映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

淵に立つ

2017年05月31日 | 映画(は行)
罪とは・・・、罰とは・・・



* * * * * * * * * *

下町。
小さな金属加工工場を営む鈴岡夫妻(古舘寛治・筒井真理子)は、
小学生の娘・蛍と3人で暮らしていました。
ある日そこへ夫・利雄の昔の知人・八坂(浅野忠信)が訪ねてきて、
住み込みで働くことになります。
八坂は知的で物腰も柔らかく、蛍にオルガンを教えてくれたりもして、
妻・章江には好ましく思えるのです。





実は八坂には前科があるのでしたが、
後にそのことを知った章江には全く気になりません。
むしろ本人が切々と後悔の念を語るので、
章江は何一つ心配には思わず、二人は急接近していくのですが・・・。
ある残酷な爪痕を残して、八坂は姿を消してしまいます。



ここまでが前半。
後半は八坂は登場しませんが、
彼の存在はこの家族に嫌というほどに刻み込まれ、
心の大半を暗く覆い尽くしているのです。


罪・・・。
それは法を犯すことではないのですね。
章江が不倫し八坂と情を通わせてしまったこと、
そして、実は利雄も昔の八坂の犯罪に加担していたこと・・・、
そのようなことの「罰」として、結局娘に悲劇が落ちてしまったのではないか。
章江も利雄も口には出さないけれども、
そういう「罪」の意識に捕らわれてしまったわけです。
章江はプロテスタントで、食前の祈りも欠かさず教会に通う熱心な信者。
一方利雄は、そうではなくて、まあ、一般的な日本人同様、特別なものを信じているわけではない。
けれどこの二人が感じる罪の意識は、
そういう宗教とは別のところにあるようです。
強いて言えば、「お天道様が見ている」的なもの。
バチが当たる。
私たちはそんな言い方をよくしますね。
日本人ならそれはよく分かる。



さてそして、本作で怖いのは八坂です。
誠実そうに見える彼は、実は静かな狂気にかられている。
なるほど、前科の事件のことも納得。
家族なんかいないと言っていた八坂ですが、実はそうでなかったということも後にわかります。
言うことも嘘八百だった。
彼こそは、自分の罪を罪とも思わず、
罪の意識に絡め取られる八坂夫妻とは対極にある存在という事なのでしょう。



浅野忠信。
この危ない男をさすがの迫力で演じます。
そうそう、始めは白いワイシャツ。
作業の時も白いツナギ。
いかにも誠実そうです。
ところがある時点で、白い服を脱ぎ、赤いTシャツに変えます。
それこそが彼の本性だったというわけ。
重~い作品ですが、見ごたえはあります。

淵に立つ(通常版)[DVD]
浅野忠信
バップ


「淵に立つ」
2016年/日本・フランス/119分
監督・脚本:深田晃司
出演:浅野忠信、筒井真理子、古舘寛治、太賀、篠川桃音、三浦貴大

不条理度★★★★☆
満足度★★★☆☆


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