映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

 新しい人生のはじめかた 

2010年02月28日 | 映画(あ行)
人生に過度の期待のないもの同士



             * * * * * * * *

バツイチのCM作曲家ハーヴェイ(ダスティン・ホフマン)。
娘の結婚式のため、ニューヨークからロンドンへやってきます。
しかし、娘は義理の父とバージンロードを歩むという。
結婚式のために集まった人々と全然なじめず、
1人行き場なく孤独を感じてしまうハーヴェイ。
おまけに仕事はクビになるし、飛行機には乗り遅れるし・・・。



一方ロンドンに住む未婚のケイト。
彼女はなかなか男性と気軽に話すことが出来ず、
もう結婚とか恋とか、そういう物に心がかきまわされることがめんどうになってきていて、
半ば人生をあきらめている。



そんな2人が、空港のバーで出会います。
ケイトにとっては、ハーヴェイは単に行きずりの見知らぬオジサンなので、
何のきどりもなく率直な物言いが出来る。
こういうところがよかったんでしょうね。
いつしか、意気投合している2人。


ことさら目新しい事件があるわけでもないのですが、
落ち着いて見ることが出来る、大人のラブストーリーといえましょう。

若いときの情熱もきらめきもないけれど・・・
もう人生に過度の期待もない。
そうした力の抜けたあたりの出会い。
こういうのは、お互い自然体で、いいなあと思うのです。
そこにささやかな幸せが待っていたりするのです。
いくつになっても、人と人とが理解し合い、共感し合えることは必要なんですね。
それがこんなふうにしっとりと出来てしまうのは
ある程度年を重ねたからこそ。
年をとるのも悪くないって感じです。
ただし、ここでもう若くないんだから・・・と自己否定してしまってはいけないわけです。
気負いすぎず、慎重になりすぎず、
このバランスが大切。
要は、自然に気の向くまま、ということでしょうか。



ところで、なんだかこの2人の関係は、
男女じゃなくてもよかったのじゃないかと思えてきます。
別に性的つながりはなくても、人と人が出会って気があって、生涯の友人となる。
そんな関係でも、全然OKなのではないかと。
体を求め合うのではなく、心で求め合う。
自分を理解し求めてくれる人がいるという思いが、
人が前に向かって歩き出す勇気と力を与えてくれるのでしょう。

新しい人生の始め方とは、すなわち自分を理解してくれる友や恋人を持つこと。
そのためには自分自身も心を開いて人を理解しようとしなくてはね・・・。

2008年/アメリカ/93分
監督・脚本:ジョエル・ホプキンス
出演:ダスティン・ホフマン、エマ・トンプソン、アイリーン・アトキンス、リアン・バラバン



映画 新しい人生のはじめかた 予告



「1000の小説とバックベアード」 佐藤友哉

2010年02月27日 | 本(その他)
著者が小説に向けた熱い思いとこだわり

             * * * * * * * *

1000の小説とバックベアード (新潮文庫)
佐藤 友哉
新潮社

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ミステリ好きの私としては、よく見かける著者のお名前なのですが、
実は未読の作家なのでした。
三島由紀夫賞受賞作というこの本、表紙のイラストにも心惹かれて手に取ってみました。
このストーリーはもはやミステリではないのです。
不思議な世界観に私たちを引き込みます。

主人公木原は「片説家」。
これは、不特定多数の読者に向けてではなく、依頼人に向けて集団で物語を創作する職業。
木原は「小説」をもっと高尚な物と考えています。
彼は言います。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

正座し、背筋を伸ばし、原稿用紙と格闘し、
自分の秘密や思想や汚辱をベースにして、
読者をおもしろおかしく、ときにはほろり、ときにははらはらさせつつ、
世界と握手する方法や、世界を殴りつける方法を教えるのが、
本当の意味での、そして唯一の意味での小説だ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

しかし、自分はそれには遠く及ばないと彼は思い、「片説家」に甘んじていたわけです。
ところがある日突然、彼はこの片説制作会社をクビになってしまう。
そして彼はやはり「小説」を書こうと思うのですが・・・・・。

拉致されて「失格者のための図書館」に閉じ込められたり、文字の海を渡ったり・・・
ストーリーはシュールに展開してゆきます。
私はこういうファンタジーとも違う非現実的ストーリーは
自分では苦手だと思っていました。
でも、先日村上春樹の「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」を読んだせいか、
意外とすんなり入り込めたのです。
そして気に入ってしまいました。

