永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(858)

2010年11月27日 | Weblog
2010.11/27  858

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(35)

 薫が、

「宮の慕ひ給ひつれば、えきこえいなびて、ここにおはしつる。音もせでこそ紛れ給ひぬれ。このさかしらだつめる人や、かたらはれ奉りぬらむ。中空に人わらへにもなり侍りぬべきかな」
――(実は)匂宮が私の行くところに是非に、とついて来られましたので、お断りもできませんで、もうこちらにいらっしゃるのです。何のお断りもなく忍びやかに中の君のお部屋にお入りになりました。きっとあのお節介な弁の君が、宮から頼み込まれたのでしょう。私はまったく中途半端なことで、きっと世の笑い者になるでしょうね――

 とおっしゃるので、大君は今までに無い意外な事に、目も昏むほど不愉快になられて、

「かくよろづにめづらかなりける御心の程も知らで、いふかひなき心幼さも見え奉りにけるおこたりに、おぼしあなづるにこそは」
――そのような万事に怪しからぬ企みをなさるあなたのお心の程にも気が付かず、お話にもならない私の幼稚さをお見せしてしまった油断のありさまを、きっと軽蔑なさっていらっしゃるのでしょう――

 と、言いようも無く怒っていらっしゃる。 薫は、

「今はいふかひなし。ことわりは、返す返すきこえさせてもあまりあらば、抓みも捻らせ給へ。やむごとなき方におぼし寄るめるを、宿世などいふめるもの、さらに心にかなはぬものに侍るめれば、かの御志はことに侍りけるを、いとほしく思ひ給ふるに、かなはぬ身こそおき所なく心憂く侍りけれ」
――何とおっしゃっても、今は詮無いことです。お詫びは幾重にも申し上げます。それでも足りなければ、ぶったり抓ったりなさい。あなたは身分の高い匂宮の方にお心を寄せておいでのようですが、宿世というものは、まったくままにならないもので、匂宮のお望みは中の君にありましたのを、あなたのためにはお気の毒に存じますけれど、望みの叶わぬ私の身こそ、置きどころもなく辛くてなりません――

「なほ、いかがはせむに、おぼし弱りね。この御障子のかためばかりいと強きも、まことに物清くおしはかりきこゆる人も侍らじ。しるべと誘ひ給へる人の御心にも、まさにかく胸ふたがりて、明かすらむとは思しなむや」
――かくなるうえは、どうにもならないと気持ちを柔らげて私に従ってください。いくらこの障子を固くなさったところで、何事もなかった間柄だとは、誰も信じる人はいませんよ。私を道しるべとなさった匂宮にしても、私がこうもやるせない気持ちで夜を明かしているなんて思っていらっしゃるでしょうか――

 と、障子をも引き破りかねない薫のご様子です。

◆えきこえいなびて=え聞こえ否びて=お断りもできず

◆このさかしらだつめる人=この賢しらだつめる人=あの賢ぶったお節介な者=ここでは弁の君のこと。

◆抓みも捻らせ給へ=つねったりひねったりなさい。

では11/29に。



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