09.11/23 569回
三十七帖【横笛(よこぶえ)の巻】 その(17)
夕霧から笛の夢見の話を聞かれた源氏は、
「とみに物も宣はで聞し召して、思し合はする事もあり」
――急には何も仰られず聞いておられて、お心に頷かれることがおありのようです――
やっと源氏は、
「その笛はここに見るべきゆゑあるものなり。かれは陽成院の御笛なり。(……)女の心は深くもたどり知らず、しかものしたるななり」
――その笛は私が預らなくてはならない理由がある筈だ。それはもと陽成院の御笛でね。
(紫の上の故父宮が大切にしていらしたのを、柏木が幼児から笛が上手いのに感心して、その式部卿の宮が萩の宴をなさった日のご褒美に、柏木に贈られたのだ)女心に深くも考えず、あなたに渡したものだろう――
と、おっしゃって、お心の内では、
「末の世の伝へは、またいづ方にとかは思ひまがへむ、さやうに思ひなりけむかし」
――将来、この笛を譲られるのは、女三宮の若君(薫)しかいない。亡き人(柏木)もそう思っている筈だ――
とお思いになって、
「この君もいといたり深き人なれば、思ひよることあらむかし」
――夕霧もよく心の行き届く人だから、何か感づいていることもあろう――
と、源氏は用心深く思われるのでした。
ではまた。
三十七帖【横笛(よこぶえ)の巻】 その(17)
夕霧から笛の夢見の話を聞かれた源氏は、
「とみに物も宣はで聞し召して、思し合はする事もあり」
――急には何も仰られず聞いておられて、お心に頷かれることがおありのようです――
やっと源氏は、
「その笛はここに見るべきゆゑあるものなり。かれは陽成院の御笛なり。(……)女の心は深くもたどり知らず、しかものしたるななり」
――その笛は私が預らなくてはならない理由がある筈だ。それはもと陽成院の御笛でね。
(紫の上の故父宮が大切にしていらしたのを、柏木が幼児から笛が上手いのに感心して、その式部卿の宮が萩の宴をなさった日のご褒美に、柏木に贈られたのだ)女心に深くも考えず、あなたに渡したものだろう――
と、おっしゃって、お心の内では、
「末の世の伝へは、またいづ方にとかは思ひまがへむ、さやうに思ひなりけむかし」
――将来、この笛を譲られるのは、女三宮の若君(薫)しかいない。亡き人(柏木)もそう思っている筈だ――
とお思いになって、
「この君もいといたり深き人なれば、思ひよることあらむかし」
――夕霧もよく心の行き届く人だから、何か感づいていることもあろう――
と、源氏は用心深く思われるのでした。
ではまた。