永子の窓

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蜻蛉日記を読んできて(127) その2

2016年05月31日 | Weblog
蜻蛉日記  中卷  (127)その2 2016.5.31

「かかるに夜やうやう半ばばかりになりぬるに、『方は何方かふたがる』と言ふに、数ふればむべもなくこなたふたがりたりけり。『いかにせん、いとからきわざかな。いざもろともに近き所へ』などあれば、いらへもせで、あな物くるほし、いとたとしへなきさまにもあべかなるかなと、思い臥してさらに動くまじければ、『さふりはへこそはすべかなれ。方あきなばこそは、まゐり来べかなれと思ふに、例の六日の物忌みになりぬべかりけり』など、なやましげに言ひつつ出でぬ。」
◆◆こうしているうちに、夜もだんだん更けて夜半ごろになったころ、あの人が、「方角はどちらが塞がっているのか」と言うので、日を数えてみると、案の定本邸からこちら方面が塞がっていたのでした。「どうぢたものかな。これは全く困ったことだ。さあ一緒に方違えに近いところへ…」などと意っていますが、私は返事もせずに、なんと非常識な、全く例の無いとんでも無いことだと思って、横になったまま動こうともしないので、『方違えはきちんとしなければならないものだ。物忌みが終わったら伺ったほうが良かろうと思うが、例の六日間の物忌みになってしまうから』などと、辛そうに言いながら出ていきました。◆◆



「つとめて文あり。『夜ふけにければ心ちいとなやましくてなん。いかにぞ、はや落忌をこそしたまゐてめ。この大夫の。さもふつつかに見ゆるかな』などぞあめる。何かは、かばかりぞかしと思ひ離るる物から、物忌みはてん日、いぶかしき心ちぞ添ひておぼゆるに、六日をすごして七月三日になりにたり。」
◆◆翌朝お手紙がありました。「昨夜は夜中だったので、気分がとても悪かった。あなたはどうか。早く精進落しをなさい。この道綱の大層やつれて見えるから」などと書いてあったようだ。何の、こんな優しい気遣いは手紙の上だけのものだわと気に掛けないでいようと思いながら、物忌みが終わったので、もしかしてと待っていたものの、六日を過ぎて七月三日になってしまったのでした。◆◆


■さふりはへこそはすべかなれ=自分の方違えは自分できちんとしなければならない、の意か。

■六日の物忌み=天一神(なかがみ)は東西南北は五日間、東北・西北・東南・西南は六日間の滞在で運行する。それの物忌みをいう。

■落忌(としみ)=精進落し。参籠中は精進料理なので、早く魚肉を食べるようすすめた。


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