映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

人生スイッチ

2015年07月31日 | 映画(さ行)
ほんっと、人間っておバカ



* * * * * * * * * *

人生において、決して押してはならないスイッチを押してしまい、
絶望的な不運の連鎖に巻き込まれていく男女6名のストーリーをオムニバスで。
彼・彼女たちは、激情にかられてつい人生のスイッチを押してしまう・・・、
いえ、押してしまうというより入ってしまう感じですかね。



たとえば、男の道の先をゆく車が嫌がらせで進路妨害。
カッとなって、男は追い越しざま罵倒をあびせて先へ行きます。
まあ、そこまでなら良かったのですが、その少し先でタイヤがパンク。
そこで男は止まらざるを得なくなってしまいます。
するとまもなくさっきの車が追い付いてきて・・・。
よせばいいのにいい年した大人が流血沙汰の大げんか。
そしてその末に・・・。
眉をひそめる暴力沙汰で、実際悲惨な出来事になってしまうのですが、
それにしても、そのラストには思わず笑ってしまいます。
皮肉です。
でも、おかしい。



どれもこれもなんとも味のあるブラックなユーモアが漂っていて、
その刺激的なラストが実は笑い事ではないのですが、
ニヤつかずにいられない。
ほんっと、人間ってバカ。



ラストの結婚式の話も凄かったですよ。
いかにも幸せそうな新郎新婦の披露宴。
しかし、新婦が新郎の浮気相手が出席者の中にいることに気づいてしまうのです。
怒り狂いスイッチが入ってしまった新婦のために
会場は修羅場と化す。
いやはや、この調子で一体どんな結末に???
と思ったところで実に意外な出来事が。
散々人の肝を冷やしておいてから、
この煙に巻くようなラスト。
いや全く、翻弄されます。
実にスリリングな122分。



「人生スイッチ」
2014年/アルゼンチン・スペイン/122分
監督・脚本:ダミアン・ジフロン
製作:ペドロ・アルモドバル
出演:リカルド・ダリン、リタ・コルテセ、ダリオ・グランディネッティ、フリエタ・ジルベルベルグ、レオナルド・スバリャーリャ

ブラックコメディー度★★★★★
満足度★★★★☆

偉大なるしゅららぼん

2015年07月29日 | 映画(あ行)
赤い学生服も許せちゃう



* * * * * * * * * *

万城目学さんによる原作の映画化。
原作は読み損ねていましたので、全く新鮮な気持ちで拝見しました。



琵琶湖畔、石走(いわばしり)の町。
古代から、不思議な力を伝承する日出一族が住んでいます。
分家の息子・涼介(岡田将生)が、
一族の掟に従って本家の城に修行にやって来ました。
日出の跡取り息子は、涼介と同い年の淡十郎(濱田岳)。
涼介は、最強の力を持つとされる淡十郎に
従者扱いされ、振り回される日々。
さて、同じくこの地を支配するもう一方の一族が棗(なつめ)一族。
彼らと同じクラスに棗の跡取り息子・広海(渡辺大)がいて、
何かとライバル心を燃やします。



というようなわけで、本作はライバルの日出家と棗家の
壮絶な争いのストーリーなのか、
と思ったら、そうではなくて、
正体不明の別の敵と対峙し、双方協力関係になっていく、
というステキな展開になっていくのです。
その“別の敵”の正体も、なかなか虚を突かれます。
本を読んでいなくてよかった!!



琵琶湖が二つに割れて道ができる、
このスペクタクルも楽しい!!
偉大なんだか矮小なんだか、よくわからない淡十郎が
濱田岳さんにピッタリ。
意外と覚めた部分もありながら、
なんだかちょっとせこかったりもする、
さすがお殿様、実にユニーク。



それにしてもこの赤い学生服のあまりにも派手で
趣味が悪くて落ち着かないことこの上ない。
・・・ではありますが、まあ、この二人だから普通の制服では全然つまらない。
最後の方ではすっかりそんな気持ちになってしまっていました。



それで、“しゅららぼん”って、結局何?
ということなのですが、これは音なんですね。
何の音なのかは、本作最後の最後までじーっくり御覧ください。



偉大なる、しゅららぼん スタンダード・エディション [DVD]
濱田岳、岡田将生、深田恭子、渡辺大、貫地谷しほり 他
キングレコード


「偉大なるしゅららぼん」
2014年/日本/114分
監督:水落豊
原作:万城目学
出演:岡田将生、濱田岳、深田恭子、渡辺大、貫地谷しほり

ストーリー性★★★★☆
満足度★★★★☆

「ジヴェルニーの食卓」原田マハ 

2015年07月28日 | 本(その他)
新しい「美」の形を支える人々

ジヴェルニーの食卓 (集英社文庫)
原田 マハ
集英社


* * * * * * * * * *

ジヴェルニーに移り住み、青空の下で庭の風景を描き続けたクロード・モネ。
その傍には義理の娘、ブランシュがいた。
身を持ち崩したパトロン一家を引き取り、制作を続けた彼の目には何が映っていたのか。
(「ジヴェルニーの食卓」)
新しい美を求め、時代を切り拓いた芸術家の人生が色鮮やかに蘇る。
マティス、ピカソ、ドガ、セザンヌら印象派たちの、
葛藤と作品への真摯な姿を描いた四つの物語。


