が強ければ乳汁は充足し、濃くなる』といっている。ゆえに、脾胃は経・孕・乳の根本を保障するものと言える」

 これは、『新中医』38巻10号:8-9ページ、2006年の「論脾胃学説与孕期中医保健体質」を山田春菜さんが翻訳したもの。非常に興味深い論文だと思う。

 わたしの持論としては、乳房は胃に属し、乳頭は肝に属す。手少陰心経と手太陽小腸経も乳汁と関係している(隋代、『諸病源候論』の理論)。

 こういった議論は、邵中医師の経絡の講義を聞いてまとめていった。邵中医師の手厥陰心包経の「天池」穴の解説で、『天池穴は、手足の厥陰経つまり手厥陰心包経と足厥陰肝経の交会穴であり、肝は血を蔵するが、肝血は天池から心包・心に血を供給している」という説明があった。これは中国伝統医学の口伝の世界観の部分なのだろう。
 これらの議論を踏まえれば、心包の募穴である「ダン中」が乳汁分泌不全に用いられるなども納得できる。ただ、これらは、中医学の基礎理論内部の問題であり、臨床家には、本質的にはどちらでも良い問題ではある。
 

伏兎と脾胃の経絡と女性

2012-04-06 | 女性と中医学
調べものをしている際に、非常に面白い報告を発見。

米山博久「月経痛の皮電点
『日本東洋医学会雑誌』VOL12、NO.4 1962
第12巻、第4号、昭和37年3月

 米山博久先生は科学派を代表する先生。この報告では、月経痛の女性を皮電計で計測したところ、伏兎に皮電点があらわれやすいことに気づき、63名で調査したところ、月経痛や月経不順の症状がある女性は伏兎の皮電点があらわれやすい傾向があったというもの。もっとも、伏兎だけでなく、伏兎や血海に広範囲にあらわれる。卵巣や子宮に障害がある場合、卵巣デルマトーム(T10~L4、S1~S3)から伏兎あたりに異常な皮電点があらわれるのではないかと考察されている。

 これを読んで思い出したのが、昭和の名灸師、深谷伊三郎先生が、女性の不感症伏兎の灸を使われていたことだ。

伏兎とその上下点は、不感症の人にはよく出ている圧痛点で、人によっては中心ではなく、左右、すなわち内か外に偏って出ることもあるが、これは見逃してはいけない治療点である」
『お灸で病気を治した話第3集』鍼灸之世界社2ページ

 深谷伊三郎先生は伏兎を中心にして、上下四横指の範囲を「伏兎3点」として婦人科の疾患の診断点にされていたようだ。
 古典的には、1680年、明代の『鍼灸大成』は伏兎の主治として、「婦人,八部諸疾」を挙げている。「婦人、八分諸疾」が何を意味するのかは知らないが、婦人科疾患に用いられていたことは類推できる。

 米山博久先生の伏兎の論文を読んだ際には『日本東洋医学会雑誌』を調べていたのだが、こんなのも見つけた。

寺師睦宗「脾胃を整えて妊娠した3例
『日本東洋医学会雑誌』VOL31NO3 1981
第31巻第3号(通巻117号)昭和56年3月
・六君子湯、小半夏加茯苓湯など脾胃を整える漢方治療をして妊娠した症例。

 以前、不妊症に気衝衝門など胃経・脾経のツボを何故使うのかが、議論になったことがある。そのとき、わたしが発表したのは以下の意見。

「肝腎は先天なので、加齢によって摩り減っており、肝腎の先天の精血を補うというのは難しいことが一つと、もう一つは、現代の女性は、食べすぎや冷飲食による子宮の冷やしすぎによる痰湿が子宮内膜症や子宮筋腫などの原因になっており、足陽明胃経の気衝と足太陰脾経の衝門の温灸は、脾胃から去湿しながら、子宮や鼡径部周辺を温めることができること、あと、『脾胃は気血造化の源』であり、脾胃から去湿すれば、脾胃から後天の精、気血が増えることがポイントだと思います。現代の女性は、脾胃に湿たまって、脾胃が気血をつくれずに、脾虚湿盛から三陰交あたりがむくんだり、中気下陥・脾気下陥から内臓下垂となり、臍から下の、下腹部がポッコリと出ている人が多いです。
さらに、気衝が、衝脈と足陽明胃経の交会穴であり、衝脈は『血海』ともいわれ、先天の腎経と後天の胃経を結ぶところであり、全身の気血を増やすポイントのツボであることです。『素問』には、衝脈と任脈が盛んになれば、月経が始まり、年をとって衝脈と任脈が弱ると月経が止まって子供ができなくなると書かれています。神闕と関元は任脈に属し、気衝は衝脈に属すので、神闕・関元・気衝は不妊症に効果があるというのが、東洋医学的な説明になると思います」

