帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔二百七十五〕今朝はさしも

2012-01-11 00:04:18 | 古典

  



                     帯とけの枕草子〔二百七十五〕今朝はさしも

 

 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言枕草子〔二百七十五〕けさはさしも


 今朝は、そうとは見えなかった空が、たいそう暗く急に曇って、が辺りを暗くして降るので、とっても心細く、みいだすほど見はじめる間もなく、白く積もって、なおもたいそう降るときに、ずいじん随身らしい細身の、をのこが、かささして傘差して、脇の方の塀の、より入って、ふみをさし入れているのこそ、おかしけれ情趣あることよ

 とっても白い、みちのくにかみ陸奥紙、白い色紙の、むすびたる結び文にしてある)上に引き渡した封印の、すみが、ふと、こほりにければ凍ったので、末の方が薄くなったのを開けると、とっても細く巻いて結んである巻目がこまごまとくぼんでいて墨が濃く薄く、行間狭く、裏も表も、かきみだり書き乱れているのを、うちかへしひさしうみるこそくり返し久しく見ているのこそ、何ごとだろうかと、よそに見ているのも、をかしけれ(おもしろいことよ)。まして、(女が)ふとほほ笑んでいるところは、ゆかしその奥が知りたいけれど遠くにいるので、くろきもじ黒い文字だけで、そうでしょうねと思えるよ。

 額の髪が長やかで、顔の良い人が、暗い頃に、ふみを得て、火を灯すのもじれったいのか、火おけ火桶の火をはさみあげて、たどたとしいようすで、ているのは、をかしけれ(趣があることよ)。

 言の戯れと言の心

  「雪…白ゆき…おとこの色…男の情念」「みいだすほど…見だしたころ…見始めた時」「見…覯…媾…まぐあい」「ずいじん…隋身…警護の武官…付随の身…おとこ」「をのこ…男…おとこ」「かさゝして…傘さして…嵩満ちて」「と…戸…門…女」「ふみ…文…夫身」。

  「みちのくにかみ…陸奥国紙…上質紙…上品な女」「かみ…紙…上…女」「むすびたる…結すんである…むすばれたる」「すみ…墨…す身…女の身」「す…洲…女」「こほり…凍り…子掘り…まぐあい」「かきみだり…書き乱り…掻き淫り」「搔く…つきすすむ…わけいる」「みる…見る…覯する」「くろきもじ…黒き文字…力強い男の文字」「くろ…黒…強い色」。

  「ふみをえて…文を得て…夫身を得て」「ひ…火…思い火…情熱の炎」「火おけ…ひをけ…火桶…丸いひばち…火のうつわもの」「うつわもの…女」。

 上のような言の戯れを知り言の心を心得て読めば、恋文が届けられ、女君が読む場面の描写に相応しい「艶なるかな」といえる艶めかしい魅力のある文となるでしょう。


 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)

 
原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。