* * * * * * * * * *


印象派。
19世紀後半のフランスに発した絵画を中心とした芸術運動。
当時は、写実的な宗教画や、風景画、肖像画、
重々しく描かれるそういうものこそが「絵画」と思われていたのです。
そこへ、これまでの『絵画』の常識をくつがえす
風変わりな絵を描く者達が現れた。
当時の絵画を権威づけるのは「官展」だったのですが、
規格はずれの彼らのような絵は、酷評を受けて無論落選。
けれどそれを惜しいと思う人も現れたのです。
そこで「落選展」が開かれたのですが、
当の「官展」よりも人が集まるようになったとか。
こんな風に芸術に新しい息吹を吹き込んだ印象派、
マティス、ドガ、セザンヌ、モネ4人の画家を、
それぞれに関わった人たちの立場からの視点で描いています。


「タンギー爺さん」では、全く売れない貧乏な『新しい絵』を描く画家たちの絵を預かり、
絵の具などの画材を提供し続けた画材屋さんのことが描かれています。
言ってみれば現代美術の萌芽を支えた人物でもありますね。
人が良くて、ただただ「絵」が好きで。
でも一本気で頑固でもありそうだ。


「ジヴェルニーの食卓」
ジヴェルニーは、あの睡蓮の池のある美しいモネの庭のある地です。
一端は目を病み、筆を折りかけたモネを支え続けた義理の娘ブランシュ。
複雑な家庭事情にありながら、
モネを支えること自体に自らの生きがいを見出す、
そんな生き方もまた、鮮烈な印象を残します。
6月の陽光。
美しい庭を眺めながら心尽くしのランチを頂く。
何やら至福を感じますね。


本作は「楽園のカンヴァス」と同じく、
著者のキュレーターというキャリアを活かす、素敵な作品でした。
美を愛し、自分なりの表現を固守する芸術家たち、
そうした新しい美術を徐々に受け入れていく人々、
そうした息吹を感じさせます。


今度は誰か、レオナール・フジタを題材に物語を書いてくれないかな?


「ジヴェルニーの食卓」原田マハ 集英社文庫

満足度★★★★☆

アリスのままで

2015年07月27日 | 映画(あ行)
壊れていく自分と向き合うこと



* * * * * * * * * *

ジュリアン・ムーア、第87回アカデミー賞主演女優賞獲得作品。
見たかったのですが、なかなかタイミングが合わず、
ほとんど諦めかけていましたが、やっと見ることができました。



ニューヨーク、コロンビア大学で教鞭をとる言語学者アリス(ジュリアン・ムーア)50歳。
講義中に言葉が思い出せなくなったり、
ジョギング中に道がわからなくなったりということが起こるようになり、受診。
若年性アルツハイマーとの診断を受けてしまいます。
次第に記憶や知識が薄れていく恐怖。
家族の戸惑い。
まだ記憶が薄れてしまう前に、アリスは後の自分に向けて、
ビデオメッセージを残すのですが・・・。



よりによって言語学者が言葉が思い出せなくなるというのが切ないですね。
自分がこれまでの間、積み上げてきた知識や経験、人間関係・・・これらが崩壊していく。
ジュリアン・ムーアがアリスの変化を実にリアルに演じています。
それは、あのビデオメッセージを後のアリスが見るところで歴然とします。
あんなに、知的に輝いていた目や表情が、
すっかり弛緩して、ぼんやりしたものになってしまっている。
わずかの期間にこんなにも・・・と、驚かされる場面です。
そこまでの変化を、ジュリアン・ムーアが徐々に不自然でないように演じていた、
ということの証でもあります。



アリスが「ガンなら良かったのに」というところがあります。
ガンならば皆に同情されながら、やがて消えていく。
しかしアルツハイマーは、人から奇異に見られ、ずっと生きていく。
でも病を選ぶことはできないし、
それを言えば健康が一番なのは明らかですもんね。
運命としか言いようがない、病。
向き合うのは辛いです・・・。



それにしても本人も辛いのですが、それを支える家族も大変です。
アリスの世話も必要だし、けれどこの生活を支える収入も必要だ。
それぞれに築いてきたこれまでの人生もある。
そういうものを全て見なおさなければならない。
そういう辛さを本人はよくわからないということだけが幸いなのかもしれません。
家族の愛情がまさに試されてしまう、そこもちょっと怖いです。



けれどなんというか、こういうドラマは以前にもあったと思うし
あるべき話がなるようになっただけ・・・
という印象も拭えない。
ちょっぴり素直でない私でした。


「アリスのままで」
2014年/アメリカ/101分
監督:リチャード・グラツァー、ウォッシュ・ウエストモアランド
出演:ジュリアン・ムーア、アレック・ボールドウィン、クリステン・スチュワート、ケイト・ボスワース、ハンター・パリッシュ
満足度★★★☆☆

