「Jerry's Mash」のアナログ人で悪いか! ~夕刊 ハード・パンチBLUES~

「Jerry'sギター」代表&編集長「MASH & ハードパンチ編集部」が贈る毎日更新の「痛快!WEB誌」

<エッセイ>『僕の恋愛小説』が出来るまで

2020-06-26 13:24:44 | 編集長「MASH」の短編小説集

音楽とは違い

「文章で物語を作る。」

そんな作業が好きだ。

 

音楽は感情的な部分から

「曲作り」

が生まれてくるように、思う。

 

もちろん

自分とは関係のない音楽ほど

すぐに出来上がり

「自分の感情とは無関係な歌」

になる。

 

逆に「小説を書く」作業は

「実体験を膨らませていく」

そんなことが多い。

だから、自分にとっての

「ちょっとした歴史」

でもある。

 

このサイトでは

12編の短編小説

を発表してきた。(以下でご覧下さい)

http://blog.goo.ne.jp/12mash/c/331a2dc2e254bc31bd24af6b19973879

 

どれも自分らしい作品で

「さらっ」

としていて

気に入っている。

 

そしてこれらを読み返し

「12個の思い出」

が自分の中に蘇ってきた。

 

もちろん

すべてがすべて実話ではない。

小説なので「完全なる物語」である。

しかし、その土台

キッカケは実話だったことが多い。

「物語のヒントを与えてくれた・・・」

 とでも言えばお分かりになるだろう。

 

だから12人の女性から

「何かしらのヒント」を戴き、作品となっている。

それらを今マトメて読み返し、

僕は彼女たちを思い出してみる。

 

少なくともハッキリと思い出せる人も

何人かはいる。

そして、僕は今それを楽しんでいる。

 

まだお読みで無い方は

ぜひ読んで頂きたい。

人生のちょっとしたキッカケ

となるかもしれませんよ。

http://blog.goo.ne.jp/12mash/c/331a2dc2e254bc31bd24af6b19973879

 

< Mash

2016年8月12日 筆

 


<超短編小説> 『秋になったら「Jazz」を聴く』(あとがき)

2016-09-10 12:00:34 | 編集長「MASH」の短編小説集

久しぶりに昨日書いた

「短編小説」=「秋になったら「Jazz」を聴く」

http://blog.goo.ne.jp/12mash/e/3435e4072f5563eb73d7056b02d12747

が思いのほか好評で、嬉しい。

 

僕にとって、小説を書くことは、実に楽しい作業だ。

想像しながら書く、そんな創作作業には

いくつものイマジネーションが重なり

そして、ひとつになる。

 

しかし、この物語は、ほぼノンフィクションだ。

強いて言えば、入念な取材の元に

忠実に書かれている、と言って良い。

 

僕をよくご存知の方なら

物語に登場している自動車が

僕の「愛車 (当時)」だということは

すぐにお分かりになるだろう。

 

僕は

「人生は物語のよう」

であって欲しい

常に、そのように、思っている

 

なぜなら

「人生は一度きり」

だからだ。

 

たった一度の物語を

「主人公で、いたい」

と思うのは、「普通の感覚」ではないだろうか。

あなたも主人公なのです。

 

皆様の人生が

「美しい物語」

に彩られることを

僕は願って、いつも書いているのです。

 

< Mash

2016年9月10日 筆

 


<超短編>【通勤ひと駅】小説 『秋になったら「Jazz」を聴く』

2016-09-09 13:04:00 | 編集長「MASH」の短編小説集

ホテルのクラブ・フロアー

そこに有る専用ラウンジで、くつろぐ。

そんな時間が、僕は好きだ。

 

時は20時30分

夜の入り口となる、この美しい時間に

クラブ・フロアー・ラウンジを使っている人は、まばらだ。

僕は一人でココに居る。

 

先ほどまでは、このホテルにあるプールで

僕は泳いでいた。

15mプールを10往復ほど泳いだ。

これで毎日自分に課している距離を

今夜も十分に達成出来ている。

コレは重要なことだ。

 

いつも使っている

海の見える会員制のプールも悪くは無い。

しかし、時々シチュエーションを変えてみたい・・・。

そんな衝動に駆られる。

今日はそういう日だった。

 

そして、このような日のために

「クアトロポルテ」

は駐車場で出番を待っている。

僕はこの4代目に当たる「クアトロポルテ」が

一番マセラッティらしいと思う。

 

美しい気品と重厚な走り・・・

そして、ウッド・ステアリングとオール・レザー。

これこそが、クラブ・フロアーへ続く階段の役割を

十分に果たしてくれるのだ。

 

時間の使い方は、美しくなくてはいけない。

その美意識、を僕は重んじている。

時間こそが、すべてだ。

 

時は秋に入ったとは言え

残暑はまだ夏のままの姿を残している。

ラウンジでは「Jazz」が流れている。

小さく、会話や仕事の邪魔にならない音量

それが心地良い。

 

ピアノを中心とした演奏

「ビル・エヴァンス」

「バド・パウエル」

「セロニアス・モンク」

「ホレス・シルヴァー」

「マル・ウォルドロン」

それら巨匠達の、馴染み深い演奏が流れている。

 

秋には「Jazz」がイイ。

そう断言できる自分がいる。

ただ、残暑が残る今

これらの演奏を、どのような場所で聴くだろうか。

そうなると、このようなラウンジ以外、決して存在はしない。

 

自分の部屋に帰ったら

「秋の準備を始めよう」

そのようなアイディアを、彼らの演奏は僕に引き出させた。

 

レコード・ラックの「Jazzの棚」をゆっくりと眺めながら

今年の秋に、重点的に聴く作品を

ピック・アップしよう、と僕は思い立った。

 

秋には「Jazz」がイイ。

このアイディアを思いついた僕は

残っていた「ペリエ」を飲み干し

手帳に、いくつかの「思い当たる盤」を記した。

 

ワクワクする瞬間がそこにあり

それはこの最上階から見下ろす

「大都会の戦争」

とは無縁のように感じた。

 

待っていた彼女が

プールから、このラウンジへ戻って来た。

「お帰りなさいませ」

と、ラウンジのスタッフが声を掛ける。

 

