帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの『金玉集』 冬(三十六) よみ人しらず

2012-11-23 00:02:00 | 古典

    



             帯とけの金玉集



 紀貫之は古今集仮名序の結びで、「歌の様」を知り「言の心」を心得える人は、いにしえの歌を仰ぎ見て恋しくなるだろうと歌の聞き方を述べた。藤原公任は歌論書『新撰髄脳』で、「およそ歌は、心深く、姿清げに、心におかしきところあるを、優れたりといふべし」と、優れた歌の定義を述べた。此処に、歌の様(歌の表現様式)が表れている。


 公任の金玉集(こがねのたまの集)には「優れた歌」が撰ばれてあるに違いないので、歌
言葉の「言の心」を紐解けば、歌の心深いところ、清げな姿、それに「心におかしきところ」が明らかになるでしょう。

 

 金玉集 冬
(三十六) よみ人しらず

夜を寒み寝ざめて聞けばをしぞ鳴く 払らひもあへず霜やおくらむ

 (夜が寒くて寝覚めて聞けば、鴛ぞ鳴く、羽ばたいても払いきれない、霜が降りているのでしょうか……夜を寝冷めて君に訊けば、を肢が無く泣く、振り払いきれない、しもよ、どうして送り置くの)。


 言の戯れと言の心

 「さめて…覚めて…冷めて」「きけば…聞けば…訊けば…問えば…問い詰めれば」「をしぞなく…鴛ぞ鳴く…おしどりが鳴く…男しぞ無く泣く…お肢がしぼみ消えて泣いている」「はらひもあへず…羽ばたいても払いきれない…振り払いきれない」「しもや…霜や…下や…霜ではない下の白いもの」「おく…(霜など)降りる…送り置く」「らむ…推量する意を表す…原因理由を推量する意を表す」。


 歌の清げな姿は、おしどりの鳴く冬の夜の情景。歌は唯それだけではない。

 歌の心におかしきところは、はかないおとこのさがを嘆く女の情況。

 拾遺和歌集 冬、題しらず、よみ人しらず。女の歌として聞く。


 冬の夜、羽に霜の付いた水鳥の情景を詠んだ歌として意味が固定して久しい。この歌に限らず、今の人々は全ての和歌の「清げな姿」しか見せられていない。清げな姿だけのおかしくもない歌を、平安時代のおとな達が玩んだりしない。

 
 歌の「心におかしきところ」は、鎌倉時代に古今伝授と称される秘伝となり、埋もれ木となって朽ち果てた。それならば、貫之と公任の歌論の原点に返ればいいのである。「心におかしきところ」が、浮言綺語のような歌言葉の戯れのうちに顕れると藤原俊成は言う。



 伝授 清原のおうな

 
 鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。

 聞書 かき人しらず


  『金玉集』の原文は、『群書類従』巻第百五十九金玉集による。漢字かな混じりの表記など、必ずしもそのままではない。又、歌番はないが附した。