alternativemedicine

Studies about acupuncture and moxibustion and Massage.

女性と肝欝気滞

2012-03-30 | 女性と中医学
 「女性の病は肝から治せ」という言葉があるように、女性の治療は、肝を中心に考えます。肝は気の疏泄(そせつ)を主ります。気を全身になめらかにスムーズにまわします。気の流れが滞ると、肝欝気滞(かんうつきたい)となります。

 典型的なのは、「月経前症候群(PMS)」の女性です。生理前の女性は、イライラしたり、ブルー(憂鬱)になり、気がふさぎます。頭痛、肩こり、腰痛、腹痛など、いろんなところが痛みます。生理前の腰痛は、交通事故のオ血腰痛と違います。交通事故のオ血腰痛は物理的に筋肉が損傷しています。一方で、生理前の腰痛は生理が終わったら、治ります。これは物質が詰まっているのではなく、エネルギー(気)が詰まっています。肝経の通っているオッパイが張って痛み(乳房脹痛にゅうぼうちょうつう)、胸が詰まったり、胃が詰まって吐き気となります。肝経胆経が通っている側頭部が痛んで片頭痛となり、肝経胆経が通っている側腹部・下腹部や鼡径部が痛みます。

 あるいは、「更年期の不定愁訴症後群」なども典型的な肝欝気滞です。「更年期の不定愁訴症後群」では、痛むところがあちこち変わります。昨日は頭痛、今日は肩こり、明日は腰痛です。イライラして、ブルー(憂鬱)で、気がふさぎます。しかし、更年期が過ぎると、ウソみたいにケロっとする人もいます。

 「うつ病の腰痛」もそうです。うつ病の腰痛は、圧痛点があちこちに変わります。これは筋線維が痛んでいるのではなく、無形のエネルギーの停滞です。ゴルフに行くと腰痛が治る人もいました。運動すると気はなめらかに流れます。

 気滞の特徴は、「(ちょう)」・「(もん)」・「(つう)」・「遊行(ゆぎょう)」・「不定(ふてい)」・「弦脈」です。乳房脹痛のような張ったような感じや痛み、梅核気(ばいかくき)や胸悶(きょうもん)のような悶々とした詰まったような感じや痛み、そして、その場所は「遊行不定」で、一定しないです。西洋医学では「不定愁訴(unidentified complaints=一定しない訴え)」です。

 肝鬱気滞の場合、1つの方法として、運動すると良いです。スポーツすると症状がマシになります。また、お酒を飲んだり、温泉に入ったり、マッサージを受けるのも良いです。お酒を飲んだり、温泉に入ると、全身の気はグルグル回ります。人と話したり、カラオケを歌って発散するのも良いです。上焦の肺気が発散されて、楽になります。
 ただ、気虚がある場合は、スポーツもお酒も温泉も、気を発散しすぎて気虚が悪化します。お酒を飲み過ぎたり、温泉に入りすぎて湯あたりすると、「だるい、やる気がない、疲れた、元気がない、食欲が無い」といった気虚症状が出ます。人と話しすぎたり、カラオケを歌い過ぎても、だるく疲れた状態となります。

 肝欝気滞の治療法の1つとして、四関穴(=合谷太衝)があります。手足の合谷と太衝に置鍼すると、全身の気はグルグル回ります。太衝は肝経の原穴で疏肝理気作用があり、合谷は大腸経の原穴で宣肺(発散)と降気の作用があります。肝は気の昇発を主り、肺は気の粛降を主り、上焦の肺と下焦の肝は2つの協調によって全身の気をグルグルまわしているのですが、合谷と太衝はこの働きを強めます。西洋医学的にも、肝欝気滞の人は、交感神経が緊張して、血管壁が収縮して弦脈となっていますが、手足の合谷ー太衝に置鍼して10分ぐらいすると、副交感神経優位となって、血管壁が緩んで、少し柔らかい脈になります。

 女性は、定期的に運動したり、お酒を飲んで人と話したり、温泉に入ってマッサージを受けたりして、気のめぐりを良くしたほうが良いです。

2012年3月30日金曜日メモ

2012-03-30 | 頭皮鍼
 YNSA(山元式新頭鍼)の山元敏勝先生の過去の論文やサマリーを、まとめる。1974年から1990年の26年間。1990年9月の「新しい頭針療法」で総括されている。