 上記の意見が妥当なのか、どうかはともかくとして、脾経・胃経が女性の生殖器疾患と関係しているのは経験的に理解できる。胃経の大巨や帰来、気衝や髀関や伏兎、足三里。あるいは脾経の公孫、三陰交、漏谷、血海、箕門、衝門は明らかに女性の疾患と関係している。ただ、現代の標準的な中医学の臓腑弁証理論では、「脾は統血する」ぐらいしか、説明がないように思う。

心経と小腸経と乳房

2012-04-02 | 女性と中医学
 現代中医学の理論は入り口としては、よく出来ていると思う。しかし、最近の中国における標準化、および現代中医学を盲信して古典を読まれない中医師の先生方には、ちょっと?!と思うことが多い。はっきり言って、人間的にも傲慢で謙虚さに欠ける方が多いと感じている。わたしが中国伝統医学にほれこんだのは、それとは全く逆の動機なので、本当にガッカリさせられることが多い。

 例えば、学問的に、女性の乳房に関する中医学理論はどうなっているのだろう?わたしの知識では、金元四大家の朱丹渓(しゅたんけい)の学説が標準だと思う。朱丹渓は、「乳房は足陽明胃経に所属し、乳頭は足厥陰肝経に所属する(乳房,陽明胃所経、乳頭,厥陰肝所属)」と論じ、この学説は、1680年の明代、『鍼灸大成』の乳中穴に関する記載でも転載されているし、現代中医学の秦伯未先生の著作にも明快に書かれている。

 確かに、生理前に肝欝気滞から乳房脹痛となる場合は、これは太衝など肝経のツボを用いたほうが良いし、乳汁分泌不全症(乳少)の場合、庫房や乳根にSSPで刺激する療法も症例報告されている。現代中医学の乳房は胃経で、乳頭は肝経という理論はよく出来ているように見える。

 しかし、いっぽうで、乳汁分泌不全症(乳少)には、『鍼灸大成』などで、小腸経の少沢天宗、あるいは心包の募穴の「ダン中」といったツボが用いられている。

 中医学古典の唐代、孫思ばく著『千金翼方』では、「婦人無乳法 初針兩手小指外側近爪甲深一分」と書かれている。これは明らかに、手太陽小腸経の井穴、少沢だろう。

 中医学古典の隋時代の巣元方(そうげんぽう)著『諸病源候論』では、「女性の手太陽小腸経と手少陰心経の経絡は、下では月経血、上では乳汁と関係している(婦人手太陽、少陰之脈,下為月水,上為乳汁)」と明快に何度も書かれている。

 わたしの中の整理の仕方は、「経絡としては、足陽明胃経が気戸・庫房・乳中・乳根と流れている」、「臓腑としては、乳汁の原料は、『血』であり、肝は血を蔵し、心は血を推動するという関連がある」、「肝の気の疏泄が失調すると、乳頭は肝に属しており、乳房脹痛となる」、「心経と小腸経は胸部で乳房と関係しており、心経や小腸経の問題があると乳房のトラブルとなる。小腸経の少沢や天宗が乳房の治療に使われ、心包の募穴であるダン中や、心包の兪穴・厥陰兪と同じ高さの膏肓に灸などが使われる」と整理している。

 つまり、経絡弁証の立場から言えば、乳房と関連するのは、胃経・心経・小腸経・肝経となる。治療穴は、乳根や足三里、ダン中や厥陰兪・膏肓、太衝などが代表となる。

 わたしの実感としては、少沢や天宗を乳房疾患に使うのは「経験穴」といえばおしまいだが、『諸病源候論』の理論のほうがしっくり来る。経験的に、血虚の女性は、生理不順で乳房も小さいことが多い。下焦の肝血と上焦の心血と関連しているように思う。上焦の心血は胸部の乳汁の原料になっていると考えている。それなら、「ダン中」や「天宗」「少沢」などで胸部の経絡の詰まりをとったり、心経・小腸経の気を強くすることで乳汁分泌不全症の治療ができるのも納得できる。

 ただ、自分の中では、「胸部の気滞」と「心血虚(心の気血虚)」がうまく整理されていない。乳房部の疾患の経験はあまり無いから。

 考えてみれば、中医学の歴史の中でも、女性の疾患、特に乳房部の疾患の経験は文化的に少なかったのではないか? 本来なら、女性鍼灸師が増えてきた今こそ、こういった弁証の部分を整理して欲しいのだが。

