「Jerry's Mash」のアナログ人で悪いか! ~夕刊 ハード・パンチBLUES~

「Jerry'sギター」代表&編集長「MASH & ハードパンチ編集部」が贈る毎週土曜・日曜更新の「痛快!WEB誌」

ハウリンメガネが縦横無尽に吠える「メガネの遠吠え!」(第21回)チバユウスケ逝く・・・

2023-12-09 11:20:40 | 「ハウリンメガネ」の「ヴァイナル中毒」&more

読者諸賢、体の調子はどうだい?ハウリンメガネである。


先に謝っておく。
今回は気持ちの整理がついていないままこのコラムを書いている。

とりとめのない話になるがご容赦願いたい。

チバユウスケが逝った。

thee michelle gun elephant
ROSSO
the birthday
のフロントマンとしてロックシーンの最前線を走り続けたチバユウスケが逝った。


正直、逝ったという言葉を書きたくない。

確かに癌の治療のため療養するという公式アナウンスはあった。

それでもあまりにこの訃報は突然過ぎた。


だってチバだぜ?
ステージに立ったら無敵にしか見えないあのチバだぜ?


絶対にステージに戻ってきて、またあの凄え音を聴かせてくれると思っていた。


だけどそれは叶わなくなった。
そりゃいつかは誰でも死ぬけどさ。
55って早すぎるだろうよ。

 

忘れもしない。あれは中学生の頃だ。

深夜にAMラジオを聴いていた私の耳に突然ブッ刺さったのは、
ざらついたギターリフにのって、
歪んだギターみたいな声が歌う「ねえルーシー 聞かせてよ そこの世界の音」という不思議な歌詞。


ミッシェル・ガン・エレファントの「ゲット・アップ・ルーシー」だった。


ラッキーなことに寝落ちした時のためにテープを回していた私は
翌日から「ゲット・アップ・ルーシー」の部分だけ繰り返しリピートしていた……


ラッキーは続く。


当時テレビ神奈川にミュートマJAPANという、邦楽のPVやライブ映像を流す番組があり、
そこでミッシェルがよく流れていたのである。

当時の私はビデオに番組を録画し、そこからカセットテープに音声だけダビングするという、
今思えば涙ぐましい努力でミッシェルの音源を聴き倒していたのである。
(ミッシェル以外にもこの番組経由で好きになった日本のバンドは私の中でかなりの比重を占めている。それこそチバがゲストボーカルで参加したピールアウトもこの番組で知ったんだ。思い出した)

 

ウエノコウジの極太ベースにクハラカズユキのタイトなドラム、
アベフトシのマシンガンギターにチバユウスケのナチュラルに歪んだハスキーボイスが見事に噛み合った
thee michelle gun elephantは例えるなら高速で爆進するロッキン重戦車であり、
まだFのコードも満足に鳴らせない中学生だった筆者の心を鷲掴みにし、
今に至るまで、心の底の原体験かつ影響源として在るのである
(ギターの弾き方はアベさんからだし、最初にかっこいいと思ったブルースハープはチバのブルースハープだ)

 

チバがボーカルだけでなくボーカル&ギターとしての彼を打ち出したROSSOの1stも好きだ。(ミッシェルでもギターは弾いているが録音では弾かず、ライブでも外音(客席に出す音)には出していなかった)

最初に聴いたときには「えっ!チバ、ギター上手いんじゃん!」と驚き、結構熱を入れてコピーに勤しんだ覚えがある
(ROSSOの「シャロン」は今でも手が覚えてるぐらい好きだ)

 

the birthdayのアルバムだと「I'm just a dog」が好きだ。
「なぜか今日は」の歌詞が好きだ。


『なぜか今日は殺人なんて起こらない気がする
 だけど裏側には何かがある気もする
 でも なんか今日は
 でも きっと今日は』

(「なぜか今日は」)

 

チバの歌はぶつ切りにされた言葉の羅列の中にセンチメントと優しい眼差しが混ざっている。

「なにかになりたい想い」だけがあって
鬱屈していた中学生だった筆者の背中をロックの世界に押し出してくれたのは、
やっぱりチバの歌だ。

 

嗚呼、だけどやっぱり早すぎるよ。

ショックとか悲しいとかじゃなくて、なにか自分の底が抜けたような気分だ。

去年、フェスでthe birthdayを観て「さすがチバ!白髪が増えてもカッケー!」とか思ってたのに。


ああ、どうしてもあなたのあの歌詞が頭に浮かんじまうよ。


『骨になってもハートは残るぜ』(「ターキー」)

バイバイ、ジェニー。
バイバイ、ダニー。


バイバイ、チバ。

R.I.P

<ハウリンメガネ 筆>

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https://hardp.crayonsite.com


ハウリンメガネが縦横無尽に吠える!「メガネの遠吠え!」(第20回) ローリングストーンズの新作に物申す!

2023-11-18 11:50:22 | 「ハウリンメガネ」の「ヴァイナル中毒」&more

やあやあやあ、読者諸賢ご機嫌よう。ハウリンメガネである。

「聴いた?」
「何を?」
「やだなぁ、『ハックニー・ダイヤモンド』!ストーンズの新譜!』
「いや。」
「えっ、なに?聴いてない?えぇぇぇ~」(露骨に嫌な顔)

上記は読者への問いかけではない。
うちの編集長と交わした会話である!

「ラジオで今回のシングル聴いたけど別にそうでもないしさぁ」やら「今すぐ聴く必要性も感じないしさぁ」やら「まだ聴き直してないストーンズのいい未発表音源も山ほどあるしさぁ(これはまあ正論)」やら・・・・
「そりゃあんたはベテランですから、そう云うでしょうというけども!」というやりとりがあったのがつい先日のこと。

(編集長視点での会話はこちらのバックナンバーを参照 ↓ )
https://blog.goo.ne.jp/12mash/e/589bfbd6e909fc2043606ea607943005

こちらとしては「どう聴いた?」という会話を楽しもうとしていただけに、肩透かしを食った形となり、つい、「いや、こうでああでこういう話で……ええい、お買いなさい!」と説教にも似た熱弁をしてしまったのだが、別に私も新譜の出来に期待していた訳ではない。出来がどうであれ最初から御布施のつもりで買うのは決めていたから買ったまでだ。

家でアルバムに針を落とすまで先行シングルも一切聴かなかったし、「これでダメな出来ならそれもまたストーンズの歴史の1ページまでよ・・・」というつもりで買い、「さあて、どんなものかね。」という程度の気分で針を落としたのだが……良かったんだなぁ、これが。

というわけで、そんな気分で本作を聴いた私が何故本盤を編集長に熱弁するに至ったのか、一曲一曲紐解いてみようではないか。

A1.Angry
今回の冒頭の会話の原因となったリードトラック。
編集長がラジオで聴いたというのがこれだと思うが、そりゃ確かにこれだけ聴いたら「うーん、別に急いでアルバムを聴く必要もないなぁ」と思っても仕方がないとは思う。
別に悪い曲ではない。寧ろストーンズのパブリックイメージからいえば「らしい」曲だ。「アンダー・カバー・オブ・ザ・ナイト」を思い起こさせるベースの入りやギターのカッティングも悪くない。が、そういう曲ならもう彼らにはいくらでもある。つまり、レッドオーシャンでの戦いを強いられるわけだ。となると過去の名曲に軍配が上がるのは致し方あるまいよ。
だが私は何度も盤を回しているうちにこの曲のある種の「ユルさ」が癖になってきた。う〜ん、嫌いじゃない。

A2.Get Close
これ。この曲で一気にこの盤の印象が変わる。
ドラムが刻むスクエアなビートに乗って、ギターが物憂げなコードを鳴らした瞬間に私はダイナソーjr(筆者の好きなアメリカのオルタナロックバンド)を思い出していた。
そう、音像がアメリカンロックなのだ。
後述するがA面はある意味でストーンズらしいサウンドプロダクトから外れた音になっている。これは今回プロデューサーとして参加したアンドリュー・ワット(弱冠33歳!オジーやイギーポップ、パール・ジャムのエディ・ヴェダーのソロのプロデューサーとして活躍し、ポール・マッカートニー師匠の新作にも関わっている様子)の手腕だろう。そうそう、中間のサックスソロもボビー・キーズを思い出すエモーショナルなブロウで素晴らしい。

A3.Depending On You
カントリーフレーバー溢れつつ、泣きのメロディがグッとくるロックバラード。
後ろで鳴るロニーと思わしきスライドギターが効いている。
ストーンズのバラードってあまり泣きのメロディのイメージがない(カラッとしているイメージ)のだが、この曲のメロディは日本人なら好きな人、多いんじゃなかろうか。

A4.Bite My Head Off
ポール・マッカートニー師匠がベースで参加している疾走感溢れるパワフルなロックチューン。
「ピストルズですか?」といいたくなるような勢いでガツガツと鳴らされるギターとスティーヴ・ジョーダンのパワフルなドラムがベストマッチ!
途中から入るオクターバーがかかったギターのようなシンプルかつ印象的過ぎる低音のソロはポール?ポールなの!?このフレーズだけで一気に曲が締まって聴こえるんだよ!ちょっと「ヘルター・スケルター」っぽさも感じる1曲。

A5.Whole Wide World
「ワン・ヒット(トゥ・ザ・ボディ)」を思わせるダーティーなリフが支配するヴァースから開放感に溢れたサビへの移行が気持ち良すぎるご機嫌なロックチューン。
途中のブレイクでリズムが少し崩れて聴こえる(実際は崩れてない)アレンジがライブでのストーンズを想起させてこれまたグッド。
個人的に3度登場するモジュレーションのかかったギターソロが大変エモーショナルで良い!これぞエモーショナル・レスキュー♪って感じ(笑)

A6.Dreamy Skies
アコギのスライドが心地よい、A面を〆るストーンジーなフォークブルース。ミックのハープもミシシッピフレーバーに満ちていてよい。
そういえば今作、アナログは最近多い2枚組ではなく1枚組(1枚の場合、組っていうのか?)なのだが、やはりストーンズはこのあたりをよく分かってらっしゃる。2枚組のほうが音質は上がるが、この1枚のA面、B面で区切られるのがちょうどいい塩梅なんだよな。こういう曲をA面の〆にちゃんと入れるセンスに拍手!

盤同様、一旦ここで区切ろう。
ここまで回した時点で私は「これは予想外にいいぞ!?」と思った。いい意味でストーンズらしくない音になっているのだ。正確にいえばストーンズらしさはきちんとあるのだけど、音像がアメリカ寄りというか、今までのストーンズの音とはどこか違って聴こえるのである。

これは先述の通り、プロデューサーのアンドリュー・ワットの手腕にもあろう、それと同時にチャーリーの不在も大きく関係していると思う。

「ストーンズの番長であるチャーリーの不在をどうすればマイナスに聴こえないようにできるか」そこにトライしているのがA面のように思う(故にストーンズというより、ジャガー・リチャーズ・アンド・ウッド的に聴こえるようにも思う。あ、今回ミックの歌がとても良い。今まで以上に伸び伸び歌っているように聴こえる)
が、私はこの音、好きだ。とても好きだ。ストーンズの新しい一面が見えていると思う。齢80を超えて、まだ新しい一面が見えるってのはすごい事だぜ?

よし、盤をひっくり返せ。B面、行ってみよう!