1974年1月
針麻酔の経験」『日本良導絡自律神経学会誌』VOL19、1、13-13
・腹部手術における針麻酔の効果と考察。症例23例。

1975年5月
頭針について
『日本良導絡自律神経学会誌』VOL20、5、111-111
1)頭部の疼痛:交通事故、打撲、頑固な慢性頚部痛。
2)肩部の疼痛:肩こり、五十肩の疼痛を軽快させる。
3)上腕と前腕の疼痛:腕の疼痛、しびれ、重だるい感じに用いる。
4)腰、下肢部の疼痛:腰痛症、椎間板ヘルニア、変形性腰椎症、打撲。
多発性リウマチ性関節炎の腰痛や抗生物質殿部筋肉注射による大腿部疼痛で歩行不能な症例も著効。
5)胸部:頑固な気管支喘息。

1975年9月
新しい頭針療法について
『日本良導絡自律神経学会誌』VOL20、9、21-21
・前頭部の髪際を用いた頭皮針。外傷性、交通事故、打撲、骨折後の疼痛や関節炎による疼痛の除去。脳血管障害による片麻痺など。
Aは頸部・後頭部、Bは肩・肩甲部、Cは上腕部、Dは腰+下肢部、Eは胸腔部。
A:正中線より1cmの両側:頸部・後頭部
B:眉の中点より髪際の交わった点:肩・肩甲部
C:眉の中心部より約120度の線と髪際に一致した点:上腕部
D:眉の末端より耳に平行に髪際に点をとり、その点より0.5cmのところ:腰+下肢部
E:眉の中点と髪際の中点にある:胸腔部

1976年12月
新しい頭針点について
『日本良導絡自律神経学会誌』VOL21、12、274-274
・A点、B点、C点、D点、E点。痛みの治療に適しており、麻痺の場合は健側に行い、効果のない場合は両側に行う。

1977年
ハリ通電による知覚抑制について
『麻酔』26(3): 350-350, 1977.

1978年1月
新しい頭針法のサーモカメラに依る効果判定について
『日本良導絡自律神経学会雑誌 』VOL23.NO1:26-26.
・腰痛症に対してD点に置鍼し、サーモカメラで腰部の撮影を行い、置鍼5分後に局所の皮膚温度の低下を認めた。
・前頭部にA点, 頸部B点, 肩部C点, 肩甲関節, 上腕部D点, 腰並に下肢部E点, 胸部などを運動麻痺と気管支喘息に用いている。経絡とは関係なく、経験上見出した。最近は前頭部にもっと細かく身体各部や各臓器と密接な関係をもった点を見つけることができた。

1980年1月
新しい頭針治療のその后
『日本良導絡自律神経学会雑誌』VOL25.NO1:36-36.
・1974年以来、前頭部にいくつかの新しい穴があるのに気づき, それをそれぞれ, ABCDEに分類した。その後、前頭部の正中線を境として身体が横たわった様に, 一致した穴のある事をつきとめた。即ち, C点を中心としてその左右にmmの間をおいて5指があり, D点に於ても大腿部, 膝部, 及び膝下部, 又は5趾指の穴があり腰点の後部には各内臓点がある。又後頭部にも, 前頭部と全く同じ様に身体の各穴があるのに気づき, 恐らく中国医学でいわれている陰陽の関係が頭部の前後部で存在している。

1980年4月
新しい頭針療法のその後
『日本良導絡自律神経学会雑誌』VOL25.NO4.: 102-103, 1980.
・A点の近くに目鼻と顔面。
C点の近くに前腕と各5指。
D点には腰部、下肢、膝関節、5足指。胃・小腸・大腸の穴。
これらは後頭部にもある。
前頭部の陽点は慢性疾患。後頭部の陰点は急性疾患に用いる。

1980年7月
「新しい頭針療法」
『東洋医学とペインクリニック』VOL.10、NO.3:126-134

1980年11月
腹診
『日本良導絡自律神経学会雑誌』VOL25.NO11: 352-353, 1980

1981年11月
中国訪問 学術交流
『日本良導絡自律神経学会雑誌』VOL26.NO11: 268-277

1982年5月
ハリ麻酔
『日本良導絡自律神経学会雑誌』VOL27.NO4.97-100, 1982
・1973年以来ハリ麻酔を下腹部の手術に400例経験した。
1)三陰交、陵下、梁丘
2)三陰交、足三里、中都
各人、各症例によって経穴にズレがあるため、ノイロメーター(電気探索器)
により、経穴を求める。10Hz30分通電する。