その声と、彼女の笑顔

そして、「Jazz」

僕には、そのすべてが、見事に調和し

とても心地良く感じた。

<終>

 

<物語のあとがき>

http://blog.goo.ne.jp/12mash/e/4fe4f107cacd76e55f580c938bb23de3

 

<  Mash

2016年9月9日 筆

<超短編>【通勤ひと駅】小説「夏服を着た少女」と「その笑顔」

2014-08-02 23:37:40 | 編集長「MASH」の短編小説集

彼女と僕は

一週間に一度

決まった場所で逢うだけだ。

 

そこは彼女がウエイトレスとして

働いているレストラント。

 

僕はお客として

そこで彼女との接点を

ほんの少しだけ持つ。

 

そんな些細な関係でも

何度目かには

お互いに、ちょっとは笑顔にもなり

コミュニケーションも深くなる。

 

僕にとって

彼女の印象は「笑顔」だ。

笑顔そのもの

と言ってもいい。

 

その「笑顔」は僕をも「笑顔」にし

もちろん他のお客さんたちをも「笑顔」にしてしまう。

そう。

その「笑顔」は無敵なのだ。

 

しかし僕は断じて

彼女を見に来ているわけではない。

 

仕事の打ち合わせで

このレストラントを使うことが

ほとんどだから

彼女との接点はオーダーの時くらいなものなのだ。

 

しかし今夜

僕は特別なものを目にしてしまった。

 

彼女が仕事を早く切り上げ

帰り際、私服姿で見せた

あどけない「笑顔

 

ユニフォーム姿から

白いブラウスに

濃い目の青いハーフ・ジーンズ

そして上げ底のメッシュ・サンダル・・・

に着替えていた。

 

そんな

夏服を着た少女

が見せた

これ以上無い、と思える最高の笑顔

 

その

はにかんだ表情は

まだまだ幼く、あどけないものではあったけれど

キリッとしたユニフォーム姿とは一線を画す

実に魅力的なものであった。

 

そんな仕草に

僕は恋に落ちてしまった。

 

そして出口を出て行く

彼女の後ろ姿を見送りながら

ふと彼女があの夏服で

憂いでいる姿

を想像してみた。

 

鮮やかなブルーのパンツ

そして

純白のブラウス

海を見ながら

ぼんやりと憂いでいて欲しい。

 

季節は夏の終わりがイイ

人も少なくなった平日の片瀬海岸で

日差しはまだ暑い。

そんな日の夕方

ひとりで座りながら

憂いでいて欲しい。

 

サンダルには少しだけ砂が付いていて

駅で貰った江ノ島観光のパンフレットを敷き

アスファルトに座っていて欲しい。

 

きっとこの夏に

何か物語があったように

人には見えるだろう。

その物語を想像することは

とても楽しい。

 

ウエイトレスとして働き始めて3ヶ月

仕事も覚え、楽しくなってきた頃

彼女はひとりのコックを好きになった。

 

同じアルバイト同士意気投合し

無理矢理、彼に休みを合わせ江ノ島

そう、この片瀬海岸へやって来たのだ。

 

そこで、彼の口から

「付き合っている女性がいる」

ということを聞かされる。

 

「え~!どんな人?」

彼女は聞いてみる。

聞きたくもないのに・・・・。

もちろん、表情は「笑顔」で。

でも僕の知っている「笑顔」ではないんだ・・・。

 

ここまで想像し

僕は、ふと思った。

 

憂いだ姿

それはそれで美しい。

だけれど、やっぱり僕が見たいものは

彼女の「あの笑顔」なんだろう。

 

夏服を着た彼女」の「あの笑顔

を、僕は一番近くで見てみたい。

 

そんなことを思いながら

消えていく彼女の後ろ姿だけを

ただただ、目で追っていくことしか

今夜の僕には出来そうになかった。

 

そして

「コーヒーをもう一杯」

僕は別のウエイトレスに注文をした。

 

< Mash

2014年8月2日 筆

<超短編>【通勤ひと駅】小説 『トライアスロンと彼女』

2012-05-09 13:18:39 | 編集長「MASH」の短編小説集
先ほどまで、ホテルのラウンジにいた。
 
最上階に有り、街を一望できるラウンジ
僕は軽めに、しかし、しっかりと酔えるバーボン
エイシェントエイジ」を
一杯だけ、ひっかけていた。
 
そんな僕に彼は気さくに話し掛けてきた。
大学生だと言う彼とのおしゃべりは
独りで飲んでいる旅行者の僕には楽しく、
そして、新鮮であった。
 
将来の進路について、考え出すとパニックになっちゃうんですよ・・・
笑いながら言う彼に
考えたって仕方ないよ。気楽に行こうぜ!
と僕も笑いながら答えた。
そして、好きなことを楽しむことさ!
そんなことをアドバイスした。
 
彼との時間は楽しく過ぎ
僕らは外で飲み直すことにした。
ホテルのBarも悪くは無いが、
少し街の雰囲気を知りたかった。
 
だから僕らは1階のロビーで落ち合うことにした。
彼は部屋で着替えをすると言い、部屋へ戻り、
僕はそのままエレベーターでロビーへ降りた。
 
エアーコンディショナーが程よく効いている
夜11時のロビーに人影は無い。
 
僕は新聞を広げ、何分くらい経ったのだろうか?
それでも彼はいっこうに現れないままだった。
 
僕は彼の名前も、部屋も知らないまま、
ただただ、待つしかなかった。
 
そんな時フロントに立っていた女性が声を掛けてくれた。
どなたかお待ちなのですか?
僕は救われた気分で
ええ、Barで会った奴を待っているんです。
ご友人の方ですか?
いえいえ、偶然会って意気投合し、外へ飲みに行こうという話になったのですが
まだ、現れないのですね?
そういうことです。
お名前は?
いえ。
ご存じないのですね。
ええ、お互い名乗らぬまま、ここで待ち合わせということに・・・
なんか、男性らしいお付き合いの仕方で素敵ですね。
 
そんな歯切れの良い会話が続いた。
彼女は素敵な女性だった。
 
この時間はほとんど毎日、誰もロビーに人は居ないので
フロントは暇だと彼女は話してくれた。
そして、僕の差し向かいのソファーに、ちょこんと、腰を掛けた。
 
私、明日からハワイに行くんです。
えっ、イイなぁ!
本能的に僕は答えた。
 
ですから、いつもは入らない深夜帯を、無理やり入れられ、こなしている最中なのです。
そう言うとニコッと微笑んだ。
それが仕事だから出来る微笑ではないことくらい、僕にもすぐに理解できた。
朝まで勤めて、その足でターミナルなのです。
  もうクロークには自分のスーツケースがお待ちかねなのですよ。
バカンスですか?
僕は十中八九正解だと思い尋ねた。
 
いえ、トライアスロンをしに行って来ます!
 