B1.Mess It Up
「女たち」の頃のストーンズを彷彿とさせるダンサブルなナンバー。
チャーリーが生前に残したドラムトラックが使われており、本作中一番アッパー感のあるナンバーに仕上がっている。個人的にこっちをシングルカットしたほうがよかったのでは?と思うぐらいイイ仕上がりなのだが何故・・・?
どうやらクラブ向けにリミックスバージョンが出ている模様(実際、「そうだろうね!」といいたくなるぐらいダンサブル)。

B2.Live by the Sword
これもチャーリーが残したドラムトラックが使われているのだが、そこにビル・ワイマンがベース、エルトン・ジョンがピアノで参加という贅沢なナンバー。ちょっとレゲエのダウンビート感が混ざったリズムがいい。
これとB1.を聴くとやはり「ストーンズをストーンズらしくしていたのはチャーリーのドラムなんだなぁ」と思わざるを得ない。ストーンズらしいんだ、やっぱり。フィルの入るタイミングとかキースとのコンビネーションとか。

B3.Driving Me Too Hard
これはジョーダンがドラムを叩いているはずなのだが、不思議とB1.から続けて聴くと不思議とチャーリーのドラムのように聴こえる瞬間があるから面白い(もちろんよく聴けば違うんだけど)。
明るい曲調に混ざるセンチメントなギターのリードフレーズが涙を誘う。

B4.Tell Me Straight
キースのボーカル曲!これは嬉しい!
キースの歌う曲は大好きだ。寂しげで美しい、どこかフワフワと着地点の見えない揺蕩うようなメロディがキースの声にはよく似合う。
そんな歌メロに呼応するような儚げなギターソロも短いながら美しい。

B5.Sweet Sounds of Heaven
鍵盤にスティーヴィー・ワンダー御大コーラスにレディー・ガガを招いた本作中最長7分超えのソウルバラード(コーラスはリサ・フィッシャーの姐御を呼べばよかったのでは?という疑問が浮かんだりもするが、それはそれ、これはこれ。リサ姐さんもストーンズから離れて久しいしねぇ)。
ジョーダンの叩くソウルフル&パワフルなドラムの上でワンダー御大の鍵盤と戯れるようなミックの歌とガガのレスポンスはこれはこれで好し・・・なんだけど、どうしても頭の中でリサ姐さんの歌が聴こえてくるんだよなぁ・・・あ、いかんいかん。ないものねだりはよくないネ~。

B6.Rolling Stone Blues
これです。これで決定的にヤられました。ローリング・ストーンズというバンド名の由来であるマディ・ウォーターズ御大の「ローリング・ストーン」でございます。
これは絶対キースだろ!と思われるズブッ、ズブッと泥沼に足を突っ込むようなアコースティックブルースギター(これはアコギと呼んじゃいかんでしょ)にミックの歌とハープが絡みつく名演です(多分ミックとキースだけで録ってる)。
正直この曲のためだけにこの盤を買ってもいい。最後にこれが聴こえた時点で「ああ、買ってよかった」と思ったもの。
最後の最後はやっぱりこれなんだ。ストーンズはロックバンドじゃない。ブルースをやろうとしてロックに「なってしまった」のがストーンズなんだ。でも、ついに「やった」んだ。この人たちは「ブルースをやった」んだ。

以上12曲、ちゃんと良かったのである。

いや、確かにベテラン(編集長に限らずベテランの音楽ファンのことね)の言いたいことはわかる。

チャーリーもいなくなった今のストーンズはストーンズではないという意見もそれはそれでわかる。

昔のストーンズの音を掘り下げるほうが発見が多いというのもそれはそれで正しい。

ではこの盤は不要なのか?ストーンズの最新盤はただの過去の焼き直しなのか?
否である。

なぜならミックもキースもロニーも未だにストーンズたらんと走り続けているからである。
その足跡として今回の『ハックニー・ダイヤモンズ』は見事なまでに輝いている。

痛々しさも悲壮感も全くない痛快なロックアルバムをこの人たちはきちんと作った。
バンドの重心を失ったことを寧ろ武器に変え、未だに走り続けようとしているこのバンドの最新作を聴かない理由があるか?

さあ買え!いま買え!すぐに買え!これぞ秋の味覚だ!(もちろんアナログ盤でな!)
そして、偉大なるローリング・ストーン達に盛大な拍手を!

・・・はよ来日してくれんかなぁ・・・
ハウリンメガネでした!じゃ、また!

《ハウリンメガネ筆》


ハウリンメガネが縦横無尽に吠える!「メガネの遠吠え」(第18回) ハーモニカが欲しかったんだよぉ〜 (即席ブルースハープ講座)

2023-09-02 08:43:13 | 「ハウリンメガネ」の「ヴァイナル中毒」&more

ハーモニカ、ブルースハープ愛好家の読者諸賢!
ごきげんよう。ハウリンメガネである。
ん?ハーモニカなんか吹いてない?
……吹くって言え!(冗談です)

私ことハウリンメガネ、ここ最近
「ハウちゃ〜ん!あんたのハープをもっと聴かせてくれよ!」
と友人に発破をかけられ、
ハーモニカプレイの幅を広げるべく、
ハーモニカについて研究する日々が続いていたのである。

あれこれ調べてみたり、偉大なるブルースハーピスト(冒頭写真のリトル・ウォルターのように!)の盤を聴き直してみたりという紆余曲折の末、何とか自分なりにわかってきたここ最近。そして分かってきたら誰かに言いたいのが人の性。

ということで、今回は私自身の備忘録の意も込め、私同様ハーモニカ、ブルースハープの使い方に悩んでいる方の手助けになればラッキーという、簡単ハーモニカ講座である(ここでいうハーモニカとは10ホールズ、ブルースハープと呼ばれるもののこと)。

10ホールズハーモニカにも色々あるが、基本的にフォークやブルース、ロックで使われるのはメジャーキーのものである。
CのハーモニカならCDEFGAB、つまりドレミファソラシドが演奏できるわけだ。

楽器をやる人なら分かると思うが、このドレミファソラシドという音階は『Cメジャースケール』と呼ばれる。ところがこれをラ(A)から、ラシドレミファソラという順に弾くと『Aナチュラルマイナースケール』という音階になるのである。

つまりCのハーモニカであれば、「CメジャースケールとAナチュラルマイナースケール」が吹き吸いできることになり、Cのハーモニカは《Cメジャーキーの曲とAマイナーキーの曲』で使える、ということになる。

ここまではいい。「そーかそーか、じゃあCのブルース進行でCのハーモニカを使って……ん〜?なんか違わねぇかぁ?フォークっぽくはなるけど……」

はい!おそらくここで皆さん引っかかるはず!
Cメジャーのブルース、AマイナーのブルースでCのハーモニカを使ってもどうにもブルースらしくならない。

このCメジャーにCハーモニカ、AマイナーにCハーモニカの組み合わせ、一般的に前者を1stポジション、後者を4thポジションと呼ぶのだが、これ、どちらかといえばフォーク的なアプローチとなるのである(なお、分かりやすい例を出すと、ボブの風に吹かれてのハーモニカは1stポジション。ニール・ヤング「孤独の旅路」のハーモニカは4thポジションとなる)。

「ふーん、なるほどねぇ。じゃリトル・ウォルターみたいなブルースハープはどうしたらいいのよ?」

はい。ここで先程のCメジャースケールをAから始めるとAナチュラルマイナースケールになる、という話を思い出して頂きたい。
これ、要するにCメジャースケールをC以外の音から始めると別のスケールになる、という話なのだが、これはAだけでなく、Cハーモニカで鳴らせる全ての音、つまり、ド(C)、レ(D)、ミ(E)、ファ(F)、ソ(G)、ラ(A)、シ(B)の全てに当てはまるのである。

メジャーキーで使えるのは、以下。
・Cから始めるCメジャースケール
・Gから始めるGミクソリディアンスケール
・Fから始めるFリディアンスケール

マイナーキーで使えるのは、以下となる。
・Aから始めるAナチュラルマイナースケール
・Dから始めるDドリアンスケール
・Eから始めるEフリジアンスケール
・Bから始めるBロクリアンスケール(これ、マイナーキーで使える……っぽいんだけど私もまだ研究中。ホントはディミニッシュコードに相当するはずなんだけど)。

ここで出てきたGミクソリディアンとDドリアン。
これがブルージーにハーモニカを鳴らす為のポイントであります!
この2つのスケール、ブルースの中では頻出する音階で、この2つのスケールを使うだけでブルージーなプレイが可能となるのです!

Gメジャーの上でCハーモニカの吸いをメインにプレイすると途端にデルタブルースのいなたいニュアンスになり、Dマイナーの上でCハーモニカをこれまた吸いをメインにプレイすると一気にシティブルースのセンチメントが薫りだす!

つまり、曲のキーと表現したいフレーバーに応じてハーモニカのキーを変えることで10ホールズハーモニカという楽器は大幅に表現力を増すのである。
故に様々なキーのハーモニカを揃える必要がある訳なんですなぁ(ホントはベンドとか色んなテクがあるのだけど、長くなるので割愛。この回が好評だっからまた書きます)。

ハーモニカは面白いぞぉ。しかも3,000円ぐらいで始められる!
なにか楽器を始めたいなぁと思っている方は是非ハーモニカを買ってみてほしい。
「キラキラ星」や「ふるさと」ぐらいならすぐ吹けるようになるから!

以上、大阪の楽器屋をハシゴしたのにブルースマン御用達のハーモニカ、マリンバンドが売っておらず途方に暮れたハウリンメガネでした。
また次回!

《ハウリンメガネ筆》


ハウリンメガネが縦横無尽に吠える!「メガネの遠吠え」(第17回) ギターkidsに衝撃が!プレイヤー誌が休刊

2023-07-01 13:27:13 | 「ハウリンメガネ」の「ヴァイナル中毒」&more

やあ読者諸賢、御機嫌如何?
ハウリンメガネである……
今回は残念なニュースの話題。

プレイヤー誌……休刊である!
(ホントは最終号を手に入れてから書きたかったのだが、6/30発売予定が7/5に延期……人手が足りてないんだろうなぁ)

私にとってプレイヤー誌は大変思い出深い。
もはや二十数年前の話ではあるが、高校生だった筆者は毎月プレイヤー誌を買っては毎日毎日飽きもせず、掲載されていたギターの広告にうっとりしていた。
(今でこそデジマートやJ-guitarなどでギターの画像など見たい放題だが、当時の音楽雑誌で最も楽器の広告が多かったのがプレイヤー誌であった。イケベやイシバシが載せてた特売広告を見て己の財布の中を睨んで頭を悩ませていたのが懐かしい)

メーカーの新製品や、通販会社の安物、大手のイケベやイシバシ、今も健在のヴィンテージ専門ショップの広告、ギター、ベースにエフェクターまで、どれもこれも垂涎ものの写真がズラリ!
(水着のおねーちゃんのグラビアより刺激的!)

当時、金もなく(今もないけど)、楽器屋に行ってはギターや機材を眺めていた筆者にとってプレイヤー誌はまさに下手なポルノ雑誌よりも興奮度の高い雑誌だった訳である。

もちろん広告が全てではない。
その時その時の話題のミュージシャンへのインタビューは勿論、連載も素晴らしかった。
ミュージシャンが自分の愛機達を写真付きでズラリと紹介する「DEAR MY PARTNERS」。

海外レジェンドミュージシャンの使用機材を写真付きで振り返る「WHOSE GEAR?」。
(これは資料的価値も高く、このコーナーだけまとめた愛蔵版ムックも出ている。私も当然持っている。冒頭写真参考)

他にもパテントからギターの歴史を読み解くコラムや、ソロギターに特化した譜面連載、海外ミュージシャンのゴシップ記事……

そんな中でも忘れちゃいけない、個人的にプレイヤー誌の連載といえば、日本が誇るジャンプ&ジャイヴ・ブルースマン、吾妻光良御大のコラム、「ぶるーすギター高座」!
まだブルースのブの字も分かっていない小僧に笑いとサラリーマンの悲哀をごちゃ混ぜにしつつ数多のブルース情報を教えてくれたのはまさしくこのコラム!
(私の様にこのコラムからブルースを掘り始めた人も多いのでは?)

