永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(270)

2009年01月09日 | Weblog
09.1/9   270回

【蛍(ほたる)】の巻】  その(3)

 玉鬘は、お心の内で、

「かくさすがなる御気色を、わがみづからの憂さぞかし、親などに知られ奉り、世の人めきたるさまにて、かやうなる御心ばへならましかば、などかはいと似げなくもあらまし、人に似ぬ有様こそ、つひに世語りにやならむ」
――源氏の君が内心は私に惹かれながら、表向きには他の人に縁づけようとなさる、ねじ曲ったご様子に、これも自分の不幸というもの。もしも、実の親とも対面し、人並みの様子で源氏のご寵愛をうけるならば、不釣り合いなことではないものを。それが表面は親子という、人とは異なる有様なのですから、きっと世間の噂の種になるに違いない恐ろしいこと――

 と、思い悩まれています。源氏は源氏で、

「さるは、まことにゆかしげなき様には、もてなしはてじ」
――実のところ、この姫君を隠し妻のような人聞きの悪い境遇におくようなことはするまい――

 と、お思いなのですが、やはり例のお心癖を抑え切れないご様子も時折混じって、間違いの起こりかねないような危ないご関係なのではあります。

 五月五日の御節句に、六条院では薬玉のことや、東の御殿の馬場では騎射が催され、舞楽、競馬、相撲、が、にぎやかに、勝ち負けの時の鐘や太鼓の囃子が続いていましたが、夜に入って何も見えなくなりましたので、禄などを頂いて人々は帰っていきました。

 それぞれの御殿の女童たち、女房達は、だれそれに劣るまじとの勢いに着飾って、東と南の御殿へと見物に大騒ぎの一日でした。

 五月雨がいつもの年よりひどく長く降って、晴れの日がなくつれづれなままに、六条院の女君たちは、絵物語などの遊びごとに日々を過ごしておいでです。
玉鬘は、いろいろな物語をご覧になりながらも、自分のような珍しい運命の者は他に無いと、筑紫での監(げん)や、今のご境遇を引き比べてお思いになっています。

 源氏は、あちらのお部屋にもこちらにも、このような絵物語が散らばっているのが、お目にとまって、玉鬘に、

「あなむつかし。女こそ物うるさがらず、人に欺かれむと生まれたるものなれ。(……)」
――ああ、うっとうしいことだ。女というものは性懲りもなくこんなものを夢中になって読んだり写したり、まるで人に騙されようとして世に生まれてきたようなものだね。(物語の中には、ありのままの事はごくわずかであろうに、つまらないことに心をとられ、たぶらかされて、髪の乱れも構わず書き写していることよ)――

 と、お笑いになって、あれこれつづけてお話しになって、
「…こういう物語は、嘘を言い慣れた人の口から出るのだろうと思うが、そうではないかな」などと、おっしゃる。

ではまた。


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