読者諸賢、約一週間ぶり。
ハウリンメガネである。
告知の通り、今月は
「ハウリンメガネスペシャル!」ということで
矢継ぎ早ではあるが、さっそく今回の本題に入らせていただく。
前回の告知で、勘のよい方は気づいただろうが
観てきたぞ... キング・クリムゾン!
それはポール師のライブを目前に心が浮ついていた
そんな11月初旬のことである。
ポール師匠の来日情報が気になり、
ネットで情報を仕入れていたときに
ふと目に入って来た並列文字。
「キング・クリムゾン来日公演チケット販売中!」
...えっ!?なに!?来るの!?
実のところ、筆者はロバート・フリップ先生に
深く尊敬の念を抱く者である。
破壊的なディストーション/ファズギターを
それhそれは美しい表現にまで昇華したあのセンス(この辺についてはイーノも絡んでくるので、別の機会に詳しくやる)。
リズムギターという概念の極致といってよい
あのシーケンシャルな単音バッキングなど、
ロックギタリストの中ではクラプトンやアンディ・サマーズと並んで私に強い影響を与えた!
そんな一人なのである。
ああ、フリップ先生率いるクリムゾンが来る…
行かねば!
...というわけで2018/12/9(日)に大阪グランキューブにて行われたキングクリムゾン来日公演へ行った次第である。
さて、ライブの感想を語る前に
クリムゾンについて少し整頓しておかねばならぬ。
なにしろクリムゾンは歴史が長い上に、
幾度にも渡るメンバーチェンジ、解散、再結成を繰り返しているので
それぞれの時代を筆者がどう分類しているのかを
ココで明記しておかないと後で困るのである。
よって、筆者の中での分類を先に述べておく
(なお分類についてはマニアの間でも喧々諤々で意見が分かれる。マニア同士でこれをやり出すと夜を徹する羽目になる話題なので要注意である...)。
まず「クリムゾンキングの宮殿」から
「アイランズ」までのピート・シンフィールド在籍期を第一期とする。
(本当はイアン・マクドナルドを含む宮殿でのメンバーを第一期とすべきなのかもしれないが、それをやると「じゃあメンバーチェンジがあったポセイドンのめざめはニ期でリザードは三期で...」と細かくなりすぎるので、あえてこう分けている)
一度目の解散後、ジョン・ウェットン、ビル・ブルーフォード(馴染みのあるブラッフォードという読みで呼びそうになるが、御本人の意志を尊重し、ここではブルーフォードとする)を擁し、
インプロでのプレイに主体をおいた「太陽と戦慄」から「レッド」までを第二期。
二度目の解散後、フリップ先生のソロ活動をはさみ、先生、エイドリアン・ブリュー、トニー・レヴィン、ブルーフォードによる徹底したポリリズムを追求した「Discipline」から「Three of a Perfect Pair」までを第三期。
三度目の解散
(ほんとに解散が多いな!このバンド!)
後、第三期のメンバーにトレイ・ガン、パット・マステロットを加え、より複雑なサウンド構成を狙ったダブルトリオ期(アルバムでいうと「Thrak」)を第四期。
ダブルトリオ編成からトニー、ブルーフォードが抜け、自らをヌーヴォ・メタルと呼称し、ヘヴィな音像を追求した「The ConstruKction of Light」、「The Power to Believe」の頃を第五期。
そして、フリップ先生の引退事件
(詳細は省くが、ユニバーサル社との版権に関する裁判にかかりきりだったらしい)
をはさみ、ついに活動を再開した8人編成
(正確には7人編成期を挟む)による現在のラインナップ(フリップ先生曰くダブルカルテット編成)を第六期とする!...あー、長かった(笑)。
とまあ、ちょいと流れを追うだけでも息切れしてしまうほど、彼らの歴史は複雑なのである
(なお筆者はどの時期も好きなので、イチバン!好きな時期を一つだけ挙げよと言われると「...うーん!やはり第二期であろうか!でも三期も大好きだし...五期も捨てがたい...あー、でも一期は外せないしなぁ...」と小一時間悩んでしまう)。
そんな複雑な歴史を経て、今、彼らが鳴らす音とはどういうものなのか。それを説明する為にもまずは現在(第六期)のメンバーを説明させて欲しい。
ロバート・フリップ (g, key, soundscapes)