ご自身のライブや、ブルースの音源についての話の合間合間に、奥様のご機嫌を窺いつつギターを購入する術に頭を悩ませたり、海外旅行に持ち出すギターの選定条件に、万が一紛失したり壊れたりしても一晩泣けば済むものを、というのを最優先事項にしたりという生々しい社会人ブルースマンの毎月のコラムを読んでは「ああ、俺もこういう笑いとペーソスに溢れるオッサンになりたいものだ」と独りごちたあの頃の俺よ、今も俺は近づこうと努力中だ。

そんな我が青春のプレイヤー誌だが、先述の通り、次号で休刊と相成ってしまった。
公式リリースとしては近年の制作コストの上昇と、広告収入の下落が主な原因とのこと。

何年か前に元々月刊だったものが季刊となって値段が2,000円超となった時点で経営が苦しいのは予想できていたが、この「広告収入の下落」というのがおそらく最大の原因であろう。

雑誌、というか紙媒体不遇の時代に突入してからもう何年もの時が過ぎ、音楽雑誌も淘汰されているが、そんな中でも生き残っている雑誌にはそれぞれ強みがある。

例えばギターマガジンやサウンド&レコーディングマガジンの様に、特定の楽器や技術に特化したものは専門誌、業界紙的な立ち位置にあり、この手の雑誌はパイの母数こそ少ないが資料的な意味もあり、絶対的な読者を抱えている(私もその一人)。
若しくはロッキンオンの様にインタビューに特化した音楽誌はリスナーに寄ったもので、こちらはリスナー側の観点を主体としている分、読者の母数が多い。

ではプレイヤー誌の強みは?
……広告だったのである。

確かに先述の通り、魅力的なコラムや掲載記事は多くあった。が、プレイヤー誌の最大の魅力は広告数の多さにあった。
今の様にネットが普及していない時代。雑誌が情報源だった時代。あの頃の雑誌は云うならば商品情報を売る媒体でもあったのだ。
欲しいギターがどこに売っているのか、アンプに強いショップはどこなのか、機材を高く買い取ってくれる店はどこなのか、その全てがプレイヤー誌に載っていた。

時代は流れ、現代。
インターネットによるリアルタイムでの情報更新が当たり前になった今では雑誌の速度は余りにも遅い。
欲しい物が今買える状態なのか、それとも売り切れになっているのか、ネットであれば即座に分かってしまう。
二十年前なら有効だった広告誌というフォーマットは技術の革新と共に滅びる定めにあったのは残念ながら致し方ないことではあろう。

栄枯盛衰、諸行無常。どんなものにも必ず滅びは訪れる。
が!
あの頃。
まだ音楽の事なんかな〜んにも分かっちゃいなかった小僧にギターという夢を与え、ブルースを教え、ギターという楽器の成り立ちを教え、様々なミュージシャンの知識を教えてくれたのは間違いなくプレイヤー誌でした。
本当にありがとうございました。

感謝の念といつかの復刊の願いを込めて。

《ハウリンメガネ筆》


ハウリンメガネが縦横無尽に吠える!「メガネの遠吠え!」(第16回) 「今こそバーズを語る(その4:最終回)」

2023-06-10 12:45:02 | 「ハウリンメガネ」の「ヴァイナル中毒」&more

ハロー、読者諸賢。ハウリンメガネである。

数か月にわたる連載となったデヴィッド・クロスビー追悼、バーズの歴史振り返る。今回で最終回になる。

率直に言って、今回はどう書くべきか、かなり悩んだ。

ビートルズに憧れたアメリカン・ルーツ・ミュージシャンであるバーズ。
ビートルズへの憧れとアメリカン・ミュージックの素養が見事にミックスされた初期(ミスター・タンブリンマン)。

ラバーソウル、リボルバーを出したビートルズに呼応するように出されたサイケデリック時代(霧の五次元、昨日より若く)。

大幅なメンバーチェンジを繰り返し生み出されたカントリーロック期(イージーライダー、アンタイトルド)。

そしてこれらに付随する、各メンバーのソロアルバム、そして関連バンドの作品……どれも良作な上に、数が多い!

正直、どれをピックアップしても「これがバーズである」というまとめには相応しいような相応しくないような、バリエーションに富んだ作品群がバーズ関連作なのである(それこそクロスビー追悼という意味ではCSN(&Y)は外せないし、それを言い出すとバーズの枠を外れて、ニール・ヤングにまで話が及んでしまう)。

ではそんな多様性に富んだバーズの歴史を締めくくるのに相応しいアルバムはあるのか……ある。

バーズの最終章を語るに相応しいアルバムはやはりこれでしょう。

「オリジナル・バーズ(73年作:メインフォト)」

2ndアルバム、「ターン!ターン!ターン!」以来、8年ぶりにオリジナルラインナップ(ジーン・クラーク(vo)、ロジャー・マッギン(g,vo)、デヴィッド・クロスビー(g,vo)、クリス・ヒルマン(b,vo)、マイケル・クラーク(dr,per))揃い踏みで制作されたバーズの最終作、それがこの「オリジナル・バーズ」なのである。

一般的にバーズらしくないという評価を下されている本作だが、個人的にはバーズの最後を語るのに最もふさわしい作品はこれ以外にない。

「ターン!ターン!ターン!」以降、幾度ものメンバーチェンジを繰り返してきたバーズだが、実際には離散集合とでもいうようなコラボレーション作品が多数あり、表層にこそ現れなかったものの、実際にはメンバー間の交流は続いていた。

クロスビーのCSN(&Y)、ヒルマン、マイケル・クラーク(とグラム・パーソンズ)擁するフライング・ブリトー・ブラザーズ、ジーン・クラークのソロ、そして一人、バーズの看板を守り続けたロジャー・マッギン。

その内実がどうだったのか本人達以外知る余地はないのだが、彼らはバーズから離れた後も、互いに影響しあい、カントリー・ロック・シーンを形成していたのである。

そんな彼ら、オリジナル・バーズが残した「オリジナル・バーズ」。
先述の通り「バーズらしくない」というのが一般的な評価らしいが、はっきりと書いておこう。

これはバーズがバーズとして到達した、彼ららしさに満ちたラストアルバムである。

確かに初期のビートリーなニュアンスは、はっきりとは表に出ていない。
だが、メロディやハーモニーの感覚、コーラスワークにはっきりとビートルズの香りがする。

サイケデリック時代のアグレッシヴなサウンドアプローチはない。
だが、コードワークや音使いにサイケの匂いがたっぷりと残っている。

「イージー・ライダー」に代表されるカントリーロックバンドとしてのバーズらしさでいえばこれも控え目である。
だが、ロジャーのプレイするバンジョーやクロスビー達の弾くギターからはきちんとカントリーを消化した音が出ている。

そして、バーズを離れてからの各自の経験値がこの盤には表れている。
初期の透き通ったコーラスは聴けないが、代わりにクロスビーがCNSで学んだであろう重厚感のあるコーラスワークを聴くことができる。
マイケル・クラークのドラムは軽やかさを失った代わりに、ヒルマンのベースと入り混じって土の匂いのするグルーヴに満ちている。
ロジャーは12弦ギターを使わなくなったが、それでも彼のプレイは「あのバーズ」の気配が溢れている。

いうならばザ・バンドの「ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク」に近い、アメリカンミュージックのアーシーな美しさにビートリーなセンスが見え隠れする傑作、それが「オリジナル・バーズ」だ。

ビートルズに憧れ、サイケデリックムーブメントを真っ只中で経験し、ルーツであるカントリーミュージックに立ち返った、そんな彼らの歴史が作り出したのが「オリジナル・バーズ」だ。

ただのビートルズフォロワーではなく、ただのサイケデリックロックバンドではなく、ただのカントリーロックバンドでもない、それら全てを経由した「バーズ」にしか作れなかった最高のスルメ盤、それが「オリジナル・バーズ」だ!

(正直、この原稿を書きだす前にバーズ絡みのアルバムを回していたのだが、結局最後に「オリジナル・バーズ」を回してしまっていた。
派手過ぎず、たるくもない、レイドバックしたグルーヴに乗って、重厚なコーラスでグッドメロディが流れていく心地よい時間……誠に良いスルメ盤である)

ビートルズに憧れたアメリカン・ルーツ・ミュージシャンの集まり、ザ・バーズ。
そんな彼らの歴史、そして彼らが最後にたどり着いた境地に思いをはせ、当連載は幕引きとしよう。

じゃ、また次回!ハウリンメガネでした。


ハウリンメガネが縦横無尽に吠える!「メガネの遠吠え!」(第15回) 「今こそバーズを語る(その3)」

2023-05-13 14:09:01 | 「ハウリンメガネ」の「ヴァイナル中毒」&more

読者諸賢、ごきげんよう。
ハウリンメガネである。

今回も先月に引き続き、
デヴィッド・クロスビー追悼の意を込めた、
ザ・バーズ史振り返りの続きである……のだが、
今回はバーズ崩壊後の話であり、
クロスビーとは少し離れた話となる旨、ご了承頂きたい。

さて、前回はバーズ、サイケデリック時代の傑作、

「霧の五次元」
「昨日よりも若く」

を取り上げた訳だが、
この後、バーズ内の軋轢は高まっていき、
「昨日より若く」の次作、
「名うてのバード兄弟」
のレコーディングでその軋轢は頂点に達し、とうとう
デヴィッド・クロスビー(g、vo)、
マイケル・クラーク(dr)
の2名がバンドから去ることと相なった。

以降、バーズは主柱であるロジャー・マッギン以外、幾度もメンバーチェンジを繰り返していくことになるのだが、その最初のアルバムとなったのが名盤として名高い「ロデオの恋人」。
ギターにグラム・パーソンズを迎え、現在に至るもカントリーロックの名盤として名高い「ロデオの恋人」……なのだが、個人的には正直好みではない。良作であることは否定しないが……どうにも中途半端な気がするのである。

バーズらしいアルバムか、と問われるとバーズらしさは一番低いように思うし、カントリーロックの名盤としてイの一番に名前を挙げるか、と問われると、いや、それなら「ロデオの恋人」同様グラム・パーソンズとクリス・ヒルマンがやっていたフライング・ブリトー・ブラザーズの「黄金の城」の方が……となってしまう。はっきり言えば、「ロデオの恋人」がバーズの代表作として扱われること自体がズレていると思っているのだ、私は。

そういう立場からいうと、この時期のバーズのアルバムであれば、やはり、グラム・パーソンズ以降、つまり、ギタリストにクラレンス・ホワイトが参加してからのアルバムを推したいのが人情というもの。
その中でも私的にベストと思っているのが、冒頭写真の2枚組アルバム、「アンタイトルド」(70年作)なのである。

