帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの『金玉集』 冬(三十八) 坂上是則

2012-11-26 00:12:39 | 古典

    



            帯とけの金玉集



 紀貫之は古今集仮名序の結びで、「歌の様」を知り「言の心」を心得える人は、いにしえの歌を仰ぎ見て恋しくなるだろうと歌の聞き方を述べた。藤原公任は歌論書『新撰髄脳』で、「およそ歌は、心深く、姿清げに、心におかしきところあるを、優れたりといふべし」と、優れた歌の定義を述べた。此処に、歌の様(歌の表現様式)が表れている。


 公任の金玉集(こがねのたまの集)には「優れた歌」が撰ばれてあるに違いないので、歌
言葉の「言の心」を紐解けば、歌の心深いところ、清げな姿、それに「心におかしきところ」が明らかになるでしょう。

 

 金玉集 冬
(三十八) 坂上是則

 みよしのの山の白雪つもるらし 古里さむくなり増さるなり

 (吉野の山の白雪、積っているらしい、奈良の古里、寒さ増している……身好しのの好しのの山ばに、白逝きつもっているにちがいない、古妻、心寒くなり増さっているようだ)。


 言の戯れと言の心

 「みよしのの…吉野の美称…見好しのの…身好しのの」「山…山ば」「白雪…おとこ白ゆき…白逝き…おとこの白々しい果て」「つもるらし…積っているにちがいない…多くなっているにちがいない…近ごろ重ねているにちがいない」「らし…(己のことを)確信を以て推定する意を表す」「ふるさと…故郷(奈良の旧都)…古里…古妻…古さ門」「里…女…さ門」「さむく…気候が寒く…心が寒く…冷たく」「なりまさる…成り増さる…ますますそうなる」「なり…断定する意を表す…(ひとのことを)推量する意を表す」。


 歌の清げな姿は、吉野山の深雪を思い遣って奈良でのつのる寒さを表現した、四季の移ろいについての人の思い。歌は唯それだけではない。

 歌の心におかしきところは、み好しのの好しのの山ばであるべきを、白ゆきつのり、古妻を冷ややかにしていると推定する男の忸怩たる思い。

 古今和歌集 冬歌。詞書「ならの京にまかれりける時に宿れりける所にてよめる」とある。

 奈良の旧京に出かけた時に宿った所で詠んだ(寧楽の京にて逝った時に宿っていたところで詠んだ)。「まかる…都から地方へ行く…退出する…京(頂上)から下る」。

 人にとって心におかしいものは、四季の景色よりも人の心の気色である。和歌は生な人の気色を清げな姿に包んで表現する様式をもっていた。
 

 伝授 清原のおうな

 
 鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。

 聞書 かき人しらず


   『金玉集』の原文は、『群書類従』巻第百五十九金玉集による。漢字かな混じりの表記など、必ずしもそのままではない。又、歌番はないが附した。