alternativemedicine

Studies about acupuncture and moxibustion and Massage.

日本の鍼研究 ローカル・エフェクト:頚肩部の筋緊張に対する鍼刺激

2012-11-27 | 西洋医学的鍼

「頚肩部の筋緊張に対する鍼刺激の効果」
太田 喜穂子, 矢野 忠
日本温泉気候物理医学会雑誌 Vol. 68 (2005) No. 2

 鍼のローカル・エフェクトに関して、調べていたら、やはり日本には素晴らしい研究がたくさんあった。特に太田 喜穂子先生と矢野忠先生の上記の論文は読み応えがあった。結果、考察ともに読んでいて興味深かったし、考察と参考文献リストは、鍼のローカル・エフェクトに関する研究を概括したものになっているので、すごく勉強になった。

 特に「考察」の部分が素晴らしい。深い鍼刺激よりも、浅い鍼刺激のほうが筋硬度が減少している。これは交感神経バイアスの抑制によるものではないかと考察されている。

 ここ3~4年分の全日本鍼灸学会の抄録をイッキ読みすると、浅い鍼と深い鍼の比較研究がいくつかあり、特に腰痛では、深い鍼のほうが効果が出ているように思える。これは、皮内針などの臨床経験でも、浅い皮内針だけでとれる腰痛と深刺しないと治らない腰痛があることから、実感できる。
 このへんの浅い鍼と深い鍼の問題は、一度、時間をかけて整理する必要を感じる。

「腰痛に対する表在と深部への鍼治療の比較ーランダム化比較試験」
藤本幸子、井上基浩、中島美和、糸井恵
『全日本鍼灸学会雑誌』59巻3号401 2009年

「肩こりに対する鍼治療の効果ー刺入針度の違いによる検討の試み」
宮本直、清藤昌平、伊藤和憲
『全日本鍼灸学会雑誌』59巻3号400 2009年

「変形性膝関節症に伴う痛みと運動機能に対する鍼治療の効果 鍼の刺入深度の違いによる治療効果の検討」
宮本直,伊藤和憲,越智秀樹,山田充彦,糸井恵
『全日本鍼灸学会雑誌』 58巻 3号、522 2008年
 
「変形性膝関節症に伴う痛みと運動機能に対する鍼治療の効果 鍼の刺入深度の違いによる治療効果の検討」
宮本直,伊藤和憲,越智秀樹,山田充彦,大橋鈴世,糸井恵
『全日本鍼灸学会雑誌』 59巻 4号、384-394 2009年

ドイツの鍼研究 近代五種選手のコンディショニングの経験

2012-11-27 | 西洋医学的鍼
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3096472/

Goal-Directed Acupuncture in Sports—Placebo or Doping?
Taras I. Usichenko,  Vasyl Gizhko, and Michael Wendt
Evid Based Complement Alternat Med. 2011;

これは、最近、読んでいて、めちゃくちゃ面白かった研究。
「スポーツのゴール志向の鍼ープラセボかドーピングか?」

 ドイツの近代五種競技のオリンピック強化アスリートのコンディショニングについて書いているんだけど、使っているツボのセンスが良すぎる。近代五種競技はナポレオン時代に戦争のためにつくられたスポーツで、敵陣に騎馬で乗り込んで銃で撃ったり、剣でヒトを切るためのスポーツ。だから、水泳とか射撃とかフェンシングとか乗馬が入っている。

腕の疲れ:合谷、手三里、曲池、外関
水泳の肩のコリ:合谷、手三里、臂臑、肩井
射撃の際の腕のふるえ:合谷、神門

 あと、フェンシングのときなどに帯脈を使っていた。わたしは臨床で帯脈を使うのが好きなんだけど、帯脈を使っている欧米の鍼灸師ははじめて見たわ。その後の議論も、めちゃくちゃ面白かった。「誰や、この面白い論文を書いたんは?」と見たら、Usichenkoさんで、どこかで見たことがあると思ったら、やはり耳鍼の研究で読んだことがあった。Usichenkoさんの論文は、これからリサーチしていくつもり。

奇経の八脈交会穴を利用した通気療法

2012-11-26 | 東洋医学

 今日の気功サークルは、気功のあと、岩谷武昭先生の「通気療法」の実技を行いました(参考文献、根本幸夫監修、岩谷武昭著『「薬屋さん」がすすめる痛み・しびれをとる奇跡のツボ通気療法』海苑社、2004年、を参考にさせていただきました)。

