帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔二百八十七〕右衛門の尉なりけるものの

2012-01-25 00:11:22 | 古典

  



                    帯とけの枕草子〔二百八十七〕右衛門の尉なりけるものの



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言枕草子〔二百八十七〕ゑもんのぞうなりけるものの


 ゑもんのぞう(右衛門の尉…衛門の判官)であった者が、えせなる(普通に見えるが実はそうでない)男を親に持っていて、人が(実態を)見ると不名誉なことであると苦しく思っていたが、伊予の国より上るというときに、親を波に落とし入れたのを、人の心ほど浅ましいものはないと、驚き呆れている間に、七月十五日、親の盆をしてさしあげると用意するのを見られて、道命阿闍梨、

 わたつ海におやをしいれてこのぬしの ぼんするみるぞあはれなりける

(わたつ海に・ひろがる憂みに、親押し入れて、子の主が盆するのを見るのは、哀れであることよ……渡る女に、お、とかを押し入れて、子の主が、犯するのを思うのは、あわれであるよ)。

とお詠みになられたのは、おかしけれ(おもしろかったことよ)。


 言の戯れと言の心

 「ゑもんのぞう…右衛門の尉…大内裏の門と周辺の警護や行幸の警護などもする衛門府の三等官…判官とも呼ぶ」「えせなる男…見かけによらず実は悪人。親が人に知られぬ盗人か殺人犯だとわかったので、判官は自らの名誉を守るために、親を私刑にしてしまったらしい」。

「わたつみ…海…生み…女」「うみ…海…憂み…憂いのため」「おや…親…おとこや」「や…感嘆詞…疑問詞」「見る…目で見る…思う」「このぬし…子の施主…子の君の主人」「盆する…供養する…犯する…殺人を犯す…女人を犯す…戒律を犯す」「ぼん…盆…はん…犯…ぼん(呉音)」「あはれ…哀れ…ふびんだ…情趣が深い」。「おかし…感動するほどすばらいい…笑うほどおもしろい」。



 道命阿闍梨は藤原道綱の子。道綱は『かげろう日記』の著者、道綱の母の子。

 
 歌は裏(心におかしきところ)があるからこそおかしい。歌は言の葉に裏(言の心)があるから成り立っている。


 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)

 
原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。