正直僕は驚かされた。
華奢な身体からは想像も付かない、
トライアスロン」という肉体的な言葉に、
少なからず気分が高揚した。
 
やられるんですね?
ええ、やります!もう5年も続けてるのですよ。
彼女は楽しそうに笑った。
 
へぇ~
僕は純粋に参っていたし、酔いもすっかりと覚めていた。
 
僕はバイクはやるのですが、スイムがダメなんです。
えっ、先ほどプールで泳がれていたじゃあないですか?
ご覧になったのですね?
ええ、見ましたよ。しっかりと!
そう言って彼女は笑った。
 
しっかりとした筋肉で、正確なストローク。
  あっ、この人は何か運動をやられている方なんだな。とすぐに分かりました。
僕はフットボールとテニスが専門なんです。泳ぎは毎日の日課です。トレーニングですよ。
フットボール?
ああ、サッカーのことです。アメリカと日本以外はフットボールと言うんですよ。
へぇ~。勉強になるなぁ・・・
そう言って、手帳を取り出し、美しい指先に握られた黒檀のボールペンで
「フットボール=サッカー(US、JAPのみ)」とメモされていった。
 
随分と仕事熱心だね。
少し冗談っぽく言う僕に
メモ魔なんです。
と微笑む彼女の髪が、僅かに揺れた。
 
それ最高に良い癖ですよ!
僕は楽しくなってきていた。
新人の時に教わって以来、手帳が離せません。職業病です。
そう言って彼女も笑った。
 
私は全く運動がダメな人間だったのです。
彼女は少しだけ、遠い何かを思い出す目をして言った。
だから、伸びしろが凄いんです。ゼロからは何でも全部プラスですから!
そう言ってビッグ・スマイルを浮かべた。
 
そうは言ってもさぁ・・・
僕はこの時間を純粋に楽しんでいた。
 
そんな時に彼が現れた。
すみません。お待たせして、友人から変な電話が入ってしまって・・・。
 また掛かってくるので、申し訳ありませんが、今夜はパスさせて下さい。
  なんか、彼女のことで悩んでるみたいで・・・
 
僕は内心ほっとして
ああ、構わないよ。ただ、男が女のことを悩んでも解決しないぜ。
 こちらの女性に相談したら?
僕と彼女は笑った。
 
そんな時に彼の着信音がなった。
すみません。失礼します。
そう言い残し、彼は足早にエレベーターへと向かった。
 
これだよ。
呆れ顔の僕に
でも、彼のお蔭でお話できたので・・・
それも、そうだ。
じゃぁ、もう少しだけ、お話ししましょ。
彼女の顔が恥ずかしそうにほころんだ。
その表情は少女のように清らかで、とても美しく見えた。
 
僕は数日後にはトライアスロンに出ている彼女を想像してみた。
 
残念ながら全く想像できないまま、
僕は口を開いた
そうは言っても、トライアスロンだろ?
 
