alternativemedicine

Studies about acupuncture and moxibustion and Massage.

「少腹急結」と「臍傍圧痛」と血海の鍼灸

2018-05-18 | 日本の鍼灸

「瘀血に関連する腹部圧痛点の発現機序についての考察」
寺澤 捷年『日本東洋医学雑誌』Vol. 67 (2016) No. 4 p. 354-363
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed/67/4/67_354/_pdf

 これも、鍼灸家にとっては、刺激的な論考です。
「胸脇苦満」「鼠径部圧痛点」「腹部の大巨(ST27)や腹結(SP14)の圧痛点」に対して、
棘下筋の「天宗(SI11)」を刺すと「胸脇苦満」が消失し、
腰部の奇穴「痞根」を刺すと、「鼠径部圧痛点」が消失します。
しかし、それでも残る「鼠径部圧痛点」つまり、瘀血をあらわす「少腹急結」に対して、足太陰脾経の血海(SP10)を刺すことで消失したという経験から、「瘀血に関連する腹部圧痛点の発現機序」を考えるという論文です。
 血海(SP10)のツボのミオトームは大腿四頭筋(quadriceps femoris)の内側広筋(vastus medialis)であり、L2~L3に相当します。痞根はL1です。
 血海(SP10)では下腹部にある「腹結(SP14)」の圧痛点は消失しますが、「大巨(ST27)」あたりの臍傍の圧痛点は消失しません。
 さらに、「腹直筋(rectus abdominis:肋間神経T5~T12)」に刺すと、当然ながら、「臍傍の圧痛点(=大巨)」は消失しました。臍あたりはT12の支配神経となります。

 西洋医学の「骨盤内うっ血症候群(Pelvic congestion syndrome)」の概念、
「下腹壁動脈(inferior epigastric artery)」の走向、
骨盤静脈叢の左右差のあるうっ血、
と並んで考えると、「瘀血の腹部圧痛点」の問題は、ものすごく刺激的で面白いです。

 寺澤先生は、瘀血を30年以上、分析し、日本漢方の診断基準「瘀血スコア」を開発されています。中国で、『瘀血診断基準』を発表された陳可翼(ちんかよく:陈可冀:1930ー)先生も、「血瘀証与活血化瘀研究」(上海科学技術出版社)を読むと、寺澤先生の研究を参考にされていて、驚きました。

1983年「瘀血証の症候解析と診断基準の提唱」
寺沢 捷年『日本東洋医学雑誌』Vol. 34 (1983-1984) No. 1 P 1-17
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed1982/34/1/34_1_1/_pdf

1997年「瘀血病態の科学的解明」
寺澤 捷年『日本東洋医学雑誌』Vol. 48 (1997-1998) No. 4 P 409-436
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed1982/48/4/48_4_409/_pdf

「瘀血(yū xuè)」については、中国では、陳可翼先生の「血瘀証与活血化瘀研究」(上海科学技術出版社、1990年)が瘀血診断基準を発表されていて、まとまっています。
日本では、矢数道明先生の以下の論考がもっとも本質的だと思います。

「瘀血をめぐって」
矢数 道明『日本東洋醫學會誌』Vol. 25 (1974) No. 4 P 165-185
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed1950/25/4/25_4_165/_pdf

1974年に矢数道明先生が問題提起した問題が、42年かけて、2016年の寺澤捷年先生の論文で、かなり解明されてきたと感じました。


「鼠径部圧痛」と奇穴「痞根」穴の鍼灸

2018-05-18 | 日本の鍼灸

「当帰四逆加呉茱萸生姜湯証の発現機序—鼠径部圧痛と痞根硬結の関連性—」
寺澤 捷年
『日本東洋医学雑誌』Vol. 67 (2016) No. 4 p. 331-339
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed/67/4/67_331/_pdf

 寺澤 捷年先生は、鼡径部にある足太陰脾経のツボ「府舎(SP13)」と足厥陰肝経と「疝気(せんき)」、当帰四逆加呉茱萸生美湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)証に関する素晴らしい論文を書かれています。