 これは、奇経八脈交会穴を用いた奇経療法のシリーズで、第1回は中島直胤先生の亡くなられる直前の論文に書かれていた治療法、第2回は刑部忠和先生の11円療法による異種金属のイオンパンピング、第3回は岩谷武昭先生のプラスの磁石とマイナスの磁石によるやり方です。もともとは間中喜雄先生のイオンパンピング法を独自に発展させたものです。イオンコードやMP鍼を使った方法を紹介できなかったのが心残りですが、指や11円やエレキバンを使った方法は、いずれも簡便で誰にでも(患者さんが自分でも)できます。

 あまり極性を感じたグループはありませんでしたが、1組だけ、外関(N極)ー足臨泣(S極)と外関(S極)ー足臨泣(N極)での効果や脈の違いを実感できたようで、良かったです。また、磁石よりも灸のほうが変化が強いことも実感できたグループがありました。
 わたし自身も、学生さんに治療していただき、右の肩甲骨内側縁、附分・魄戸・膏肓あたりのコリ感に対して、右外関(S極)ー左足臨泣(N極)と右後溪(N極)ー左申脈(S極)の組み合わせで、コリ感が10→0になりました。右と左の筋肉の硬さまで劇的に変化しました。これも複数の学生さんが実感できて良かったです。
 岩谷武昭先生は鍼灸師ではないですが、刑部忠和先生の『わずか11円!マジックみたいなツボ療法』を読まれて感銘を受けられ、また佐藤久三先生の『根本治療のシステム 人体ツボの新秘法―三角シールと診断の妙術』(ナツメ社)を読んで、独自の通気療法を開発されました。これは大変優れた治療法だと考えて、紹介させていただきました。

 これで学院祭あけからの気功サークルの内容も一区切りというところです。

 学院祭あけの、最初はリフクレクソロジー足底反射療法)です。これはアメリカのフィッツジェラルドやユーニス・インガムから始まる歴史、ドイツのマルカートや台湾式足裏療法のスイス出身のジョゼフ・オイグスター(若石)、日本の足心道や台湾の官足法など足裏療法の概説を行い、英国式・ドイツ式・台湾式の違いを概説しました(参考資料として『医道の日本臨時増刊No5特集マッサージ全科』81-90)。わたしが愛用しているリンパ・マッサージ法とナックリングやニーディング、サム・ウォーキングやリンギングなどの手技のテクニックを講義しました。

 次はマイクロシステムとして、手鍼耳鍼頭鍼を解説しました。ここでは、それぞれの症状に対応しているツボへの毫鍼による切皮程度の刺入で症状が劇的に変化することを体験してもらいました。

 さらに、『霊枢・根結篇』の井穴のみを用いる「根結治療」を紹介しました。中国伝統医学、金元四大家の劉完素の『素問玄機原病式』や張従正の『儒門事親』を読むと、いずれも井穴を愛用しています。特に井穴へのテイ鍼で、手太陰の少商から足太陰の隠白にひびいたり、手陽明の商陽へのテイ鍼で足陽明のレイ兌に響くという現象を多くの学生が経験できたのが良かったです。こういった現象に興味をもたれた方は有川貞清先生監修の『経絡図譜「潜象界からの診療」実践編』(高城書房)を読まれると面白いと思います。

 そして、間中喜雄先生の開発した八脈交会穴を使ったイオン・パンピング奇経療法の初心者向けの治療法として、(1)中島直胤先生の方法、(2)刑部忠和先生の銅とアルミという異種金属を用いたイオンパンピング療法「11円療法」、(3)岩谷武昭先生の磁石のプラス極とマイナス極を用いた「通気療法」、さらにそれらの効果を強めるための奇経灸法を紹介したという流れになります。間中喜雄先生、中島直胤先生、刑部忠和先生はいずれも故人であり、時代の流れとともに、忘れられるのは惜しいと思いました。

 これで、わたしが『中医臨床』に書いた「服を脱がないで遠隔で行うクイック治療法」をだいたい概説できたことになります。

 次回からは、他の臨床家の先生が書かれた遠隔取穴の追試をしていきたいと思います。


特別講義、ありがとうございました。

2012-11-24 | 中医学

 石原克己先生の特別講演会、終了しました。いろいろ不手際があり、申し訳ありませんでした。私自身はたくさん収穫がありました。石原克己先生、本当に素晴らしい講義、ありがとうございました。ご協力いただいた参加者の皆さんもありがとうございました。