1982年10月
頭針と深部体温
『日本良導絡自律神経学会雑誌』VOL27.NO10.: 224-224, 1982.
・以前、腰痛の頭針を行いサーモカメラで腰部の皮膚温の変化を観察したが、深部体温計で観察した。

1984年6月
レーザー光線に依る治療
『日本良導絡自律神経学会雑誌』VOL29.NO6.: 136-137, 1984
・a)急性上気道炎で咽痛がある場合、合谷や耳穴に20秒の照射で鎮痛。
b)頭鍼を用いた症例
【48歳女性】主婦で2日前より右肩甲関節周囲炎があり、上腕挙上運動制限があった。C点を20秒、距離2cmで照射し、右手が治療前挙上できなかったのが、挙上180度出来るようになった。
【56歳男性】農業で5日前より右肩甲関節周囲炎があり、上腕挙上運動制限があった。C点を20秒、距離2cmで照射し、右手が治療前挙上150度程度が、挙上180度出来るようになった。
【77歳男性】3日前より急性腰痛のため来院し、前屈10度程度。D点に照射2秒後、前屈90度できるようになった。
鍼に恐怖心をもっている患者にレーザー鍼は良い。

1986年10月
新しい頭針療法の其の後(その2)」
『日本良導絡自律神経学会雑誌』VOL 31.NO10.: 242-248, 1986.
・最近では、側頭部にあるD点を中心とした領域に、それぞれの臓器ならびに身体の各部分が規則正しく配列されているのを発見できました。肺点や心包点、心点、小腸点など。

1987年2月
良導絡の展望
『日本良導絡自律神経学会雑誌』VOL32.NO8.49-49

1987年8月
画像診断と良導絡
『日本良導絡自律神経学会雑誌』VOL32.NO8.171-172
・MRIで疾患部位を確定し、良導絡の測定を行い、頭針との関係を症例から検討する。

1989年9月
下肢運動麻痺患者に対する新頭針療法の評価
『日本良導絡自律神経学会雑誌』VOL34.NO9. 223-240

.1990年9月
新しい頭針療法
『日本良導絡自律神経学会雑誌』VOL35.NO9.219-230
・1987年に首診を発見し、より系統的な診断治療が可能となった。

1990年10月
東洋医学的診断法に基づく新しい頭針療法
『日本良導絡自律神経学会雑誌』VOL35.NO10.253-253
・古典の腹診を細分化した。1987年に首診を発見し、より系統的な診断治療が可能となった。

女性と肝血虚

2012-03-29 | 女性と中医学
 「女性の病は肝から治せ」という言葉があるように、女性の治療は、を中心に考えます。肝は血を蔵しますが、女性は「肝血虚」が多いです。成熟していない青年期には、「貧血女子高生」のような「肝血虚」の女性がいらっしゃいます。弱く、「わたし低血圧で起きれないのー」と言い、朝礼でめまい(脳貧血)を起こして倒れます。肝は気の昇発を主りますが、アタマに気血が昇らないです。貧血を疑って、を見ると血管は白く、顔色も青白く、の色も青白いです。実際に貧血でスプーン爪のように爪の変形も見られます。肝血は目や爪を営養していますが、肉も栄養しています。肝血虚の方は、肉も痩せて、「こむらがえり(肉の痙攣)」も起こします。肝血は子宮も栄養していますが、肝血虚となると、生理不順となり、はなはだしければ閉経となります。また、肝血は五神のも栄養しています。夜になると血は肝に貯蔵されますが、肝血虚では魂が浮いて、夢が多くなったり、眠りが浅く、フワフワした感じとなります。血が脈を栄養できないために、細脈となり、舌も淡白舌となります。

 「肝虚(肝血虚)」の反対である肝実証(肝臓が強い体質)の典型は中小企業の社長さんです。朝に早起きで高血圧で目が血走っています。筋骨隆々で、がっちりしています。社員に対して、怒りっぽいです。気がアタマにあがっています。肝は将軍の官なので、将軍は決断力や判断力があります。「肝は将軍の官、謀慮(ぼうりょ)出る」です。中小企業の社長さんは、決断力があります。一方で、「貧血女子高生」は決断力がありません。「ハンサムなA君」と「スポーツ万能のB君」とどちらと付き合うか、いつまでも迷っていますし、非現実的な夢を見がちです。中小企業の社長さんは現実しか見ていないのと対照的です。