「当帰四逆加呉茱萸生姜湯証における鼠径部の抵抗・圧痛に関する一考察」
寺澤 捷年『日本東洋医学雑誌』
Vol. 67 (2016) No. 3 p. 302-306
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed/67/3/67_302/_pdf

 今回はさらに、腰部の奇穴で第1腰椎棘突起外3寸分にある「痞根(ひこん:pǐ gēn)」への刺鍼で、この鼡径部圧痛点が消失することを報告されています。
 「痞根(ひこん)」は、明代、李梃(りてい:李梃:lǐ tǐng)が1575年に出版した『医学入門(いがくにゅうもん:医学入门:yī xué rù mén)』に奇穴として痞根は痞塊(ひかい)つまり、気滞血オの固まりを治すとされています。

以下、『医学入門』より引用。
「痞根穴 專治痞塊。十三椎下各開三寸半,多灸左邊。如左右俱有,左右俱灸。
又法:用稈心量患人足大指齊,量至足後跟中住,將此稈從尾骨尖量至稈盡處,兩傍各開一韭葉許,在左灸右,在右灸左,針三分,灸七壯,神效。又法:於足第二趾岐叉處,灸五七壯,左患灸右,右患灸左,後灸一晚夕,覺腹中響動是驗。」
以上、引用終わり。

 明代、張介賓(ちょうかいひん:1563-1640)の『類経図翼(るいきょうずよく:类经图翼:lèi jīng tú yì)』でも、「およそ痞を治そうとするものは、須らく痞根で治す(凡治痞者,須治痞根)」と述べられています。

 この2016年寺澤論文では、幕末の日本漢方・考証学派を代表する山田業広(やまだなりひろ:1808-1881)の学派が触診で痞根の圧痛を「疝気」の徴候として重視していたことや、江戸時代、徳川家の奥医師として徳川家斉を鍼治療した葦原検校(あしはらけんぎょう:1798-1857)の『鍼道発秘(しんどうはっぴ:1831年)』の論述を引用して、痞根の刺鍼を肝病に用いていたことを明らかにしています。

 奇穴「痞根(ひこん)」の謎を解く、素晴らしい論文だと思います。


胸脇苦満と横隔神経と鍼灸

2018-05-18 | 日本の鍼灸

「胸脇苦満の発現機序に関する病態生理学的考察—胸脇苦満と横隔膜異常緊張との関連—」

寺澤 捷年

『日本東洋医学雑誌』Vol. 67 (2016) No. 1 p. 13-21

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed/67/1/67_13/_pdf

 これは、漢方家による鍼と腹診の研究です。「胸脇苦満(きょうきょうくまん:胸胁苦满:xiōng xié kǔ mǎn)」に関する最高の研究の一つだと思います。

 

 寺澤捷年先生は、「心下痞鞕(しんかひこう)」が膈兪・肝兪・胆兪などの脊柱起立筋群の刺鍼で消失することを報告されました。

 しかし、これらの刺鍼で「胸脇苦満(きょうきょうくまん)」は消失しないことを同時に報告されています。

 寺澤捷年先生は、棘下筋の天宗(SI11)のツボへの刺鍼で、胸脇苦満が消失し、さらに「しゃっくり(吃逆:きつぎゃく)」が消失することも経験しました。

 

西洋医学的な分析から、寺澤先生は、棘下筋(infraspinatus)がC5・C6に起始する肩甲上神経(suprascapular nerve)に支配され、横隔膜(diaphragm)がC3・C4・C5に起始する横隔神経(nervus phrenicus)に支配されることから横隔膜からの内臓体性反射で「胸脇苦満」が起こるのではないか?と考察されています。

 

 実は、日本漢方を代表する細野史郎(ほその・しろう:1899-1989)先生は、1965年に「胸脇苦満」を徹底的に研究されています。

「胸脇苦満を語る (I)」

細野 史郎『日本東洋醫學會誌』Vol. 16 (1965) No. 2 P 63-75

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed1950/16/2/16_2_63/_pdf

 

