読者諸賢、ご機嫌いかが?
ハウリンメガネである。
早くも気候はまるで夏!
といわんばかりにヒートアップ。
熱中症には存分にご注意を。
(今年はちゃんと梅雨ってあるのかしらん。
このまま連日夏日になりそうで恐ろしいなぁ)
さて、諸君。
盤の話に入る前に
「フリッパートロニクス」
という言葉をご存知だろうか?
まあ「知らん!」という人が九割。
「あー、ロバート・フリップが昔、
なんか言ってたやつでしょ」
という人が七分。
「80年代以降のロバート・フリップを語るために欠かせない要素の一つであり、これが無ければディシプリン・クリムゾンもなかったであろうし、現代におけるループミュージックの概念もまた変わっていたであろう……」
と滔々と語りはじめる私の同類が三分、
といったところであろう。
というわけで(笑)
滔々と語りたくなる三分側の人間である私からまずはフリッパートロニクスなるものについて説明させて頂く。
長くなるがご容赦の程を。
まずは答えから書いてしまおう。
「キング・クリムゾンの総帥であるロバート・フリップ先生が考案した、オープンデッキ型テープレコーダー二台を使用し、リアルタイムで録音→再生をループで行う機械」がそのシステムの正体。現代風に言うならリアルタイムサンプラーである。
信号の流れを説明すると
というふうに、
一定周期で録音/再生を繰り返すテープレコーダーにフリップ先生がリアルタイムでギターを録音していくループミュージック……
という方法論がフリッパートロニクスなのである
(より正確に言えば、ここにミキシングコンソールによる、録音フレーズの音量コントロール、イコライジングも含まれる。さらにいうならばこの仕組み自体は当時から存在していたディレイマシンであるテープエコーに極めて近く、その仕組みをギター単独でのライブツールとして再解釈、発展させたものといえるのだが、当時こんなことやってたのはフリップ先生ぐらいのもの。流石!)
とまあ、ここまで読んで
「ん?テープループ?」
と気づいた方もおられよう。
このコラムでテープループといえば
前回の主役だったブライアン・イーノ!
そう!このフリッパートロニクスというシステム、まさにイーノのテープループシステムにインスパイアされたフリップ先生が自分流に
(つまりギタープレイヤー的に)
テープループを使いやすくした!
そんなシステムなのである!
(なお、このフリップ先生とイーノの関係は1973年にフリップ&イーノ名義でリリースされた名盤「no pussyfooting」に端を発するのだが、ここでこれに言及すると話が終わらないので後日やる。お楽しみに!)
当時、ソロプレイヤーとしての活動範囲を拡げていたフリップ先生は
自分のプレイスタイルを維持でき、
なおかつ、どこでもプレイできる方法論
を模索していた。
バンドというものは古今東西
その機材の運搬に四苦八苦するもので、
ましてキング・クリムゾンという
「巨大な怪物」においてはその移動にも多大な苦労を伴う。
結果としてツアーで回れる演奏会場も
ある程度のキャパシティを要求され
自ずと限定されてしまうのだが…
その点、このフリッパートロニクスであれば、
・ギター
・アンプ
・エフェクトペダル少々
・レコーダー2台
があればライブが成立する
(つまり、バン1台あればどこへでも行くことができる)。
フリップ先生曰く
「可搬性に優れたインテリジェントなユニット」
であるフリッパートロニクスを使い、
レコードショップ、映画館、小劇場、大学などなど、あちらこちらで行われたライブ音源のみで構成されたレコード、
それが今回ご紹介するこの1981年作
「Let The Power Fall」
(日本盤...だけど見本盤だぞぅ笑!
もちろん、帯もついてるぞぅ笑!)
なのである!
(なおこの年にディシプリン・クリムゾンの1st、Disciplineも発売されている。フリップ先生のファンにとっては大当たり年だったといっていいだろう)。
[A-1]1984と[A-2]1985は1979年8月4日バンクーバーのロブソン・スクウェア・シアターでの演奏。
[B-1]1986は1979年7月30日バークレーのタワーレコードでの演奏。
[B-2]1987は[A-1][A-2]同様バンクーバーのロブソン・スクウェア・シアターでの演奏だが、収録日は1979年8月6日。
[B-3]1988は1979年6月22日ミネアポリスのウォルカー・アート・センターでの演奏。
[B-4]1989は1979年7月29日サンフランシスコのマビュヘイ・ガーデンでの演奏を収録。
(フリッパートロニクスのもう一つの利点としてその仕組み上、その場の演奏で使用されたテープがそのままライブ音源として残ることが挙げられる。このアルバムもフリッパートロニクスツアーで録音された音源の中で特に出来の良かったものを収録している模様)
帯に書かれた
「ギターとテープの連動システム「フリッパートロニクス」を駆使してフリップが描く、神秘で荘厳な音宇宙…」
という売り文句通り!
