永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(336)

2009年03月25日 | Weblog
09.3/25   336回

三十一帖【真木柱(まきばしら)の巻】 その(7)

髭黒の大将としては、

「住居などのあやしうしどけなく、物の清らもなくやつして、いとうもれいたくもてなし給へるを、玉を磨ける目うつしに心もとまらねど、年頃の志ひきかふるものならねば、心にはいとあはれと思ひ聞こえ給ふ」
――北の方のお部屋はひどく乱雑で、身仕舞もせずみすぼらしげな様子で、鬱つ鬱つとしてばかりおられますので、玉を磨いたような輝かしい六条院の玉鬘のお部屋を見慣れた目には、心も留まらないのですが、長年一緒に暮らしてきた情愛が、そう急に変わるものではありませんので、心の底ではあわれに思っておいでです――

 そしておっしゃるには、

「昨日今日のいと浅はかなる人の御中らひだに、よろしき際になれば、皆思ひのどむる方ありてこそ見果つなれ。いと身も苦しげにもてなし給ひつれば、聞こゆべきこともうち出で聞こえにくくなむ。(……)」
――ほんの昨日今日の浅い間柄でも、それ相当の身分の者であれば、皆辛抱して添い遂げるものなのですよ。貴女はご持病があってひどく苦しそうにしていらっしゃるので、言いたい事も言い出しにくくて困っているのです。(普通とは違って病気がちなあなたを、最後まで見てあげようと思えばこそ、我慢してきましたのに、その我慢さえできなくなるような、良くないお考えを起こして私をお嫌いなさいますな)――

 さらに、

「幼き人々も侍れば、とざまかうざまにつけて疎にはあらじ、と聞こえわたるを、女の御心の乱りがはしきままに、かく恨みわたり給ふ。一わたり見はて給はぬ程、さもありぬべき事なれど、任せてこそ今しばし御覧じはてめ」
――幼い子供たちもいることですから、どのみち貴女を粗末にしまいと申してきましたのに、女心の慎みの無さから、こうもお恨みになる。一通りの私の真意を見定められるまでは、ご無理のないことですが、私に任せてもうしばらく見ていてください――

また一言つづけて、

「宮の聞し召し疎みて、さわやかにふと渡し奉りてむと思し宣ふなむ、却りていと軽がるしき。まことに思し掟つる事にやあらむ、しばし勘事し給ふべきにやあらむ」
――父宮が聞きつけられて、私を疎んじて、すぐにきっぱりと貴女を引き取ってしまおうと仰るのは、却って軽々しいようです。それも本気でそう決められたものやら、しばらく私を懲らしめなさるお積りやら――

 と、笑いながらおっしゃいますが、聞いておられる北の方にとりましては、悔しく腹立たしいのでした。

◆うもれいたく=埋もれいたし=気が晴れ晴れしない

◆思ひのどむる=心を落ち着かせる、のんびりと構える

ではまた。


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