「胸脇苦満を語る (II)」

細野 史郎

『日本東洋醫學會誌』Vol. 16 (1965) No. 3 P 113-126

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed1950/16/3/16_3_113/_pdf

 

「胸脇苦満を語る (III)」

細野 史郎

『日本東洋醫學會誌』Vol. 16 (1965) No. 4 P 163-187

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed1950/16/4/16_4_163/_pdf

上記の論文は、まさに名文です・・・。これらの論文を読んでいるのと、読んでいないのでは天と地の差があると思います。先ず、漢方の泰斗である細野史郎先生が「胸脇苦満が分からない」と正直に謙虚に述懐するところから、論文が始まります!

胸脇苦満は、自覚症状なのか?他覚症状なのか?

肋骨弓より上なのか?下なのか?

どのような腹診をすべきなのか?

まさに一から徹底的な基礎理論の分析・検証を行います・・・。

 

さらに翌1966年には子息の細野八郎先生が、横隔膜の解剖と内臓体性反射について、鍼灸の視点から素晴らしい論文を発表されています。

「内臓疾患に伴う横隔膜反射ーその東洋医学的意義ー」

細野 八郎, et al.

『日本鍼灸治療学会誌』

Vol. 15 (1966) No. 1 P 379-383

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsam1955/15/1/15_1_379/_pdf

ジャネット・トラベルのトリガーポイント理論を引用し、横隔膜の解剖を精密に解説しています。
横隔膜の内臓体性反射で、肩こり、旨脇苦満、腰背痛が起こります。

「胸脇苦満に関する二, 三の問題」

長浜 善夫

『日本東洋醫學會誌』

Vol. 7 (1956) No. 3 P 11-15

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed1950/7/3/7_3_11/_article/-char/ja

これも漢方の名医、長浜善夫先生の素晴らしい分析です。漢方の各家学説を研究し、「胸脇苦満」「心下満」と肩こりの間の関係を論述しています!


「心下痞硬(中カン痞満)」と「地震後めまい症候群」

2018-05-18 | 日本の鍼灸

「東日本大震災後の揺れ感に対する治療経験—半夏厚朴湯を中心に—」
木村 容子 et al.
『日本東洋医学雑誌』Vol. 63 (2012) No. 1 第63巻 第1号 2012年 p. 37-40
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed/63/1/63_37/_pdf

 2011年の東日本大震災の「地震後めまい症候群(PEDS:Post Earthquake Dizziness Syndrome:※1)」の患者さんは、腹診で「心下痞硬(しんかひこう)」を持っていることが多く、15例中の12例で、「心下痞硬」の患者さんは「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」が著効したという報告です。
 「半夏厚朴湯」は、ノドの詰まり感である「梅核気(ばいかくき)」の特効薬として知られていますが、この12例のなかでノドの詰まり感がある方は1例だけで、不安感は強かったようです。「半夏厚朴湯」は去痰と降気理気の漢方処方です。
  そして、この論文でも引用されているように、江戸時代の名医、和田東郭(わだ・とうかく:1742-1803)は、半夏厚朴湯を『蕉窓方意解(しょうそうほういかい)』の中で、
「按ずるに此方(半夏厚朴湯は)、中カン痞満手を以て按ずるに、心下満上み胸中に迫り、気舒暢せず鬱悶多慮の症に用ゆべし」
と述べています。
 任脈の中カン(CV12)穴からさらに上の心下部が詰まって、気滞を起こしている、ウツや考え過ぎの状態に半夏厚朴湯に用いるというのです。
 実は、江戸時代の和田東郭(1742-1803)以降の多くの腹診を行う漢方医たちが、「中カン(CV12)あたりのツカエ(中カン痞満)」を半夏厚朴湯の腹証だとしています。

「半夏厚朴湯証の腹候についてー特に中カン痞満についての検討ー」
堀野 雅子『日本東洋医学雑誌』Vol. 56 (2005) No. 5 P 801-804
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed1982/56/5/56_5_801/_pdf

 また、「地震後めまい症候群」の15例中2例は、「回転性のメマイ」や胃腸の虚弱感があり、「心下部振水音」があり、去痰の「半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)」が著効したと報告されています。
 15例中の14例が、去痰の漢方で改善し、心下の詰まり感や心下部振水音があったというのは、興味深いです!

