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蜻蛉日記を読んできて(148)その1

2016年11月10日 | Weblog
蜻蛉日記  下巻 (148)その1  2016.11.10

「さて廿五日の夜、宵うちすぎてののしる。火の事なりけり。『いと近し』などさわぐを聞けば、憎しと思ふ所なりけり。その五六日は例の物忌みときくを、『御門の下よりなん』とて文あり。なにくれとこまやかなり。今はかかるもあやしと思ふ。七日は方ふたがる。」

◆◆さて、二十五日の夜、宵を過ぎた頃大騒ぎになった。火事だという。「とても近所です」などと侍女たちが騒いでいるのを聞くと、あの憎たらしいと思っている近江の女の所でした。その二十五、六日ごろは例によってあの人は物忌みだと聞いていたけれど、「ご門の下からこれが」と言って手紙がありました。なんと細やかな文面で、今ではこんな手紙を寄こすのはと怪訝な気持ちだこと。二十七日は本低からこちらの方角が塞がったのでした。◆◆



「八日の日、未の時ばかりに、『おはします おはします』とののしる。中門おしあけて車ごめ引き入るるを見れば、御前の男どもあまた轅につきて、簾まきあげ、下簾左右おしはさみたり。榻もてよりたれば、下り走りて、紅梅のただいま盛りなる下よりさしあゆみたるに、にげなうもあるまじううち見上げつつ、『あなおもしろ』と言ひつつあゆみのぼりぬ。」

◆◆二十八日の日、未(午後一時から二時ごろ)の時刻ごろに「いらっしゃいます、いらっしゃいます」と侍女たちが騒いでいます。中門を押し開けてそのまま車ごと引き入れるのを見ると、先駆の男どもが大勢轅(ながえ)にとりついて、車の簾を巻き上げ、下簾は左右に開けて、わきに挟んでいます。供の者が榻(しじ)を持って近寄りますと、あの人はさっと降りて紅梅の今が盛りの下をゆったりと足を運ぶその姿が、いかにも盛りの花に似つかわしく、声を張り上げて「あなおもしろ」と言いながら、部屋に上がってきました。◆◆

■憎しと思ふ所=兼家の新しい通い所。近江の女

■御門の下より=物忌み中の手紙なので堂々とは届けられない。作者邸の門の下からそっと渡すのである。

■車ごめ=車ごと。兼家を乗せた車ごと。

■「あなおもしろ」=歌謡の一節であろうか。


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