※こういった事を考えたのは薬膳を勉強した際に、『アズキ(赤小豆)』を研究したとき。「赤小豆」は「麻黄連ぎょう赤小豆湯」という漢方処方に配合される生薬でもある。アズキは日本では催乳効果と利尿効果があるとされている。また、コイをアズキで炊いたスープ「鯉魚赤小豆湯」は利尿作用で有名であるが、催乳にも用いられている。これも赤小豆が赤色で心経と小腸経に帰経するということと関係しているように思う。こういった傍証から、古代人は心経と小腸経と乳房の関係を知っていたはずだけど、明確な文献による証拠が見つからない・・・

女性と肝欝気滞

2012-03-30 | 女性と中医学
 「女性の病は肝から治せ」という言葉があるように、女性の治療は、肝を中心に考えます。肝は気の疏泄(そせつ)を主ります。気を全身になめらかにスムーズにまわします。気の流れが滞ると、肝欝気滞(かんうつきたい)となります。

 典型的なのは、「月経前症候群(PMS)」の女性です。生理前の女性は、イライラしたり、ブルー(憂鬱)になり、気がふさぎます。頭痛、肩こり、腰痛、腹痛など、いろんなところが痛みます。生理前の腰痛は、交通事故のオ血腰痛と違います。交通事故のオ血腰痛は物理的に筋肉が損傷しています。一方で、生理前の腰痛は生理が終わったら、治ります。これは物質が詰まっているのではなく、エネルギー(気)が詰まっています。肝経の通っているオッパイが張って痛み(乳房脹痛にゅうぼうちょうつう)、胸が詰まったり、胃が詰まって吐き気となります。肝経胆経が通っている側頭部が痛んで片頭痛となり、肝経胆経が通っている側腹部・下腹部や鼡径部が痛みます。

 あるいは、「更年期の不定愁訴症後群」なども典型的な肝欝気滞です。「更年期の不定愁訴症後群」では、痛むところがあちこち変わります。昨日は頭痛、今日は肩こり、明日は腰痛です。イライラして、ブルー(憂鬱)で、気がふさぎます。しかし、更年期が過ぎると、ウソみたいにケロっとする人もいます。

 「うつ病の腰痛」もそうです。うつ病の腰痛は、圧痛点があちこちに変わります。これは筋線維が痛んでいるのではなく、無形のエネルギーの停滞です。ゴルフに行くと腰痛が治る人もいました。運動すると気はなめらかに流れます。

 気滞の特徴は、「(ちょう)」・「(もん)」・「(つう)」・「遊行(ゆぎょう)」・「不定(ふてい)」・「弦脈」です。乳房脹痛のような張ったような感じや痛み、梅核気(ばいかくき)や胸悶(きょうもん)のような悶々とした詰まったような感じや痛み、そして、その場所は「遊行不定」で、一定しないです。西洋医学では「不定愁訴(unidentified complaints=一定しない訴え)」です。

 肝鬱気滞の場合、1つの方法として、運動すると良いです。スポーツすると症状がマシになります。また、お酒を飲んだり、温泉に入ったり、マッサージを受けるのも良いです。お酒を飲んだり、温泉に入ると、全身の気はグルグル回ります。人と話したり、カラオケを歌って発散するのも良いです。上焦の肺気が発散されて、楽になります。
 ただ、気虚がある場合は、スポーツもお酒も温泉も、気を発散しすぎて気虚が悪化します。お酒を飲み過ぎたり、温泉に入りすぎて湯あたりすると、「だるい、やる気がない、疲れた、元気がない、食欲が無い」といった気虚症状が出ます。人と話しすぎたり、カラオケを歌い過ぎても、だるく疲れた状態となります。

 肝欝気滞の治療法の1つとして、四関穴(=合谷太衝)があります。手足の合谷と太衝に置鍼すると、全身の気はグルグル回ります。太衝は肝経の原穴で疏肝理気作用があり、合谷は大腸経の原穴で宣肺(発散)と降気の作用があります。肝は気の昇発を主り、肺は気の粛降を主り、上焦の肺と下焦の肝は2つの協調によって全身の気をグルグルまわしているのですが、合谷と太衝はこの働きを強めます。西洋医学的にも、肝欝気滞の人は、交感神経が緊張して、血管壁が収縮して弦脈となっていますが、手足の合谷ー太衝に置鍼して10分ぐらいすると、副交感神経優位となって、血管壁が緩んで、少し柔らかい脈になります。

