alternativemedicine

Studies about acupuncture and moxibustion and Massage.

スポーツ医学最前線:「フォームローラー」と「筋膜リリース」

2018-06-08 | EBM
2015年7月8日『メドスケープ』
「筋肉マッサージの『フォームローラー』はほんとうに効果あるの?」
 
以下、引用。
「セルフ・マイオフェイシャル・リリース(筋膜リリース)は、効果があるの?」
Self-Myofascial Release Beneficial?
 
「アメリカのスポーツジムでは、近年、『フォームローラー』が春の花のように満開である」
Over recent years in gyms in the United States, foam rollers have sprouted like flowers in spring.
 
「メディアは、『フォームローラー』の使用を祝福し、自己管理マッサージ治療の方式を『セルフ筋膜リリース』と呼んで使用することを助けている」
 Media reports have celebrated the use of these rollers and other aids for promoting a type of self-administered massage therapy called "self-myofascial release."
 
「筋骨格の軟部組織治療は、可動域や痛みや筋肉の硬さを柔らかくすると称しており、関節可動域を拡げて、アスレティック・パフォーマンスさえ向上させると言う」
This soft tissue therapy for the treatment of skeletal muscle immobility and pain purportedly soothes muscle soreness, increases range of motion, and even improves athletic performance.
 
「現在、科学者たちは、比較試験が始まったばかりであると、述べている」
Now scientists have begun to test these claims with controlled trials.
 
「最近、『アメリカン・カレッジ・オブ・スポーツ・メディスン(ACSM)』で出版された文献レビュー(※1)では、セルフ筋膜リリースには、パフォーマンス向上があり、関節可動域を改善させると断言している。」
A recent review of the published literature and studies presented at the American College of Sports Medicine (ACSM) 62nd Annual Meeting in May challenge assertions about the increased performance benefits of self-myofascial release. But they do support self-myofascial release as way of improving range of motion.
以上、引用終わり。
 
※1:2015年5月
「セルフ筋膜リリースは、運動前と運動からの回復戦略として有効なのか?文献レビュー」
Is self myofascial release an effective pre-exercise and recovery strategy? A literature review.
Schroeder AN, Best TM.
Curr Sports Med Rep. 2015 May-Jun;14(3):200-8.
 
以下、記事からの引用。
「セルフ筋膜リリースVSマッサージ治療」
Self-Myofascial Release vs Massage Therapy
 
「セルフ筋膜リリースでは、人々が自分の軟部組織に自分でマッサージを行う。研究者たちは、このテクニックは専門家である理学療法士による『筋膜リリース』と同じ効果があるということを支持している。」
In self-myofascial release, people massage their own soft tissue. Researchers have supposed that this technique might produce some of the same benefits shown in myofascial release that is administered by physical therapists.
 
「一つの理論として、『ファッシア(筋膜)』は、外傷への防御反応として固くなる。時間がたつと、コラーゲンは密集して線維化する。そして、結合織における高い弾力性のあるタンパクであるエラスチンは、弾力を失う。これが、筋肉が機能を失って、痛みを引き起こす原因である。『筋膜リリース(マイオフェイシャル・リリース)』の理論によれば、『筋膜リリース』は、このプロセスを逆転させる」
One theory is that fasciae tighten as a protective mechanism in response to trauma. Over time, collagen becomes more dense and fibrous, and elastin—a highly elastic protein in connective tissue—becomes less resilient. This can reduce muscle functioning and cause pain. Myofascial release, in this theory, whether self-administered or administered by someone trained in the technique, might reverse this process.
 
「付け加えると、いくつかの研究は、障害、疾病、非活動性、炎症は、筋肉組織における繊維の粘着化(fibrous adhesions)を形成し、また、通常の機能を制限させる。『筋膜リリース(マイオフェイシャル・リリース)』は、この粘着化を破壊することが出来る」
In addition, some research suggests that injury, disease, inactivity, and inflammation may cause fibrous adhesions to form in muscle tissue, also limiting its normal functioning. Myofascial release could break these adhesions.
以上、引用終わり。
「筋膜リリース(マイオフェイシャル・リリース)」は、多くの源流があり、ややこしいです(笑)。
 
一つは、「オステオパシー」の創始者アンドリュー・テイラー・スティルです。
もう一つは、ジャネット・トラベルの「トリガーポイント療法」です。
もう一つは、「ロルフィング」のアイダ・ロルフです。
もう一つは、ドイツの「結合織マッサージ」のエリザベート・ディッケです。
 
「マイオフェーシャル・リリース®」は、ジョン・F・バーンズ(John F Barns)という、アリゾナ州セドナ在住のカリスマ的理学療法士が1990年代に提唱しました。
John F. Barnes, myofascial release approach®
 
DVD「マイオファッシャル・リリース(筋膜リリース法)」
ジョンF.バーンズ,P.T全3枚DVD36,000円(←高いわ!)
 