ちょっとくらいの意味不明(?)を物ともせず、
著者自身の小説に対するこだわりや熱い思いが伝わるのです。
この本は、著者の情熱の勝利ですね。


時折、本の文章が視覚的に美しく並んでいたりします。
全く同字数で出来た文章が何行も並んでいたり。
一行ごとに一文字ずつ増えていったり。
力と魂がこもりながらも、このような遊び心も織り交ぜたミラクルストーリーに
私は魅せられてしまいました。

実のところ著者のかなりの才気を感じさせられますが、
逆に言うと、こちらの頭の悪さ加減も思い知らされてしまうんですよ・・・。
つくづく私はミーハーの本読みなんです。
きちんとした「小説」を読むには値しないなあ・・・と、正直思っております。
が、それにしても、この本の放つ強いオーラは感じられる。
今更ながら、著者の他の作品も読んでみたいと思います。


さて、この著者は北海道出身でしたか。
しかも昭和55年生まれといえば、うちの長女と同じ年だなあ・・・。
勝手ながら親しみを持ってしまったりして。
この先も楽しみですね。

満足度★★★★★

タイトロープ

2010年02月26日 | クリント・イーストウッド
自分の中にも潜む猟奇性

            * * * * * * * *

タイトロープ [DVD]

ワーナー・ホーム・ビデオ

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これはまた刑事物ですが、ダーティハリーとは違うんだね。
そう、ブロック刑事(クリント・イーストウッド)は、
それほど過激な人物ではなく、2人の娘を育てている至ってまともな刑事です。
彼が連続猟奇殺人事件に挑むわけなんだ。
娼婦を全裸にし手錠をかけて犯した上絞殺するという。
いつも犯人の手口はこれなんですね。
ブロック刑事は聞き込みのために風俗関係施設を回るうちに、
その怪しい猟奇性にひかれていくのを感じる。
そしてまた、何故か犯人はこの刑事を付け狙い、
彼が立ち寄り関係した娼婦をわざとターゲットにしてゆく。
犯人を追い詰めながら、逆に犯人に追い詰められたような気がしてしまうブロック。
そしてついに、彼の娘と恋人に魔の手が迫る・・・!!


サスペンスたっぷりの刑事物ですが、特にこの、
刑事が心理的に追い詰められていくところがなかなかいいと思う。
誰もが心の奥底では、怪しい感情の一つや二つ・・・。
ないとは言い切れないよね・・・。
ダーティハリーみたいに派手な撃ち合いはなし。
じっくり腰を据えてみるべき、大人のサスペンスドラマですね。


ここに出てくる娘役の女の子がすっごくかわいいと思ったら・・・。
これがまた、イーストウッドの実の娘、アリソン・イーストウッドでしたね。
うん。かわいい・・・というよりは、もう既にキレイ。
当時12歳ということなんですが。
うう・・・。やはり血は争えない。
これはもう身びいきとはいえない、はまったキャスティングと言っていいんじゃない?
はい、たしかに・・・。


最初の犬のシーンが好きだったな。
子供たちが捨て犬を見つけて、飼おうよと提案する。
戸惑いを見せつつ、承諾してしまうブロック。
でも次のシーン。
なんと、部屋には他にも犬がたくさん。
いつもこの調子で犬を拾っては飼うことになってしまっているのだ、ということがわかるわけなんだよね。
こういうちょっとしたおしゃれな演出がいいんですよねえ・・・。
こういうシーンだけ、書き留めて集めてみるのもいいかも。
まあ、気持ちだけは受け止めます・・・。無理だと思うけど。

1984年/アメリカ/115分
制作:クリント・イーストウッド
監督・脚本:リチャード・タッグル
出演:クリント・イーストウッド、ジュヌビエーブ・ビジョルド、ダン・ヘダヤ、アリソン・イーストウッド

「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」 万城目学

2010年02月24日 | 本(その他)
発想がユニークで行動力に満ちた女の子、かのこちゃん

             * * * * * * * *

かのこちゃんとマドレーヌ夫人 (ちくまプリマー新書)
万城目 学
筑摩書房

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万城目学氏はあの「鴨川ホルモー」を書いた方ですね。
私はまだそれしか読んでなかったのですが、
そのイメージからすると、この本はかなり異色と言っていいと思います。