彼女は満足そうに
はい!
と元気よく答えた。
 
夜にはまだまだ、先があるようだ・・・・。
 
< MASH
2012年5月9日 筆

<超短編>【通勤ひと駅】小説 『四月になれば彼女は・・・』

2012-04-02 10:17:09 | 編集長「MASH」の短編小説集

夜風はまだ冷たい。

四月だというのに、
「今年の春」は
ずいぶんと「のんびりとしている」感じがする。

四月になると僕には思い出す曲がある。
サイモンとガーファンクルの2分弱の小曲
4月になれば彼女は

僕にとっては大切な曲のひとつ。

4月から9月までをシンプルに、
そしてシニカルに描いた
ポール・サイモンの歌詞には

独自の切なさ

が入り込んで、実に美しい。

4月に彼女と出会い
7月には別れて
9月にはふと思い出す・・・

一種、僕の理想の形を描いたこの曲を、
僕はティーンになる以前の
子供の頃から
愛している。

曲のことをペンで書くことは不可能
と分かって頂いた上で
書かせて頂くとしたら

この詩にマッチした
シンプルなギターの調べ・・・
とでも言おうか。

そして、夜風に流されながら
この田舎道を歩く僕の心には
ある女性の影がちらついていた。

四月になればきっと、あなたもうまくいくわ
そう言って彼女は去っていった。

しかし、あの23歳の春
僕はまったくの「どん詰まり」だった。

ギターを弾くことにさえも疲れていたし、
ロクな音楽の仕事は当然回ってこなかった・・・・

何もうまくいっていなかった
ように感じていた。

しかし、あの春に確信したことがひとつだけあった。

彼女が僕の傍らから、いなくなって良かった・・・

あの夜、ギグを終え、ギターケースを抱え
新宿駅へ向かって歩いていた僕は
人ごみの中で

子供の頃から憧れていた
この曲の歌詞のような大人になれたような気がした


そして、そのことに
僕は必要以上に興奮し、大いに感動した。

今、彼女の影はもう思い出せないくらい薄くなっていて、
この田舎道のまばらな街灯では、到底映し出せない。

しかし、ふとした瞬間に
頭の中を駆け巡る曲達によって
彼女は鮮明に蘇る


それが僕の人生の
些細な楽しみなのである。

来年の「四月になれば彼女は」
またひょこっと顔を出す。

また一段と薄い陰になって・・・。

それを僕はあと何年楽しめるのだろうか。

< MASH

2012年4月2日 筆


<超短編>【通勤ひと駅】小説 「彼女と僕の場合」

2012-02-07 08:55:44 | 編集長「MASH」の短編小説集
彼女と僕の関係
 
もし、コーヒー・ショップにいる
今の僕らを、君が見たならば
間違いなく、恋人同士に見えるだろう。
 
しかし、僕らの関係は、
とてもフラットな関係であり、
会った時の居心地の良さを
僕らは気に入っている。
 
2人の間には
男女の、俗に言う、恋愛感情は存在しない。
 
もっと深い、
そしてシンプルな、お互いへの愛情
そこには存在している。
 
と、そんなふうに、僕には思える。
 
だから、彼女といる時間は楽しい。
 
心を開ききった二人に
隠し事は一切、無い。
 
あるのは
信頼関係があるからこそ成り立つ
そんな話ばかり。
 
この関係を知り合いに話したことがある。
彼の反応はこうだ。
 
男女で親友になるって、俺には難しいよ。
 
でも、性別なんて、ほとんど関係ない。
 
僕らはお互い
好きだ
と言い合える関係だけれど
本当の意味で
大人の関係
なんだと思う。
 
僕はコーヒーを飲みながら、
彼女を見つめる。
 
そこには
人生を前向きに生きている
彼女の美しさがある。
 
風に吹かれる。
そして、長い髪が乱れる。
でも、僕の心が取り乱されることは無い。
 
僕は彼女に
寒くないかい?
と訊ね
大丈夫
と彼女は答える。
 
そして、僕らはまた
底知れぬ、深い会話へと戻っていく。
 
彼女の唇が
コーヒー・カップを離れ
そして、ストーリーを紡ぎ出す。
 
万華鏡のような彼女の表情を
僕は僕で
実に様々な角度から楽しみ、
そして時おり、悲しそうな彼女の目を見つめる。
 
その目は
違う世界」を
的確に捕らえて離さない。
 
そんな彼女と僕の関係
 
それこそが
僕が理想とする
 
大人の関係
 
に他ならない。
 
と、僕は感じている。
 
< MASH
2012年2月7日 筆
 
 

<短編小説>『もうすこしで、私消えます・・・』(あとがき)

2012-02-01 09:19:40 | 編集長「MASH」の短編小説集
前回このブログで発表した
超短編小説
(読んでない方は当ページ右上「短編小説」をクリック!)
 
もうすこしで、私消えます・・・
 
はある女性
をモデルに書いたものだ。
 
毎日のように会っていた彼女
そんな女性を
 
できるだけ、そのまんま、美しく描きたい
 
そんな衝動に駆られて
作品化したものである。
 
面白いことに
彼女
 
書いたので、読んでみて下さい!
 
と伝えてから
ぱったりと会わなくなった。
 
毎日顔を合わせていたのに
同じ場所へ行っても
彼女と会うことはなく、
やっと彼女に会えたのは
2週間半が経過した頃だった。
 
僕は彼女の第一声
実に楽しみにしていた。
 
彼女の言葉には
いつも捻りが利いていて
とても楽しいからだ。
 
この2週間半
嫌と言うほど想像してみた。
先回りして脳みそをフル回転させた、
というわけだ。
 
本当にクイズのように
何百という回答を考えた。
どれか当たるはずだ!
と思いながら。
 
しかし、無残にも彼女の言葉は
僕の想像を遥かに超えていた。
 
初出演作、ありがとうございます!
 
初出演
という言葉は思いつかなかった。
 
ここにはすごく深い意味が、
実は込められているようにも感じる。
 
少なくとも僕は彼女出演の
第2作、3作を
書かなければいけない、
そんな状況に追い込まれたのだから。
 
カウンター越しの
美しい笑顔の
どこまで考えているのだろうか?
 
彼女の話を聞いてみたい。
そんな欲求に駆られる。
 
ちなみに
彼女がこの台詞を言った時の
 
はにかんだ笑顔
 
は写真のように切り取られ
僕の頭の中に保存してある。
 
できることなら、
そのファイルを頭の中から取り出して、
鏡のようにして彼女にも見せてあげたい。
 
そして、
ほらっ、君ってこんなに魅力的なんだぜ!
なんて、言ってみたい。
 
その仕事を
僕のペンの力だけじゃぁ
当然伝えられない・・・・
 
そんなことは分かっているんだけれど・・・。
 
んっ
今日俺が伝えたいこと
 
人は笑顔に魅力がある
ってことだよ
 
さあ、何もすることがなかったら
Smile
Smile
 Smile
 
< MASH
2012年2月1日 筆

<短編>【通勤ひと駅】小説 『もうすこしで、私消えます・・・』

2012-01-12 09:12:15 | 編集長「MASH」の短編小説集
夕方から夜に流れる微妙な時間、
僕は一人、マウンテンバイクを走らせていた。
 
僕の愛車は紫色のUSAラレー
もうずっと寄り添うように、何年も、
アスファルトを共にしてきた。
 
そんな仲だからだろうか?
優雅にも鼻歌で、
曲を思いつきながらのサイクリングになった。
 
うん。調子は悪くないな。
 
そんなことを思いながら、
僕は週に五日は訪れる、
あの場所へ急いでいた。
 
ラレーを停めて、
いつも思うことがある。
 
今日は彼女はいるのだろうか?
 
その一瞬の気持ちは僕を
「僕らしくなく」、
或いはとても忠実に、
「僕らしく」、させている。
 
入り口を入ると、
彼女たちが僕を迎えてくれた。
 
そして、
今日も彼女の素晴らしい笑顔に出会えた僕は、
なぜか、いつものことながら、
うまく話せないままだ。
 
挨拶を交わした後
 
今日は受付けの人、多いですね?
 
と僕はやっとの思いで言った。
 
普段は平日だと
2人体制が多いのだけれど、
今日は彼女も併せて、
3人体制で臨んでいた。
 
もうすこしで、私消えます。
 
彼女が笑顔で答えた。
 
でも僕はもう何がなんだか分からない状態なので
 
えっ?辞められるのですか?
 