この「アンタイトルド」、1枚目に当時のライブ録音を、2枚目にスタジオ録音を収録しているのだが、どちらも大変よろしい。

1枚目はこの時期のメンバー、ロジャー・マッギン(g、vo)、クラレンス・ホワイト(g、vo)、スキップ・バッティン(b、vo)、ジーン・パーソンズ(dr、vo)による充実したライブパフォーマンスをしっかり収録している。

ロジャーのボブを彷彿とさせる吐き捨てるような歌い方は堂に入っているし、クラレンス・ホワイトのギターもカントリーフレーバーとバーズらしいビートリーさを場面場面で差し引きし、エモーショナル、かつ、クールにキメてくる。
バッティンとパーソンズのリズム隊も太い音でグイグイと全体を牽引。特にB1、霧の8マイルでのリズム隊のみでのセッションパートではベースとドラムだけで一切退屈のない素晴らしいグルーヴを聴かせてくれる。

2枚目のスタジオ録音もロジャー、バッティング、パーソンズの3人による味の異なるそれぞれの曲と、ホワイトのアーシーかつロッキンなギターがいい塩梅で融合しており、バーズ=ビートルズに憧れたアメリカのルーツミュージシャン、という構図がきちんと成立しているのである(さらにいうならばこの2枚目の曲はAOR的なクールネスがあり、個人的にはバーズらしく、かつアーバンなトーンをもった傑作だと思うのだが如何だろうか)。

繰り返しになるが、「ロデオの恋人」はバーズの代表作というより、グラム・パーソンズのアルバムである。
後期バーズの代表作としてはやはりこちらの「アンタイトルド」の方が、バーズというバンドの"らしさ"が伝わりやすいように思うのだが、なぜかこっちは見逃されがちだ。
これはやはり音楽雑誌等で繰り返し「バーズ=ロデオの恋人」という構図が刷り込まれてきたことの弊害だと筆者は考える。
読者諸賢、どうか一度頭の刷り込みを排除して「アンタイトルド」を聴いてみてほしい。絶対にこっちの方がバーズらしい名盤だから。

ということで次回、ザ・バーズ、その終焉ということで彼らのラストアルバムとソロ周辺を洗ってみようと思う。乞うご期待!

じゃまた!


ハウリンメガネが縦横無尽に吠える!「メガネの遠吠え!」(第14回) ボブ・ディラン来日記念!「今こそ、バーズを語る(その2)」

2023-04-01 10:31:14 | 「ハウリンメガネ」の「ヴァイナル中毒」&more

ハイ!読者諸賢、ごきげんよう!
もはや来週にはボブの日本ツアーも始まるという4月の気配に浮足立つハウリンメガネである。

前回に引き続き今回はクロスビー追悼、バーズの歴史振り返りと称し、ビートルズになろうとしたバーズがどのような変遷を辿ってビートルズの二番煎じではなく、バーズとしてその名を残すこととなったのかを紐解いていく。
今回のテーマは中期前半の名盤二作である。

前回紹介した『ミスター・タンブリンマン』、『ターン・ターン・ターン』(共に65年作)発表後、バーズはジーン・クラークの脱退という危機を迎える。

フロントマンであり、メインソングライターでもあったクラークの脱退は大きな痛手である。なにせ、バーズというバンドの武器であるビートリーなコーラスワークに制限がかかるのだ。
残ったメンバーで成立する方法を模索しなくては——
このトラブルがロジャー・マッギン、デヴィッド・クロスビーという才能に奮起を促し、結果生まれた最初の作品が66年作『霧の5次元』である。


これ、個人的にかなり好きなアルバムなのだ。単純にクラークの脱退でコーラスワークが困難になったというのもあるだろうが、曲やアレンジ、演奏にも荒々しいパワーがあり、それまでのビートリーな美しさを主題としていたバーズとは趣きを異とする、荒削りな魅力に満ちたアルバムになっている。

地を這うようなベースから始まるB1「霧の8マイル」での間奏部。オルガンの奏でる怪しいコードにのって繰り広げられる、エレクトリックマイルスのような不穏さに満ちたプレイがたまらない。

A4「I See You」でのスイングするリズムにノッて繰り広げられる、クリーンなギターでのパンキッシュかつフリーキーな演奏は今の時代にこそマッチする音像だし、そこにサイモン&ガーファンクルのようなハーモニーで切なさを倍加させた歌メロが乗るさまは涙がちょちょぎれんばかりに心の琴線を揺さぶる(今風に言うなら"エモい"というやつであろうか)。

B5「2-4-2・フォックス・トロット」はビートルズのカム・トゥゲザーの元ネタになったようなギターリフがダーティーかつアーシーに響く、サザンロックのような趣きの曲にジェット機のエンジン音とモールス信号の音を混ぜ込んだ、以降のアートロックの先触れともいえるサウンド。

どの曲も荒削りながら、演奏に緊張感があり(ある種キング・クリムゾンに通ずるものすら感じさせる)、アメリカンサイケの良作に共通する、アーシーさと実験的なアプローチのバランスの取れた良いアルバムなのである。

この作品でアプローチの幅を大きく広げた彼らがこの翌年、67年に出したのが次の『昨日よりも若く』。


こちらは4人体制に慣れたのか、ビートリーなアレンジも復活しており、初期の美しさを彷彿とさせる面もあるのだが、それと同時に前作同様、実験的なアプローチとアーシーな音も多い(時期的にビートルズもサイケ真っ只中なので間違いなくビートルズの影響があるだろうが)。

A3「C.T.A.-102」のエンディングではバンドの演奏から急にラジオショウに変わったような演劇的な表現を試し、B1「Thoughts and Words」、B2「マインドガーデンズ」ではテープの逆回転を効果的に取り入れ、A6「エブリバディ・ビーン・バーンド」でのインド音階を使ったギターソロなどなど、この時代のサイケあるあるなアプローチが盛りだくさん。
だが、ここでも重要なのはバーズのバランス感覚。

前回、バーズとはビートルズとアメリカンフォークを最高のバランスで融合させたバンドであると書いたが、この時期のバーズを表すなら、サイケ時代のビートルズとアメリカンルーツロックの融合体。

詰まるところ、彼らの良さとは自分達の好きなものを自分達が得意とするもので表現するそのバランス感覚が生み出しているのである(だからこの盤もただサイケな作品ではなく、ビートリーな美しさと、サイケデリックの面白さ、そしてアーシーな良さがバランスよく織り込まれており、故に時代が変わっても廃れずに盤が残っているのである)。

さて、『昨日よりも若く』の重要なポイントとしてカントリーテイストのA4「タイム・ビトウィーン」とB4「ザ・ガール・ウィズ・ノー・ネーム」が収録されていることを挙げておかねばなるまい。
両曲ともベースのクリス・ヒルマンが作曲した曲だが、この2曲、後にバーズに正式メンバーとして加入するクラレンス・ホワイトがセッションマンとして参加しているのである。

そう、カントリーロック期のバーズを支えた名ギタリストであるクラレンス・ホワイトが初めてバーズの歴史に登場するのがこのアルバムなのである。

このアルバムの後、バーズはマッギンと他のメンバーの軋轢によって徐々に崩壊していき、その姿をビートリーなアメリカンロックバンドからカントリーロックの大御所へと変化させていく。

なぜ彼らはその姿を変えていったのか、そしてバーズとしての終焉とその後の彼らが残したものについてはまた次回のお話。

んじゃ、また次回!


ハウリンメガネが縦横無尽に吠える!「メガネの遠吠え!」(第13回) ボブ・ディラン来日記念!「今こそ、バーズを語る(その1)」

2023-03-04 10:03:01 | 「ハウリンメガネ」の「ヴァイナル中毒」&more

ハイ!ごきげんよう!読者諸賢!

無事『ボブの大阪公演のチケット』をゲットして
まずは、一安心のハウリンメガネである。

今回からは先週、編集長が予告したとおり、デヴィッド・クロスビーへの追悼の意を込め、数回に渡りフォーク・ロック、カントリー・ロックの重要バンド、バーズについて取り上げていく次第。
(しかしジェフ・ベックといい、鮎川誠さんといい、リアルタイムに聴いていた先輩方が亡くなっていくようになってきたのだなぁ……敬愛する諸先輩方、長生きしてください……)

最初の今回はやはり初期バーズ、
オリジナル・バーズから始めるべきだろう。
ジーン・クラーク(vo,g,Tambourine)、ロジャー・マッギン(vo,g)(この頃はまだジム・マッギンを名乗っている頃だが、筆者はロジャー呼びに慣れてしまっているのでここではロジャーで統一する)、デヴィッド・クロスビー(vo,g)という三声コーラスのできるフロントマン3名に、リズム隊のクリス・ヒルマン(b)、マイケル・クラーク(dr)というのがオリジナルバーズのメンバー編成となる。

アルバムでいうと、メイン写真に有る「ミスター・タンブリンマン」、「ターン・ターン・ターン」の頃である(余談になるがこの「ミスター・タンブリンマン」、ジャケ裏にマッギン、クラーク、ヒルマンの直筆サインが……!
(写真下、ただの自慢です)

現代ではフォークロックの大家として名を残している彼ら。
『ボブ・ディランとビートルズの架け橋』とか、『ブリティッシュ・インベンションに対するアメリカからの回答』だとか色々な形容詞はあるが、この時期のバーズについて、敢えて一言で言い切ってみよう。

めっちゃビートルズ。

そう!初期バーズの最重要キーワードは『ビートルズというワンワード』なのである。

バーズというバンド(特にロジャー・マッギン)はそれまでフォーク畑で演奏していたシンガーソングライター型の人間が「ビートルズ・ショック」で「俺もビートルズになりたい!」と集まって出来たバンドであり、自分たちがそれまでプレイしてきたバックボーンであるフォークミュージックをいかにビートリーに演奏するかに腐心していたバンドだといっていい。

「ミスター〜」と「ターン〜」の2枚はそれが特に顕著で、サウンド、アレンジともにビートリーの一言に尽きるのである(コードの使い方やタンバリンの入れ方など、モロにビートルズだったりする)。

機材もかなりビートルズに寄せており、その中でもロジャーが常用する12弦リッケンバッカーはビートルズ、ジョージ・ハリスンのシグネチャーサウンドのようなもので、あの特徴的な響きが聴こえただけで「あ、ビートルズ」となってしまう主張の強い楽器なのだが、そんな事は百も承知で「これがいいんだ!だってビートルズになりたいんだから!」とでも言わんばかりに全面に出しているのだからロジャーのビートルズ好きも相当なものである。というかロジャーがこのギターを買ったきっかけも、バーズを作ったきっかけも、映画「ハード・デイズ・ナイト」のリッケンを弾くジョージを観て「これだ!」と思ったからであり、バーズのそもそもの成り立ちの段階でビートルズ直系のバンドだったのだ。

ここまで読み進めた方は「では初期バーズはただのビートルズフォロワーに過ぎないのか?」と思うかもしれないが、答えは無論、否である。

先述のとおり、彼らは元々フォーク畑の人間。つまり、憧れはビートルズであっても、根本にはアメリカンフォークの素養がしっかり根を張っているのである。

この時期の代表曲、ミスター・タンブリンマン(勿論原曲はボブ)を例にとっても、原曲の素朴な魅力を崩すことなく、コーラスワークでハーモニーを豊かにし、ビートリーなバンドサウンドで曲に厚みをつけている。

ここのさじ加減がバーズは抜群に上手いのである。

この時代、「ビートルズになりたい!」といってバンドを始めた人々は文字通り、売るほど出てきたわけだが、その殆どは「ビートルズ」になりたいのであり、何某かのバックボーンを持ったうえでビートルズになろうとしたバンドというのはかなり限られる(逆にいえばデッド然り、そういうバンドが後世まで生き延び、名を残しているといえる)。
バーズもまさにそういうバンドであり、アメリカンフォークをバックボーンに、素朴なメロディや原曲の良さを活かしつつ、ビートリーに仕上げるセンスがバランスよく発揮されている。
いうならば、「ボブの曲をビートルズがやったらどうなるか?」という問いへのハイレベルな答えが初期バーズなのである(これを音楽紙的に書くと冒頭の「ボブ・ディランとビートルズの架け橋」や、「ブリティッシュ・インベンションに対するアメリカからの回答」という表現になるわけだ)。

つまり、ビートルズ、ボブ・ディランという2つの巨星による重力がアメリカンルーツの系譜に連なるミュージシャン達を引き寄せた結果生まれた、アメリカンフォークのメロディセンスとビートリーなサウンドの融合、それが初期バーズなのである。

バーズとしてのデビュー前の録音を収録した「Preflyte」(下写真)という盤があるが、


これを聴くと彼らが最初からこのバランスを取れていたことが分かる。つまりレコード会社の「ビートリーにやった方が売れるからやれ」という指示ではなく、元々ビートルズに憧れた、才能あるフォークミュージシャンが集まったからこういうバンドが出来上がったのだ。そう考えるとこのオリジナルバーズというのもやはり奇跡的なバンドだ。

そんなビートルズフォロワーの元フォークミュージシャン達はビートルズ同様、時代の波の中でそのサウンドを変容させていくことになるのだが……それについてはまた次回!お楽しみに!