「Myofascial Release(筋膜リリース)」
竹井 仁(東京都立保健科学大学理学療法学科)
『理学療法科学』Vol. 16 (2001) No. 2 P 103-107
理学療法士の先生方は「®登録商標マーク」のついた治療法が好き過ぎです・・・(笑)。
以下は、「筋膜リリース(マイオフェーシャル・リリース)」のEBMはどうなっているのか?の調査です。
 
2013年『ジャーナル・オブ・アスレティック・トレーニング』
「整形外科領域での『筋膜リリース(マイオフェーシャル・リリース)』:システマティックレビュー」
Myofascial release as a treatment for orthopaedic conditions: a systematic review.
McKenney K, Elder AS, Elder C, Hutchins A.
J Athl Train. 2013 Jul-Aug;48(4):522-7.
「『筋膜リリース(マイオフェーシャル・リリース)』は、徒手療法として広く行われるようになっている。そのルーツは、1940年代にまでさかのぼり、『マイオフェーシャル・リリース』というコトバが使われたのは、1981年にオステオパスのアンソニー・チラ、キャロル・マンハイム医師によるミシガン大学の講義『マイオフェーシャル・リリース』が最初である。徒手療法の世界で、マイオフェーシャル・リリースは広汎に行われているにも関わらず、その効果は客観的に評価されていない」
Myofascial release (MFR) is one example of a manual therapy that has become widely used. Although its roots can be tracked to the 1940s, the term myofascial release was first coined in 1981 by Anthony Chila, DO; John Peckham, DO; and Carol Manheim, MEd, in a course titled “Myofascial Release” at Michigan State University. Despite the pervasiveness of MFR as a manual therapy, its effectiveness has not been objectively evaluated.
 
2015年『ジャーナル・オブ・ボディワーク・アンド・ムーブメント・セラピー』
「『筋膜リリース(マイオフェーシャル・リリース)』の効果:ランダム化比較試験のシステマティックレビュー」
Effectiveness of myofascial release: systematic review of randomized controlled trials.
Ajimsha MS et al.
J Bodyw Mov Ther. 2015 Jan;19(1):102-12.
 2015年と2013年のシステマティックレビューを読んだ限りでは、『筋膜リリース(マイオフェーシャル・リリース)』の有効性の科学的根拠については、まだ、何も言えないというのが現状だと思います。
 以下の2015年のシステマティックレビューの記述は、「ファッシア(Fascia膜・筋膜)」の研究の記述として面白いです。
以下、引用。
「最近のファッシア・リサーチ・コングレス(筋膜研究会)は、ファッシア(膜・筋膜)を結合組織システムの軟部組織コンポーネントであり、人間のからだのすみずみにあると定義している。ファッシア(膜・筋膜)の線維性コラーゲン組織は、人体の張力のトランスミッションシステムであると描写されている。」
Recent Fascia Research Congresses (FRC) define fascia as a ‘soft tissue component of the connective tissue system that permeates the human body’ (Huijing and Langevin, 2009). One could also describe them as fibrous collagenous tissues that are part of a body-wide tensional force transmission system (Schleip et al., 2012). 
 
「ファッシア(膜・筋膜)ネットは、靱帯、腱、筋外膜、最も深い筋内膜の層に含まれる。ファッシア(膜・筋膜)というコトバは、硬膜、骨膜、神経周膜、椎間板の線維性カプセル層、呼吸器の結合組織のカプセル組織、腹部の腸間膜も含んでいる。」
The complete fascial net includes dense planar tissue sheets, ligaments, tendons, superficial fascia and even the innermost intramuscular layer of the endomysium. The term fascia now includes the dura mater, the periosteum, perineurium, the fibrous capsular layer of vertebral discs, organ capsules as well as bronchial connective tissue and the mesentery of the abdomen (Schleip et al., 2012). 
 
「ファッシア(膜・筋膜)は、繊維の配列や密度に適した張力ネットワークとつながっている」
Fascial tissues are seen as one interconnected tensional network that adapts its fiber arrangement and density, according to local tensional demands (Schleip et al., 2012).
 
「2009年のデイや2013年のステッコらの著者、あるいは2011年のヘレン・ランジュバンらは、結合組織が、オーバーユースシンドロームや外傷後に、より固く緊密になることを示唆している。しかし、これはコラーゲン繊維の構成の変化なのか、線維芽細胞によるものなのか、骨基質によるものなのかは不明である。」
Authors such as Day et al., 2009, Stecco et al., 2013) and Langevin et al. (2011)) and colleagues, have suggested that connective tissue could become tighter/denser in overuse syndromes, or after traumatic injuries, but it is unclear if this is due to an alteration of collagen fiber composition, of fibroblasts, or of ground substance.
 