何しろ主人公は小学校一年生のかのこちゃん。
そしてマドレーヌ夫人というのは猫です。
外見はマドレーヌの色に似たアカトラの普通の猫ですが、
なんと、彼女は外国語が話せる!
英語? 
フランス語? 
いえいえ、犬の言葉がわかるのですよ。
猫なのに。
だからマドレーヌは、かのこちゃんの家の老齢の柴犬、玄三郎の奥さんであり、
一緒に仲良く暮らしているのです。
しかし、実はマドレーヌの秘密はそれだけではなくて・・・・・・・。


メルヘンチック、現実にはあり得ない話ながら、
実生活とうまく絡み合わせて、
暖かく感動に満ちた物語世界を作り出しています。
私は、つい大島弓子さんのコミックを連想してしまいました。
猫が登場するからかもしれませんが、
かのこちゃんのイメージからでもあるんですね。
きっと、柔らかなウエーブがかかった明るい色の天然パーマの髪を
顔の両脇でちょこんと結んでいて、
好奇心に満ちたくりくりの大きな目。
発想がユニークで行動力に満ちた元気な女の子。
そんな女の子なんじゃないかな。
大島弓子さんのコミックに出てきそうな。
ふんわりパステルカラーのイメージの作品です。


そんなかのこちゃんと似たもの同士のお友達すずちゃんとの交友が楽しい。
小学一年生は小学一年生なりに、緊張のある日々。
・・・そうですよね。
ただ楽しいばかりではない。
そんな中で少しずつ成長していくかのこちゃんが、とても頼もしく思えます。
「茶柱」のエピソードはなんと言っても最高でした。
この作品を大島弓子さんがコミック化したら、
やっぱりマドレーヌ夫人は人間の姿で出てくるかな? 
これは是非観てみたい!!
でも、人間の姿をそこで出してしまうと、やっぱり後で困ったりするので無理か・・・。

思いがけず、いいものを読んでしまった・・・と思います。

満足度★★★★★

ミレニアム/ ドラゴン・タトゥーの女

2010年02月23日 | 映画(ま行)
鮮烈!! ニューヒロイン、リスベット



              * * * * * * * *

もうまもなく公開終了となりそうなこの作品。
劇場はがらがらで寂しいくらいで、
こういうのはかえってなんだか落ち着かないのですが・・・。
でも、これは見逃さなくてよかったとつくづく思いました!!
ミステリファンなら、感激物の一品。
というか、これは原作の勝利ですね。
スウェーデンの作家スティーグ・ラーソン原作なんですが、
なんとこの方の処女作にして遺作。
出版直前に急逝されたそうなのです。
そしてこの作品は瞬く間に世界中の売り上げ2100万部という大ベストセラーに。
というわけで、これはお国もとスウェーデンの映画。
そのため俳優に馴染みはないのですが、ニューヒロイン、リスベットは鮮烈です!!

おっとこれでいいのか・・・という
かなり刺激的なシーンもありますが・・・。


硬派のジャーナリスト、ミカエルは、
40年前ある資産家の邸宅から忽然と姿を消した少女ハリエットの捜査依頼を受けます。

その協力をすることになるのが、背中にドラゴンのタトゥーを入れた天才ハッカー、リスベット。
調べるうちに、少女の行方どころか、
過去から各地で起こっている、いくつかの猟奇殺人事件の関連が浮かび上がってくる。
どうやらこの資産家、ヴァンゲル一族の中に犯人がいるらしい・・・・・。




資産家一族の住む孤島。
ナチスとの関連。
暗号。
聖書になぞらえた猟奇殺人。
ミステリファンにはたまらない、この舞台とお膳立て。
しかも、これまでにない謎解きキャラ、リスベットがたまりません。
まだしっかりとは解き明かされていないものの、暗い過去があるようです。
見かけは、黒ずくめの服装に鼻ピアス、というパンク系。
超過激でクール。
ハッキング能力ばかりではなく、
優れた映像記憶力、そして推理力をもつ。
とにかくかっこいいのです。
しかしかっこいいばかりでなく
暗い過去ゆえに、人のぬくもりを恐れているようなところがまた引き付けられる。

事件が始めは単に行方不明の少女を捜すということだけだったのに、
そこから本当の事件が発覚していくという筋立てがいいんですよね。
リスベットは本当はミカエルの動向を探るために彼のパソコンをハッキングしていた。
そのうちに彼が調べているハリエットのことを知り、
ある日、事件のヒントを直接ミカエルにメールする・・・なんていうのも、しゃれている。
そりゃー自分だけが知っている事件について、
突然見知らぬ他人にヒントをおくりつけられたら、たまげます!