言わずとしれたキング・クリムゾンオリジナルメンバーにしてその総帥!そのプレイは健在どころか今なお鋭さを増している印象を受けた。ちなみに今回のツアーではライブ前にフリップ先生が前説アナウンスをしているのだが、優しい声をしていらした。
ジャッコ・ジャクスジク (g, vo)
もともとプログレ畑のセッションプレイヤーだったらしいがマイケル・ジャイルズ(クリムゾンの初代ドラマー)の娘さんと結婚したことがきっかけでクリムゾンの旧メンバーが集まったトリビュートバンドの21センチュリー・スキッツォイド・バンドへ参加。それを観たフリップ先生がキング・クリムゾン・プロジェクト(クリムゾン本体ではなく、サイドプロジェクト扱い。「A Scarcity of Miracles」を発表している。後で触れるが、この作品かなり良い出来で、この時の方向性が今回の第六期へ直結している)へ誘い、結果、本家のボーカルに格上げされた。他にはレベル42への参加などが有名。ライブではリードギターも頻繁にプレイ。
トニー・レヴィン (b, stick, uplight b, back vo)
ジョン&ヨーコの「ダブル・ファンタジー」、ルー・リードの「ベルリン」、ピーター・ガブリエルの全アルバムなどロックの歴史を紐解くと必ず名前の出てくる説明不要の名プレイヤー。今回のライブでもベース、チャップマンスティック、エレクトリックアップライトにバックボーカルと八面六臂の活躍を見せてくれた。なお、彼は写真を撮るのがお好きなようで、彼の公式サイトを見ると今回のジャパンツアーの写真も沢山掲載されている。ちなみにクリムゾンのライブではトニーがステージでカメラを掲げた時だけ観客に写真撮影が許されるのがファンのお約束となっている(笑)。
メル・コリンズ (saxophone, flute)
第一期の解散から数えて約40年ぶりの参加となった彼だが、キレッキレのサックスは健在!ディシプリン以降の楽曲に対しても積極的に管楽器の立場からアプローチを試みているようで、彼の存在が今回のラインナップにメロディアスな方向性を持たせているのは間違いあるまい。
ビル・リーフリン (key)
セッションマンとしてR.E.M.などへ参加しており、クリムゾンには前回のツアーからdr, keyとして参加したのち、一時休養という形で1年ほど離脱していたが再合流。今回はkeyに専念しており、休養中に後で紹介するジェレミーに立場をとられた形となったが本人曰く「いやぁ、ジェレミーの方がドラムは上手いし、私としては今の編成の方が気が楽だね」とのこと(さすがベテラン。余裕の発言である)。最近ではクリムゾンのライブアルバムのミキシングも担当する多才な人である。
パット・マステロット(dr(ステージ左手))
元ミスター・ミスターという肩書はもはや不要か。クリムゾン在籍歴も20年を超え、クリムゾンを語る上で欠かせない存在となった。今回の編成では金物パーカッションを多く使い、ジェイミー・ミューア的なアプローチを担当。
ギャビン・ハリソン(dr(ステージ右手))
活動休止中の英プログレバンド、ポーキュパイン・ツリーのドラム(なお、フリップ先生は彼らのツアーに帯同し、サウンドスケープによるソロでオープニングアクトを勤めたことがある)。この人、呆れるほど上手く、ライブでは主にブルーフォード的なプレイを担う。
ジェレミー・ステイシー(dr(ステージ中央), key)
前述の通り、リーフリンの休養中に代打として参加したが、フリップ先生に気に入られ、そのままレギュラー入り。この人もセッションマンで、シェリル・クロウやノエル・ギャラガーとプレイしている。鍵盤の腕前も素晴らしく、今回のライブでもドラムと鍵盤を約半々でプレイ。
以上、8名。
右も左もベテランばかりの恐ろしい編成である。
そして皆さんお気づきだろうが、
この編成、ドラムが3人いるのである……!
過去のクリムゾンでもツインギター、ツインベース、ツインドラムという6人編成でのダブルトリオ期があったが、
あれでもToo Muchなシーンが多かったのは否定できない(恐らくフリップ先生自身も音を整頓できなかったのだと思う。そのせいか、ダブルトリオ編成は割とすぐ解体しProjeKct名義での少数編成の多作品体制へと変化した)。
そんなダブルトリオでも過剰になりがちだったというのに、トリプルドラムとは...
一体どうなるのだ?という諸々の思いを胸に抱きつつ開演を迎えた私だったが...
