帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔二百九十一〕よろしき男を

2012-01-30 00:06:59 | 古典

  



                                帯とけの枕草子〔二百九十一〕よろしき男を



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言枕草子〔二百九十一〕よろしきおとこを、


 文の清げな姿

 わるくはない男を、げ衆女などが褒めて、「いみじうなつかしうおはします(とっても心ひかれるお方でいらっしゃいます)」などと言えば、(その男は)やがて見くだされてしまうでしょう。謗られるのは、かえって良い。げ衆に褒められるのは、女でもまったくよくない。それに、褒めいてるうちに言い損なったりしたのはねえ。


 原文

 よろしきおとこを、げす女などのほめて、いみじうなつかしうおはします、などいへば、やがて思おとされぬべし。そしらるゝは中々よし。げすにほめらるゝは、女だにいとわろし。又ほむるまゝに、いひそこなひつる物は。


 心におかしきところ

 ふつうによいおとこを、下す女が褒めて「いみじうなつかしうおはします(とっても好ましい感じでいらっしゃいます)」などと言えば、やがて(男は上衆の女たちに)見下されてしまうでしょう。(とっても近寄り難い感じでございますなどと)謗られるのは、かえってよい。外衆に褒められるのは、女でもまったくよろしくない。それに、褒めるとすぐ言い損なったのはねえ(ものの言い方知らないから)。


 言の戯れと言の心
 「よろしき…好ましい…わるくはない…まあふつうの」「おとこ…をとこ…男…生まれながらに男の身に付いているひとり子」「げす女…下衆の女…外衆の女…下す女」「す…洲…女」「など…他にも意味のあることを表している」「なつかし…心ひかれる…好ましい…離れがたい」「思おとされぬ…貶されてしまう…見下されてしまう」「ままに…につれて…すぐに」「は…強調する意を表す…詠嘆の意を表す」。


 「なつかし」という言葉の用いられ方を知るために、山ぶきの花が「なつかし」という歌を聞きましょう。

 古今和歌集 巻第三 春歌下 よみ人しらず

 春雨ににほへる色もあかなくに 香さへなつかし山ぶきの花

 (春雨に鮮やかになる色も、飽きないのに、香さへ好ましい山蕗の花……春のお雨に、艶増す色情も飽きないのに、香さえ好ましい、山ばに吹くお花)。

 
 「春…季節の春…春情」「雨…おとこ雨」「にほふ…色艶美しい…匂う」「なつかし…心ひかれる…好ましい」「山ぶき…山蕗…山吹き…山ばで咲くおとこ花」。

 
 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)

 
原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。