永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1206)

2013年01月23日 | Weblog
2013. 1/23    1206

五十二帖 【蜻蛉(かげろう)の巻】 その46

「例の西の渡殿を、ありしにならひて、わざとおはしたるもあやし。姫宮、夜はあなたにわたらせ給ひければ、人々見るとて、この渡殿にうちとけて物語するほどなり。筝の琴いとなつかしう弾きすさぶ爪音、をかしう聞ゆ」
――薫が、例の西の渡殿に、先日隙見をなさったのが癖におなりになるのは、どうしたことでしょうか。女一の宮は夜は中宮の御方の方にお出でになっていますので、女房達は月を観ようと、
この渡殿にくつろいで物語りをしている時でした。筝の琴をたいそうやさしく弾きすさぶ爪音がたいそう趣き深い――

「思ひかけぬに寄りおはして『など、かくねたまし顔にかき鳴らし給ふ』とのたまふに、皆おどろかるべかめれど、すこしあげたる簾うちおろしなどせず、起きあがりて、『似るべき兄やは侍るべき』といらふる声、中将の御許とか言ひつるなりけり」
――(女房達が)思いがけない折に薫がお寄りになって、「どうしてこんなに人の心をときめかす音色をお立てになるのですか。『遊仙窟』の中の美人十娘ではあるまいし」とおっしゃると、女房達はみな驚かずにはいられない筈ですが、少し巻き上げてある簾を降ろしたりもせずに、起き上がって、『私が十娘に似ていても、あの物語の中の催季珪(さいきけい)のような兄はおりませんわ』と答える声は、中将のおもととか言った人でした(暗に、女一の宮を御覧になりたければ、よく似ていらっしゃる匂宮がおられるでしょう)――

「『まろこそ御母方の叔父なれ』と、はかなきことをのたまひて、『例の、あなたにおはしますべかめりな。何わざをか、この御里住みの程にせさせ給ふ』など、あぢきなく問ひ給ふ」
――(薫は)「私こそは、姫宮には御母方の叔父なのですよ」と、他愛いのないことを仰せになって、『姫宮は、例のとおりあちらにおいででしょうね。こういうお里住まい(六条院)の時には、何をなさっていらっしゃいますか』などと、つまらないことをお聞きになります――

「『いづくにても、何ごとをかは。ただかやうにてこそは過ぐさせ給ふめれ』と言ふに、をかしの御身の程や、と思ふに、すずろなる歎きの、うち忘れてしつるも、あやしと思ひ寄る人もこそ、と、まぎらはしに、さし出でたる和琴を、たださながら掻き鳴らし給ふ」
――「どちらにいらしても、ただこのように音楽などをなさって日を過ごしていらっしゃいます」と言うので、結構なご身分だと薫はお思いになりますにつけても、分けもなく溜息が出てしまったのにも、変だと怪しむ人がいるかも知れないと、それを誤魔化すために、向こうから差し出された和琴を、そのままの調子で、お弾きになります――

では1/25に。


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