 心下部の痰飲が、精神症状やメマイを引き起こすことは、針灸臨床でも、しょっちゅう経験します。
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※1:『「地震後めまい症候群」に関する研究』
野村泰之、et al.『日本大学医学部総合医学研究所紀要』 Volume 2 (2014)
http://www.med.nihon-u.ac.jp/research_institute/bulletin/2014/2014_007.pdf

※2:『芸予地震後に生じためまい, 不安症状に著効した五苓散使用の2例』
竹尾重紀: 日東洋心身医研 17: 33-37, 2002
http://www.k-kenkyukai.com/toyoshinshin/kaishi/sample/toyo_17_k_07.pdf

※3:「地震後めまい症候群」
野村 泰之et al.
Equilibrium Research『めまい平衡医学』
Vol. 73 (2014) No. 3 p. 167-173
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jser/73/3/73_167/_pdf


春の冷えと疝気

2018-05-18 | 日本の鍼灸

「当帰四逆加呉茱萸生姜湯証における鼠径部の抵抗・圧痛に関する一考察」
寺澤 捷年『日本東洋医学雑誌』
Vol. 67 (2016) No. 3 p. 302-306
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed/67/3/67_302/_pdf

 鼡径部にあるツボ「府舎(SP13)」付近の圧痛に関する素晴らしい考察です。

 東洋医学が得意としている疾患に「冷え症(性)」があります。西洋医学には「冷え症(性)」という病気は存在しません。
 そして、「冷え症」には、漢方で『傷寒論』の厥陰病の方剤である「当帰四逆加呉茱萸生美湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)」がよく使われます。
 昨日、診た患者さんは、お医者さんに出してもらった「当帰四逆加呉茱萸生美湯」で、冬の指先のシモヤケは改善したが、悪夢を見て、途中覚醒で夜に何度もおきて、イライラ(易怒)とノボセがありました。東洋医学的には「当帰四逆加呉茱萸生美湯」は、ノボセがある患者さんには禁忌です。西洋医学の添付文書には、そういうことは書いてありません。
 個人的には、立春が過ぎてから、このような肝経を補陽する治療法は、のぼせ・イライラが出てもおかしくないと感じました。漢方を出した先生は、チェックシートを見て(笑)、症状だけで出したそうです。脈診や舌診や腹診はされていないそうです。

『患者自身による自覚症状の評価システムを用いた冷え症に対する当帰四逆加呉茱萸生姜湯の有効性について』
木村 容子,et al.『日本東洋医学雑誌』Vol. 63 (2012) No. 5 p. 299-304
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed/63/5/63_299/_pdf

 現在のトレンドは自覚症状チェックシート漢方です!。

 11月の立冬から1月ぐらいの季節での「冷え症」「シモヤケ」に当帰四逆加呉茱萸生美湯の処方は間違いではないと思いますが、2月の立春以降は肝陽が上昇するので、こういった肝陽上亢の副作用が出やすいと実感しました。これは、東洋医学の理論を知っていないと対応できない漢方の副作用です。弁証論治にもとづき、中医学理論を応用したマッサージだけで、あっさり治りました。

 日本漢方では、腹診で漢方の証を決めます。大塚敬節先生は、鼡径部の圧痛を当帰四逆加呉茱萸生美湯の腹部徴候と口訣(くけつ)していたそうです。ただし、大塚敬節先生は、鼡径部の圧痛と当帰四逆加呉茱萸生美湯の関係を論文などでは論じていません。
 そして、2016年の寺澤論文では、足太陰脾経と足厥陰肝経の交会穴である「府舎(SP13)」穴の圧痛が、当帰四逆加呉茱萸生美湯の証と関連していることが示唆されています。論文の中で論じられているように、当帰四逆加呉茱萸生美湯の適応と、足厥陰肝経と、「寒疝(かんせん)」、「疝気(せんき)」という病気の概念は関連しています。

