永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(50)

2008年05月15日 | Weblog
5/15  

【葵】の巻 (13)
 
 源氏が桐壺院に参上します。つづいて中宮(藤壺)のお部屋へご挨拶を済ませて二条院に退出されたのは夜が更けてからでした。
 
 二条院では、上位の女房たちが皆里から参上して、美しく衣裳や化粧などほどこしてにぎやかな様子を見るに付けても、源氏は、故葵の上の所の女房たちの打ち萎れていた有様を哀れに思い出されます。
 
 紫の上の様子に「久しかりつる程に、いとこよなうこそ大人び給ひにけれ」
――久しくお会いしないうちに、大層大人らしくおなりですね――
 と、御几帳を引上げてごらんになると、横を向いて恥ずかしがっていらっしゃる御様子には、なんの不満な点もありません。
 横顔など
「ただかの心つくし聞ゆる人の御様に違う所なくも成り行くかな、と見給ふに、いとうれし」
――ただただ、あのお慕い申すお方(藤壺)のご様子に違うところなく、そっくりになっていくことよ、とご覧になるほどに大層よろこばれ――
 
 源氏には、すっかり申し分のないほどに女らしくなられた紫の上に、それとなく気を引くような事を話されますが、一向にお気づきにならないようです。

 つれづれに碁をうち、偏つぎなどして遊びながら、紫の上の気立てと言い、素直さといい、申し分のないご様子に、
「しのび難くなりて、心苦しけれど、いかがありけむ、……女君はさらに起き給はぬ朝あり」
――源氏はがまんできにくくなって、紫の上には気の毒だが…… 女君はお起きにならぬ朝がありました。――
 
 紫の上は「かかる御心おはすらむとは、かけても思し寄らざりしかば、などてかう心憂かりける御心を、うらなくたのもしきものに思ひ聞えけむ、と、あさましう思さる」
――こんな下心があろうとは思いも寄らないことでしたので、どうしてこんな厭なお考えのあった人を、頼もしい方とお思いしていたのだろうと、とんでもないことと思われます――
 
 源氏が「なやましげにし給ふらむは、いかなる御心地ぞ。……」
――ご気分がお悪いそうですが、どんな具合です。今日は碁も打たないでものたりないこと――
と、のぞき込み、なだめすかしてご機嫌をとりますが、
「いよいよ御衣引きかづきて臥し給へり」
――いよいよ御衣を引きかぶっておしまいになります――
 
 夜具を引き上げると、汗と涙で額髪も濡れておいでです。返しのうたもなく、源氏は「ではもう仕方がない、これからはもう二度とお目にかかりません」と捨てぜりふに、それにしても、初心なご様子よと、可愛らしく思われるのでした。

◆ 女君(紫の上)が、きまり悪くてお起きにならぬ朝、という表現で、事実上の結婚をあらわしています。正式な婚儀(つまり正妻ではありません)の形をとっていないことは、紫の上の今後に陰を落としていきます。

ではまた。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。