と勝手に退職勧告・・・
をしてしまう始末。
そして、会場は笑いに包まれる・・・
 
いえいえ、もう上がるのです。
と、やんわり突っ込まれながら
 
働き続けてくださいね!
 
と、これまた、
ワケの分からない激励をしてしまう・・・
そして、また、みんなが笑う。
 
そうさ!俺はいつもみんなを笑わせているじゃぁないか!
と思おうとしても、
 
「天然ボケ」
なんてまったく存在しない自分に
 
まったく、どうしちゃったんだよ。
と言いたい気分でいっぱいだった。
 
そんな中、逃げるように、
しかし、気持ちは嫌々ながら
エレベーターに乗り込んだ。
 
そして、彼女と目が合う
続いて彼女の笑顔
お辞儀をする僕・・・
 
何やってるんだ・・・
 
と我ながら思う。
 
なぜお辞儀なのか?
さっぱり分からない。
 
僕は彼女の前だと、
自分の30%も力を出せていない
そんな風に感じる。
 
腐るほどステージに上り、
信じられない数の人に出会ってきた僕なのに・・・
これが「人見知りってものなのかなぁ」
なんて思う。
 
でも、なぜだろう?
 
こんなことって滅多に無いこと。
多分人生でも初めてかもしれない。
 
泳いでいる途中
 
こんな情けない男の気持ちを、忠実に歌える男って、
 この世に3人しかいないなぁ・・・
 
と思ったりした。
 
そう思うと、
詞がピタッ!と、
先ほどのメロディに重なった。
 
Come on everybody
Come on Mr.Soul
Come on Sister Ray
I'm waitng for you

Do you remember me?
 Please Not fade away...
 
そう。
Not fade away
 
消えないでおくれ!
 
彼女の言葉から生まれた最終バースは
まさに天使からの贈り物かもしれない。
 
帰り際、受付に鍵を返しに行く。
彼女が言っていたように、
当然、彼女は「綺麗さっぱり」と消えていた。
 
そして僕はラレーに乗りながら、
完成したばかりの曲を
軽~く口づさみながら帰途に着いた。
 
もういつもの自分に、
シッカリと戻っていることを
歌いながら、僕は感じていた。
 
< MASH
2012年1月12日 筆

<超短編>【通勤ひと駅】小説 『ギター弾きのクリスマス』

2011-12-09 09:20:05 | 編集長「MASH」の短編小説集
夜の海を
「ぼっ~」
と眺めながら
僕は「ハイネケン」を飲んでいる。
 
独りで飲んでいる。
そんな時間が好きだ。
 
頭の中を
一度クリアーにし、
もう一度様々なことを考えて
構築していく。
 
こう書いてみると
さも、凄いことのようだけれど、
ただ、仕事についての「あれこれ」を
頭の中で整理しているに過ぎない。
 
しかし、このBARは静かだ。
お客は僕のほかに一組だけ。
しかも、僕とは正反対の
紳士的な老夫婦。
 
音楽は控えめながら
ジョン・レノン
ハッピー・クリスマス
が流れている。
 
クリスマスかぁ
僕は一人呟いてみる。
 
クリスマス
を過ごした女の子たちのことを
思い出してみた。
 
彼女たちは皆(みな)
健やかな風のように
足早に僕の頬を撫でていった。
 
だから彼女たちのことは
ほとんど覚えていない。
 
色々な人が周りにいて、
色々なことをしていたと思うけれど、
 
クリスマスだから!」
 
と言って、覚えていることは少ない。
 
唯一僕が覚えているもの
それが
ギター」だ。
 
僕はほぼ毎年
クリスマスには
ギターを弾いていた。
 
公的な場所にしろ、
プライベートにしろ、
どこにいても、
ギターを弾いて唄を歌っていた。
 
クリスマスの夜
その都度、毎年、
僕はその時
最も近くにいる女の子」に対し
曲を書いてプレゼントしていた。
 
ステージから。
もしくは、
ホテルの一室で・・・。
 
だから、誰が誰だか?
誰に書いた曲なのか?
作者の僕にさえ、
今は全く分からない。
 
とにかく、
ラブ・ソング
と呼ばれる曲は、
この時期にしか書いていない。
 
結局、
曲だけが残っている
のだ。
 
お待たせ
そんなことを考えていると
彼女が現れた。
僕らはささやかな乾杯をする。
 
そして僕は
そろそろ曲を書かないといけない・・・
と思う。
 
クリスマス
はもうすぐそこまで
来ているのだから・・・
 
< MASH
2011年12月9日 筆
 

<超短編>【通勤ひと駅】小説 『この時間にいる彼女の存在』

2011-11-29 10:57:05 | 編集長「MASH」の短編小説集
Jazzが流れる店内で
この店の馴染み客と思われる老人が、
その子に話しかけていた。
 
学園祭が終わったところなんです・・・
 
そんな楽しそうな声が弾んでいた。
 
僕はそこから離れた席で、
仕事をしながらコーヒーを飲んでいた。
 
スケジューリングを立てる
 
というシンプルかつ基本的な仕事。
しかし、とても重要な仕事なんだ、
と僕は認識している。
だからこの店に来たのだ。
 
この店は客が少ない。
普通のファミリー・レストランとは思えない。
だから僕は来る。
 
冬の湘南海岸なんて誰も来やしないんだ。
 
と僕には分かっている。
この日も僕が入店した時間
20時半の時でさえ、
2組しかお客はいなかった。
 
一組は親子で
もう一組はよくじゃべる男と
その話を聞き続ける女の子
という図式のカップル
 
歩いていると女子高生とか見るじゃん。
 すると、ああいう痩せている子と付き合えばいいじゃん!
 私はどうせデブですよ!
  とか全部そういう感じなんだよ。
 
と男は言い、
 
ネガティブ~!
 