ジャッジ 裁かれる判事

2015年07月25日 | 映画(さ行)
父と息子の相克を真正面から



* * * * * * * * * *

強引な手腕で金持ちを無罪にすることで知られる
弁護士ハンク・パルマー(ロバート・ダウニー・Jr)。
母の訃報を受けて、20年も帰っていなかったインディアナの故郷の町へ向かいます。
父ジョセフ・パルマー(ロバート・デュバル)は、世間から信頼を集める判事。
しかし、ハンクとは反りが合わず、絶縁状態でした。
だからハンクは葬儀の後すぐにでも帰るつもりでした。
ところが、なんとひき逃げ事件の犯人として父が逮捕されてしまうのです。
やむなく弁護人を務めることになったハンクですが、
やがて父に不利な証拠が浮上してきます。



父と息子の相克というのは、もういやになるくらいありふれたテーマなのですが、
でも本作は真正面にこのテーマと向き合って成功していると思います。
母の葬儀でも、父は、訪れる人一人ひとりとハグをし言葉をかわすのに、
ハンクにはおざなりに握手をするだけ。
ハンクの立場にたてば実にこちらまで心がヒリヒリしてきます。
しかしこの父子関係こそが今ハンクの抱えている問題、
離婚の危機であったり、あまりにも強引な仕事のやり口であったり、
そういうことと地続きであることが伺われるのです。



偉大な父であるからこそまた、乗り越えなければならい巨大な障壁でもある。
しかしまたその父に認められ、その愛に包まれたいという要求も、
大人になった今でも消えてはいない。
老いて病んだ父の姿を目の当たりにし、一時は互いの心がほぐれるのですが、
しかし長年の相克はそう簡単には修復しない。
ある嵐の夜に、また破綻が訪れ・・・。
このあたりの持って行き方も見事ですね。



ハンクの弟が、撮影に興味を持っていて、
彼らの子供の頃の家族の映像が何度か挿入されます。
そこには楽しげに父とじゃれあって遊ぶハンクの姿も。
確かにこんな時期もあったのだ。
すっかり忘れて、思い出しもしなかったけれど。



父から逃げ出してきたこと。
野球の道を断念した兄のこと。
別れたきりの恋人のこと。
大都会シカゴで、すっかり忘れたふりをして過ごしてきたけれど、
本当はもう一度しっかり向かい合うべきことだった。


アイアンマンではないロバート・ダウニー・Jr健在。
そのことが確かめられたのもよかった・・・!

ジャッジ 裁かれる判事 ブルーレイ&DVDセット(初回限定生産/2枚組/デジタルコピー付) [Blu-ray]
ロバート・ダウニー JR.,ロバート・デュバル,ベラ・ファーミガ,ビンセント・ドノフリオ,ジェレミー・ストロング
ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント


「ジャッジ 裁かれる判事」
2014年/アメリカ/142分
監督:デビッド・ドブキン
出演:ロバート・ダウニー・Jr、ロバート・デュバル、ベラ・ファーミガ、ビンセント・ドノフリオ、ジェレミー・ストロング、ビリー・ボブ・ドーソン


父と息子の相克度★★★★★
満足度★★★★★

「最終講義 生き延びるための七講」内田樹

2015年07月24日 | 本(解説)
特異な視点に感嘆させられる

最終講義 生き延びるための七講 (文春文庫)
内田 樹
文藝春秋


* * * * * * * * * *

今そこにある現実に対して、手持ちの人と情報と時間で対処しなければならない時、
もっとも有効な方法とは何か?
福沢諭吉の私塾に見る学びの本質から、映画『七人の侍』に学ぶ組織のあり方まで、
世界の眺望が一変する言葉の贈り物。
神戸女学院大学退官の際の「最終講義」を含む、
著者初の講演集がついに文庫化。


* * * * * * * * * *

内田樹さんの「講演」をまとめたものですが、
これがさすがに分りやすい!! 
何よりも他の人と違う視点からの発想が驚きに満ちていて
そして説得力に満ちているので、唸らされることしきりです。


特に私のように地方に住んでいるものには、
直接内田先生のお話を聞くなどという機会は殆ど無く、
大変貴重な本だと思います。
神戸女学院大学退官の際の「最終講義」を含めて7講。


私が一番気になったのは「教育」に関することです。
今の教育は「商品」化している。
教育を受けるもの=消費者で、
そのニーズにそって学校は教えるべき内容を用意する。
消費者は商品を買うわけだから、つまりその代金を払った対価を求める。
つまりいい成績を修めていい学校に進学し、
いい職について、高い生涯賃金を受け取る。
今それがあたり前のようになってしまっているけれど、
でも「教育」は商品ではない。
商品ではいけない、と氏は言います。
私はこんなことを教えるよ。
うちではこんなことを教えるぞ・・・と、
何かを教えたい人がいて、なんとなく引き寄せられてくる人がいる。
それがそもそも学校の始まりなのではないかと。
そうして教える側と教えられる側の相互交流があって、
新しい何かが始まるのではないかというのです。
ところが、教育が商品化した今となっては
ニーズの少ない講義がどんどんなくなっていって、
どこの大学も同じになってしまっている。