 「肝血虚」の典型は、「朝礼で倒れるダイエットしている貧血女子高生」、「女子マラソンのランナー」です。女子マラソンのランナーは、よく「こむらがえり(筋肉の痙攣)」を起こします。激しい運動で筋肉は激痩せしています。よく、めまいを起こして倒れるし、生理が止まることもあります。

 「肝血虚」の治療の場合は、脾胃をよくすることが一番良いです。脾経の三陰交血海、胃経の足三里などは脾胃を強くできます。「膈兪ー肝兪」の四華穴(しかけつ)という組み合わせや「膈兪ー肝兪ー脾兪」の「胃の六つ灸」も良いです。神闕の塩灸も脾胃を調整して良いです。脾胃が強くなれば、食べ物から気血をつくれます。
 西洋医学で、貧血の治療の場合は鉄剤を処方されますが、鉄剤を飲むとおなかを壊して下痢をして、余計に貧血がすすむ場合もあります。足三里で胃酸が分泌されたら、食物から鉄分を吸収しやすくなります。また、ダイエットしすぎの女性や胃腸が弱い女性に、「肝血虚」の方は多いように思います。

女性と温陽利水

2012-03-29 | 女性と中医学
 陰陽に分けると、男性は陽で、女性は陰です。女性は陰なので、冷え症が多いです。女性の治療は、男性の10倍難しいし、中国伝統医学で男性と女性は全くの別物と考えます。

 『黄帝内経素問・上古天真諭篇第一』では、男性は8の倍数、女性は7の倍数のライフサイクルを持っていると論じています。「女性は7歳になると腎気が盛んになって歯がはえかわり、髪の毛が長くなる。14歳となると任脈が通じ、衝脈が盛んになり、月経が下り、子供を妊娠できるようになる。21歳となると腎気が充満し、身長が伸びきる。28歳となると、筋骨がしっかりとして、身体は壮健となる。35歳となると、陽明胃経が衰えて、顔面の色がくすみはじめ、髪の毛が抜け始める。42歳となると、太陽経・少陽経・陽明経の3つの陽経が上で衰えるので、顔のつやがなくなり、髪の毛が落ち始める。49歳となると任脈が虚して、衝脈が衰えるので月経が止まり、子供ができなくなる」と論じられています。

 ここでポイントは2つあります。女性は任脈・衝脈が重要です。任脈と衝脈が盛んとなると、月経が始まり、子供ができます。任脈と衝脈が弱ると、月経が止まり、子供ができなくなります。

 もう1つは、男性は陽で女性は陰なので、35歳になると陽気が衰え始めます。陰陽のバランスで言うと、男性は陽が余って陰が足りないです。女性は陰が余って陽が足りないです。だから、女性は一般的には体を温めるほうが良いです。ビールは体を冷やし、お酒やワインは相対的に体を温めます。女性はワインや日本酒のほうが良いです。コーヒーは涼性で体を冷やし、紅茶は温性でからだを温めます。だから女性は紅茶のほうが好きです。お灸はからだを温めますが、女性のほうがお灸ファンは多いです。女性は陽気が弱く、陰液(水)が余っているので、冷え症で足が浮腫む場合も多いです。温陽して利水(利尿)する治療が良いです。

2012年3月29日木曜日

2012-03-29 | 頭皮鍼
 YNSA(山元式新頭鍼)の山元敏勝先生の1982-1986年の論文を精査する。

1982年5月
ハリ麻酔
『日本良導絡自律神経学会雑誌』VOL27.NO4.97-100, 1982
・1973年以来ハリ麻酔を下腹部の手術に400例経験した。
1)三陰交、陵下、梁丘
2)三陰交、足三里、中都
各人、各症例によって経穴にズレがあるため、ノイロメーター(電気探索器)
により、経穴を求める。10Hz30分通電する。

1982年10月
頭針と深部体温
『日本良導絡自律神経学会雑誌』VOL27.NO10.: 224-224, 1982.
・以前、腰痛の頭針を行いサーモカメラで腰部の皮膚温の変化を観察したが、深部体温計で観察した。