【ハウリンメガネ・ライブインフォ】
3月25日(土)
深江橋Ks(大阪府大阪市東成区神路1-5-12 GALAXYビル7F・中央線 深江橋より徒歩3分)
OPEN 12:00
START 13:00
CHARGE ¥2,000(1ドリンク付き)

3月26日(日)
深江橋Ks(大阪府大阪市東成区神路1-5-12 GALAXYビル7F・中央線 深江橋より徒歩3分)
OPEN 12:00
START 13:00
CHARGE ¥2,000(1ドリンク付き)

両公演ともインフォは以下!
https://livecafeks-m.crayonsite.net/

 


ハウリンメガネが縦横無尽に吠える!「メガネの遠吠え!」(第12回) 『ボブ・ディラン来日決定!』 こんな時に、こんな盤をご紹介します!

2023-02-11 12:55:21 | 「ハウリンメガネ」の「ヴァイナル中毒」&more

ボブが来るぞー!ボブが来るぞー!

4月のボブ・ディラン来日公演決定の報に歓喜の読者諸賢、ごきげんよう。ハウリンメガネである。

いやぁ、思い起こせば20年の来公演日予定がコロナで潰れて不貞腐れていたのがもはや懐かしい。今度こそギターを弾くボブが観れることを願いつつチケット争奪戦に向け、鼻息を荒くしている私である(ちなみに今月のレッチリ来日公演はチケット取れず。ぐぬぬぬ……ぐやぢぃ……と思ったらこれを書いてる真っ最中に追加席発売のアナウンスが!取れるか!?俺!?)

なんてニュースで気分が高揚している私だが、今回の話題はそれではない。今回は珍しく近年のリシュー盤のお話。

 

つい先日、例によって例の如く休日に神戸をぶらついていた私。
何か面白い盤でもないかと、三ノ宮駅前のタワレコをひやかしていた。

(アイドルのCDはやっぱり人気あるんだなぁ。まあ、あれはCDという名のファングッズだからなぁ……あった、あった、レコードコーナーだ。つっても新譜は特に目ぼしいもんはないな……後はリシューばっかだもんなぁ、これはオリ盤で持ってる、これも持ってる……んんっ?おっ!この見慣れたジャケは!)

Green Mind / Dinosaur Jr.

(91年作。筆者が購入したのは19年発のデラックスエディションリシュー)

轟音ファズギターと脱力ボーカル、そしてポップなメロディセンスで90年代グランジ/オルタナムーブメントの重要バンドとして名の知れたダイナソーJr.(1997年に一度解散し、2005年にオリジナルメンバーで再結成。以後、現在に至るまでバカ売れするようなことこそないが、坦々と、かつ精力的に活動中。去年はフジロックにも出演)。

筆者もグランジ/オルタナ小僧のご多分に漏れずJ・マスシス(vo,g)のファンで、近年のボサボサの白髪超ロングヘアに太いフレームのメガネ、そしてちょっとお腹の出ているおっちゃん体型から繰り出されるJ・マスシスサウンドに未だ心を鷲掴まれている一人である(ちなみにおっちゃん体型などと書いたが、Jはスケボー、ゴルフにスキーも嗜む結構なスポーツマン。特にスケボーについてはプロ級)。

本作はそんなJ率いるダイナソーJr.の記念すべきメジャー第一作……なのだが、実質的にはJのソロアルバム。
本作の制作前にベースのルー・バーロウはJとのケンカ別れで脱退(この後にルーはルーでローファイムーブメントシーンの重要バンドであるセバドー、フォーク・インプロージョンを立ち上げているのだから凄い)。
ドラムのマーフは残留していたのだが、Jは元々ドラマーで、自分のやりたいスタイルを演奏する為にギター、ボーカルに転向した男。結果、レコーディングならドラムも自分で叩いた方が早い、ということで大半の曲のドラムをJが叩いている(マーフもこれで嫌になったのかこの後に脱退している)。
結果、ダイナソーJr.のアルバムながら実質Jのソロアルバムという本作が生み出されたわけである(ちなみにJのドラムはデイヴ・グロール加入前のニルヴァーナから参加を打診された腕前。実は筆者も少々ドラムをかじっているのだが、これもJの影響大。最後のライブインフォに記載の3/25(土)のライブではソロと別にバンドのドラマーとしても出演するので是非お気軽におこし願いたい)。

さて、そんな本作、ダイナソーJr.の代表作として扱われることが多いのだが、前評判を聞いてからこのアルバムで初めてダイナソーJr.を聴いた人は少し面食らうかもしれない(筆者がまさにそうだった)。

彼らのパブリックイメージは冒頭に述べたとおり轟音ファズギターが鳴り響くギターロックバンド。
だが、このアルバム、ほぼ全曲でアコースティックギターが、それも大きなミックスバランスで鳴っているのである。
確かにファズギターはイメージ通り鳴っている。だが、それとほぼ同じ比率でアコースティックギターが鳴っている(曲によってはアズテックカメラのようなネオアコと音像が重なるものも多い)。

これが今回のポイント。

ダイナソーJr.、J・マスシスの根本にはアメリカンフォーク、カントリーミュージックがあるのである。

19年にJのソロアコースティックライブを観た時に確信したのだが、Jのプレイはディストーションサウンドを抜きにすると驚くほどフォーク、カントリー的なフレーバーが入っている(ちなみにこの時のJはギブソンのCF-100EをVOXアンプに挿して、アコースティックとファズギターが入り交じる、一人ダイナソーJr.とでもいうべきプレイを展開しており、「やはりダイナソーJr.はJのバンドなのだな」と確信した夜でもあった)。

J自身はハードコアパンクに影響されたと語っているが、アメリカのロックバンドってのはメタルだろうがハードコアだろうが、どこかアメリカン・ルーツ・ミュージックが根付いており、Jもご多分に漏れず、アメリカン・フォーク、カントリーの音がちゃんと根付いている。
ハードコアからの影響と根っこにあるフォーク、カントリーのメロディセンスの融合体、それがダイナソーJr.であり、J・マスシスであり、私をディストーションギターばかりの世界からアメリカン・ルーツ・ミュージックに導いた、彼らの魅力の本質なのである(90年代のUSインディーシーンはルーツ・ミュージックへの先祖返りといえるバンドが沢山おり、捨てがたい魅力に満ちている)。

そんなダイナソーJr.の魅力が詰まった「Green Mind」。是非一度、アナログで聴いてみて頂きたい(ちなみに、この盤、デラックスエディションで曲が追加されているのだが、アナログ盤で2枚になっているところがミソ。切れ目があることで曲数が多くても区切りが付くのでダレることがない。CDだと流れっぱなしになるから曲が多いとダレるんだ……)

というわけで次回はそんなJもきっと影響されたであろう、フォークロック、カントリーロックの最重要バンドについて書く。
乞うご期待!

【ハウリンメガネ・ライブインフォ】
3月25日(土)
深江橋Ks(大阪府大阪市東成区神路1-5-12 GALAXYビル7F・中央線 深江橋より徒歩3分)
OPEN 12:00
START 13:00
CHARGE ¥2,000(1ドリンク付き)

3月26日(日)
深江橋Ks(大阪府大阪市東成区神路1-5-12 GALAXYビル7F・中央線 深江橋より徒歩3分)
OPEN 12:00
START 13:00
CHARGE ¥2,000(1ドリンク付き)

両公演ともインフォは以下!
https://livecafeks-m.crayonsite.net/

 


ハウリンメガネが縦横無尽に吠える「メガネの遠吠え!」(第11回) 俺たちのジェフ・ベックを追悼

2023-01-14 13:18:03 | 「ハウリンメガネ」の「ヴァイナル中毒」&more

忘れられない音というものがある。

あれは中学生の頃、
父のレコード棚を漁って見つけた、カッコいいあんちゃんがレスポールを構えたジャケット。

これはカッコいいに違いない!
と思い、針を落としたド頭。
派手に銅鑼が鳴り響き、流れてきたのは
「ウワンッワックーウワッ」
とでも表現するしかない、
そんな不思議な、ギターだけどギターじゃないような、歌のようなそんな音。
そこへなだれ込む様にギターと絡み合っていく超重量級のリズム隊とパワフルなボーカルとコーラス……

もう20年以上前に聴いた、
ベック・ボガート&アピス(BB&A)
『ライブ』(イン・ジャパン73)
国内別ジャケットの75年再発1枚盤仕様
(オリジナル盤は2枚組で写真無しの別ジャケット)

そのオープニング、「迷信」の話である(後々この時の音がトーキングボックス(ギターの音をホースを使って口へ入れ、それをマイクで拾うことでボコーダー的な音を出すエフェクター)による物と知ったが、当時の私は「ギターでどうやればあんな音が!?」と唸っていた)。

このジェフ・ベックって人がギター?
あ、この人が三大ギタリストのジェフ・ベックか。カッコいいなぁ、他のアルバムないかな?
あっ、ある。
ジャケにジェフ・ベックって書いてある。
あっ、ストラトだ。こっちはレスポールだ。

ラッキーな事に、レコード棚には名盤
『ワイヤード』

『ブロウ・バイ・ブロウ』もあった!
(前者はストラトを持ったジェフ、後者はレスポールを持ったジェフがジャケット)。

『ワイヤード』のオープニングは「レッド・ブーツ」
ド頭のそれまで聴いたことのない、複雑な響きのコード。それなのに間違いなくカッコいい、不思議なロックギターの音。
そして斬り込むようなリードギターとそれに呼応するヤン・ハマーのシンセサイザー。何なんだこの音楽は。俺の知ってるロックと違う気がする……