私、先日ニュースで見たのですが、
大学の「文学部」や「経済学部」を失くす動きがあるのだとか。
それよりももっと企業にとって即戦力になる内容を教えるべき、
ということのようなのです。
それってつまり、もう高校生の時から自分の進むべき職業を決めなければならないってことでしょうか。
大学は、何の役に立つのか分からないけれど『学ぶ』ということができるせっかくの場なのに・・・。
そもそも「学ぶ」とは実生活に直接役に立つようなことではないような気がします。
けれどもそれがなくなってしまったら、
世の中あまりにもギチギチして窮屈ではありませんか・・・。


それからこの文庫版の付録として
「共生する作法」という講演が最後に収められているのですが、
これがまた、どこをとっても意義の大きい内容で、
ここの部分だけ立ち読みでもいいので読むべきです!!
そこではまた教育は個人のためにあるのではなく、
社会のためにあるのだと言う論が繰り広げられます。
そしてまた、日本の対米従属について。
安倍首相のやり方についての苦言も多々。
本講義の時期的なことから「集団的自衛権の行使」についても触れられていますが、
つまりは安保法案に関しても参考になります。


いつか機会があったらぜひ直接お話を聞いてみたいと切に思います。


「最終講義 生き延びるための七講」内田樹 文春文庫
言葉の力度★★★★★
満足度★★★★★

奇跡のひと マリーとマグリット

2015年07月23日 | 映画(か行)
閉じ込められていた知性を解き放つ



* * * * * * * * * *

19世紀末フランス。
聴覚障害の少女たちが暮らす修道院に、
マリーという少女がやって来ました。
彼女は生まれつき目も耳も不自由で、
一切教育を受けずに育ったため、全くの野生児。
そんな彼女の“魂の輝き”を見とった修道女マルグリットが、
周囲の反対を押し切って彼女を教育することを志願します。



いわばこれは、フランス版のヘレン・ケラーの物語ですが、
ヘレン・ケラーが生まれたのが1880年ということで、
実際同時代のことなんですね。
生まれた時から真っ暗で音のない世界。
想像するのも辛いのですが、
「言葉」を持たなければ「思考」することができない。
ただ好悪の感情があるだけ。
これでは動物と変わりません。
マグリットがマリーの髪を梳かそうとするのにも
嫌がって格闘シーンになってしまう。
この彼女が、初めて物に『名前』があることを理解する時、
彼女の周りの世界は一変します。
そのきっかけは、ヘレン・ケラーの場合は「水」でしたが、
こちらのマリーの場合は「ナイフ」でした。
マリーがこの修道院に来てからそれまでに8ヶ月を要したわけですが、
それからは怒涛のように知識を身につけていきます。
なんて劇的な瞬間。
確かに彼女の知性は閉じ込められていたわけでした。



こうしてマリーはめざましい成長を遂げていくのですが、ひとつ問題が。
それはマルグリットには不治の病があり、
もう余命幾ばくもない状態になってしまっていたのです。
マルグリットが「死」の意味をマリーに教えるシーンが印象的です。
神様って何? 見ることも触ることもできないから分からない、というマリー。
はっとしますね。
見ることも触ることもできないのは私達も同じ。
神のことに関しては、私達も見えなくて聞こえない、マリーと同じ状態。
神様はどこにでもいる。
身の回りや胸を指さして教えるマルグリット。
もしかしたらマリーのほうが神を近くに感じることができるのではないかと思いました。



映画の冒頭に映しだされる赤いトマトがみすみすしく印象的なのですが、
ラスト近くにも出てきます。
このトマトを、見えていないはずのマリーが
「きれい」と表現する。
きっとそのつややかな手触りや新鮮な香りに、
彼女は「美」を感じたのでしょう。
そしてそれはまた、生きることに喜びを感じているマリーの心でもあります。


人間って、すごいな・・・。
まさに、感動のストーリー。

「奇跡のひと マリーとマグリット」
2014年/フランス/94分
監督:ジャン=ピエール・アメリス
出演:イザベル・カレ、アリアーナ・リボアール、ブリジット・カティヨン、ジル・トレトン、ロール・デュティユル

満足度★★★★★

フランシス・ハ

2015年07月21日 | 映画(は行)
どん底の一夏を経て



* * * * * * * * * *

ニューヨークでモダンダンサーを目指すフランシス27歳。
スマホもある、紛れもなく現代が舞台ですが、
モノクロ作品です。



恋人と別れ、親友ソフィーとの同居生活も解消。
おまけに職もなし・・・。
どうにも要領が悪くドンくさいフランシス。
しかし夢だけは諦めたくない。
・・・というか、ただがむしゃらにしがみついているという感じでしょうか。



はじめの方に、フランシスとソフィが互いの夢を語り、
いつかそうなりたい未来を語り合い憧れるシーンがあります。
フランシスはこのままの生活を続けていれば
いつかそこにたどり着くと単純に信じていた。
仲良しのソフィもそばに居て。
でも、ソフィの方はもう少し現実的で、
夢は夢、しかし生きていく道はそれだけではないということもわかっている。
本当に住んでみたい場所があれば、
親友との同居解消も苦にしない。
まあ、大人なんですね。
それでも、何やらズブズブのどん底の一夏を経て、
フランシスは成長します。
地に足をつけて、自分の生きる道を定めていく。
これはそういう女子の成長物語。