1984年6月
レーザー光線に依る治療
『日本良導絡自律神経学会雑誌』VOL29.NO6.: 136-137, 1984
・a)急性上気道炎で咽痛がある場合、合谷や耳穴に20秒の照射で鎮痛。
b)頭鍼を用いた症例
【48歳女性】主婦で2日前より右肩甲関節周囲炎があり、上腕挙上運動制限があった。C点を20秒、距離2cmで照射し、右手が治療前挙上できなかったのが、挙上180度出来るようになった。
【56歳男性】農業で5日前より右肩甲関節周囲炎があり、上腕挙上運動制限があった。C点を20秒、距離2cmで照射し、右手が治療前挙上150度程度が、挙上180度出来るようになった。
【77歳男性】3日前より急性腰痛のため来院し、前屈10度程度。D点に照射2秒後、前屈90度できるようになった。
鍼に恐怖心をもっている患者にレーザー鍼は良い。

1986年10月
新しい頭針療法の其の後(その2)」
『日本良導絡自律神経学会雑誌』VOL 31.NO10.: 242-248, 1986.
・最近では、側頭部にあるD点を中心とした領域に、それぞれの臓器ならびに身体の各部分が規則正しく配列されているのを発見できました。肺点や心包点、心点、小腸点など。

焦氏頭皮鍼の症例

2012-03-28 | 頭皮鍼
 山元式新頭鍼(YNSA)を調べているうちに、焦氏頭皮鍼についても面白い研究が見つかったのでノートしておく。

 焦氏頭皮鍼は、1970年に山西省稷山県人民病院の神経科の医師だった焦順発氏が、大脳皮質の機能局在に基づいて開発した治療法。日本語訳としては、杉充胤編訳『頭針と耳針』(自然社、販売:緑書房、1975年)がある。焦氏頭皮鍼は、中国鍼の26号(0.45mm=日本鍼の15番前後)~28号(0.38mm=日本鍼の12番)ぐらいの太い中国鍼で、1分間200回転の捻転手技を1~2分間行い、5~10分後に再び捻鍼を行う。毎日1回で10回1クールとかなりの強刺激を特徴とする。

 見つけた論文は、帝京大学医学部附属病院麻酔科の発表した「頸髄損傷による中枢性疼痛に対して頭皮鍼が奏効した一症例」『慢性疼痛』VOL.29、NO.1、2010 著者:黒木佳奈子、西山比呂史、南部隆、福田悟、森田茂穂、高橋秀則。


頸髄損傷による上肢痛に対して頭皮鍼が行われた。患者は39歳、男性で転倒にて受傷し、救急搬送された時点で呼吸不全上下肢の完全麻痺を認めた。全身状態安定後、両上肢の激烈な疼痛を訴え、麻薬、ステロイドなどの投与で除痛は全く見られなかった。高度な肝機能障害を認めていたため、これ以上の薬物治療は困難と判断し、頭皮鍼治療を行うこととなった。

 治療は、直径0.3mm(8番)、長さ3cm(1寸)の鍼を両上肢の『運動野』及び『感覚野』に相当する部位の頭皮下に挿入し、150Hz20分間電気刺激を行った。受傷3週間後から頭皮鍼治療が開始され、1回目の治療から除痛効果が現れ、5週間に計11回施行したところ、疼痛は治療開始前の30%程度となり、同時に上肢筋力の回復も認めた。他の治療は全く行われず、鍼治療による副作用はなかった。頭皮鍼治療は脊髄損傷による神経障害性疼痛に積極的に用いて良い治療と思われた」
頸髄損傷による中枢性疼痛に対して頭皮鍼が奏効した一症例
『慢性疼痛』VOL.29、NO.1、2010、145-149ページより引用。 

 この論文を精読すると、治療前の感覚障害TH4(第4胸髄神経レベル)以下であったのが、頭皮鍼治療後はTH8(第8胸髄神経)以下に改善している!
 徒手筋力検査(MMT)も治療前に三角筋が0/5→治療後に4/5!!に改善、上腕三頭筋0/5→治療後に3/5に改善、上腕二頭筋が1/5→治療後3/5に改善、と劇的に改善している。

 脊髄損傷による上肢下肢の完全麻痺および麻薬もステロイドも効かない上肢の中枢性疼痛(神経障害性疼痛)、両側のC4~C7領域のアロディニア(allodynia)が頭皮鍼治療のみで改善されたという症例であり、プラセボは考え難い。これだけ難治の症例が、頭皮鍼のみで改善したというのは衝撃的だ。

