遂に衆議院が今週中解散され、この年末まで総選挙に向けて騒がしくなってきた。しかし、どうにも盛り上がりに欠く選挙になりそうだ。安部首相の「国民に信を問う」という解散表明も、「何の信」なのかよくわからない。憲法改正などの国家の仕組み、安全保障、外交、教育などの国家観に付いての言及がほとんどといってよいほど、安部首相の口から聞こえてこない。
与党間でもファジーだが、それ以上に野党がグチャグチャだ。その象徴がみんなの党の解党である。その名前に反して党員たちが自我を張り合って結局雲散霧消していくのは皮肉というほかない。一足早く党を離れた江田憲司議員たちが結いの党をつくったものの、結局橋下徹大阪市長の維新の会に吸収合併されて存在感を全く示せていない。
ただ、合併した維新の党もいまだに橋下市長の私党の性格が強い。橋下市長は今度の衆議院選挙に出馬の意欲がありありだ。おそらく、今回橋下市長が出ないと維新の党は全く選挙戦で力を発揮することはできないだろう。維新の党では橋下市長の存在感は今も圧倒的であり、彼以外はその他大勢というに過ぎない。橋下市長自身そのことを十分自覚しているはずだ。
橋下市長はよくも悪くも自己顕示欲が強く、同時に好き嫌いも激しい。一時、仲がよかった公明党だったが、大阪都構想で同党に裏切られたという怨念が強く公明党打倒に異常な執念を燃やしている。さらに、以前から橋下市政を批判してきた辻本清美民主党議員に対しても敵意を露にして、こんな議員がいる民主党とは選挙協力できないと喧嘩を売っている。
そして、肝心の民主党だが、全く海江田代表が指導力を発揮できない。衆議院の比例区ではそこそこの議席はとれるかもしれないが、小選挙区は他の野党特に維新の党の強力がない限り、なかなか現有議席を上積することは難しい。しかし、橋下市長がこんな具合だから致し方ない。
民主党には橋下市長のような選挙区を引っ掻き舞わずパワーをもった人物が見当たらない。ただ、橋下市長とてかつてほどの力はなく、関西の選挙区では盛り上がっても全国でいかほどの威力を示すかどうか疑問だ。
その点、野党でも独自の政治理念を持つ次世代の党は議員の多くは人材的には評価できるが、彼らを束ねて選挙戦を引っ張るリーダー的存在がいないのは残念である。すでに石原慎太郎議員は名誉顧問という立場であって、カリスマ性で党を引っ張る力はもはやない。
実際のところ、安部首相が進めている「戦後レジームから脱却」に対して、もっと理解し擁護していうのが次世代の党である。しかし、自民党内にはこの次世代の党に嫌悪感を持っている議員が少なくない。
いわゆる保守党のなかのリブラル派の存在である。こうした勢力が安部首相の足を引っ張り、むしろ戦後レジームの既得権にしがみつこうとしている。彼らは河野談話の見直しに反対し、秘密保護法や集団的自衛権行使容認に対しても露骨な抵抗を見せている。
したがって自民党と次世代の党との連携など計られることもない。メディアも次世代の党には無視を決め込んでいて、なかなかこの党は浮上してこないしこの衆議院選挙でも存続に危機に直面している。小世代の党のような国家観を明確にする政党には伸びて欲しいが、現状では厳しい。
ということで、野党勢力はどこも精彩を欠いていて、選挙戦は盛り上がりそうもない。そして相変わらず、公明党、共産党といった組織政党が世情に関係なく議席を維持をする結果になる。この両党は勝利もない代わりに敗北もない。日本の選挙の現実であり、ある種戦後レジームの一面でもある。