フランシスがATMを探して走り回るシーンがありまして、
ドジにも途中でこけたりしている。
この姿が本作でのフランシスそのものなんですね。
一生懸命でがむしゃらだけど、
周りをきちんと見ていなくて、危なっかしい。
だけどそんな彼女だからこそ、
なんだか私達は共感を覚え、応援したくなってしまうのです。
また、本作がモノクロというのにも、一種独特な新鮮味があります。
もし本作が普通にカラー作品だったら、
多くの女の子の成長物語に紛れて
平凡なものになってしまっていたのかもしれません。
だからといって、何でもモノクロにすれば目立つのかといえば、
やはりそうではないだろうと思えます。
すべてが良い方向で影響を及ぼし合っている気がします。



さてところで「フランシス・ハ」って何?
というのは、最後の最後でわかりますよ。
実に侮れなくておしゃれな題名なのでした。


「フランシス・ハ」
2012年/アメリカ/86分
監督:ノア・バームバック
出演:グレタ・ガーウィグ、ミッキー・サムナー、アダム・ドライバー、マイケル・ゼゲン、パトリック・ヒューシンガー
女子の成長度★★★★☆
満足度★★★★★

「ジャイロスコープ」伊坂幸太郎

2015年07月20日 | 本(その他)
ジャンルにとらわれない伊坂ワールド

ジャイロスコープ (新潮文庫)
伊坂 幸太郎
新潮社


* * * * * * * * * *

助言あります。
スーパーの駐車場にて"相談屋"を営む稲垣さんの下で働くことになった浜田青年。
人々のささいな相談事が、驚愕の結末に繋がる「浜田青年ホントスカ」。
バスジャック事件の"もし、あの時…"を描く「if」。
謎の生物が暴れる野心作「ギア」。
洒脱な会話、軽快な文体、
そして独特のユーモアが詰まった七つの伊坂ワールド。
書下ろし短編「後ろの声がうるさい」収録。


* * * * * * * * * *

伊坂幸太郎さんの短篇集です。
先に読んだエッセイ集「3652」の中に、短編が特別編集として加えられていて、
「うわ、短編も面白い!!」と思ったものですから、
この本を手にしました。

冒頭「浜田青年ホントスカ」は、伊坂氏らしい伏線に唸らされる一作。
妙だ。
だけれど、すごい。


「ギア」は近未来SFめいたストーリー。
一匹見かけたら10匹。
2匹見かけたら20匹かならずいる、という"セミンゴ"の謎。
きゃー、怖い。


「彗星さんたち」は、新幹線の車内清掃をする人たちのストーリー。
これが始めのうち全く「お仕事小説」ふうで、
あれ?と思うのです。
知らなければ、伊坂幸太郎さんだとは気づかないと思います。
こんなストーリーも書くのか・・・と思い始めたころ、
しかし終盤にかかって意外な展開。
それは全く「想像上」の話なのですが、それにしても面白い。
通常を生きる私達にもこんなイマジネーションは大事だなあ
・・・などと思います。


ラスト「後ろの声がうるさい」は、
本巻のための描きおろし短編なのですが、
本巻に収められている短編を拾い上げ一つのストーリーになっているという離れ業の一作。
これがまた最後まで読むと心がほんわかする一作でもアリ、お得です。


伊坂幸太郎ファン、必読の一作。


「ジャイロスコープ」伊坂幸太郎 新潮文庫
満足度★★★★☆


ターミネーター新起動 ジェニシス

2015年07月19日 | 映画(た行)
本当に帰って来ちゃったよ・・・



* * * * * * * * * *

ターミネーター、1985年の第一作公開から30年。
また、アーノルド・シュワルツェネッガーが
12年ぶりにターミネーターとして帰ってきた記念の作品。
いやー、本当に帰ってきちゃいましたね。
この男。



ターミネーターは何といっても第一作が印象深い。
機械が支配する荒廃した未来。
人類の反乱軍のリーダーなのがジョン・コナー。
その母親であるサラ・コナーを抹殺するために、
殺戮マシーンのT-800が未来から送り込まれてきます。
そしてジョン・コナーは、母を助けるために自分の部下であるカイル・リースを
同じく過去に送り込む。
そのカイルこそが母と結ばれ、ジョン・コナーが生まれることになる・・・という、
タイムトラベルものが大好きな私にとっては
実に不思議でワクワクする物語だったですねえ・・・。



本作はそこを踏まえて、T-800がサラ・コナーを抹殺するために送り込まれるところ
(当時のシュワルツェネッガーの映像がそのまま!!)、
そしてカイルが後を追って送り込まれて来るシーンから始まるわけなのですが・・・。


なんと、そこにはサラ・コナーとともに
年老いたT-800(現在のアーノルド・シュワルツェネッガー)が待ち受けているのです。
一体なぜそんなことが???