この編成、素晴らしかったのである。
最初に書いた通り、開催に気づいたのが遅かったこともあり、SS席チケットはすでに完売。
よってS席の2階席やや右側のチケットをとったのだが、これがなんと大正解!
トリプルドラムがステージ前方に来る今のクリムゾンは1階からだとドラムがステージを塞ぐため、
全体像が見づらいのだが、2階からだと俯瞰視点になるため、まあよく見えること!
また、中規模のコンサート向けホールなのも手伝い、音のバランスがいい!(観客もよく訓練された(笑)ファンばかりなので曲中は演奏中の生音が聴こえてくる状態だったことを付け加えておく)
18時丁度に開演。
SEが止み、フリップ先生のアナウンスが流れる。
万雷の拍手の中メンバーが登壇。一拍の間が空き、演奏が始った。
鉄琴のような音でオリエンテッドなメロディが鳴り始め、リリカルな空気が作り出されるなか、少しずつ、少しずつダーティなノイズが音量を増していく。そして訪れるカタルシス!おお!
「太陽と戦慄 Part.Ⅰ」だ!
もうこの後は目の前で繰り広げられる演奏に目が釘付けだった。
ブリューのトーキングスタイルとは異なるメロディックな歌いかたで新曲のように生まれ変わった「Neurotica」。
フリップ先生のギターとトニーのスティックが生であのポリリズムを積み上げる「Discipline」。
「Indiscipline」は原曲はフリーキーなプレイが目立つぐらいで特に特筆すべき印象はなかったのだが、トリプルドラムではなんと驚くべき事にパット→ギャビン→ジェレミー→ギャビン→パット...というように、3人で曲芸のようにフレーズを回していくのである!
一打ずつフィルを叩く姿は音もそうだが視覚的に圧倒的に面白い!トニーがインタビューで「サーカスでライオンの曲芸を観ているようだよ」といっていたが仰る通り。まるでバディ・リッチとジーン・クルーパのドラムバトルのように互いのプレイを活かし合いながら魅せつつ、一つのドラムスとして機能するようプレイしている。
そして、この後で演奏された「Epitaph」や「Islands」で顕著だったのが、ジェレミーの鍵盤の腕の良さ!さらに、ジェレミーが鍵盤をプレイする事によって、当初危惧していた「常時トリプルドラムによる過剰なプレイ」を排除できるというこの発想!さすがフリップ先生である。
(書いていて思ったが、ダブルトリオの過剰さのツインベースだったことが大きかったかもしれない)
なお、この時の「Islands」は個人的に原曲より良かったと感じたほどで、ジャッコの声がグレッグ・レイク寄りだというのもあるが、とても美しい曲だったんだなぁ〜 とため息が出るほどであった。
ここまでで第一部が完了。
20分の休憩を挟み第二部へ。
トリプルドラムを聴かせる為に作られたと思われる現ラインナップの新曲
「Devil Dogs Of Tessellation Row」から個人的にとても聴きたかった「The ConstruKction Of Light Part.Ⅰ」へ!(出来れば歌の入るPart.Ⅱまでやって欲しかったがまあ贅沢な悩みであろう。そして筆者は見逃さなかった。この曲の途中、フリップ先生が拍を見失ったのか少しプレイを止めた後、両手を上げ「お手上げ」ポーズをとった瞬間を!いやぁ...先生、キュートだなぁ(笑))
「Easy Money」では中間部のインプロ部でここぞ!とばかりにトリプルドラムが炸裂!
ギャビン、パット、ジェレミーがあの手この手で彩りを加える!(よくまあドラム、パーカッションだけであれだけできるものだと筆者は感心を通り越してあ然としたほどである)
そして誰もが聴きたいであろう「Moonchild」から「The Court of the Crimson King」への展開はやはり素晴らしかった。しかし、そこから続けざまに放たれた現ラインナップでの新曲「Radical Action (To Unseat The Hold Of Monkey Mind)」と「Meltdown」の方が個人的に興奮度は高かった!
基本的にディシプリン以降、ヌーヴォメタル期に至るまでのクリムゾンはシーケンシャルなフレーズの積み重ねによる複雑な音像を主体としていたのだが、キング・クリムゾン・プロジェクトでの
「A Scarcity of Miracles」では第一期のような叙情性の強いサウンドに変化していた
(これについてはボーカルがブリューからジャッコに代わったことも大きい)。
第六期は「A Scarcity~」の音の延長線上に第五期までの複雑性を加味した音に仕上がっている。
面白いのは第一期の名曲である「The Court of~」の直後にこの2曲が演奏されると!