そして気づく。あれっ、歌がない。
どれだけ盤が回っても歌がない。
アルバム一枚通して歌がないアルバムもあるのか……

続けて聴いた『ブロウ・バイ・ブロウ』
あれっ、地味だ。『ワイヤード』はBB&Aみたいな音でカッコよかったのに……

A面が終わり、盤をひっくり返す。
んおっ?なんだこのギター?
滑らかに紡がれる哀愁を帯びたギターフレーズ。
伸びやかなサスティンで歌うロングトーンがスムーズにスッ、と消えていく。繊細な美しさがある"ロックギター"……

ロイ・ブキャナンに捧げられた「哀しみの恋人たち」はやっぱりロックギターの歴史に残る名演だ(そうそう、迷信もこれもスティービー・ワンダーの曲だ。ジェフとS.ワンダーは相性がいい。この2曲にまつわる二人の逸話もいい。元々迷信はジェフに提供され、ジェフの作品としてリリースされるはずが、S.ワンダーがレーベルと揉め、結局S.ワンダー自身のアルバムに先に収録、リリースされてしまった。ジェフも落ち込んだがS.ワンダーもだいぶ気に病んだようで、お詫びのつもりでジェフに提供したのが哀しみの恋人たち。そんなことがあっても仲は良かったようで、ジェフの人のよさが伺える)。

ジェフ・ベックという名前を覚えた私は
そこから彼の音を掘っていく。
第一期ジェフ・ベック・グループ、第二期JBG、ヤードバーズ、そしてフュージョン期以降のソロ……

『ユー・ハッド・イット・カミング』収録の「ナディア」。
スライドバーとストラトのアームを組み合わせた、滑らかで、ファルセットで歌うシンガーのようなギター(ジェフは中指にスライドバーをはめるが、時折はめずに持ったまま滑らせたり、右手で使ったりする。ライブでスッと胸ポケットからバーを取り出す姿がまたいい)。

ギターを泣かせるギタリストはいる。
だが、ギターを歌わせるギタリストは数少ない。
自分の声として、自分の肉体で歌うようにギターを自分の声にできるギタリストは一握りだ。
そしてジェフはその一握りの中のトップランナーだ。

『フー・エルス!』のエンディング「アナザー・プレイス」。リバーブの効いたクリーントーンのギターだけ(ホントに独奏なのだ)で紡ぎだすメロウでセンチメントな音像。2分に満たないこの小曲がどれだけ美しいか。全編このスタイルで一枚出してほしかったぐらいにいい音、いい曲だ。

そして、やはりコージー・パウエルとやっている第二期JBGが抜群に好きだ(ジェフの家にはコージーが使っていたドラムセットがそのまま飾ってあるらしい)。

「シチュエイション」のイントロ、ミュートの効いたリフを聴くだけでゾクゾクする。「ガット・ザ・フィーリン」のラフなワウプレイからメロウなサビへ移る瞬間なんか最高だ。R&Bの黒いグルーヴを荒っぽいロックのやり方でグイグイ引き回す、そんなアグレッシブなテンションが盤から立ちのぼってくるようだ……

どの時期のジェフもとにかくギターが似合う(ルックスもずーっとカッコいいままだったなぁ)。
そして使っているギターがこれまたどれもカッコいい。

ボロボロのフェンダー・エスクワイア、オックスブラッドカラーのバーブリッジのレスポール、テレギブ(セイモアダンカンが改造したらしい)、ストラト……特にジェフのシグネイチャーストラトはウィルキンソンのローラーナットや2点支持トレモロなど、モダンなパーツを載せている。

この辺りの頑丈さと機能美を重視したパーツ選定のセンスもカーキチのジェフらしい(ジェフのカーキチっぷりは有名な話で、一時期表立った活動がなかったのは自宅ガレージで車のチューニングに勤しんでいたからという噂も……)

アンプはマーシャルの50w。それにワウとブースターぐらい。そこにストラトをプラグインしたら後は自分の指だけで無限にカラフルな音を出せる。それがザ・ギタリスト、ジェフ・ベックだ……

彼の訃報を見たときには目を疑った。
いやいや、ついこの間ジョニー・デップとアルバム出してたじゃない……
なんで?急病……そっか……

妙な寂しさだった。
敬愛する人が死んだ時や、親族が死んだ時と違う寂しさだった。

そうだ、これは友達が死んだ時の寂しさだ。 
古い友達の死を風のうわさで聞いた時に感じた寂しさだ。
ギターという楽器が好きで、ジャムるのが好きで、音楽が好きで、只々それに夢中になって、ひたすらそれを続けていた、そんな友達が死んだと聞いた寂しさだ。

ギターゴッド、百万ドルのギタリスト、ギターヒーロー、スーパーギタリスト。
世間に凄腕のギタリストを表す二つ名は数あれどジェフ・ベックにはそのどの呼び名も似合わない気がする。

ギター・キッド。
初めてギターを手に取った日、夢中でそれをいじり続けた少年。いくつになっても結局ギターが好きでずっと弾き続けてきたあの日の少年。
布団に入ってから思いついたことを試したくなってついギターを手にとってしまったり、朝、まだ寝ぼけた頭で昨日寝る前に考えたセッティングを試す。ギター小僧なんてみんなそうだ。
きっとジェフもそうだったんだろ?
最後の最後までギター小僧だったんだろ?

ジェフ・ベック。
永遠のギター・キッド。
ありがとう。R.I.P。

《ハウリンメガネ 筆》


ハウリンメガネが縦横無尽に吠える!「メガネの遠吠え!」(第十回) クリスマスなのにベンチャーズ? 冬こそギター音楽でGo!

2022-12-24 13:57:20 | 「ハウリンメガネ」の「ヴァイナル中毒」&more

読者諸賢、ハウリンメガネである。
メリー……といきたいところだが一つ注意喚起を。
ヒートショック現象、という言葉、ご存知だろうか。

簡単にいうと寒い場所から暖かい場所、暖かい場所から寒い場所のように温度差の激しい場所間を移動した際、血圧が乱高下し、高齢者のように心臓や血管の弱っている方の死亡事故につながる現象なのだが、この冬は酷寒であることが災いし、ヒートショックによる死亡事故が増加しているらしい(実をいうと先日、同僚の御母堂がヒートショックが原因で亡くなってしまった)。

特に事故が多いのは寝室から冬場のトイレなど、暖房のない冷えた場所への移動や、風呂で、冷えた脱衣所から急に湯船につかり、また冷えた脱衣所へ移動するようなケース(とにかく温度差の激しい場所間での移動がよろしくない)。

防止策としては、
・トイレや脱衣所にも暖房を置くか、カイロなどを使い、体感温度の温度差を少なくする
・風呂に入るときはシャワーで洗い場を暖めてから入る
・湯船の温度は最初37〜38度程度にしておき、入浴してから追いだきやたし湯で湯温を上げる(熱いお湯に急に入らない)
など。

今年は本当に寒さが厳しい。楽しく年末年始を迎えるためにも皆様ご注意の程を。

というわけで改めて。

メリークリスマス!
ハウリンメガネである。本年も当コラムをご愛読いただいた読者諸賢には感謝の程を。

世間は年末も押し迫る師走。この時期特有のバタバタした気配と共に差し迫るは……クリスマス!
となるとやはり今回はこの時期にすべき話、そう、クリスマスアルバムの話をしなくてはなるまい。

クリスマスアルバム。
以前に当コラムで書いたように記憶しているが、欧米ではクリスマスアルバムというのが季節の商品として成立しており、様々なミュージシャンがクリスマスアルバムをリリースしている。

中身はもちろんクリスマスソングばかり。クリスマス気分を盛り上げるには恰好のアイテム……なのだが、そんなアイテムを聴くのはやはりクリスマスシーズン。そして、クリスマスシーズンということは世間もまたクリスマス一色。

街中でもクリスマスソング、CMでもクリスマスソング。クリスマスクリスマスクリスマス……そんなにクリスマスソングばかり聴いていても飽きるわ!

という方に、今回はこれ。

ザ・ベンチャーズ・イン・クリスマス/ザ・ベンチャーズ(65年作)

「日本の夏、ベンチャーズの夏」という感じで日本では夏の風物詩となった感のあるベンチャーズだが、クリスマスアルバムも何枚か出しており、本作はそんな中の一枚(本作は日本盤オリジナルのペラジャケレコード、そしてビートルズでお馴染み、東芝ならではの赤盤!この季節に赤盤を見るとクリスマスアルバムらしい特別感があって染みてくるぅ)。


内容はというと、「サンタが街にやってくる」、「ホワイト・クリスマス」、「ジングルベル」、「赤鼻のトナカイ」、「フロスティー・ザ・スノーマン」等々、見事にクリスマス一色……なのだが、曲目だけ見てこの盤を聴かないのは勿体ない!この盤、ちゃんとベンチャーズしているのである。

クリスマスソングのメロディーの合間々々にダイヤモンド・ヘッドやウォーク・ドント・ラン、十番街の殺人に代表されるベンチャーズのシグネチャーフレーズが散りばめられており、「ああ、クリスマスらしいなぁ……んっ!?急に夏の海、パイプラインに乗るサーファーの幻影が!?」となること請け合い。

更にいえば、赤鼻のトナカイではオープニングからビートルズのアイ・フィール・ファインのようなフレーズをカマしたり、フロスティ〜ではスティーブ・クロッパーのようなタメの効いたベンドフレーズも飛び出す、ギター弾きにはたまらないギターロックアルバムなのである。

先程、クリスマスソングのメロディーの合間に〜と書いたが、言いなおそう。
これはクリスマスソングのメロディーをテーマにしたベンチャーズのセッションアルバムである。

そもそもベンチャーズというバンドは日本でこそテケテケギターのサーフロックバンドとして認知されているが、ちゃんと聴けばわかるように、この人たち、真っ当にルーツに根ざしたアメリカンロックバンドなのである。

しっかりスウィングするメル・テイラーのドラムにタイトなドン・ウィルソンのリズムギター。バンドをドライブさせるボブ・ボーグルのベースにカントリーフレーバー薫るノーキー・エドワーズのリードギター。

これらが渾然一体となり生み出されたのがあの絶妙に軽快なアメリカンロックインスト、つまり、ベンチャーズサウンドなわけだ。
クリスマスアルバムだけどクリスマスだけには納まらない!アメリカンロックインストの旨みがたっぷり詰まった、そんなクリスマスアルバムがこの「ザ・ベンチャーズ・イン・クリスマス」なのである。

というわけで、今年も早くも終わりかけ。
みんな事故や病気にはくれぐれも気をつけて!
そして来年も当ブログ、そして当編集部、そして私のライブ活動を是非御愛顧頂きたい!

じゃまた来年!

【ハウリンメガネ・ライブ予定】
1月14日(土)
深江橋Ks
(大阪府大阪市東成区神路1-5-12 GALAXYビル7F・中央線 深江橋より徒歩3分)
OPEN 12:00
START 13:00
CHARGE ¥2,000(1ドリンク付き)
https://livecafeks-m.crayonsite.net/

 


ハウリンメガネが縦横無尽に吠える!「メガネの遠吠え」(第九回) ギタリスト諸君!今こそChar (チャー )を聴くべし!!