「疝気症候群A型の提唱」
大塚 敬節『日本東洋醫學會誌』Vol. 25 (1974) No. 1 P 19-23
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed1950/25/1/25_1_19/_pdf


 『黄帝内経素問・挙痛論篇』に「寒気が足厥陰肝経に客すると、厥陰肝経は陰器(生殖器)をまとって、肝につながり、寒気が肝経に客すると、脇から鼡径部が引っ張って痛む(寒氣客於厥陰之脈,厥陰之脈者,絡陰器,系於肝,寒氣客於脈中,則血泣脈急,故脇肋與少腹相引痛矣)」と論じています。『金匱要略・腹満寒疝宿食病脈証治』も、「寒疝」を論じており、学問的な基礎となりました。 隋の『諸病源候論』の「七疝」や金元四大家、張従正『儒門事親』の「寒疝は足厥陰肝経に基づく、宜しく通じるべきであり、塞ぐことなかれ」は「寒疝」の基礎理論となっています。
わたしも、中医学初心者の頃は臓腑弁証における「寒滞肝脈(かんたいかんみゃく)」や「寒疝(かんせん)」、「疝気(せんき)」は理解し難かったです。
日本漢方を代表する大塚敬節先生の「疝気」の1974年論文を読んで、初めて「疝気」が理解できました。 大塚敬節先生と金元四大家の張従正先生によれば、「寒疝」や「疝気」の概念は混乱しており、研究すればするほど、わからなくなります。そこで大塚敬節先生は、1974年の論文で、理論の交通整理を行っています。

 また、当帰四逆加呉茱萸生美湯が適応する、傷寒論『厥陰病(けついんびょう)』の「上熱下寒」「厥逆」、血虚による「四逆」という概念が分かりにくいです。
また、東洋医学の病気である「寒疝」、「疝気」という概念も、理解しにくいです。
さらに、足厥陰肝経の経脈病証も、ものすごく理解しにくいです(笑)。
この三重苦(笑)によって、「当帰四逆加呉茱萸生美湯」と足厥陰肝経の関係は、現代人には理解しがたくなっていると思います。

 2016年寺澤論文によれば、「大塚敬節先生は、鼡径部の圧痛のみを強調すると、逆にそれにとらわれて、疝気や肝経病の全体像を見失うことから、文献に書かずに口訣のみにした」そうです・・・。この見解は、深すぎます・・・。このような深みのある見解こそ、東洋医学の本当の魅力です。本当に感動しました。これこそが、わたしがリスペクトする東洋医学、中国伝統医学の真髄の部分です。東洋医学を勉強してきて、本当に良かったですよ!

 さらに、私見を加えると、股関節の府舎(SP13)は、陰維脈も通っています。曲骨(CV2)は任脈、横骨(KI11)は衝脈、居りょう(GB29)は陽維脈と陽きょう脈、五枢(GB27)と維道(GB28)は帯脈の交会穴です。鼡径部の診察の際は、この奇経腹診の視点もあると思います・・・と、複雑な話をさらに複雑化させます(笑)。
 先日のノボセの患者さんの場合は、府舎(SP13)の圧痛はなく、曲泉(LR8)から上の半腱様筋・半膜様筋・内転筋などの足厥陰肝経上に圧痛がありました。足厥陰肝経の病気です。

 西洋医学の「当帰四逆加呉茱萸生美湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)」の添付文書の適応は、「冷え、しもやけ、頭痛、下腹部痛、腰痛」です。全部、鍼灸院に来そうな患者さんです!
 日本東洋医学会での「当帰四逆加呉茱萸生美湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)」の症例報告を調べると、「脊柱管狭窄症(※1)」や「頚椎神経根症(※2)」、「冷え(※3)」、など鍼灸院に来院しそうな症状で、使われています。