こちらのT-800は、なんとサラ・コナーが9歳の時に未来からやってきて、
ずっと彼女を守り続けてきていたのです。
ロボットは古くなってポンコツにはなるけれど、年はとらないはず? 
そうなのですが、まあご都合主義的な説明が一応されておりました。
つまりは、先に映画で語られた未来とは別の分岐をした未来を
私達は見ることになるのです。
こんな説明がOKなら、
まだまだいろいろなターミネーターのストーリーが無数にできてしまいそうですが。



とにかく、こうなるともう、ここでのT―800はサラの父親なのです。
そこへサラと結ばれることになっているカイルがやってくる。
いやはや、これはもう娘の恋人を値踏みする父親以外の何物でもない。
シリアスな物語なんですけどね。
妙なユーモアがあって、イケてます。
しかし、ラストで登場するT-3000には驚かされてしまいます。
これって、禁じ手ではないのか?? 
思い切ったことをしますよねえ。



本作は、1985年の舞台からまた時を超えて2017年、
つまりはまあ殆ど現在へと舞台を移すのですが、
先の1985年にカイルたちに命を救われた若い警官が、
年令を重ねて再登場。
これがJ・K・シモンズで、
ずっとそのときの謎のロボットの研究を続けていたりするのです。
このサイドストーリーも良かったなあ・・・。
ともあれ、ターミネーターファンならば、実に納得の行く出来なのではないでしょうか。



ターミネーター新起動 ジェニシス

2015年/アメリカ/126分
監督:アラン・テイラー
出演:アーノルド・シュワルツェネッガー、エミリア・クラーク、ジェイ・コートニー、ジェイソン・クラーク、イ・ビョンホン、J・K・シモンズ

時間の不思議度★★★★☆
満足度★★★★☆


渇き。

2015年07月17日 | 映画(か行)
嫌なものを見てしまった



* * * * * * * * * *

妻の不倫相手に暴行を加え、
仕事も家庭も失った、元刑事の藤島(役所広司)。
別れた元妻から娘の加奈子が失踪したと知らされ、その行方を追います。
加奈子は、容姿端麗で学校ではマドンナ的存在
・・・表面上はそんなふうでした。
しかし、次第に彼女の知られざる人物像が浮かび上がってきます。
それを知った藤島は、激情に駆られ、
血まみれの暴走を始める・・・。

ひたすら血と暴力と狂気にあふれた作品で、
ここまでのものとは思っていなかったので、
驚くとともに嫌悪感がこみ上げてきてしまい・・・、
私が見るべき作品ではありませんでした。
確かに感情はひどく揺さぶられます。
でも感動ではない。



加奈子に憧れる友人のシーンが、
アニメなどを挟んで妙にポエム的に描写されます。
確かにふしぎな透明感のあるこの加奈子と、
その実際の行動のギャップが、戦慄であり、
ある意味陶酔を誘うものであるのかもしれない。

このへんは好みがわかれるところでしょうけれど・・・、
あまりにも良識に縛られているオバサンとしては、NOというほかありません。



いつもヘラヘラ笑いながらチュッパチャプスをしゃぶり、
その実シビアなことを考えているのが丸見えという変なキャラの刑事、
妻夫木聡さんは傑作でした・・・!



渇き。 プレミアム・エディション(2枚組+サントラCD付)[数量限定] [DVD]
役所広司,小松菜奈,妻夫木聡,清水尋也,二階堂ふみ
ギャガ


「渇き。」
2014年/日本/118分
監督:中島哲也
原作:深町秋生
出演:役所広司、小松菜奈、妻夫木聡、清水尋也、二階堂ふみ、オダギリジョー

バケモノの子

2015年07月16日 | 映画(は行)
渋天街の世界観に魅せられて



* * * * * * * * * *

待ってました、細田守監督作品。
「オオカミこども」からはもう3年になるのですね。


9歳の少年蓮は、母を亡くし、
身勝手な大人たちに絶望。
家を飛び出し一人ぼっちで渋谷の街をさまよっていました。

そんな彼に声をかけたのは「バケモノ」の大男、熊徹。
俺の弟子にならないか?というのです。
取り合わなかった蓮ですが、やがて渋谷の路地を歩むうちに
バケモノたちの済む「(ジュウテンガイ)」へ迷い込み、
結局熊徹の弟子になることになってしまいます。
名前も九太としますが、この二人は全く気が合わず、常に罵り合い。

前途多難・・・。
そんな二人を多々良と百秋坊が見守ります。



そもそも熊徹は口が悪くけんかっぱやく、乱暴で身勝手、
本人が子どもみたいなところがあり、
弟子など持てるわけがないと、二人は思っていたのでしたが。
孤独な魂が寄り添うとでもいいましょうか、
喧嘩しながらもいつしか互いに成長し、絆を深めていくわけですね。



さて、それから瞬く間に時が過ぎて九太は17歳。
ある日、あの見知らぬ路地を抜けて、
人間界へ出て、楓という少女と知り合います。
9歳から学校へ行っておらず、漢字もろくに読めない蓮の知的欲求は強く、
楓から勉強を教わるために、人間界とバケモノたちの世界を行き来するようになるのです。


