永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(126)

2008年08月04日 | Weblog
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【蓬生(よもぎう)】の巻  その(1)

 源氏  28歳秋~29歳4月まで
 紫の上 21歳~22歳

 源氏が須磨に退居の間、末摘花(常陸の宮の姫君)の侘び住居はひとしお寂しいものでした。思いがけない源氏との出会いがありましたが、天下の大事が生じて源氏は須磨へおいでになり、特別深くない女への情愛をお忘れになったようで、帰京後もわざわざお尋ねにもなりません。

 源氏のご恩顧の名残でしばらくは暮らしてはおりましたが、年月経るほどにおいたわしくも、侘びしいお暮らしになっておられ、古くから仕えている女房などは、

「いでや、いと口惜しき御宿世なりけり。覚えず神仏の現れ給へらむやうなりし御心ばへに、……頼む方なき御有様こそ悲しけれ、とつぶやき嘆く」
――まあ、どうでしょう、ご運のないことですこと。突然神仏がお現れになったような、源氏の君のお情けが、(人にはこのような幸運がめぐってくるものだと、有り難く拝み申しておりましたのに、世間にありがちな事とは申せそれっきりとは)他に頼むところのない姫君のお身の上が本当に悲しいこと、とつぶやき嘆いております――

 貧しさに慣れていましたあの頃に、源氏のお情けで少しは人並みな生活を幾月かしましたために、女房たちはかえってこの日頃は堪えがたく、今は次々にどこかへ散って行ってしまったり、死んでしまう者もあって、上も下も人が少なくなっております。

 もともと荒れていました宮の内は、
「いとど、狐の住処になりて、うとましう気遠き木立に、梟の声を朝夕に耳ならしつつ、人げにこそさやうのものもせかれて、かげかくしけれ、木霊など……」
――ますます狐の住処になり果てて、気味悪く人離れのした木立に、ふくろうの声ばかり朝夕に聞えつづけて、人の気配があればこそ影をひそめていましたものが、今は木霊という怪しげなものまでが、(時を得、得意そうに飛び交い、侘びしいことばかりが重なっているのでした。)――

だはまた。



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