これからも、きっと、「当帰四逆加呉茱萸生美湯」の副作用が出ている患者さんに出会う可能性があると感じました。

※1:「腰部脊椎管狭窄症に対する当帰四逆加呉茱萸生姜湯の効果」
『日本東洋医学雑誌』Vol. 42 (1991-1992) No. 3 P 331-335
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed1982/42/3/42_3_331/_pdf

※2:「頸椎症性神経根症に対する当帰四逆加呉茱萸生姜湯の効果」
『日本東洋医学雑誌』Vol. 46 (1995-1996) No. 2 P 257-261
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed1982/46/2/46_2_257/_pdf

※3:「当帰四逆加呉茱萸生姜湯の冷え症に対する効果について」
『日本東洋医学雑誌』Vol. 43 (1992-1993) No. 3 P 457-460
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed1982/43/3/43_3_457/_pdf


腰痛EBM最前線:ピラティス

2018-05-03 | 日本の鍼灸

2015年11月6日『MEDLEY』
「ピラティスで腰痛改善 ランダム化比較試験により検証」

以下、引用。
「ピラティスを行うことで、腰痛や腰痛が原因で障害される日常生活(椅子に座っていられない、ベッドにずっと寝ている、など)が改善するという結果でした。」
以上、引用終わり。

2015年1月原著論文
「ピラティスは、慢性腰痛患者の痛み、機能、QOLを改善した:ランダム化比較試験」
Pilates improves pain, function and quality of life in patients with chronic low back pain: a randomized controlled trial.
Natour J et al.
Clin Rehabil. 2015 Jan;29(1):59-68.

2015年7月には『コクランシステマティックレビュー』「腰痛へのピラティス」が発表され、「『低い(Low)』から『中程度(moderate)』に効果的」という結論が出ました。

2015年7月2日『コクランシステマティックレビュー』
「腰痛へのピラティス」
Pilates for low back pain
以下、引用。
「【著者の結論】われわれは、結果を比較してフォローアップした高品質のエビデンスを発見できなかった。しかしながら、ピラティスは、痛みと不安定性に関して、最小限の介入に比較すると、『低い(Low)』から『中程度(moderate)』に効果的であるという証拠は存在した
Authors' conclusions:We did not find any high quality evidence for any of the treatment comparisons, outcomes or follow-up periods investigated. However, there is low to moderate quality evidence that Pilates is more effective than minimal intervention for pain and disability.
以上、引用終わり。

2016年10月28日
「慢性非特異的腰痛に対するピラティスの効果:システマティックレビュー」
Effects of pilates on patients with chronic non-specific low back pain: a systematic review.
Lin HT et al.
J Phys Ther Sci. 2016 Oct;28(10):2961-2969.
※「この研究では、ピラティスが、痛みと、機能障害に対して、かなりの改善をもたらすことが判明した
this study found that Pilates provided greater improvement for pain relief and functional ability.


中医学の最前線:タイランド王国

2018-04-27 | 日本の鍼灸
2016年2月8日『毎日新聞』
「特派員が選ぶ私の世界遺産 ワット・ポー(タイ・バンコク) マッサージの総本山」
 
以下、引用。
「『19世紀前半の国王ラーマ3世が、この寺にマッサージや薬草などの伝統的な治療法を集め、後世に伝えるよう命じられたのです』。寺院に併設されたマッサージ学校『ワット・ポー伝統医学学校』のプリーダ・タントロンチット校長(73)が言う。タイマッサージの起源は定かではないが、14〜18世紀に栄えたアユタヤ朝には宮廷に仕えるマッサージ師がいたとされる。『世ではマッサージは最先端の医療技術でした』 」
 
「建物の柱などに何枚もの壁画が掲げられていた。『セン』と呼ばれる体のエネルギーの通り道が示された人体図だ。タイマッサージでは、センに刺激を与えることで、体の毒素を取り除いたり、内臓の調子を整えたりできると考えられている。」
以上、引用終わり。
『セン』には、経絡の任脈そっくりのものもあります。ワット・ポーのタイ式マッサージ師さんは上手でした。
 
