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帯とけの枕草子〔二百九十一〕よろしき男を
言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。
清少納言枕草子〔二百九十一〕よろしきおとこを、
文の清げな姿
わるくはない男を、げ衆女などが褒めて、「いみじうなつかしうおはします(とっても心ひかれるお方でいらっしゃいます)」などと言えば、(その男は)やがて見くだされてしまうでしょう。謗られるのは、かえって良い。げ衆に褒められるのは、女でもまったくよくない。それに、褒めいてるうちに言い損なったりしたのはねえ。
原文
よろしきおとこを、げす女などのほめて、いみじうなつかしうおはします、などいへば、やがて思おとされぬべし。そしらるゝは中々よし。げすにほめらるゝは、女だにいとわろし。又ほむるまゝに、いひそこなひつる物は。
心におかしきところ
ふつうによいおとこを、下す女が褒めて「いみじうなつかしうおはします(とっても好ましい感じでいらっしゃいます)」などと言えば、やがて(男は上衆の女たちに)見下されてしまうでしょう。(とっても近寄り難い感じでございますなどと)謗られるのは、かえってよい。外衆に褒められるのは、女でもまったくよろしくない。それに、褒めるとすぐ言い損なったのはねえ(ものの言い方知らないから)。
言の戯れと言の心
「よろしき…好ましい…わるくはない…まあふつうの」「おとこ…をとこ…男…生まれながらに男の身に付いているひとり子」「げす女…下衆の女…外衆の女…下す女」「す…洲…女」「など…他にも意味のあることを表している」「なつかし…心ひかれる…好ましい…離れがたい」「思おとされぬ…貶されてしまう…見下されてしまう」「ままに…につれて…すぐに」「は…強調する意を表す…詠嘆の意を表す」。
「なつかし」という言葉の用いられ方を知るために、山ぶきの花が「なつかし」という歌を聞きましょう。
古今和歌集 巻第三 春歌下 よみ人しらず
春雨ににほへる色もあかなくに 香さへなつかし山ぶきの花
(春雨に鮮やかになる色も、飽きないのに、香さへ好ましい山蕗の花……春のお雨に、艶増す色情も飽きないのに、香さえ好ましい、山ばに吹くお花)。
「春…季節の春…春情」「雨…おとこ雨」「にほふ…色艶美しい…匂う」「なつかし…心ひかれる…好ましい」「山ぶき…山蕗…山吹き…山ばで咲くおとこ花」。
伝授 清原のおうな
聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)
原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。