と女の子の合いの手が入る。
 
どうやら恋人同士ではないようだけれど、
終始そんな感じの話を、
この大学生くらいの男女はしていた。
 
しばらくすると、彼らも帰り、
お客は僕だけとなった。
 
そして、またしばらくすると
老人と娘と思われる2人組が来店した。
 
老人はこの店の常連だ。
入ってきた時からそんな感じの会話
がなされていた。
 
とにかく老人はよく喋りかけていた。
連れの娘にはあまり話さず、
店員の女の子にだ。
僕はそれを聞き、バイトの子が入れ替わった事に
初めて気が付いた。
 
なぜかって?
それまでの子は、
愛想がまったく無かったからだ。
 
とにかく、新しい子は愛想が良かった。
しかし、営業スマイルという感じではない。
 
老人とも親しく話し、よく笑い、僕しかいない店内に
老人と彼女の笑い声が響いていた。
 
気付いたらこの子に興味を持っている自分がいた。
前向きで楽しそうな人間は魅力的だ
なので、僕もコーヒーのお替りをした時に話しかけてみた。
 
この予約をするクリスマス・ケーキ、事前に食べれればいいんだけれど。
  予約して、取りに来た時に初めて食べるんじゃぁ心配だよなぁ。
 
テーブルにメニューと共に置いてあった
クリスマス・ケーキの予約を促す写真を指差し、僕は言った。
 
彼女は真剣に写真を見たかと思うと
 
そうですよね。やっぱり味ですもんねぇ!
 
と口を開いた。
 
誰かに持って行って評判が悪いとねぇ・・・
じゃぁ、クレーム出しときましょうか!
 
彼女が笑いながら言った
 
頼むよ!
 
その笑顔がより砕けていった。
 
ダメですよ~。そんなことしたらクビになっちゃいますぅ!
ははは・・・そりゃ、いかん!
 
僕も楽しい気分になっていた。
 
その後、数回、僕らは話を交わした。
 
お客さんが少ないと
自分一人しかバイトがいないので
逆に、忙しいこと。
そんなことを話した。
 
この店にバイトとして存在する彼女。
そしてこの時間の老人や僕にとって、
彼女の存在は大きかった。
 
時々ふと思う。
人間は強がっていても、ひとりでは生きられない。
こんな時間に、ふと出会う人間同士。
そして、笑顔。
 
僕らはリアルでなければいけない。
 そして、笑顔でなければいけない。
 
その後、僕は仕事を方付け、
レジにいる彼女と少し話し、
彼女の笑顔に見送られながら、
店を後にした。
 
11月末の海岸線は
もう随分と寒いはずなのに、
なぜか春のような温かさを感じていた。
 
僕の心の中に
彼女は確実に存在していた。
 
< MASH
2011年11月29日 筆

<短編>【通勤ひと駅】小説 「ブラウン・アイド・ガール」との夜・・・ (「広島の旅」VOL.5 初日番外編)

2011-05-13 12:21:07 | 編集長「MASH」の短編小説集
広島の街は眠らない
 
俺はホテルのロビーで待ち合わせ
軽くビールを飲みたい
という意見で一致した
 
ただ、ホテルの中とか居酒屋とか
そういう場所は
この時間の男同士なら
当然避けなければならない。
 
そもそも、俺は居酒屋が嫌いだ。
あの大衆臭さで飲むんなら、
自分の店で閉店後に飲んだ方が、まだ、ましだ!」
と、いつも思っているし、実際そうしている。
 
そう言えば小さい頃から
街の片隅のバーで飲むことに憧れていた。
実際ハイ・ティーンになってからは
飲みに行くといえば数人でバーばかりだったし、
彼女達ともバーで過ごす時間が多かった。
 
ラッキーだったことに
学生生活も、その後のサラリーマン生活も
東京が拠点だった。
 
そのお陰で、良いバーをいくつも梯子できたのだ。
嗅覚はその時に養ったもので、
当然、今も鈍らない
 
そして、「いつしか自分もバーを経営したい
と強く思うようになっていた。
 
時計は23時を回っていた。
バーの世界では一番良い時間だ。
帰らなければいけない人は帰路を急ぎ、
残る者は帰る場所をこれから探す人達・・・
バーの人間模様が色濃い時間。
 
ただ、俺達は数件の目ぼしいバーを見つけてはみたが、
残念ながら「感じない・・・・」店構えばかりだった。
 
雰囲気の良い「アメリカン・ダイニング・バー」からは
「エアロスミス」が流れてきたので、入るのを止めたり・・・。
そんなことを何軒か繰り返していた。
 
ここだ!
というポイントが見つからないまま
俺達は色々な道をあても無く歩いていた。
 
そんな時に耳慣れた曲が聴こえ、俺はふと立ち止まった。
 
ブラウン・アイド・ガール
 
そう。
ヴァン・モリソン
実に古い名曲が
「ココへおいでよ!」
と語りかけているようだった。
 
間違いない!
この最高の瞬間こそ
今夜の場所にふさわしい!
俺は直感し、Aを促し
そして、中に入った。
 
やっぱり!
 
俺達の顔に笑顔が浮かぶ
ヴァン・モリソンの曲が流れるのも当然と言える
本格的な「アイリッシュ・パブ」だった
 
俺達はギネスやハイネケン、そして、カールスバーグを飲んだ。
 
そして、俺達の横には2人の女性がいた。
1人は帰ってしまい、もう一人だけが残った。
もう彼女は何杯か引っ掛けているようだったが、
帰る気は無く、まだ飲み足りない雰囲気だった。
 
どれくらい飲んだの?
4杯くらい・・・
何を飲んだんだい?
えっーと・・・・
と言いながら、メニューに可愛らしい指を這わせ
シッカリと酔った口調で説明してくれた。
甘いが、決してソフトではない大人のカクテルばかりだった。
 
それから自然と俺達は3人で話し始めた。
1時間くらいが経ち
良い気分になりだした頃
 
年はいくつ?
と聞かれた
いくつに見える?
えっー、わからないよぉ。
別に当たっても何も出ないぜ。ただのクイズなんだからさ。
28!
おっ鋭い!奴は?
彼女はAを見て
同じくらい?
と答える
 
惜しいなぁ、俺が29で奴が27!
あっー、30とか言われたらショックだったぁ?
いやぁ、男は年齢よりも上に見られた方が嬉しい時もあるぜ!
へぇー、そうなんだ。
私は23!
イイ年齢だね。
そうなん?
少し彼女の声が高揚した
そうさ。その頃が一番素敵だよ!君だからかもな!
彼女は一瞬だけ、うっとりし、
いっつもそんなこと言ってるんでしょ?
と俺を見上げて笑う。
好きなのを頼めよ!一杯おごるぜ。ニアピン賞だ!
わーい。嬉しい!
彼女は素直に喜び、
バーテンのお任せによるウォッカ・ベースのカクテルを口にした。
うわぁ、強いよ、コレ!
おっ、飲ませてよ!
確かに強い
これでクロージングにする気だな!
と俺は感じた。
チビチビやれよ。じゃなきゃ、すぐにぶっ倒れちゃうぜ!
うん。こりゃ強いわ!
 