以下、引用。
「タイの伝統医療などに詳しい川崎医療福祉大の飯田淳子教授(44)によると、西洋から近代医学が導入された19世紀後半以降、タイマッサージなどの伝統医療は一時、非科学的だとして軽視された。しかし、1970年代から国内で見直す動きが高まり、90年代には政府が医療としての制度作りを本格化させた。飯田さんは「西洋医学に限界を感じたり、東洋的なものにエキゾチックな魅力を感じたりする人が増えた。こうした風潮はタイの都市間層にも広がり、伝統医療が復権した側面もあります」。ワット・ポー伝統医学学校では現在、生徒の約半数を欧米や日本などの外国人が占める。」
以上、引用終わり。
 飯田淳子教授の「タイ・マッサージの民族誌」はタイ伝統古医学の歴史を詳細に書いた名著です。学院の図書室に寄付しています。
「タイ・マッサージの民族誌」 
飯田 淳子 明石書店 (2006/3/9)
 
「グローバル化時代に伝統医療が直面する課題−−「タイ式医療」の誕生と知的財産権の拡大を手がかりとして−」
小木曽 航平 早稲田大学   1-73   2010年
 この論文も感心しました。タイのバンコクはベトナム戦争でアメリカ兵の慰安所となり、スパ文化が発達しました。そので、タイ古式マッサージ(ヌアットボーランNuat boran)も社会のなかで復権してきたというものです。
 1978年にソ連のアルマアタでWHOの会議があり、「アルマアタ宣言(Declaration of Alma-Ata)」で、伝統医療とプライマリケアの復権がうたわれました。
 さらに、タイランド王国でのナショナリズムの高まりもあって、1990年代にタイ伝統古医学を見直す動きが加速しました。
 タイ政府は、1993年から2004年に「タイ伝統医学知識の復興プロジェクト」という長期プロジェクトを起ち上げ、タイの仙人体操「ルーシー・ダットン(Rusie Dut Ton)」はワットポー寺院の壁画からインスパイアされて創られました。
 ところが、2006年に日本のF・M氏は、タイ伝統医学の体操「ルーシー・ダットン」を日本の特許庁に商標登録してしまい、国際問題になりました。
 タイ政府は「ルーシー・ダットン」はタイの知的財産だとして異議を申し立て、日本政府に対して商標登録の取り消しを求め、日本の特許庁ではタスクフォースを作り、無効審判をかけ、2007年に商標登録は取り消されました。タイでは、ずーっと新聞の1面で取り上げられた事件ですが、日本では全く報道されていないため、ほとんどのヒトが知らないです。
 
タイランド王国の医学のレギュレーション】
1957年にワットポーの医学校(マッサージ)ができました。
1962年に伝統医療プラクティショナーのライセンスが認められました。
1982年にアーユルヴェーダの学校が、タイ伝統医学の組織をつくりました。
2002年には、タイ保健省(Ministry of Public Health)内に、『タイ伝統代替医療開発局(DTAM:Department for Development of Thai Traditional and Alternative Medicine)が出来ました。
 
2015年にタイランドは、医学を合法化して、医師にたいして専門知識と倫理のトレーニングにパスすれば、2年間の免許を与えることにしました(※1)。
 
以下、引用。
タイランド王国で国伝統医学が合法化するため、タイ保健省は、現在、医学のライセンスのレギュレーションを通過させていると、コーンは言う。」
With the traditional Chinese medicine becoming legal in Thailand, the Ministry of Public Health is now passing a regulation on licensing of traditional Chinese medicine, Korn disclosed.
 