2022-12-03 13:25:05 | 「ハウリンメガネ」の「ヴァイナル中毒」&more

ギター!ギター!ギター!ギター!
はい!最近、書き出しがワンパタ化している気がしなくもないが、とにかく御機嫌よう読者諸賢、ハウリンメガネである。

最近はライブの機会も以前のように増えだしている今日この頃。弾き語りスタイル故、ライブだとアコギ(とリゾネイター)を持ち出す私。ライブ向けにアコギを練習しているとどうしてもエレキも弾きたくなる。結果、家ではギターをとっかえひっかえ弾き続けるというのが私のいつものパターンなのだが、そんなことをしているとやはり鳴らす盤もギタリストがカッコいい盤に手が伸びがち。

そんな最近の私。今回ご紹介したい盤はこちら。

U・S・J / Char(81年日本盤)

出ました大御所!60's、70'sの香りがするギターを弾かせたら日本一!竹中"Char"尚人御大がアメリカはカリフォルニアへ単身渡米し、スティーブ・ルカサーを筆頭とした当時の西海岸第一級スタジオミュージシャンをバックに作った6曲入りEP!
(なにせルカサーはもちろん、スティーブ・ポーカロ、デヴィッド・フォスター、ジェイ・グレイドン、ニール・スチューベンハウスといった当時のUSヒットチャートに関わった人間ばかり!ジャケ裏にも曲目を書かず参加ミュージシャンの名前を列挙しているという、玄人好みなジャケになっております)

81年となるとJL&C結成後、ピンククラウドへの変名前夜。まさに「60年代のフレーバー漂うロックギタリストChar」としてノリにノッていた時期なのだが、JL&C的なサウンドを期待して針を落としてみると肩透かしをくらうこと請け合い。
この盤、参加メンバーからも分かる通り、かなりAOR色の強い仕上がりの面白い盤になっている(ある意味では1stの流れに回帰したともいえるが)。

特に良いのはA3とB1。
A3「Cry Like a Baby」はメロウで黒いロックバラード。
ポーカロの叩く小気味よい8ビートをバックにジェフ・ベックのようなメロディックなフレーズとクラプトンを思わせる泣きのフレーズが変幻自在に入ってくるのはやはりCharさんならでは(このいろいろなギタリストのフレーズを消化して自分のものにしている度合いはホントに一級)。
歌もとても良く(何故かCharさんのこの手のメロウな歌の良さってあまりピックされないけど)、R&Bのフレーバーたっぷりの名ロックバラードに仕上がっている。

B1はお馴染み「Smoky」の再演なのだが、これがまたいい!
スティーリー・ダン的なタイトなバックが原曲の7thコードの雰囲気と相まって素晴らしくAORな名演に仕上がっている。
タイトなパーカッションに乗っかる軽快なカッティングにキーボードのキラキラしたフィル、そこにスリリングかつメロディックに切り込むリードギター、と見事に三拍子揃ったAORっぷり。
ここでのリードギターはサンタナばりの情熱的で伸びやかなリードトーン(原曲もそうだけど)で先程のA3同様、Charさんがどれだけ多くのギタリストから影響されたハイブリッドなギタリストなのかがよくわかる。

正直な話、私も結構Charさんフォロワーで、あのファンキーかつロックのフレーバーをきっちり残したリズムギターや、自在に指板を行き来しながらもメロディックなリードプレイには未だに憧れてしまう(今も前線で現役なのだから尚更のこと)。

全てのことは温故知新。やはりレジェンド級のプレイヤーの音を聴いてコピってこそ、そこから何かが立ち上がってくるものだ。

ベンチャーズから始まり、3大ギタリストからラリー・カールトンまでコピーしまくり、いまや日本代表ギタリストとなったCharさんの隠れた名盤!見つけたらマストバイ!

ついでに私のライブもよかったらマストウォッチ!

【ライブ予定】
12月18日(土)
※詳細未定
深江橋Ks(大阪府大阪市東成区神路1-5-12 GALAXYビル7F・中央線 深江橋より徒歩3分)
https://livecafeks-m.crayonsite.net/

んじゃまた!


ハウリンメガネが縦横無尽に吠える!「メガネの遠吠え」(第八回) 邪道?エレキ弦の新しいチョイス方法!

2022-11-19 13:55:32 | 「ハウリンメガネ」の「ヴァイナル中毒」&more

そうだ、フラットワウンドを張ろう。

読者諸賢、御機嫌よう。ハウリンメガネである。
冒頭からなんの話をしているのか?今回はギターの大事な要素、弦の話である。

先週のことであった。
ギターを片手にいつもの如く、あれはどうだ、これならどうだ、あれならどうか、と音と格闘していた私。このところギターについてなにかと気づきが多く、様々なアプローチを試すことが増え、それと共に、手持ちのギターをとっかえひっかえすることが増えてきた。

その中の一本であるフェンダー・デュオソニック(こいつはアンプに刺すだけでイなた〜い音が出る、ご機嫌なギターなのだ)。
一人でブルースをヤるときはもちろん、ショートスケール特有の弾きやすさも相まって、ジャズで使うようなややこしいコードで遊ぶ時にもよく手に取るのだが、弾いているうちに「もう少しこうなってほしい」という欲が出てくるのが人間というもの。
枯れた、いなたいサウンドはいいのだが、独りで弾いていると、6弦を弾いた時の線の細さ、ボトムの不足が物足りなくなってくる(逆にこのボトムの足りなさがバンドで使うといい具合の音抜けにつながるので一長一短なのだが)。
ギターのトーンコントロールやアンプのEQで調節できる範囲の不足ではないし、音自体は気に入っているのでギターには手を入れたくない。
となると弦自体のゲージ(太さ)を変えるのがベター。
学生時代には「俺もSRVみたいに弾いてやるぜ!」と13〜56なんぞという極太ゲージを無理やり弾いていたものだが、最近では「エレキの弦は細けりゃ細いほどいい」というのがモットーの私(もちろんギターに合わせて変えるのだが、弦が太ければ太いほどネックにかかる負荷は上がるし、ほしい音の範囲であまり太くしすぎない方がよいというのが最近の私の考え)。
とはいえ、ボトムが46でも不足を感じるのは事実。あまり太すぎる弦にはしたくないし……はっ!

そう、ここで頭に浮かんだのが、冒頭の「そうだ、フラットワウンドを張ろう」だったのである。

エレキギターの巻弦は大別してラウンドワウンドとフラットワウンドの2種類に分けられる(以下、ラウンド弦、フラット弦と略す)。
ラウンド弦は世間的にいう普通のエレキ弦。芯線に対し、ワイヤー状の巻線を巻いたもので手触りがザラザラしている。

これに対し、フラット弦は芯線に対し、平たいリボン状の巻線を巻きつけたもので、こちらは手触りがツルツルしている(チェロやコントラバスの弦を想像して頂きたい)。

現代でこそラウンド弦がエレキ弦の主流となったが、そもそもはフラット弦の方が主流、というかエレキのラウンド弦が世間に登場したのは1950年代末〜60年代初頭辺りで、それまでエレキ弦といえばフラット弦しかなかったという(この辺り、弦の歴史についての資料が乏しく、本当のところはわからない。アコギ弦は戦前からラウンド弦だったようだし、エレキ弦にも少数ながらラウンド弦はあったような記述もある。筆者の想像だが、エレキギターがラップスチールから発展したことを考えるに、スライドノイズが出ないフラット弦がラップスチールで好まれ、その流れからエレキギター黎明期はフラット弦が主流になっていたのではなかろうか)。

ロックの黎明期には主流だったフラット弦(ビートルズも初期はフラット弦)だが、ロックの激しさが増していくにつれ、ラウンド弦と比較して、ベンドしづらい、サスティーンが足りない、音が太く、歪ませた時に扱いづらい、等々デメリットばかりが強調され、近年ではジャズギター専用弦のような扱いとなってしまっている。
だが、これらのデメリットは裏を返せば、太く歯切れのよい、クリーンでファットな音が出しやすい、というメリットである(ちなみに筆者はサスティーンが足りないとは全く思わない)。

もともと、エピフォンのゼファー・デラックス・リージェントにフラット弦を張っている私。フラット弦の良さは既にわかっているが、ソリッドギターに張った記憶はない……いや、ある。
まだ弦は太ければ太いほどいいと思いこんでいた頃。無銘のデュオソニックシェイプ(シンクロトレムユニットが乗っていた)に13〜56のフラット弦を張り、「うわぁ、もっこもこの音だなぁ」と思った記憶がある。
一瞬、「あんな感じの音になるとちょっと求めてたものと違うなぁ……」と逡巡したが、今はあの頃と違い、多少の知識がある。細めのフラットワウンドならあそこまで太くならないはずだ。

さっそくダダリオのフラットワウンド中、一番細いゲージの弦(10〜48、これでもラウンド弦の最細クラスが08〜38であることを考えればそれなりに太い)を買い、張り替える。
チューニングが安定するまで、弦をギターに馴染ませるように弾き続ける……やはり正解!音の指向性はそのまま、ボトムの不足がなくなった!
もともとの枯れた音に少し丸さが加わり、ブルースだけではなく、ジャズも十分いける音だ。
それにラウンドと比べてもロックに不向きというわけでもない。フラット弦はラウンドと違い、張り替えたばかりでもギラつきは少ないが、それでも軽くクランチさせただけで十分ロックできる明るいドライブトーンが出る(強いて言うなら弦の構造上、ロックギターの定番であるピックスクラッチは不可能だが笑)。

「ソリッドギターにはラウンド弦」というのはもちろん鉄板の組み合わせではあるが、温故知新という言葉もある。古きを訪ねることで開かれる扉は数多い。
ピックアップや機材を見直す前に、自分のプレイとギターの基本的な部分を見直すだけでかんたんに解決することもあるという好サンプルでありましたとさ。
ご参考になればこれ幸い。ではまた!

追伸。
最近ライブがポンポン決まりだしたので、お時間のある方、生ハウリンメガネにご興味のある方は是非。

【ライブ予定】
11月26日(土)
Open 12:00
Start 13:00
¥2,000(1ドリンク込み)
守口Ks 本店(大阪府守口市八雲中町1-2-13・谷町線 守口市駅より徒歩5分)
https://livecafeks-m.crayonsite.net/

そしてジョンの命日である12月18日(土)
※詳細未定
深江橋Ks(大阪府大阪市東成区神路1-5-12 GALAXYビル7F・中央線 深江橋より徒歩3分)
https://livecafeks-m.crayonsite.net/

乞うご期待!


ハウリンメガネが縦横無尽に吠える!「メガネの遠吠え」(第七回) 進化を続けるレッチリ!ヤツらの新作を斬る!

2022-10-22 13:13:34 | 「ハウリンメガネ」の「ヴァイナル中毒」&more

いやっはァァァ!やりよったわこの人ら!

何を冒頭から奇声をあげているのかと訝しんだ読者諸賢、興奮状態から御機嫌よう、ハウリンメガネである。
ロックファンなら筆者の気持ちもお分かりであろう。
ジョン・フルシアンテ復帰後のレッド・ホット・チリ・ペッパーズ、まさかの一年以内の新作、それもフルアルバムのリリースである(10/14にリリースされたばかり)。

前作「アンリミテッド・ラヴ」から僅か半年足らずの期間でリリースされたチリ・ペッパーズ最新作「リターン・オブ・ザ・ドリーム・カンティーン」。
実はこのアルバム、マテリアル自体は前作のセッションの時点で出来上がっていたようで、前作リリース時のインタビューでもリリースの可能性には触れられていたのだ(まさかこんなに早く出すとは思わなかったが)。

前作の出来が良かったので楽しみにしていたのだが、言い切ってしまおう。

最!高!傑!作!だ!!

今回のレッチリは歌心が洪水のように溢れ出している!