それから彼女のチビチビ
どれくらい付き合ったのだろうか?
 
気が付いたら1時半になっていた。
もう日付が変わり「火曜日」になっていた。
あれだけいた客も
今や俺たち3人しかいなかった。
 
酔った彼女は
このバーで働く友人の家に泊まることになっていた。
俺達は軽い抱擁を交わし、店を出た。
 
Aとも別れ
ホテルの部屋へ戻りシャワーを浴びる・・・
 
ヴァンのあの歌が
頭の中で響き続ける・・・
まったりとしていた火曜日 一体何が起こったのか?
そうヴァンは歌っていたっけ。
 
そしてヴァンになりきって歌ってみる
そこには君が、ブラウンの目をした僕の女がいた!
 
イイ夜だった・・・
と誰もが感じていた。
 
< MASH
2011年5月13日 筆

<短編>【通勤ひと駅】小説 『スペース』

2009-12-15 14:24:44 | 編集長「MASH」の短編小説集

マンションの重い扉を開けると、
そこにはスペースが開がっている。
スペースと言っても、それほど広い訳ではなく、
実に居心地のいい空間ということになる。
僕は必ずそこで、週末を過ごす。

玄関フロアーを抜ける廊下の壁には、写真が無造作に、
しかし、「どこか統一感があります!」と主張するように
大小細々と点在されている。

その写真の中には、僕の40年間の歴史を見て取れる。
思わずシャッターを押した写真から、
友人が撮ってくれた自分のポートレート、
旅の足跡を残すような旅先での写真、
写真は映像と違い、見返す事により記憶の旅先に自分を誘う。

そんな写真の中に、僕は、美佐子の写真を発見した。
何気なく彼女が街中で上を向いている写真だ。
僕は、この写真を待ち合わせたカフェの窓越しから撮影した。
始めての場所での待ち合わせに早く行き、
僕はカメラを構えていた。
冬の日差しは穏やかそうに見えるけれど、
写真の中の彼女は、重そうなコートに赤いマフラーをしている。
美佐子は2階にあるカフェを探して見上げていたのだけれど、
その何とも言えない物憂な表情は、
まさに僕にとっては最初で最後の「素の姿」であり、
他者を意識しない美佐子のスペース溢れる姿であった。

この頃の僕らは二十歳だ。
彼女と僕は付き合いだして間もない時間。
「待ち合わせに遅れまい」としている彼女の表情が好きだ。

「あの時は待ち合わせで待つ時間さえも楽しかった。」
彼女は、1年後、別れる場面で僕にそう言った。
「今はお互い別の方に向いているよね。」
僕もそう答えた。
実際のところ、僕にはスペースが広がっていた。
すぐにでもアメリカへ渡り、写真を撮るつもりでいた。
その為に、大学は休学したのだ。

結局、大学へは戻らず、
僕は写真を撮る生活を今までずっと続けている。
「写真は記録だ。」
とも「記憶だ。」とも言う。

一枚の写真から「広がるスペース」を
僕は思う存命楽しんだ。
そして、少しだけ、
「ほろ苦い気分」にさせてくれたのです。



2009年12月15日 筆






<短編>【通勤ひと駅】小説 『ギネスのグラスが空っぽです』

2009-09-02 01:24:54 | 編集長「MASH」の短編小説集

「彼は本の虫なんです。もう25歳にもなるのにまだ大学生で、
 まだ、本ばかり読んでいます。」
そう言い終え、彼女はグラスに少しだけ口をつけ、笑った。

僕らの前にはギネス・ビールの1パイントが置かれている。
そう。ここは「バー」だ。
そして外は雨だ。
強い雨が都会のアスファルトを濡らしている。
「バー」の一角の席で僕は彼女と「差し向かい」に座っている。

一般的には「バー」と言った方が分かりやすい。
だけれども、店構えとしては、「ブリテッシュ・パブ」に似せた雰囲気があり、
メニューからしても、「パブ」の要素が幾分強い。
その証拠に「フィッシュ・アンド・チッップス」を僕らは摘んでいる。

しかし、
本ばかり読んでいて、留年に留年を重ね、
今でも本を読んでいるなんて・・・、
「イカシテイル人生」じゃないか!
そう思いながら

「本を読まないではいられないんだよなぁ・・・」
と、ふと僕の口をついて出た。
これは僕の僕に対しての本音だった。
でも、彼女は彼に同情する台詞と取ったのだろう。
「ええ、だから彼、古本屋さんになればいいんです。
 京都に住んでいるので、そこで本に囲まれて・・・楽しいはずでしょ?」
と続けた。
僕は笑った。
「京都の町並みに合いそうな古本屋さん!」
彼女は「自分本位」に言い、「そう思いませんか?」
と僕の顔を覗き込んだ。
僕よりもずっと若い彼女の目には
どこかへ忘れて来てしまった、
「澄んだ鏡のような瞳」があった。

そんな彼女の瞳のせいだろうか?
それとも激しく降り続ける雨の音がそうさせたのか?
「過去の自分」を少しだけ思い出させた。

「本を読まずにはいられない」のは僕も一緒だった。
小さい頃から本が好きで、寝ずに小さな灯りを頼りに読んだ。
それで視力は見る見るうちに低下していったのだ。
読める本は片っ端から読んだ。
聴ける音楽を片っ端から聴いてしまった高校時代、
残りの1年間は毎日何冊も本を読んでいた。