   今日の講義で印象的だったのは、やはり、意識が現実をつくるというお話です。脈診に限らず、耳鍼や手鍼、頭皮鍼などのマイクロシステムにも通じる話でした。

   実技では(1)長鍼の運鍼のスピード、(2)大鍼の抜鍼、(3)打鍼、(4)イメージ鍼灸、(5)ザン鍼の手技、の実技でした。

学院の学生の方々がいらしていたのもうれしかったです。超一流の本物のを学生時代に見るのと見ないのは、大きな違いになると思います。

 


イギリスの歴史的な鍼研究 Dundeeの内関と制吐

2012-11-22 | 西洋医学的鍼

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=Dundee%201986%20acupuncture


リンク先はPubmed。
イギリス、クイーズ大学ベルファーストのDundee先生の歴史的な鍼研究。
1986年の『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル』に掲載された「伝統中国針灸:潜在的に使える制吐剤?」は、ブリティッシュ・メディカル・ジャーナルのホームページからPDFでダウンロードできる。
わずか2ページの論文なので驚いた。婦人科手術への内関への5分間の置鍼で75例を対象として、プラセボ群よりも鍼群のほうが改善していた。

Traditional Chinese acupuncture: a potentially useful antiemetic?
Br Med J (Clin Res Ed). 1986 Sep 6;293(6547):583-4.
Dundee JW, Chestnutt WN, Ghaly RG, Lynas AG.

 次の1987年に『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル』に発表した以下の論文は1ページの3分の1という短さ!。1987年には『ランセット』にも癌患者の化学療法のシスプラチンに関連した吐き気について内関への鍼通電を発表している。

Optimising antiemesis in cancer chemotherapy.
Dundee JW, Ghaly RG, Fitzpatrick KT, Lynch G, Abram P.
Br Med J (Clin Res Ed). 1987 Jan 17;294(6565):179.

Acupuncture to prevent cisplatin-associated vomiting.
Dundee JW, Ghaly RG, Fitzpatrick KT, Lynch GA, Abram WP.
Lancet. 1987 May 9;1(8541):1083.

 1989年の『英国王立医学会誌(ジャーナル・オブ・ザ・ロイヤル・ソサエティ・オブ・メディシン)』でも癌患者の化学療法の吐き気に対して、内関への鍼通電を行っている。

Acupuncture prophylaxis of cancer chemotherapy-induced sickness.
Dundee JW, Ghaly RG, Fitzpatrick KT, Abram WP, Lynch GA.
Department of Anaesthetics, Queen's University of Belfast.
J R Soc Med. 1989 May;82(5):268-71.

 1990年には大量の論文を執筆して、そのうちのいくつかはフルテキストまたはPDFで読むことができる(未読)。
 1992年には、以下の内関(P6)への指圧の制吐作用に関する論文も執筆されている。

P6 acupressure and postoperative vomiting.
Dundee JW, McMillan CM.
Br J Anaesth. 1992 Feb;68(2):225-6.

 論文が多過ぎて、現状では読みきれない(他の調査も複数、同時進行しているため)。
1997年のNIHのステートメントや2000年の英国医師会(BMA)の報告書には、これらの研究が影響しているので、必要最小限は読んでおきたい。

1998年のJAMAと鍼

2012-11-22 | 西洋医学的鍼

 昨日、足太陽膀胱経の至陰について講義した際に、石野信安先生や形井秀一先生の『逆子の鍼灸治療』など日本の研究といっしょに1998年に「アメリカ医師会雑誌(JAMA)」に掲載されたイタリアのフランチェスコ・カルディニさんの至陰穴への灸による骨盤位の矯正の研究についてお話しました。

 その際に、話しながら、当時のことを思い出したのですが、1997年にNIH(アメリカ国立衛生研究所)が鍼治療の効果に科学的根拠を認めるステートメントを出した直後ですが、アメリカ医師会(AMA)の鍼に対する態度は冷ややかというよりも、敵対的でした。1998年の「アメリカ医師会雑誌(JAMA)」には、カルディニさんの至陰穴による骨盤位の矯正と、HIV患者のニューロパチーに対する鍼の臨床試験、イエール大学のマーゴリンさんの研究など、複数の鍼や代替医療に関する論文が掲載されました。それで、アメリカ医師会は鍼に対する偏見を捨てたのかなと思いこんで、2000年にアメリカ医師会が出版した『アメリカ医師会がガイドする代替療法の医学的証拠―民間療法を正しく判断する手引き』という本を読んだところ、偏見に満ちた内容だったので、驚いた記憶があります。
 イエール大学のマーゴリンさんは、2002年にも鍼によるコカイン中毒の治療に関する論文を発表されていますが、この時期のJAMAは何故か、薬物中毒とHIVの鍼治療に関する論文ばかりだった記憶があります。これじゃ、日本で役に立たないよ・・・とため息をついていました。