リアルな渋谷の街と「渋天街」の交差が不思議で魅力的です。
バケモノたちの世界は、確かに姿形はバケモノなのだけれど、
心に闇を持たない分、人間よりもむしろ穏やかで世界は平和。
独特な世界観です。
熊徹ら一行が他の宗師の元を訪ね歩くと、
そこにはまた様々なワールドが。
この一行というのがまるで西遊記の一行の様でもあり、
私はこのロードムービーだけをもっとじっくりと
別の作品に仕立ててもらいたい気がしました。
本当はもっと様々な苦難があったりしてね。
熊徹と九太の掛け合い漫才のようなけなし合いも面白いし、
ちょっぴりさめてシニカルな多々良もよし。
どこまでも穏やかな百秋坊もよし。
このふたりがまた、声の主である大泉洋さんとリリー・フランキーさんにそっくり。
始めからこの二人をイメージして作画したのかと思ったのですが、
そうではなくて、絵のイメージに似た人を探したとのことです。


本作は細田守監督が父親となって初めての作品ということなんですね。
子育ての大変さを実感しながらも、
でも子どもを育てるのは何も実の親だけではない。
周りのいろいろな人が関わりあうことで子どもは育てられるのだ
・・・と感じたそうです。
実の父とは全く疎遠ながらも、多くのバケモノたちや友人とのかかわりのなかで
成長していく蓮の姿がそのことを象徴しています。
蓮の成長ぶりを「誇らしい」という多々良と百秋坊のシーンがすごく好きでした。
我が子ではなくとも、そんなふうに子どもの成長に関われたら、
本当にステキですし、そういう地域社会であるといいなあ~と思います。



それから、久太のライバルともいうべき一郎彦と次郎丸。
この子たちははじめ一郎彦のほうが優しげで、次郎丸がいじめっこ。
というわけで、一郎彦との友情を予感させるのですが、
意外にも次郎丸が実にさっぱりとしたいいヤツだったりします。
やっぱり、基本的に「バケモノ」たちのほうが人間より付き合いやすい。
私も「渋天街」へ引っ越して住みたいくらいです。


渋谷の街に巨大なクジラが泳ぐ影。
恐くもあり美しくもあり。
幻想的で見とれてしまいます。


本作は結局九太が修行の末強大な力を身につける、とういう話ではないのですね。
確かに体力や技は身につくけれど、
大切なのは、周りの皆のおかげで
自分の中の闇と向かい合うだけの生きる力を身につけるということなのでしょう。
そこが出来上がって、今度は初めて学力と向かい合うことになる。
意外とこれは教育論ですよ・・・。


「バケモノの子」
2015年/日本/119分
監督・脚本:細田守
出演(声):役所広司、宮崎あおい、染谷将太、広瀬すず、山路和弘、リリー・フランキー、大泉洋

異世界度★★★★☆
満足度★★★★★

ブラック・ハッカー

2015年07月15日 | 映画(は行)
パソコンが怖い・・・



* * * * * * * * * *

新作映画のプロモーションキャンペーンで
人気女優とディナーを共にできるという企画に当選したニック(イライジャ・ウッド)。
しかし宿泊しているホテルに、関係者と思われる人物から
予定のキャンセルの連絡を受けます。
けれどその代わりに彼女の部屋を盗撮したライブ映像を
パソコンで見られるようにする、というのです。
そう言われたニックは、興味本位で覗き見をしてしまいますが・・・。



自在にパソコンに侵入し、不気味なメッセージを発する“犯人”。
いつの間にか犯罪の加害者に仕立てられていくニック・・・。
また、それとは別のハッキンググループも登場し、
事態は次第に混線していくのです。



一体どんなことをすればこんなことができるのか、
私には魔法のように思えてしまいますが、
今やあらゆる映画で、このようなハッキングシーンは欠かせなくなってしまっています。
本作はパソコンのモニター画面がそのまま映画の画面。
リアルタイムで進行していくストーリー展開は
目が離せません。
それにしてもなんだか怖いですね。
こんな風にパソコンを通じてなんでも覗き見されてしまうとは。
いや、パソコンだけでなく、スマホもでした。
こうなるともう、24時間誰かに見られているなんていうこともありえるのか・・・。



イライジャ・ウッドは、リアルな人物なのにどこか作り物めいた風貌。
これがまた、独特の雰囲気を作り出していましたねえ・・・。



ブラック・ハッカー ブルーレイ&DVDセット(初回生産限定/2枚組) [Blu-ray]
イライジャ・ウッド,サーシャ・グレイ,ニール・マスケル
ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント


「ブラック・ハッカー」
2014年/アメリカ・スペイン/100分
監督・脚本:ナチョ・ビガロンド
出演:イライジャ・ウッド、サーシャ・グレイ、ニール・マスケル
ハッキングのブラック度★★★★☆
満足度★★★☆☆

「ハートブレイク・レストラン ふたたび」松尾由美

2015年07月13日 | 本(ミステリ)
ハルおばあちゃんの名推理をふたたび

ハートブレイク・レストラン ふたたび (光文社文庫)
松尾 由美
光文社


* * * * * * * * * *

フリーライターの真以が書斎がわりに使う、東京郊外の寂れたファミリーレストラン。
奥の隅の席が定位置のハルお婆ちゃんは、知る人ぞ知る名探偵
―そして実は幽霊だ。
真以から風変わりな事件の話を聞くと、
たちどころにその謎を解き明かしてゆく。
様々な事件の背後に隠された、時にユーモラスで時に切ない真実とは?
大人気シリーズ、待望の続編がついに登場!