「同じ著者らは、ファッシア(膜・筋膜)の柔軟性の変化が、緊張や運動器のコーディネーションが弱まることにつながる身体の誤ったアラインメントや貧弱な筋肉のバイオメカにクスとなる可能性を示唆している」
 The same authors suggest that the alteration of fascial pliability could be a source of body misalignment, potentially leading to poor muscular biomechanics, altered structural alignment, and decreased strength and motor coordination. 
以上、引用終わり。
 
 『筋膜リリース(マイオフェーシャル・リリース)』は、スポーツジムで大流行の「フォーム・ローラー」のもとになっているようなので、調べましたが、科学的研究は、まだ、始まったばかりのようです。

宇宙時間鍼(Space-time acupuncture)

2018-06-08 | 中国医学の歴史

2017年12月『メディスン』
「ループス腎炎の難治性咳嗽への子午流注鍼」
Space-time acupuncture for intractable cough after lupus nephropathy
A case report and literature review
Taipin Guo,
Medicine (Baltimore). 2017 Dec; 96(51): e9309.
Published online 2017 Dec 22. doi: 10.1097/MD.0000000000009309

子午流注(しごるちゅう:子午流注:zǐ wǔ liú zhù) 鍼法の
霊亀八法(れいきはっぽう:灵龟八法:líng guī bā fǎ)」が使われているので、ビックリしました。しかも、効いているみたいで2度ビックリです(笑)!

「霊亀八法」は、時間の干支にあわせて、内関(PC6)ー公孫(SP4)、列欠(LU7)ー照海(KI6)、外関(TE5)ー足臨泣(GB41)、後溪(SI3)ー申脈(BL62)の
八脈交会穴(はちみゃくこうえけつ:八脉交会穴:bā mài jiāo huì xué)」を使う「子午流注」という時間治療の鍼法の一つです。「子午流注」には他に八脈交会穴を使う「飛騰八法(ひとうはっぽう:飞腾八法:fēi téng bā fǎ)」と、五行穴を使う「納干法(のうかんほう:纳干法:nà gàn fǎ)」と「納支法(のうしほう:纳支法:nà zǐ fǎ)」があります。個人的には、時間治療の理論が面白いので一通り試しましたが、結果は全くダメでした・・・。少なくとも現在、患者さんに使いたくは無いです。四柱推命や占いが好きなヒトはハマりそうです。五行穴の理論や世界観を学ぶには良いです。日本の経絡治療は、『難経』より『鍼灸聚英』の「納支法」に影響を受けています。

 中国では、かなり実験をやって、「子午流注鍼法」は、効果が無いと結論を出したと中国の中医薬大学で受けた講義で聞いたことがあります。わたしの中では「子午流注鍼法」は個人的な臨床試験で無効と判明しているので、理論は知っているけど臨床では使えないという整理が終わったモノなのです。

私が最近、気になっている記述があります。

北京堂の鍼治療理論 | 北京堂鍼灸横浜

http://pekingdoyokohama.com/greeting/pekingdo-profile/pekingdo-philosophy/
以下、引用。
「中国鍼灸も、日本の代田文誌や木下晴都の著書などを中国語に翻訳出版して導入し、とりわけ木下の『坐骨神経痛と針灸』を取り入れて中国式比較対照試験を確立し、鍼の治療効果を数値化しようとしてきました。その方法とは、昔から使われている鍼灸手法と、新たに生み出された鍼灸手法を疾患ごとに一定の患者数に分け、2~3年をかけて比較するものです。治療者は自分の治療が古い治療法なのか、それとも新しく作り出された治療法なのか知らされていません。全体の管理者のみが知っているのです。そのため必然的に治療をマニュアル化できない辧証治療はふるい落されました。そして1988年ごろから鍼灸では辧証が使われなくなり、比較試験による統計結果に頼るようになって、治療効果を評価するため鍼治療による治療評価基準の統一もなされました。だから現在の中国鍼灸は昭和30年代からの日本鍼灸が基礎になっているといえます。さらには1992年ごろから小針刀の理論が普及して、その理論が圧倒的な治癒率と共に鍼灸界を席巻しました。だから中国の現代鍼灸は、治療においても理論においても、大きく変わったのです。」
以上、引用終わり。

 個人的には、この北京堂の浅野周先生の記述は、「腑に落ちる」ことが多く、納得しました。
 雑誌『中国針灸』などを収集して読みましたが、その頃から弁証論治の鍼の論文というのは、ほぼ無くなりました。木村律先生の『鍼灸臨床治療法集』が谷口書店から1993年に出て、そこでは中国の弁証論治の鍼灸論文が大量に翻訳されているのですが、実際には1990年以降の『中国針灸』は完全に西洋医学的な鍼の比較臨床試験か特殊鍼法ばかりになりました。
また、英語圏に最近は中国の研究者たちが論文を大量に投稿していますが、これも同じ考え方の比較臨床試験ばかりです。