 女性は、定期的に運動したり、お酒を飲んで人と話したり、温泉に入ってマッサージを受けたりして、気のめぐりを良くしたほうが良いです。

女性と肝血虚

2012-03-29 | 女性と中医学
 「女性の病は肝から治せ」という言葉があるように、女性の治療は、を中心に考えます。肝は血を蔵しますが、女性は「肝血虚」が多いです。成熟していない青年期には、「貧血女子高生」のような「肝血虚」の女性がいらっしゃいます。弱く、「わたし低血圧で起きれないのー」と言い、朝礼でめまい(脳貧血)を起こして倒れます。肝は気の昇発を主りますが、アタマに気血が昇らないです。貧血を疑って、を見ると血管は白く、顔色も青白く、の色も青白いです。実際に貧血でスプーン爪のように爪の変形も見られます。肝血は目や爪を営養していますが、肉も栄養しています。肝血虚の方は、肉も痩せて、「こむらがえり(肉の痙攣)」も起こします。肝血は子宮も栄養していますが、肝血虚となると、生理不順となり、はなはだしければ閉経となります。また、肝血は五神のも栄養しています。夜になると血は肝に貯蔵されますが、肝血虚では魂が浮いて、夢が多くなったり、眠りが浅く、フワフワした感じとなります。血が脈を栄養できないために、細脈となり、舌も淡白舌となります。

 「肝虚(肝血虚)」の反対である肝実証(肝臓が強い体質)の典型は中小企業の社長さんです。朝に早起きで高血圧で目が血走っています。筋骨隆々で、がっちりしています。社員に対して、怒りっぽいです。気がアタマにあがっています。肝は将軍の官なので、将軍は決断力や判断力があります。「肝は将軍の官、謀慮(ぼうりょ)出る」です。中小企業の社長さんは、決断力があります。一方で、「貧血女子高生」は決断力がありません。「ハンサムなA君」と「スポーツ万能のB君」とどちらと付き合うか、いつまでも迷っていますし、非現実的な夢を見がちです。中小企業の社長さんは現実しか見ていないのと対照的です。

 「肝血虚」の典型は、「朝礼で倒れるダイエットしている貧血女子高生」、「女子マラソンのランナー」です。女子マラソンのランナーは、よく「こむらがえり(筋肉の痙攣)」を起こします。激しい運動で筋肉は激痩せしています。よく、めまいを起こして倒れるし、生理が止まることもあります。

 「肝血虚」の治療の場合は、脾胃をよくすることが一番良いです。脾経の三陰交血海、胃経の足三里などは脾胃を強くできます。「膈兪ー肝兪」の四華穴(しかけつ)という組み合わせや「膈兪ー肝兪ー脾兪」の「胃の六つ灸」も良いです。神闕の塩灸も脾胃を調整して良いです。脾胃が強くなれば、食べ物から気血をつくれます。
 西洋医学で、貧血の治療の場合は鉄剤を処方されますが、鉄剤を飲むとおなかを壊して下痢をして、余計に貧血がすすむ場合もあります。足三里で胃酸が分泌されたら、食物から鉄分を吸収しやすくなります。また、ダイエットしすぎの女性や胃腸が弱い女性に、「肝血虚」の方は多いように思います。

女性と温陽利水

2012-03-29 | 女性と中医学
 陰陽に分けると、男性は陽で、女性は陰です。女性は陰なので、冷え症が多いです。女性の治療は、男性の10倍難しいし、中国伝統医学で男性と女性は全くの別物と考えます。

 『黄帝内経素問・上古天真諭篇第一』では、男性は8の倍数、女性は7の倍数のライフサイクルを持っていると論じています。「女性は7歳になると腎気が盛んになって歯がはえかわり、髪の毛が長くなる。14歳となると任脈が通じ、衝脈が盛んになり、月経が下り、子供を妊娠できるようになる。21歳となると腎気が充満し、身長が伸びきる。28歳となると、筋骨がしっかりとして、身体は壮健となる。35歳となると、陽明胃経が衰えて、顔面の色がくすみはじめ、髪の毛が抜け始める。42歳となると、太陽経・少陽経・陽明経の3つの陽経が上で衰えるので、顔のつやがなくなり、髪の毛が落ち始める。49歳となると任脈が虚して、衝脈が衰えるので月経が止まり、子供ができなくなる」と論じられています。

 ここでポイントは2つあります。女性は任脈・衝脈が重要です。任脈と衝脈が盛んとなると、月経が始まり、子供ができます。任脈と衝脈が弱ると、月経が止まり、子供ができなくなります。

 もう1つは、男性は陽で女性は陰なので、35歳になると陽気が衰え始めます。陰陽のバランスで言うと、男性は陽が余って陰が足りないです。女性は陰が余って陽が足りないです。だから、女性は一般的には体を温めるほうが良いです。ビールは体を冷やし、お酒やワインは相対的に体を温めます。女性はワインや日本酒のほうが良いです。コーヒーは涼性で体を冷やし、紅茶は温性でからだを温めます。だから女性は紅茶のほうが好きです。お灸はからだを温めますが、女性のほうがお灸ファンは多いです。女性は陽気が弱く、陰液(水)が余っているので、冷え症で足が浮腫む場合も多いです。温陽して利水(利尿)する治療が良いです。