ギターマガジン22年6月号で、ジョン本人がこう語っている。
「ロックが始まった時代にフォーカスしたいと思うようになってね。それは50年代後半のロックンロールや、40〜50年代に生まれたエレクトリック・ブルースだったんだ。もし自分がビートルズ、クリーム、ジミ・ヘンドリックスらと同じ時代に存在してたら?と想像してみたんだよ。(中略)エルヴィス・プレスリー、クラレンス・"ゲイトマウス"・ブラウン、フレディ・キング、アルバート・キング、バディ・ホリー、ジーン・ヴィンセント、リッキー・ネルソンなどにフォーカスしてみよう。よし、OK。じゃあそれを超えるものを作るにはどうしたらいいかな?とか、そんな風に考えるようになったんだ」(引用ここまで)

この発言からも分かるとおり、前作、今作でのレコーディングセッション(プリプロ含む)では彼らのバックボーン(の一つ)である60年代の音からさらに一昔遡り、ルーツの更にルーツに接近することを意識していたらしい。
そしてジョンに加えてフリーもフリーでここ10年ほどジャズに熱を上げていた(フリーは元々トランペッターでもあり、ジャズは大きな根の一つなのだが、学びなおしの為に大学まで行くほどの熱の入れようであった)。
つまり、作曲を主導する二人がルーツに接近していたことになる。

結果生まれたのはレッチリが築き上げてきたグルーヴの上で歌もギターもベースもドラムも歌いまくる、ハーモニーに溢れる最高のロックアルバム!
(歌も楽器も歌ってハーモニーを奏でるという意味では非常にビートリーともいえる。60年代以前の音楽を掘ることで結果ビートリーな形に行き着くというのも必然といえば必然なのだが、ビートリーにしようとしたというより、ビートルズと同じルーツを掘ったことによってレッチリらしさを保ったままで、時折フリーのベースラインがポールのように聴こえたり、ジョンの弾くフレーズからジョージのような雰囲気を感じられるのが面白い)

前作も大変良かったが、今作と比較するとジョンの復帰を強調する、つまりジョンの二度目の脱退前の「カリフォルニケイション」〜「スタディアム・アーケディアム」の雰囲気を強く打ち出した、「おおっ!ジョンが帰ってきた!」というアルバムだったともいえる。
前作と今作のレコーディングセッションは同時期のはずなので、今作収録の楽曲も前作発表時点で存在していたはずだ。
それを敢えてこのように分けてリリースしたということはおそらく「いきなりこの楽曲群を出すとジョンの復帰作というファンの期待している作風からズレる。なので昔の雰囲気が強い曲を先にリリースしよう」という意図があったのではないかと思われる。
今回のアルバムは今までのジョンのイメージと異なる音使いも多い。特に今回はエフェクティヴな音は全くといっていいほどないし、トレードマークのワウも筆者が聴いた限り、使っていないと思われる。フレージングもメロディやリフよりベースとのハーモニーを意識したものに変化している。それはジョンが新境地へ達したということであり進化だと筆者は捉えるが、ファンというのは過去のスタイルを期待しがちなものでもあり、今回のジョンの復帰劇を考えるとヘタに曲を混ぜず、キャラクターの異なる楽曲群として2作品に分割したのも理解できよう。

レッチリは今作で間違いなく一皮むけた。
思えばラップ・ロック、ミクスチャー・ロックの雄だったレッチリからメロディックかつ憂いのあるファンクロックへ変化したのが一回目のジョンの復帰だった。
そして今回、二度目のジョンの復帰によってレッチリはその肉体的なグルーヴを維持しながらもアメリカーナ、ルーツミュージックを体現できるバンドへと進化した。
今作は間違いなくレッチリを語る上での必聴盤になると断言しよう。

最後に今回の個人的聴きどころをいくつかピックアップ。

2020年に逝去したエドワード・ヴァン・ヘイレンに捧げられたA4「Eddie」。
エンディングでのジョンの咽び泣くギターソロがいい。エディに捧ぐからといってライトハンドフレーズを入れるわけでもなく、エディへの哀悼の意をジョン自身のスタイルでギターを叫ばせることで表現している。

B1「Fake as Fuck」はこれまでのレッチリでは聴けなかったハードバップなサウンド。フリーのベースもロン・カーターのようにムッチリしており、個人的に今作では一番好きな曲。こういう曲がやれるロックバンドって少ない。

B2「Bella」はZEPの「The Crunge」を彷彿とさせる、踊れそうで踊りづらい変拍子ファンクから突き抜けた青空のようなサビへ突入する不思議な爽快感のある一曲。

B3「Roulette」は一聴するとジョンらしいカッティングに聴こえるが、よく聴くとコードがガンガン変化しており、トレードマークであるファンク直系のグルーヴィに攻めるカッティングからジャズのコードソロのようなカッティングになっているのが分かる。フリーのベースソロもコンパクトにまとめられながらもメロディックでグッド。

D1「La La La La La La La La」でのビル・エヴァンスのようなくぐもったブルーなピアノ(クレジットがないがおそらくフリー)と絡むアンソニーの歌はこれまた新たなレッチリを予感させる。B1「Fake as Fuck」もそうだが、こういうジャズ的な音を持ち込んでいるのは間違いなくフリー。今作でのフリーの音はアップライトベースのようにムチッとした太く丸さのある音なのにフリーらしいゴツゴツした力強さもある素晴らしいベースサウンドが聴ける。

D2「Copperbelly」はワルツのリズムでクラシックなメロディのヴァースから浮遊感のあるコーラス、そしてヘヴィなギターソロへとスムーズに移り変わるのだが、こんな3つの構成をスムーズに移っていけるのもレッチリがこれまで積み重ねてきた歴史がなせる技といえよう。

以上、筆者が一聴して耳に引っかかったのはこれらの曲だが、当然上記した曲以外の曲もグッドメロディ&グルーヴに溢れている。
今回も例によって例の如くアナログで買ったが、やっぱりこの太いルーツに寄ったサウンドはアナログで聴くべきでしょう!
是非!アナログで!神戸三宮のタワレコにはあったから!マストバイ!

というわけで今回はここまで!
いやあ、今年は当たり年だな!んじゃまた!


ハウリンメガネが縦横無尽に吠える!「メガネの遠吠え」(第六回) やっぱり指使いが肝心よ!

2022-10-08 14:03:18 | 「ハウリンメガネ」の「ヴァイナル中毒」&more

ん〜……指、指、指……はっ!

御機嫌よう、読者諸賢。ハウリンメガネである。
のっけからなんだ指、指、指って、お前は妖怪指よこせか、と思われた方、申し訳ない。前回のコラムをご参照頂ければお分かり頂けよう。先日からサムピックを使ったフィンガースタイルの修練に勤しんでおり、頭が指弾きのことでいっぱいなのだ。

当初はフラットトップのアコギ(一般的にいうアコギですな)でラグタイムのフレーズを弾いて遊んでいたのだが、慣れてくるにつれ、(これは他のギターもサムピックでヤれるのでは?)という思考に至り、やってみるとこれがなかなか難しい。
リゾネイターは生の指で弾いた方が私としては面白いし、最近手に入れたピックギター(このギターについてはまだいい感じに弾くために格闘中なのでいずれ触れよう)は普通のピックで弾いたほうがピックギターらしい音が出る……意外と生ギターの中でもサムピックが合うギターというのは難しいようだ(サムピック使いにフラットトップ弾きが多いのはそういうことかもしれぬ)。

じゃあ、お前は結局フラットトップでしかサムピックは使ってないのか、探究心の足りない奴だ、もっと色々試してみてはどうだ、お前のサムピックが泣いているぞ云々……と思ったそこのあなた。そう、あんたのことだよお客さぁぁぁん!
先程、私は「生ギター」と書いた。
そう、今のところ、生ギターでサムピックはフラットトップでしか使っていない……では、エレキは?
そう!実はサムピックでストラトを弾いてみたところ、やけに弾きやすかったのである!

元々ストラトを弾くときは指で弾くことが多かったのだが、前回書いた通り、サムピックを使うと親指の負担が減るため、フレーズに幅が出る(特にカントリー的なアプローチは本当に弾きやすくなる)。
パームミュートをかけたアルペジオからギャロッピングをかましたり、白玉ストロークと弦飛びフレーズを織り交ぜたりとやりたい放題である(ついでに書くと、サムピックの場合、右手をパーに開けるのでストラトの場合、アーミングやボリューム奏法がやりやすくなるのもメリットであろう)。

こういう事に気づくとエレキを指で弾いている先人達のプレイを聴き直したくなる。
チェット・アトキンス、スコッティ・ムーア、ジョン・リー・フッカー御大、90年代以降のジェフ・ベック、ウィルコ・ジョンソン、デレク・トラックス、ジミー・ヴォーン、リンジー・バッキンガム、吾妻光良さんに是方博邦さん等々、サムピックの有無やスタイルもバラバラだが、エレキでもフィンガープレイヤーは数多くいる。
そんな諸先輩方の中から今回私が聴き直しているのがこちら、うちの編集長も大いに影響を受けたマーク・ノップラー御大率いるダイアー・ストレイツの名盤「ブラザーズ・イン・アームス」でございます(冒頭写真。私はこのジャケットが大好きで、レコード棚に面陳しております)。

マーク・ノップラー。
チェット・アトキンス直系のカントリーからジョン・リーの様なブギー、しまいにはワールド・ミュージックまでしっかりと体に染みこませ、フィンガースタイルでアコギは無論、ドブロからエレキまで、様々なギターを爪弾くそのプレイはボブやクラプトンからの信頼も厚く、エレキでもアコースティックなフィールをきちんと残した素晴らしいギタリストであります(ボブと聴き間違えるほどのいい歌も歌う素晴らしいヴォーカリストでもあるのですなぁ)。

この「ブラザーズ・イン・アームス」は、当時(85年作)の流行サウンドを多少取り入れつつも、それはあくまで味付けに留め、ノップラーの爪弾く、出しゃばらずにきっちりと美味しいギターフレーズが散りばめられた傑作。
A2「マネー・フォー・ナッシング」(スティングも歌で参加!)で聴ける腰の座ったブギーサウンドや、A3「ウォーク・オブ・ライフ」のシンセの裏で鳴っているカントリーフレーバー溢れるミュートの効いたバッキング。
B1「ライド・アクロス・ザ・リバー」では拳の効いたサンタナばりのリードフレーズとサイケの香り立つ浮遊感のあるフレーズを行き来し、B3「ワン・ワールド」でのブルージーかつファンキーなコールアンドレスポンスは指弾きならではのスタッカートな切れ味の良さが満載!(ちなみにこの曲、おそらくベースがトニー・レヴィン。これだけベースの音が明らかに異なる(笑))
そして表題曲の「ブラザーズ・イン・アームス」で聴けるノップラー節ともいえる憂いを帯びたギターの音!(泣きのギターとはちと違う、「憂い」なんですな。ブルースなんだけどブルースだけじゃない、ワールド・ミュージックにも詳しいノップラーならではの音といえましょう)

いやぁ……やはり素晴らしい名盤。ギターの事ばかり書いてしまったが、先述の通り、ノップラー御大は素晴らしいヴォーカリストでもある。つまり、歌とギターが連続線上にあり、両者がシームレスにメロディを紡いでいく……おお、ブルースの方法論そのままではないか!

歌とギターのコールアンドレスポンスでメロディをつないでいくにはやはり指弾き!ブルースマンに指弾きが多い理由も分かるというもの。うーむ、やる気が湧いてくるではないか!

というわけで本日も修練に勤しむので今回はここまで!
また次回!ハウリンメガネでした!あでゅ〜。