 この論文の症例を読むと、「頭皮鍼」という分野がかなり可能性を持っていることがわかる。わたしたち鍼灸師はまだ、頭皮鍼の可能性を完全に理解していないのではないか。

※焦氏頭皮鍼の「運動区」は、まず、印堂と外後頭隆起を結んだ正中線「眉間正中線」とその中点をとる。次に印堂と外後頭隆起を側頭部経由で結んだ線「眉間側頭線」をとる。「眉間正中線」の中点の後0.5cmに「上点」を取り、耳介前部の髪際の前縁と「眉間側頭線」が交わるところに「下点」を取る。「上点」と「下点」を結んで5等分したのが「運動区」であり、上1/5が「足・体幹部」、次の中2/5が「上肢」、下2/5が「顔面」に対応している。
 「感覚区」は「眉間正中線」の中点から1.5cm後ろで、「運動区」と平行線を引く。

人間の可能性

2012-03-26 | 東洋医学
 兵庫県立美術館で、「解剖と変容:プルニー&ゼマーンコヴァー チェコ、アール・ブリュットの巨匠」を見た。圧巻は、「天空の赤 アール・ブリュット試論」というアールブリュットの映画。とにかく凄い内容だ。

 アール・ブリュットとは、精神障害者や障害をもち正統な美術の教育を受けてない人がつくったアートのこと。アスペルガー症候群のジョージ・ワイドナーや映画『レインマン』のモデルになったキム・ピークの邂逅には本当に感動した。

 ジョージ・ワイドナーは8万年分のカレンダーを暗記して、一瞬で何曜日かを答えることができる(電光石火計算、電光石火カレンダー)しかも歴史上の出来事を完璧に暗記している。
 キム・ピークは9,000冊の本を暗記し、右目と左目で別々の本を読んで、しかも暗記することができる!いわゆる「直観像保持者」だ。「直観像保持者」は、ロシアの天才精神医学者ルリアが提唱した特殊能力者だ。キム・ピークの脳梁は欠損している。

 ダウン症候群や自閉症、あるいはアスペルガー症候群の患者が、天才的能力を示す場合があることを「サヴァン症候群」と言う。「サヴァン症候群」について、わたしは『なぜ彼らは天才的能力を示すのか』(草思社)を読んで以来、興味を持っていたが、映画とはいえ、本物を見たのはジョージ・ワイドナーがはじめてだ。世界でも本物のサヴァン症候群は数十人しかいないらしい。

 人間の可能性、教育とは何か?など、考えさせられた素晴らしい映画と美術展だった。

2012年3月23日金曜日メモ「腹診」について

2012-03-23 | 頭皮鍼
YNSA(山元式新頭鍼:Yamamoto New Scalp Acupuncture)の山元敏勝先生の論文を精査している。

1980年11月
山元敏勝著「腹診
『日本良導絡自律神経学会雑誌』VOL25.NO11: 352-353, 1980

これは凄く面白かった。

「日頃、我々は腰痛ならびに肩こりに対して、その局所またはその部の経絡に関係ある穴の刺激や耳+頭鍼などが痛み緩和の治療に用いられています。肩、肩背部が東洋医学的に陽経にある関係上、どうしても主に陽経の刺鍼がおもきを置いています。しかし、よく考えて見るに、陰陽の関係上、陽経の治療点が陰経にあっても少しもおかしくない訳であります。実際的に、それらの痛みに対して陰経すなわち、腹部を用いられていることは皆様よくご承知のことであります。わたしも腹針にて良き想像以上の治療効果を得ることが出来ましたので、それをよく観察しているうちに、各身体部位と深い関係があることに気づいたのです。

頸部、後頭部」:胸骨体下端の下、約2~3cmの両側1cm
肩部」:胸骨体下端の下、約6cmの両側1cm
胸部」:胸骨体下端の下、約7~8cmの両側1cm

腰部」:臍下部約6cmの両側1cm
下肢部」:臍下部約7~8cmの両側1cm

東洋医学的には腎経
1.6寸10番鍼で1寸を直刺すると、ひびきを得ることができる

症例1:53歳男性
診察:1週間前より右肩甲間部の痛み、僧帽筋ならびに三角筋の痛み。
治療:「肩部」胸骨体下端の下、約6cmの右側1cmに置鍼。
3分後に痛みを感じなくなった。1回の治療で再発しなかった。

症例2:30歳男性
診察:一ヶ月前より腰痛。X線で異常なし。両側の膀胱経の痛み。
治療:「腰部」臍下部6cmの両側1cmに置鍼。3分後に軽快したが、
更に頭皮鍼で「D点」に置鍼し、痛みが軽快。4回の治療で再発は無い。

