帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔二百八十三〕十二月二十四日

2012-01-20 00:03:12 | 古典

  



                                            帯とけの枕草子〔二百八十三〕十二月二十四日



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言枕草子〔二百八十三〕十二月二十四日


 十二月二十四日、宮(主催)の御仏名の、半夜の導師の説教を聞いて退出する人は、真夜中ごろも過ぎていたでしょうか。日ごろ降っていた雪が、今日はやんで、風がひどく吹いたので、垂氷(つらら)多くできていて、土地はまだらで白いところが多い。屋根の上は、ただ一面すべて白いので、あやしく賤しい家屋も、雪に皆面を隠して、有明けの月が隈なく照らしているので、いみじうおかし(とっても風情がある)。白金など葺いたような(屋根に)、水晶の滝とでも言いたいような(つららが)長く短く、わざわざ掛けひろげたように見えて、言うにも余るほど愛でたいときに、下簾もかけない車が、簾をとっても高く上げているので、奥までさしいる月に、薄色、白いの、紅梅色など、七つ八つばかり着ている上に、濃い衣のとっても鮮やかな艶など月に映えて、かしうみゆる(すばらしく見える女の)傍らに、えび染めの固紋の指貫、白い衣など多数、山吹色、紅など着て、はみだしていて、直衣のとっても白い紐を解いたので、脱ぎ垂れて、たいそう(車より)こぼれ出ている。指貫の片方は、とじきみ(軾)のもとに踏み出してしているなど、道で人に出会えば、かしとみつべし(おかしなことよと見たでしょう)。

  月のかげのはしたなさに、うしろざまにすべりいるを、つねにひきよせ、あらはになされて、わぶるもおかし(月の光の無遠慮さに、車に後ろ向きにすべり入っているのだが、男は常に引き寄せ、あらわになされて女が困っているようすがおかしい……つき人おとこのはしたなさのために、うしろざまにすべり入るお、つねに引き寄せ、女が衣はだけて顕わにされて、堪えられず呻いているのも、犯し)。

 「りんりんとしてこほりしけり(凛凛として氷敷いていることよ……りんとひきしまって子堀りしていることよ)」という詩を、繰り返し朗詠しておられるのは、とってもおかしくて、夜一晩でも後についていたいのに、いく所のちかうなるもくちおし(我が車の行く所が近くなるのも残念……逝き着くところが近くなるのも残念)。


 言の戯れと言の心

 「こほり…氷…子堀り…子の君の川掘り…まぐあい」「月のかげ…月の影…月の光…男の威光…つき人おとこの魅力」「いく所…行き先…逝くところ」「おかし…をかし…おかしい…犯し」。



 男が朗詠した詩は、和漢朗詠集にもある、聞きましょう。

 秦甸之一千余里、凛々氷鋪。

 漢家之三十六宮、澄々粉飾。
 (都周辺の一千余里、寒く凍てついて氷舗装。王宮の数々の宮殿、澄みわたって白化粧……宮こ周辺の一千余里、りんりんと身もひき締まりこほりする。宮の女のかずかずの宮こ、澄みわたって白く粉飾)。

 
 聞き耳異なるもの、男の言葉。

 「秦甸…長安の周辺…みやこ周辺…絶頂辺り」「鋪…舗…舗装…しきつめ」「凛々…寒さに身の引き締まる感じ…りりしいさま…おそれ慎むさま」「家…いへ…女…宮殿」「宮…宮こ…極まり至ったところ」「澄…空気が澄む…水が澄む…心が澄む」「粉…白…おとこの色」「粉飾…白化粧…うわべを飾る」「白…澄んだ色…果てた色」。


 宮主催の仏名会(清涼殿のほか各寺でも行われた)に来て、男は相乗り車で帰り、このざまでした。


 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)

 
原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。