 いま、鍼麻酔(鍼鎮痛)に関する文献調査をやっていて、ちょうど1970年代のJAMAの鍼に関する論文をみています。1971年にダイヤモンドさんが中華人民共和国の鍼麻酔についてJAMAで報告したあとと、1974年にBonicaさんがJAMAに報告した直後は、「鍼は催眠だ」など、侃侃諤諤の議論が起こっています。当時の熱気が伝わってきて面白かったです。


ナイジェリアの鍼研究 Sodipoさんの胃酸分泌研究

2012-11-22 | 西洋医学的鍼

 昔、「欧米で初めて紹介された胃酸分泌に関する鍼治療の論文は、1979年に報告されたラゴス(ナイジェリア)のSodipoによるものと考えられている」(野口栄太郎「消化器機能に対する鍼灸治療の効果とその機序」『鍼灸OSAKA』VOL18NO2、96-97、2002)という文章を読んだときは驚いた記憶がある。
 以下は、ナイジェリア、首都ラゴスのホリスティックメディスンセンターのSodipoさんの論文。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/44432
Acupuncture and gastric acid studies.
Sodipo JO, Falaiye JM.
Am J Chin Med. 1979 Winter;7(4):356-61.

 十二指腸患者と非潰瘍消化不良患者の2群に対して鍼を行ったところ、胃痛の消失と酸分泌量の減少が観察している。


日本の鍼研究 ポリモーダル受容器の初期の論文

2012-11-21 | 西洋医学的鍼

 海外の文献や論文を読むと、日本のKawakita先生の名前だけは、ほとんどの文献で必ず引用されている。いかに川喜田健司先生が西洋医学的鍼灸理論に貢献されてきたかが、わかる。
 以下の『医道の日本』に掲載された「鍼灸刺激のポリモーダル受容器仮説について(1)(2)」は非常に勉強になった。

1993年
「鍼灸刺激のポリモーダル受容器仮説について(1)」
川喜田健司
『医道の日本』584号、平成5年4月号(1993)10-17
・「ポリモーダル受容器は痛くない刺激でも興奮する。全身のいたるところに分布する。圧痛点と密接な関係がある。」

1993年
「鍼灸刺激のポリモーダル受容器仮説について(2)」
川喜田健司
『医道の日本』585号、平成5年5月号(1993)8-15
・「鍼刺激、灸刺激、小児鍼のような刺激でもポリモーダル受容器は興奮する。鍼鎮痛とストレスとレス鎮痛を同一視することはできない。TENSのAベータ線維による鎮痛と鍼の鎮痛は同一視できない」

 このポリモーダル受容器の理論は、名古屋大学の熊澤孝郎先生の卓見と議論から発展したそうだ。以下の熊澤孝郎先生のインタビューを読むと、さらにわかりやすい。これらの論文や議論はポリモーダル受容器をわたしのような初学者が理解するための最高の導入部になると思う。

1983年
「熊澤孝郎教授に聞くーポリモーダル受容器を中心にした鍼鎮痛について」
熊澤孝郎、東医とペイン編集委員会
『東洋医学とペインクリニック』VOL13No4(1983.10)168-
・1969年にBessouPerlpolymodal receptorという言葉をはじめて使う。

1984年
「熊澤孝郎教授に聞くーポリモーダル受容器を中心にした鍼鎮痛について」
熊澤孝郎、東医とペイン編集委員会
『東洋医学とペインクリニック』VOL14No1(1984.1)24-
・熊澤孝郎教授の御略歴
昭和32年名古屋大学医学部卒業
昭和39年チューリッヒ大学、イタリア・シエナ大学、ミラノ大学
昭和45年アメリカ・ユタ大学、ノースカロライナ大学
昭和54年名古屋大学医学部助教授
昭和57年名古屋大学環境医学部研究所教授

J Neurophysiol. 1969 Nov;32(6):1025-43.
Response of cutaneous sensory units with unmyelinated fibers to noxious stimuli.(PDF
Bessou P, Perl ER.
これは、熊澤教授のおっしゃっていたユタ大学のベッソーとパールの論文。実際は、原著論文を読むと、“polymodal nociceptors”と書かれている。それにしても、こんな原著論文まで読むことができるなんて・・・。