【結語】腹部にある陰経とくに腎経を用いて急性期の疼痛の緩和に利用しているうちに腹部にも頭部・耳部のごとく、各身体と深い関係のある事に気づき、その症例を述べましたが、未完成なものでありますので諸先生方のご批判と追試をお願い致したい。」
山元敏勝著「腹診」『日本良導絡自律神経学会雑誌』VOL25.NO11: 352より引用。

 まず、臍下の陰交や気海や関元といった下腹部のツボを腰痛に用いることは伝統医学でもよく行われている。私もかなり昔、ギックリ腰になった際に、良導絡の森川和宥先生に、合谷と腎経の肓兪を刺されての運動鍼でギックリ腰が治った経験がある。

 日本では深谷伊三郎先生が、中国でも老中医、周眉声(しゅうびせい)氏が陰交・気海を腰痛に用いている。
(谷田伸治「このツボが効くー先人に学ぶ75穴」アルテミシア、109ページ)

日本の沢田流でも日産玉川病院の症例報告で、気海や関元を腰痛に用いている。
(「気海の多壮灸で消失した腰痛の例」『鍼灸臨床生情報(2)』160ページ)

 中医学では、臍下の気海から関元あたりは、補腎・補気の効能なのだが、ホログラフィー理論から、人体の腰部が反映されていると考えるほうが合理的に感じる。また、背中の足太陽膀胱経と腹部の腎経がつながっているという考え方は、経絡治療の先生からも聞いた記憶がある。澤田健の『鍼灸真髄』でも同じような考え方をしていたような気がする(うろ覚え・・・)。

 腹診のチャートも、募穴診から湯液の『腹証奇覧』の腹診(心下痞硬や胸脇苦満など)、『難経』の腹診、『夢分流』の腹診など分類しきれないほどある。
 ともあれ、腹部の腎経のツボ(横骨・大赫・気穴・四満・中注・肓兪・商曲・石関)で追試していくしかない。
 わたしが『経絡経穴概論』を講義する際に作成した資料には、任脈の経穴を腰痛に用いた症例は多いが、臍下の腎経の経穴を用いた症例はない。

 ただ、1680年に書かれた『鍼灸大成』を調べると、臍下の腎経のツボの共通点は、衝脈病の「奔豚気(ほんとんき)」だ。『鍼灸大成』の「腎経の気穴」では、「奔豚気で気が上下して腰や背骨が痛む(奔豚、気上下、引腰脊痛)」とあるし、「腎経の中注」では、同じく「気が上下して、腰や背骨が痛む(気上下引、腰脊痛)」と書かれている。
 明代の中国で、臍下の腎経気滞や気逆の腰痛に用いられていたのは文献上の証拠から確かと言える。

 腰痛のほうが追試しやすそうだが、この腹診理論が妥当かどうかをテストするには、頸部や上肢部、胸部の症状で追試したほうが理論的には早いはず。ただ、腰痛に腹部の刺鍼が効果的なのは実感しているので、それを精密化して臨床で使えるレベルにするには、腰部から試していくのも1つの方法だろう。問題点として、遠隔取穴は刺鍼する際の姿勢の問題があるので、そこをどうクリアにするべきかを考えないといけない。耳鍼の腰腿区や手鍼の腰腿点は立位から痛い動きをしてもらうと効果がすぐに判定できるが、腹部の腎経に刺鍼しながらテストするのは難しい。

2012年3月21日水曜日メモ

2012-03-21 | 頭皮鍼
 いま、山元敏勝先生の1970年代に発表された文章を調べているのだが、とても面白い。北村智先生の『鍼灸特殊治療法』の207ページにも「湯氏頭皮鍼」「方氏頭皮鍼」「朱氏頭皮鍼」と並んで「山元敏勝頭鍼」が挙げられている。『鍼灸特殊治療法』211ページには和田清吉先生の「頭髪際刺鍼法」が挙げられている。

「この治療法は和田が頭皮鍼法を臨床的追試を行い、頭皮の反応を指頭で探ったり電気良導点を探索しているうちに、頭髪際縁部において身体症状に対応する反応区があり、一定の刺鍼刺激を与えると症状の緩解が見られることを発見し、従来の体鍼療法のみより速効性(特に疼痛、しびれ、麻痺などに対して)があり、有効率も高いとして1975年に良導絡学会において発表した。その後、多くの治療家によって追試され、特に運動器系の症状に有効であることが確認されている」
北村智著『鍼灸特殊治療法』1998年10月。211ページ

