「瘀血に関連する腹部圧痛点の発現機序についての考察」
寺澤 捷年『日本東洋医学雑誌』Vol. 67 (2016) No. 4 p. 354-363
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed/67/4/67_354/_pdf
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これも、鍼灸家にとっては、刺激的な論考です。
「胸脇苦満」「鼠径部圧痛点」「腹部の大巨(ST27)や腹結(SP14)の圧痛点」に対して、
棘下筋の「天宗(SI11)」を刺すと「胸脇苦満」が消失し、
腰部の奇穴「痞根」を刺すと、「鼠径部圧痛点」が消失します。
しかし、それでも残る「鼠径部圧痛点」つまり、瘀血をあらわす「少腹急結」に対して、足太陰脾経の血海(SP10)を刺すことで消失したという経験から、「瘀血に関連する腹部圧痛点の発現機序」を考えるという論文です。
血海(SP10)のツボのミオトームは大腿四頭筋(quadriceps femoris)の内側広筋(vastus medialis)であり、L2~L3に相当します。痞根はL1です。
血海(SP10)では下腹部にある「腹結(SP14)」の圧痛点は消失しますが、「大巨(ST27)」あたりの臍傍の圧痛点は消失しません。
さらに、「腹直筋(rectus abdominis:肋間神経T5~T12)」に刺すと、当然ながら、「臍傍の圧痛点(=大巨)」は消失しました。臍あたりはT12の支配神経となります。
西洋医学の「骨盤内うっ血症候群(Pelvic congestion syndrome)」の概念、
「下腹壁動脈(inferior epigastric artery)」の走向、
骨盤静脈叢の左右差のあるうっ血、
と並んで考えると、「瘀血の腹部圧痛点」の問題は、ものすごく刺激的で面白いです。
寺澤先生は、瘀血を30年以上、分析し、日本漢方の診断基準「瘀血スコア」を開発されています。中国で、『瘀血診断基準』を発表された陳可翼(ちんかよく:陈可冀:1930ー)先生も、「血瘀証与活血化瘀研究」(上海科学技術出版社)を読むと、寺澤先生の研究を参考にされていて、驚きました。
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1983年「瘀血証の症候解析と診断基準の提唱」
寺沢 捷年『日本東洋医学雑誌』Vol. 34 (1983-1984) No. 1 P 1-17
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed1982/34/1/34_1_1/_pdf
1997年「瘀血病態の科学的解明」
寺澤 捷年『日本東洋医学雑誌』Vol. 48 (1997-1998) No. 4 P 409-436
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed1982/48/4/48_4_409/_pdf
「瘀血(yū xuè)」については、中国では、陳可翼先生の「血瘀証与活血化瘀研究」(上海科学技術出版社、1990年)が瘀血診断基準を発表されていて、まとまっています。
日本では、矢数道明先生の以下の論考がもっとも本質的だと思います。
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「瘀血をめぐって」
矢数 道明『日本東洋醫學會誌』Vol. 25 (1974) No. 4 P 165-185
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed1950/25/4/25_4_165/_pdf
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1974年に矢数道明先生が問題提起した問題が、42年かけて、2016年の寺澤捷年先生の論文で、かなり解明されてきたと感じました。