* * * * * * * * * *

このシリーズの前作「ハートブレイク・レストラン」は、
確かに読んだ記憶があるのですが、
ブログ記事にはなっていませんでした。
…そんなに昔のことだったんでしょうか?
それほど前のような感じはしないのですが。
というのも、本作の探偵役はおばあちゃんで、しかも幽霊という、
相当に特殊な設定なので、印象深いためなのかもしれません。


このハルおばあちゃんは、
とあるあまりはやっていないファミリーレストランにのみ出没。
このおばあちゃんを見ることができる人とできない人がいる。
主人公であるフリーライターの真衣が、
いろいろな謎をハルおばあちゃんに相談するのですが、
おばあちゃんは話を聞いただけでスルスルとその謎を問いてしまう。
まあ、典型的なアームチェアディテクティブです。


前作で、真衣はここで南野という刑事と知り合い、
ちょっぴり親しくるという、
ほんのりラブストーリーも交えてあったようなのですが、
残念ながらそちらの方はあまり良く覚えていませんでした。
ところが続きの本作では南野はもっと忙しい部署に異動になってしまい、
こちらにはほとんど登場しません。
その代わり、風変わりな女性刑事が登場。
その小椋刑事ときたら、ちょっと太めで大きな黒縁眼鏡。
ブッキラボウで尊大。
真衣はどうにも好きになれません。
ところが、何年か前に彼女は美人刑事として有名だったというのです。
その彼女がなぜこうなってしまったのか・・・?
この本は一応短編の連作ミステリで、
一つ一つの日常の謎を問いいていくわけなのですが、
このようなユニークな人物のサイドストーリーが楽しめるのもいいところです。

「ハートブレイク・レストラン ふたたび」松尾由美 光文社文庫
満足度★★★.5

チャイルド44 森に消えた子どもたち

2015年07月12日 | 映画(た行)
四面楚歌の体制の中で



* * * * * * * * * *

トム・ロブスミスによる原作がすごく面白くて、
夢中になって読んだものでした。
詳しくはこちらを・・・
→「チャイルド44」
その頃から映画化の話があり、心待ちにしていたのですが、
それから6年。
映画作りというのもなかなか時間がかかるものなんですね。



1950年代、スターリン体制下のソ連。
秘密警察の捜査官レオ(トム・ハーディ)は
一目惚れして射止めた妻ライーサ(ノオミ・ラパス)と暮らしていますが、
どことなく妻の方に生彩が感じられません。
ある日、レオの親友の息子が線路のそばで遺体で発見されます。
検屍によれば明らかに事件。
しかし、「殺人事件」は国家の理念に反するのです。
「楽園」であるはずのこの国に、殺人事件など起こるはずがない。
強引に事故として処理されてしまうのですが、
これを声高に事件と言いはることは、すなわち国家への反逆罪。
これまで完全に体制側にあったレオですが、
次第に国家への疑問が湧いてきます。
そんな時、妻へのスパイ容疑が浮上。
あくまでも妻をかばうレオは、
辺境の田舎町に異動させられてしまいます。



ところがその町の近辺でも少年の死亡事故が多発していることにレオは気が付きます。
前述の理由で、それぞれ事故や精神異常者の犯罪として処理されしまっていたために、
誰も連続殺人だとは気づいていなかった。
ここでのレオの上司であるネステロフ将軍(ゲイリー・オールドマン)の力を借り、
レオはこの事件の真犯人を突き止めようとするのです。
この捜査はやはり重大な国家反逆罪であるにもかかわらず・・・。



どんどん自身の立場が悪化していくにもかかわらず、
信念を持って真相を突き止めようとする、このレオの強さに痺れてしまいます。
そして、はじめギクシャクしていた妻との関係も、
互いに苦労を共にするうちに、絆を強めていく。
当時のソ連の欺瞞に満ちた体制に今さらながら憤りを覚えます。
本作は、謎解きミステリというよりもむしろ
この四面楚歌の体制の中で
真実を見極めようとするレオのタフさが、見どころです。



そしてまた、この芯の強い女性、ライーサに
ノオミ・ラパスがピッタリなのでした。
プロポーズを受けて一週間泣き暮らしたという
ライーサの心情を、全く受けとけ止めていなかったレオも
デリケートなさすぎですけどね。



原作の方は3部作で、
本作=第一部は、それなりに安穏の生活を取り戻すところで終わるのですが、
実はそれがまた新たな苦労の始まり・・・なんですよ。
また、改めて読んでみたくなってしまいました。



「チャイルド44 森に消えた子どもたち」
2015年/アメリカ/137分
監督:ダニエル・エスピノーサ
原作:トム・ロブスミス
出演:トム・ハーディ、ゲイリー・オールドマン、ノオミ・ラパス、ジョエル・キナマン、バディ・コンシダイン
歴史発掘度★★★★★
満足度★★★★☆