 和田清吉先生の『新しい鍼灸臨床入門』にも以下のように書かれている。

「頭髪際刺鍼法とは、私が中国における中西医学総合の結果うまれた頭皮鍼療法を追試する中で、頭髪際縁に沿う一定の部位を切経し、圧痛・硬結・陥凹などの部位を求めたり、また良導点を求めて、一定の方向に横刺し、一定の刺激を与えると、それぞれの刺鍼部が身体の一定部位の疾患(特に痛み・しびれ・麻痺・関節障害・分泌異常・血管痙攣など急性・慢性の疾患)に対して治療効果があがることが多く、また、中枢性・末梢性ともに効果があることを認めた。これによれば、従来の体鍼療法のみより速効性があり、その有効率も高いように思われるので、ここに発表し、先生方の追試を望む次第である」和田清吉著『新しい鍼灸臨床入門』和田臨床研究会 1977年3月。118ページ。

山元敏勝先生は、以下で書かれている。

1975年5月
頭針について」『日本良導絡自律神経学会誌』VOL20、5、111-111

1)頭部の疼痛:交通事故、打撲、頑固な慢性頚部痛。
2)肩部の疼痛:肩こり、五十肩の疼痛を軽快させる。
3)上腕と前腕の疼痛:腕の疼痛、しびれ、重だるい感じに用いる。
4)腰、下肢部の疼痛:腰痛症、椎間板ヘルニア、変形性腰椎症、打撲。
多発性リウマチ性関節炎の腰痛や抗生物質殿部筋肉注射による大腿部疼痛で歩行不能な症例も著効。
5)胸部:頑固な気管支喘息。

 上記は後にA点、B点、C点、D点、E点となる。おもに疼痛の除去に使っていたことが類推できるが、注目すべきは後にE点となる胸腔の点で、頑固な気管支喘息を治療している。上記のA点、B点、C点、D点、E点も同じ頭の前髪際を使いながら、和田清吉先生の区域とは、かなり異なっている。かろうじて、和田清吉先生の「腰腿区」と山元敏勝先生のD点(腰・下肢部)が重なっている。

 わたし自身が右の慢性気管支炎があり、右のE点(胸部)を刺激したところ、かなり軽快してきているので、ちょっと驚いています(笑)。

2012年3月21日水曜日

2012-03-21 | 頭皮鍼
1977年
「ハリ通電による知覚抑制について」『麻酔』26(3): 350-350, 1977.
石河延貞, 山元敏勝, 花森隆充, 村上伸樹 宮崎医大第1生理
・成人男子25人について一側の合谷にハリ通電を行ない, 痛覚および触覚の抑制に必要な通電条件を求めた。05~30分間の通電によって指尖から上腕にかけて知覚が抑制された。抑制の程度は通電電気量に依存していた。

1978年1月
新しい頭針法のサーモカメラに依る効果判定について」『日本良導絡自律神経学会雑誌 』VOL23.NO1:26-26.1978年1月
腰痛症に対してD点に置鍼し、サーモカメラで腰部の撮影を行い、置鍼5分後に局所の皮膚温度の低下を認めた。
・前頭部にA点, 頸部B点, 肩部C点, 肩甲関節, 上腕部D点, 腰並に下肢部E点, 胸部などを運動麻痺と気管支喘息に用いている。経絡とは関係なく、経験上見出した。最近は前頭部にもっと細かく身体各部や各臓器と密接な関係をもった点を見つけることができた

1980年1月
新しい頭針治療のその后 」『日本良導絡自律神経学会雑誌』VOL25.NO1:36-36.
・1974年以来、前頭部にいくつかの新しい穴があるのに気づき, それをそれぞれ, ABCDEに分類した。その後、前頭部の正中線を境として身体が横たわった様に, 一致した穴のある事をつきとめた。即ち, C点を中心としてその左右にmmの間をおいて5指があり, D点に於ても大腿部, 膝部, 及び膝下部, 又は5趾指の穴があり腰点の後部には各内臓点がある。又後頭部にも, 前頭部と全く同じ様に身体の各穴があるのに気づき, 恐らく中国医学でいわれている陰陽の関係が頭部の前後部で存在している。