月経困難症(Dysmenorrhea:ディスメノリア)は、月経期間中に月経に随伴して起こる病的症状を言います。
「月経痛(menorrhagia:メノレジア)」は、大多数の若い女性が経験することが知られています。月経困難症は、機能性月経困難症と器質性月経困難症に分類されます。
(1)機能性月経困難症(原発性月経困難症)
(2)器質性月経困難症(続発性月経困難症)
思春期の月経困難症のほとんどが(1)機能性月経困難症といわれており、(2)器質性月経困難症は子宮内膜症や子宮筋腫に続発するものが多いです。
【月経困難症の疫学】
疫学調査としては、以下のPDFファイルが大変、役に立ちます。
働く女性の身体と心を考える委員会
「働く女性の健康に関する実態調査結果 働く女性の身体と心を考える委員会報告書」財団法人 女性労働協会 2004:21-22(PDF)
月経痛は「かなりひどい(服薬しても会社を休む)」は2.8%、「ひどい(服薬すれば仕事ができる)」25.8%で、あわせて28.6%の女性が強い月経痛を訴えています。25歳未満では43.1%が強い月経痛を訴え、年齢が高くなるにつれて月経痛の程度は軽くなります。
【月経困難症の病態生理】
(1)機能性月経困難症(原発性月経困難症)の病態と機序
月経困難症の女性は子宮内膜より産生されるプロスタグランジンが多いことが報告されており、プロスタグランジンは子宮の筋肉を収縮させ、血管の攣縮や子宮筋の虚血を生じると考えられている。
(2)器質性月経困難症の分類
子宮内膜症、子宮筋腫、子宮腺筋症、骨盤内うっ血、性器奇形、癒着による牽引痛など。
【月経困難症の西洋医学的治療と管理】
機能性月経困難症の場合、1鎮痛薬、2排卵抑制剤、3抗不安薬、4漢方薬など。カウンセリング(心理療法)
1鎮痛薬としてポンタール(メフェナム酸)、ロキソニン、ボルタレン、インダシン(インドメタシン)など。
2排卵抑制剤としてプラノバール、ドオルトンなど。
3抗不安薬としてソラナックス、デパス、セルシンなど。
4漢方薬として桂枝茯苓丸、桃核承気湯、当帰芍薬散など。
当帰芍薬散は補血活血・健脾利水・調経止痛。
桂枝茯苓丸は活血化オ、消チョウ。
桃核承気湯は清熱瀉下通便、活血化オ。
加味逍遥散は疏肝解欝・健脾補血・清熱涼血。
【教科書の痛経の弁証論治】
月経困難症の月経痛は、中医学の「痛経(つうけい)」の概念に含まれます。以下は、教科書である『鍼灸学・臨床篇』335-337ページを抜粋です。
《病因》
(1)寒湿凝滞による痛経
(2)肝鬱による痛経
(3)肝腎虚損による痛経
《弁証論治》
(1)寒湿凝滞による痛経
少腹部の冷痛、拒按、温めると痛みは軽減、暗紫色で血塊。薄白苔、脈沈緊。
治則は散寒利湿、通経止痛
処方は中極、水道、地機。
(2)肝鬱による痛経
痛みより張りが強い、拒按、血塊、胸脇脹痛、乳房脹痛、弦脈。
治則は疏肝解鬱、理気調経
処方は気海、太衝、三陰交。
(3)肝腎虚損による痛経
隠痛、喜按、淡色の経色。頭暈、顔色蒼白、精神倦怠。細脈。
治則は補益肝腎、調補衝任。
処方は肝兪、腎兪、関元、足三里、照海。
『症状による中医診断と治療(下巻)』(中医症状鑑別診断学)では、
(1)肝欝気滞
(2)血オ
(3)湿熱
(4)寒湿
(5)衝任虚寒
(6)肝腎陰虚
(7)気血両虚
の7つの弁証類型に分類しています。
以上が教科書的な記述ですが、本当に臨床に役に立たない(笑)。
清代の古典『医宗金鑑』の「気によりて血の滞るは脹満多し、血により気の滞るは疼痛多し。さらにまさにその滞して脹痛をなすの故を疑いて、あるいは虚により実により寒により熱によるを審(つまび)らかにしてこれを分治するなり」という記述は参考にはなりますが。
わたしなら、『医宗金鑑』の言う通り寒・熱・虚・実は鑑別します。温めると月経痛がマシになるケースがあり、虚証や寒証はあります。一方で温めると悪化する血熱タイプもあります。
気血津液弁証で気滞・オ血・水滞は鑑別したほうが良いと思います。あとは経絡を切診していきます(経絡弁証)。
漢方の処方から月経困難症の弁証を類推はできます。桂枝茯苓丸は下焦のオ血、加味逍遥散は熱証に近い肝鬱気滞・肝脾不和、当帰芍薬散は虚寒証で水滞や脾虚があり温めてラクになるタイプかな~、などなど。李世珍先生のように、穴性から配穴をつくることもできますし、それはそれで意味があると思います。
しかし、教科書の配穴や弁証を丸暗記するのは、あまりに意味の無い作業だと思われます。