湘南文芸TAK

逗子でフツーに暮らし詩を書いています。オリジナルの詩と地域と文学についてほぼ毎日アップ。現代詩を書くメンバー募集中。

辿るの詩パート2

2021-10-05 06:57:48 | オリジナル
共通テーマ「辿る」でTが書いた詩を投稿します。

いつかの街
小さかったある日
父と二人 遠くの街へ行った
春霞の中 桜の街があり
人々は陽炎のようにうすく歩いていた
何をしに行ったのか
今となっては知るすべはないが
父はひどく無口になっていた
私の手を強く握ってはいたが
何かをたずねてもうわの空で
いつもの優しい返事はかえってこなかった
一日中一緒にいたのに ひどく遠かった
私は仕方なく
白っぽい空を見上げたり
行き交う人々を眺めたり
流れる水の香りをかいだりしていた
人に会った という記憶は欠落しているが
父は誰かに別れを告げに行ったのではなかったか
固い決意がにぶらないように
私を連れて行ったのではなかったか
桜の花のしんとした明るさの下に立つと
不思議なあの日がよみがえる
四十半ばの男として私の隣を歩いていた父
あの街がどこだったのか
記憶をたどってみても いまだわからない

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