永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(998)

2011年09月13日 | Weblog
2011. 9/13      998

四十九帖 【宿木(やどりぎ)の巻】 その(59)

 中の君のお話は、

「年頃は世にやあらむとも知らざりつる人の、この夏ごろ遠き処よりものして、尋ね出でたりしを、うとくは思ふまじけれど、またうちつけに、さしも何かは陸び思はむ、と思ひ侍りしを、先つ頃来たりしこそ、あやしきまで、昔人の御けはひに通ひたりしかば、あはれに覚えなりにしか」
――今までは生きているとも知らぬ人が、この夏に遠方(常陸)から上京して私を訪ねてまいりました。素気無く他人あつかいにも致しかねますが、さりとてまた、ことさらに睦まじくすることもあるまいと思っておりました。先日の事、こちらへまいりましたのを見ますと、不思議なほど亡き姉君に似ていますので、なつかしく思うようになりました――

 さらに、

「形見など、かうおぼしのたまふめるは、なかなか何事も、あさましくもて離れたり、となむ、みる人々も言ひ侍りしを、いとさしもあるまじき人の、いかでかはさはありけむ」
――あなたは私を姉君の形見のようにお心にも思い、お口にもなさいますが、何もかも似ていないと知っている女房たちは申しています。それなのに、それほど似る筈もない人(妹)が、どうしてそんなに似ているものでしょうか――

 と、おっしゃいるのをお聞きになって、薫は夢物語かとばかり気もそぞろになって、

「さるべきゆゑあればこそは、さやうにもむつびきこえられるらめ。などか今まで、かくもかすめさせ給はざらむ」
――それは、しかるべき縁故(ゆかり)があればこそ、そのように親しく頼ってこられたのでしょう。どうして今までその人のことを、ちらっとでもお洩らしくださらなかったのですか――

 と申し上げます。と、中の君が、

「いさや、そのゆゑも、いかなりけむこととも思ひわかれ侍らず。ものはかなきありさまどもにて、世に落ちとまりさすらへむとすらむこと、とのみ、うしろめたげに思したりしことどもをも、ただひとりかきあつめて思ひ知られ侍るに、またあいなきことをさへうち添へて、人も聞きつたへむこそ、いといとほしかるべけれ」
――さあ、その分けも事情も私にはよく分かりません。亡き父上は、ただもうわたし共姉妹が頼りない様子でこの世に生き残り、さまよう果てるのではないかと、そのことばかり案じておられましたが、たった一人取り残された今となって、私には父宮のご心配が何もかも身に沁みて思い当たられるのでございます。その上、今更また、こういうつまらぬことで(浮舟のこと)まで加わって、世間に取り沙汰されては、それこそ父上のためにはお気の毒でしょう――

 と、おっしゃるご様子に、薫はお心のなかで、

「宮のしのびてものなどのたまひけむ人の、しのぶ草摘み置きたりけるなるべし」
――その妹やらは、八の宮がひそかに情をかけられた女が胤を落したものなのだろう――

 とお察しになったようです。

◆さやうにもむつびきこえられるらめ=さやうにも・むつび・きこえられる・らめ

◆しのぶ草摘み置きたりける=古今集「結びおきし形見の子だになかりせば何に忍ぶの草を摘ままし」

◆浮舟(うきふね)=宇治八の宮と中将の君との間に生まれた姫君。

では9/15に。


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