日本の鍼研究 円皮鍼のローカル・エフェクト

2012-11-20 | 西洋医学的鍼

NIRS(近赤外線分光法)による血液量観察。

「円皮鍼による皮下組織刺激が組織血液量に及ぼす影響」
金子泰久、古屋英治、坂本歩、上原明仁、高木俊、村瀬訓生、木目良太郎、勝村俊二
『全日本鍼灸学会雑誌』Vol. 61 No. 3 249 2011年

健康成人4名(平均年齢31歳)の外側広筋に円皮針を刺鍼、プロープを装着して計測。オキシヘモグロビンは円皮針刺激中に増加し、抜去後には刺激中よりも更に大きく増加した。筋に直接侵害刺激を及ぼすことなく、皮下組織への円皮針刺激によって、筋を含む近傍の組織血液量に変化を及ぼすことが示唆されたが、その変化には個体差が大きかった。

 金子泰久先生と古屋英治先生の一連の円皮針研究には、ものすごく期待している。日本鍼灸の特徴は、浅い、微細な刺激だからだ。sham円皮鍼を用いた研究は、切皮程度の刺激が人体にどのような影響を与えるかを示唆してくれる可能性があり、結果次第では、いまの世界の鍼灸研究の流れを変える可能性があると思う。

 これで、大久保正樹先生の僧帽筋でのさまざまな手技鍼・円筒灸・得気なしの置鍼、織田かなえ先生のハムストリングスでのTENSと電気鍼と置鍼、スウェーデンのSandbergさんの得気による置鍼、田和宗徳先生の透熱灸による皮膚と皮下組織の血流量の変化、金子先生と古屋先生の円皮針による外側広筋の血流量の変化など、調べてきて、西洋医学における鍼灸のローカル・エフェクトの研究が少しずつ理解できてきた。


日本の鍼研究 円皮鍼と筋力

2012-11-20 | 西洋医学的鍼

 古屋英治先生の「筋力・筋持久力・筋疲労に対する鍼治療の効果」(『臨床スポーツ医学』VOL27 NO6 607-612 2010)をダウンロードして読んだが、すごく勉強になった。

【等尺性運動による筋収縮の回復に及ぼす円皮鍼の効果】
上腕二頭筋と上腕三頭筋の起始ー停止、筋腹の3箇所ずつ、合計6箇所に円皮針を刺鍼。第5、第6頚椎棘突起、背部の第3胸椎棘突起の外方10㎜の3箇所、9箇所に円皮針刺激。

 「筋疲労回復効果に最も効果のある刺激部位は主動作筋を支配する脊髄神経の後枝が分布する皮膚領域であった。刺激部位の選定は木下晴都博士が行ったラット腓腹筋の筋収縮高に及ぼす鍼刺激の効果からヒントを得たものである。ここでは毫鍼という長い鍼を用いて筋中に刺入し、脊髄神経後枝のうち筋枝を刺激していた。筆者が用いた円皮針の刺入深度は皮膚の比較的浅い部位のため、後枝のうちの皮枝の刺激で同様の効果を期待したものである。皮膚領域の円皮針刺激によって筋出力の回復が確認されたが、この効果は円皮鍼刺激が体性自律神経反射を介して筋内血流量を改善させ、疲労物質を除去したことにより、あわせてこれらの部位への刺激は上位中枢を介した筋放電量の増加、筋収縮に伴う運動単位の同期化の促進といった複合作用によって主動作筋の機能を改善したと考えられる」前掲書609ページ

 これは、典型的なセグメンタル・エフェクト。木下晴都先生の研究を応用されているのに感動した。


2008年から最近まで、円皮針が筋力に及ぼす影響は多く報告されている。

円皮鍼の刺激が筋力に与える影響
神内伸晃et al
全日本鍼灸学会雑誌58(3)561 2008
・円皮針0.9mm群において、高い値を示す傾向。鍼の長さが筋出力に関連する可能性が示唆された。

最大背筋力に及ぼす円皮鍼の効果について
清水正輝、森田恭弘、森幸代
全日本鍼灸学会雑誌60(3)606 2010

・腎兪群への円皮針施術は広背筋血流量が増加し、最大背筋力上昇を引き起こすことが示唆された。

円皮鍼が連続跳躍運動のレッグスティフネスと跳躍高に及ぼす影響
福島敏行、柳谷登志雄
全日本鍼灸学会雑誌60(3)508 2010
・承山への円皮針。