「現在、医師免許をもっている出願者は、国伝統医学委員会の評価と専門知識、倫理のテストをパスすると2年間は免許が有効になる。」
The applicants for the temporary traditional Chinese medicine license, which will be valid for two years, must pass professional and ethical training and the evaluation of the Traditional Medicine Committee, he stated.
以上、引用終わり。
 
2000年にはシンガポールで、「医臨床規則」が出来て、2001年からは登録すれば医師が鍼灸臨床をできるようになりました。
2012年にはマレーシアで「伝統補完医学法案」が通り、医師が鍼灸臨床できるようになりました。
2013年にはインドネシアで「インドネシア保健規制省」が医学の規定をつくり、アモイ医大学、広州医大学、北京医薬大学を卒業した医師と韓医師はインドネシアで鍼灸臨床ができます。
2015年にはタイランド王国で、「タイ保健省」が「タイ国医療機関協力(the cooperation of Thai and Chinese medical institutions)」によって、医師が試験にパスすれば2年の免許を与えられることになりました。
 
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※1:「タイランド医学を合法化した」
Thailand Legitimizes Traditional Chinese Medicine
June 04,2015

中医学の最前線:キルギス共和国

2018-04-19 | 日本の鍼灸
2018年4月4日
キルギスタンと中国は健康セクターで協力する」
 キルギス共和国のイシククル湖に中国医学センターを建設するようです。
 旧ソ連の「キルギスタン(Kyrgyzstan : 吉尔吉斯斯坦)」のキルギス人たちは、ロシア語のキリル文字で 「キルギス語(Кыргыз:/qɯrʁɯz/←どうやって発音するんだ?)」を表記しています。
 
 中国の新疆ウイグル自治区にも「キルギス人(吉尔吉斯人:Kyrgyz:/ˈkɪɹɡɪz/)」が住んでいます。 中国の新疆ウイグル自治区の「キルギス人(吉尔吉斯人)」は、アラビア文字で「キルギス語(吉尔吉斯语:قىرعىز تىلى)」を表記しています。 
 中国・新疆ウイグル自治区のキルギス人と旧ソ連のキルギス共和国の文化圏は、キルギス語とロシア語とアラビア文字と中国語が入り混じる「一帯一路」の典型であり、 言語や文化はテュルク(トルコ)・モンゴル・イスラム圏です。
 
 キルギス共和国の首都ビシュケクには「ドンガン人(东干族)」 がいて、清朝の時代の中国で反乱を起こして逃げた回教徒(イスラム教徒)です。
 「ドンガン語(东干语)」は、中国の一種で「四声」そっくりの声調がありますが、文字はロシアと同じ「キリル文字」です!!!
 しかも、ドンガン族はイスラム教徒なので、アラビアが入っています・・・。
 
 日本人の想像を絶する世界です。

中医学の最前線:ロシア

2018-04-18 | 日本の鍼灸
2016年12月6日
「中国伝統医学は、ロシア・ヘルスケア・イベントでも注目を浴びる」
「現在、多くの中医学クリニックと中医学センターが、モスクワとサンクトテルブルクにある」
Currently, many Chinese medicine clinics and medical centers have been established in Moscow and St. Petersburg.
以上、引用終わり。
 

中医学の最前線:旧ソ連圏の鍼灸

2018-04-18 | 日本の鍼灸
2018年1月18日『ベラルーシ・ニュース』
「中国伝統医学センターが、2018年にベラルーシの全ての州でオープンする」
 すでに、ベラルーシには、「ベラルーシ医学アカデミー卒後教育・反射学部門(The Reflexology Department of the Belarusian Medical Academy of Postgraduate Education)」が30年以上、少数のスペシャリストをトレーニングし続けているそうです。中谷義雄の良導絡もあります。
 中国から派遣された中医師の方々も、旧ソ連圏ベラルーシの、周波数を使い分けるレーザー鍼には驚いている様子が記事から読み取れます。
 旧ソ連には、レーザー鍼、超音波鍼(ウルトラサウンドパンクチャー)、電磁波(EMR:Electro Magnetic Radiation)とかマイクロウェーブ(MRT:Microwave Resonance Therapy)など、超ハイテク鍼が発展しました。
 旧ソ連から中国に留学したヴァディム・ガブリエレヴィッチ・ヴォグラリーク(ВАДИМ ГАБРИЭЛЕВИЧ ВОГРАЛИК:Vadim Gabrielevich Vogralik :1911–1997)教授が独特のロシア鍼灸(旧ソ連の鍼灸)を発展させました。