「ああ!クリムゾンの経てきた遍歴の果てにこのラインナップは出来上がっているのだ!」
と実感できることである。
簡単に言えば「The Court of~」の叙情性を持った「Discipline」のサウンドフォーマットがそこに存在しているのである!
この後、「太陽と戦慄 Part.Ⅴ(旧題Level Five)」で本編は終了し、アンコールは「Starless」で〆であった。
セットリストは以下。
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第1部
Larks' Tongues In Aspic Part.Ⅰ
Neurotica
Suitable Grounds for the Blues
Lizard (Bolero, Dawn Song, Last Skirmish, Prince Rupert's Lament)
Discipline
Indiscipline
Epitaph
Larks' Tongues in Aspic Part.Ⅳ
Islands
--------------------
第2部
Devil Dogs Of Tessellation Row
The ConstruKction Of Light Part.Ⅰ
Peace
Easy Money
Moonchild
The Court of the Crimson King
Radical Action (To Unseat The Hold Of Monkey Mind)
Meltdown
Larks' Tongues In Aspic Part.Ⅴ (Level Five)
--------------------
アンコール
Starless
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いやはや「21世紀の精神異常者が聴けなかった!」とか「レッドが聴きたかった!」とかそういう感想を私がもっても不思議ではないセットリストなのだが、ライブから数日経った今でもそこは一切気になっていない。
さらに言ってしまうと現ラインナップでの新曲をもっと増やしてくれてもいいくらいである!
今回のライブではっきりしたのだが、
クリムゾンは未だにプログレスし続けている。
プログレッシヴロックという言葉が表すのは大作主義や、複雑性のことではない。
常に過去の方法論を取捨選択し、さらなる高みを目指すその姿勢をさす!
第一期から現在の第六期まで網羅しつつ、
どの曲も今のクリムゾンの形に変化している素晴らしいセットリストであった。
今回のライブの帰りにふと似たような感想をもったライブを思い出した。
それは我らがボブのライブだ。
そう!ボブ・ディラン!
彼が形を変えながらアメリカン・ミュージックの本質を体現しつづけているように、クリムゾンもまた、形を変えながらプログレスし続けるロックを体現している。だから私はクリムゾンに、フリップ先生に憧れ続けているのだろう。
ライブレポートに熱が入ってしまい、最後になってしまったが、盤もきっちり紹介しよう。
今回の盤はKing Crimson「Uncertain Times」(2018)。
...ふはははは!そう!売ってたのだ!ライブ会場の物販で!現ラインナップのヴァイナルが!
最初、Tシャツを買うつもりで並んでいたのだが、ふっと商品案内を見ていると「レコード」の文字が目に入った。
(お?レコード?リシューか?でも見た事ないジャケだぞ?)
「現ラインナップのライブ音源から厳選した4曲をレコード化!」
(おお、これは欲しいな...ん?サイズが小さい?)
「Limited edition 2 x 10" vinyl」
(おいおい?これまさか...)「これください!」
帰宅後、封を開け、確認した。
「10インチの45回転だコレ!」
そう!まさかまさかの45回転2枚組である!
さすがクリムゾン。アナログでも最高品質でぶつけてくる!(どうやらEUプレスのようだ)
収録曲は以下。
[A-1]Red
[B-1]The Letters
[C-1]Cirkus
[D-1]Larks' Tongues In Aspic, Part.II
おお!見事に今回のライブでやらなかった曲が揃っている!
(なお、今回のツアーではフリップ先生が毎回セットリストを変えており、なにが飛び出すか当日までわからないびっくり箱状態)
ライブを思い出しつつ回しているが、やはり45回転は抜群に音がいい!ライブで聴いた印象ドンピシャの音が飛び出してくる!
いやぁ!フリップ先生!
このフォーマットで現ラインナップのライブボックス出しちゃくれませんかい!
マニアは買うって!俺みたいに!買うって!
お願いだから出してぇぇぇ......
以上、おねだりしてでもこの音で聴きたい!
そんな「オネダリメガネ」
もとい、ハウリンメガネでした。
来週は何が飛び出すかな?
乞うご期待! さあ、君もハウレばイイ!