先日ココでも書いたチック・コリアに続いてまた一人、
ベテランミュージシャンが天国へ旅立った。
ジャズ、ファンク、フュージョン業界の名ベーシスト、
ポール・ジャクソン。
御年73歳での逝去であった。
ご存知の向きには説明不要だが、
氏は何十年も日本に在住されておられ(奥様が日本人)、
日本のミュージシャンとの共演も多い
(個人的にはChar氏率いたパワートリオ、Psychedelixでのプレイが好きだった。ドラムのジム・コウプリー氏も何年か前に鬼籍に入られてしまったが……)。
だが、彼の音に触れたければ
やはりこの一枚は外せないであろう。
ヘッドハンターズ/ハービー・ハンコック (73年作)
エレクトリック期のマイルスを
チック・コリアと共に盛り立てた名キーボーディスト、
ハービー・ハンコック。
彼が名うてのミュージシャンを集め、
発表したこのアルバムでベースを弾いているのが
まさにポール・ジャクソンなのである。
最もファンクに接近した時期の
マイルスと共にプレイしていたハービーのこの作品は
エレクトリック・マイルスのファンクネスを
引き継ぐような作風となっており、
ジャズでありながら、ダンスフロアでプレイされても
なんの違和感もないダンサブルでファンキーな一品。
(代表作であるカメレオン、ウォーター・メロン・マンも収録)
そんな作品でのポール・ジャクソンのプレイだが、
私は彼こそ
「モダーンファンクベースのオリジン」
の一人だと断言したい。
例えばスタンリー・クラーク。
トレブリーなトーンでスラップ混じりに
ギターの領域にまで切り込むプレイはとても魅力的だ。
例えばジャコ・パストリアス。
フレットレスベースのネックを縦横無尽に動き回り、
グルーヴィーかつメロディアスなフレーズは素晴らしい。
例えばブーツィー・コリンズ。
ディストーションやワウの効いたド派手なプレイは
ベースがギターより目立てる事を知らしめた。
だが、待て。
確かに彼らはベースという楽器の役割を
リード楽器の領域へ拡張したが、
「そもそもベースとはなんぞや。」
それはドラムと一体となり、
グルーヴを生み出す楽器である。
ギターや鍵盤のプレイをボトムからバックアップし、
楽曲のコードやメロディをより魅力的に引き立てる楽器である。
つまり、本質的にはリードよりも
バックでのプレイこそがベースの最重要な役割であり、
それ故、前述のリード系ベーシストでないと、
一般的に"目立たない"だの、"地味"だの・・・
云われがちなのがベースという楽器だ。
そしてポール・ジャクソンの凄さは
「まさにここ」なのだが、
彼はベースの役割に徹したまま
凄まじい存在感を発揮しているのだ。
ルート音を的確にプレイした上で
ドラムのキックを補完するようにボトムを弾き、
リード楽器のメロディを目立たせるように裏メロを補完する。
とてもベースらしい、
「太っとくボトムの効いた力強いフィンガースタイル」
の音でバンドをグイグイとファンキーにドライヴさせていく
そのプレイとサウンドこそ
まさに「モダーンベースの始祖」と呼ぶに相応しい。
(彼はピッキングがとても強く、ベースの弦を切ることもしばしばだったそうな。信じられるかい?ベースの弦ってそう簡単には切れないんだぜ?)
彼のこのプレイとサウンドは
フリー(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)を筆頭とする
ミクスチャーロック、モダーンファンクのベーシストに
多大な影響を与えていると思う。
是非それを考慮してこのアルバムを聴いてみて欲しい。
私が彼こそ「モダーンファンクベースのオリジン」
だと断言した理由を理解してもらえるはずだ。
日本でのジャズミュージシャン育成にも
力を入れていたポール・ジャクソン。
日本をこよなく愛してくれた・・・
そんな偉大なるファンクベースマンに
感謝と哀悼の意を表したい。
《ハウリンメガネ筆》