現実に戻ると今でもほぼ毎日
バス・ルームで本を読んでいるくらいなのだ。

だから僕は、ふと想像してみた。
新幹線に飛び乗って、京都で降り、
彼の経営する「少しだけ変わった古本屋」へ行くのだ。
「少しだけ変わっていて欲しい」という僕の欲求が、
「少しだけ変わった古本屋」に仕立て上げた。

では、何が「少しだけ変わっている」と良いのだろうか?
僕は想像の旅を続けた。
「京都に関係のある書物しか置いていない」
というのはどうだろうか?
有りそうで無さそうだけれど、
それでは旅のお土産にしかならないような気がするし、
何より「京都一色」では逆に面白味が無い。
旅の醍醐味はやっぱり予想外の物であって欲しい。

「彼はどんな本が好きなの?」
僕は彼女に彼の姿をヒントとして求めたのだけれど、
「何でも読みます。小説から雑誌まで、な~んでも。」
そして、
「だから留年しちゃうんです。」
と屈託無く笑った。

ヒントを引き出せないまま、
僕は「洋書しか置いていない古本屋」を思いついた。
さっきとは逆の発想だ。
外国人も多い観光地だし、生計は立てられそうだ。
実際「洋書の古本屋」は全国にもまだ稀である。
「洋書」が読みたい時に合わせて、外国に行くプランを立てる僕からしたら
実に嬉しい場所になることは間違いない。

ただ、彼は「語学が堪能ではなく、洋書も読まない」という。
これでは、オーナーの眼力の無さから
本のバラバラさだけが目立ってしまい、
専門店としては全く面白味が無い。

その結果、残念ながら僕の旅が終わった。
僕が行きたい「古本屋」は彼には出来ない。
そう結論づけ、僕は彼女に言った。

「彼の人生が楽しいものになるといいね。」
彼女はコクンと頷き、僕はギネスを飲み干した。

外は相変わらず雨が降っていて、テレビでは開票速報が続いている。
音声は消してあり、パワー・オブ・バランスが映し出されているだけだ。
したがってサウンドは僕の聴きたくない種類のロックが大きく響いていた。

見るでもなくテレビに目をやりながら、僕はある歌を思い出していた。
「ブック・オブ・ドリームス」
アメリカ人の女性が書いたその歌を僕は頭の中で歌ってみた。
「私の夢の本、その中には何が・・・」そう歌っていたはずだ。
「その中には・・・」彼は何を書き加えるのだろうか。
そして、目の前の君は・・・

「ねえ、どうしたの?」
そう言って心配そうに覗き込んだ彼女に、僕は精一杯の笑顔で答えた。
「美しい君を見ていたら酔っ払ってしまったよ。」
「うっそばっかし~。でもちょっとだけ嬉しいかな。」

照れた彼女と僕はグラスを合わせた。
雨音の中、空っぽになったギネスのグラス同士が「カチン」と乾いた音を立てた。
少しだけ2人の心が重なり合って、
そしてすぐに雨に流され、消えていった。

その消え方があまりにも早く、
見事なまでに呆気無かったので、僕らは大笑いした。
そして、可哀相な「空っぽのグラス」に
もう一杯だけギネスを注いでもらうことに決めた。

< Mash

2009年9月2日 筆


<超短>【通勤ひと駅】小説 『ビートルと彼女』

2009-03-16 13:55:47 | 編集長「MASH」の短編小説集

夜11時半過ぎ
仕事場である自分の店を出た。
僕は車でゆっくりと国道467号線に入り、
慎重にアクセルを吹かした。

73年製のメルセデスW114のオートマチックは、
ゆっくりとシフトアップしていくので、
そうする必要がある。

カーステレオは鳴っていない。
この車では、鳴らすべきではないのだ、と僕は思う。
だから鳴らさない。

信号で止まり、前の車と近づいた。
割と大きな交差点で、この時間でも歩行者が横断歩道を渡っている。
前の車は70年代のフォルクス・ワーゲン・ビートルであり、
その車のルームミラーが右側のドライバーを少しだけ写した。

女性だ。

年の頃は分からない。
もちろん顔立ちや服装などはもっての他だ。
小さな古いルームミラーからのヒントは、
信号が青になり遠のく。

僕のメルセデスはしばらくの時間
ビートルの後ろを走った。
「どこまで行くのだろう・・・」
興味が沸いたまま僕はいつもと同じ帰路を走った。

藤沢警察署を左斜めに折れ、海へと向かっていく。
「最後の分かれ道は134号線のT字路になる。」
僕は左、彼女が右に行けば
「さよなら」
だ。

しかし、彼女は江ノ島方面
つまり左折ラインに入ったのだ。

僕はワクワクした。
なぜなら綺麗に仕上げてあるビートルの運転手を
間近で見れるチャンスだからだ。

彼女は左折し左レーンへ
僕も左折し右の追い越しレーンですぐの信号で止まった。
この信号が必ず赤になることを、
僕は毎日のことなので、当然知っていた。

僕と彼女は今とても近くにいる。
メルセデスとビートルのドアを挟んだだけだ。
当然、たまらずに声をかけた。

「何年式?」
彼女も窓を開けた。
「74年です。」
美しい女性だった。20代半ばだろうか・・・。
車を本当に愛している感じが、
その声から僕に伝わった。

「スポルトでしょ?」
「そうです。よく分かりましたね。」
「走りを見れば分かるよ。俺もこれだからね。」
彼女は僕のメルセデスを見渡した。
「73年だから君のと変わらないよ。」
彼女はうなずいた。
「しかし、綺麗に乗ってるね!」
「ありがとうございます!」
その感じから、まだ買って間もないレストア車だと僕は思った。
きっとまだ「試し乗り」期間で、
海岸線を軽く流しに来たのだろう。

信号が青に変わった。
「大切に乗ってね!」
「はい!」

僕はいつもどうりスムーズに発進し、
彼女を置き去りにした。

僅かな15分間のタンデム。
その中で会話はたったの1分半。

自宅のマンションにパーキングし、
外の海風を吸い、ふと思った。

これは十分なストーリーだな!

そして「彼女の笑顔」を少しだけ思い出していた。

< Mash

2009年3月16日 筆