永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(327)

2009年03月16日 | Weblog
09.3/16   327回

三十帖【藤袴(ふじばかま)の巻】 その(5)

 源氏が、お話をつづけておっしゃいますには、「玉鬘には兵部卿の宮がふさわしいだろうし、公の仕事も恙なくこなすであろうし、帝のお望みになるご方針にも背くまい」

 夕霧は、父上のご本心が知りたくて、

「年頃かくてはぐくみ聞こえ給ひける御志を、ひがざまにこそ人は申すなれ。かの大臣もさやうになむおもむけて、大将のあなたざまの便りに、気色ばみたりけるにも、答へ給ひける」
――この年来、こうして御養育なさった御真意を、世間では間違って噂しているようです。内大臣もさような意味合いで、髭黒の大将が、つてを求めて玉鬘を所望されましたのにも、そのようにお返事なさったそうです――

 源氏は、苦笑いをされて、「それもこれも噂は事実ではない。宮仕えでも何でも、内大臣のお心次第、順序を間違えて、父でも夫でもない私に従わせることなどできないことだ」とおっしゃる。夕霧は、

「内うちにも、やむごとなきこれかれ年ごろを経てものし給へば、えその筋の人数にはものし給はで、すてがてらにかくゆづりつけ、おほぞうの宮仕えの筋に、らうぜむと思し掟つる、いと賢くかどある事なりとなむ、よろこび申されけると、たしかに人の語り申し侍りしなり」
――内大臣は、内心父上が高貴な方を長年お持ち故、玉鬘を同列にはなされず、半ばお捨てになるお積りで、こう自分に押しつけ、表向きはともかく、公職の尚侍(ないしのかみ)という形にしておかれて、その実、お側から離さず手なづけておこうとお考えになるのは、なかなかどうして、実に賢明で才覚ある処置だと、わが意を得たように話されたと、確かに人から聞いております――

 と、真顔ではっきりお話しになりますので、源氏は、なるほど人はそう思うのだろうかと、ちょっとお困りになった風で、

「いとまがまがしき筋にも思ひ寄り給ひけるかな。いたり深き御心ならひならむかし。(……)」
――随分ひねくれた考えですね。内大臣はひどく詮索好きな考えをなさる、いつもの癖かも知れない。(そのうち自然にはっきりするでしょう。全くよく気の回ることだ)――

 と、お笑いになりますが、夕霧はやはり疑いが晴れないのでした。

◆すてがてらに=捨てるように

◆らうぜむ=領ず=占領する

ではまた。


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