完全にフリップ先生一人で構築される音像は
まさに宇宙的と表現するのがぴったり。
フリップ先生お得意のファズとヴォリュームペダルを駆使したロングトーンがフリッパートロニクスによってハーモナイズされ、果てしなく延々と美しい音像を生み出し続けることでまったく飽きの来ないアルバムに仕上がっている。
(なお、個人的にこの時代のギターというものへの概念を変えたもう一枚の傑作と考えている盤にash ra tempel(というかマニュエル・ゲッチング)の「inventions for electric guitar」があるが、
こちらが多重ディレイによるシーケンスフレーズの構築美であるならば「Let The Power Fall」はトーンそのものの変化による水墨画の趣きといえる
(なお、インベンション〜の方については中期以降のU2におけるエッジのディレイサウンドに大きな影響を与えたのは間違いないと筆者は考えているのだが、それに言及された資料を見たことがない。ご存知の方、いらっしゃれば是非ご教示願いたい。閑話休題。))
確かにどの曲も構成は似たり寄ったりで、
使っているフレーズもそんなに変わらない。
なのに聴いていてたるさをまったく感じない。
ライブ一発録りというテンションと
フリップ先生のクールなメロディ感覚が
ジャストのバランスで成立した名盤、
それが「Let The Power Fall」なのだ。
ディシプリン以降のクリムゾンでは
どちらかといえばシーケンシャルなリズムプレイに
力点が置かれていたフリップ先生だが、
このアルバムを聴くとやはり本質的には
メロディアスなプレイヤーであることが
本当によく分かる。
筆者は去年(2018年)の年末に
クリムゾンの大阪公演でも同様のことを強く思ったが、
先生お得意のあのロングトーンは思うに
フルートやヴァイオリンのように繊細で甘美なトーンをギターから引き出すための方法論に過ぎないのではなかろうか。
その結果生み出されたトーン、そしてメロディは
一般的なメロディアスという概念とは異なるものであろうけれども、間違いなく甘美であり、このハーモナイズの妙を是非皆も体感してほしい……
ここからは余談となるが、
このフリッパートロニクスはデジタルディレイ等、エフェクター群の発展を経て、
サウンドスケープへとその名を変えていくのだが……
個人的にサウンドスケープ以降より、
この頃のフリッパートロニクス期の方が
私は好きである。
理由は単純で、
サウンドスケープ期に入ると
フリップ先生がギターシンセとピッチシフターを多用し始めるため、
この頃のフリップ先生特有の
「ギターという概念をなんとかして新しい次元へもっていくぞ!」
感がなくなっていくのだ
(いや、悪くはないんだけどね)
……こんなことをフリップ先生に言った日には
「君は何も分かっていない。
いいか、よく聞きたまえ、ギターという概念の発展においてギターシンセサイザーが果たした役割というものは……」
と滾々とお説教をくらうのは間違いないのだが(苦笑)、
これは致し方あるまいよ。
フリップ先生はいつの時代も最先端の機材にお熱を上げる人で、
今のセットアップでも最新型ギターアンプシミュレーターを組み入れていたりする。
自身のサウンドを常にアップデートしようとするその姿勢にはただただ頭が下がるばかりだが、
こちとらアナログサウンド信奉者(笑)!
お説教されたとしても
「でも先生、こっちの方が絶対いい音してると思いますぜ?」
と言うしかないのである。
言ったところで絶対フリッパートロニクスには戻らないだろうけど…
いや、フリップ先生!
やっぱりこっちの方がいいですよ!
不肖のファンからの一方的な願いではありますが、何卒ご一考の程を…
先生ぇぇぇ!
以上、
いつになってもクリムゾン絡みになると
どうにもバカなファンと化してしまう、
そんな「ハウリンメガネ」でした。
うぉぉ!フリップ先生ぇぇぇ!