数十年も前の猟奇殺人事件・・・
古典的なにおいを漂わせながら、パソコンをフル活用し、
まさに現代の作品に仕上がっているのもうれしいですね。
ラストも満足です。
二時間半という長さは全然感じませんでした。

早速もう続編も出来ているそうなので、次からは公開されたらすぐに観に行きます!!

2009年/スウェーデン/153分
監督:ニールス・アルゼン・オプレブ
出演:ノオミ・ラバス、マイケル・ニクビスト、スベン・バーティル・トープ、ステファン・サウク


『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』予告編



ハンサム★スーツ

2010年02月22日 | 映画(は行)
小さな幸せは身の回りに満ちている



             * * * * * * * *

定食屋を営む琢郎(塚地武雅)。
心優しく働き者。
彼の作るおいしい料理に近所にもファンがたくさん。
しかーし、ただ一つの欠点(?)はブサイクであること。

これまで女性にもてたことは一度もないのはもちろん、気持ち悪がられる始末。
惨めな人生・・・と、彼は思っている。
そんなとき、「ハンサム★スーツ」を試着しないかと声をかけられる。
それは誰でも着るだけでピカピカのハンサムに変身出来るスーツ。
琢郎はこのスーツを着て、モデル業界に突入。
たちまち大人気となるが・・・。


いやあ、私はこの映画、正直言って見くびっていました。
まあたまに、ちょっと面白いものを見ようかな・・・と、そのくらいの気持ちだったのですが。
おかしくって、ちょっと切ない感動作でした。
期待以上のオススメ作。


ある日かわいい娘が店のバイトにくるのです。

まもなくかわいいその子に琢郎は愛の告白。
けれどもその子は逃げるようにバイトをやめてしまう。
自分がブサイクだから彼女は逃げたんだ・・・。
そう思い込む琢郎ですが、本当はそうじゃないようなんですよね・・・。
彼女の気持ちは最後に意外な形で明らかにされますよ。
この仕掛けもとてもいいです!


次にバイトに来たのは、今度はブサイクな娘。
けれども明るく働き者で気が利いて、一緒にいるとなんだかほっとする。

その彼女が“幸せそうな人を見つける”と言うゲームを始めます。
妊娠している女の人。
アイスクリームをおいしそうに食べてる男子。
エロ本を手に入れたオジサン・・・。
ほんの小さな幸せは身の回りにも満ちているのです。
それはブサイクもハンサムも関係がない。
このシーンが大好きでした。
そもそも、この映画の冒頭。
小さな定食屋で腕をふるい、おいしそうな品を差し出す琢郎。
賑やかな常連たちや、彼の良さを解っている友人。
そうしたシーンがあって、これはもう、始めから答えがでているようなものなのです。
彼が求めているものは始めからここにある。
彼がこの答えに気づくまでに、こんな回り道が必要だったということなんです。

塚地武雅のブサイクさも、なんだかいいなあ・・・と、説得力がありますね!(失礼!)

このハンサムスーツの仕様がまたいいんですよ。
これを着て掃除機で空気を抜くとぴったり吸い付いて・・・って、
布団圧縮機じゃあるまいし・・。
でも、変なメカより、説得力あります・・・。
お湯には弱いので、取扱注意。
うーん、実際にあったら着てみたいかも・・・。
そんな思いはやっぱりありますねー。


2008年/日本/115分
監督:英 勉
脚本:鈴木おさむ
出演:谷原章介、塚地武雅、北川景子、佐田真由美


ハンサム★スーツ スペシャル・エディション 初回限定チェンジング仕様 [DVD]

角川エンタテインメント

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「ルピナス探偵団の当惑」 津原泰水

2010年02月21日 | 本(ミステリ)
博学のオトボケ探偵

                * * * * * * * *

ルピナス探偵団の当惑 (創元推理文庫)
津原 泰水
東京創元社

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私には初めての作家です。
・・・というか、全然知らなかった方なのですが、
1989年津原やすみ名義でデビュー。
少女小説を多く手がけていたようですが、
その後怪奇・幻想小説、恋愛モノや青春モノなど、
ジャンルにとらわれない活躍をしているとのこと。
それからすると、このような推理小説はむしろやや異色なのかもしれませんが、
でもその色濃く、つまりは学園推理モノとなっています。

主人公は、高校生吾魚彩子。
人よりやや直感力は優れているようですが、まあ、普通の女の子。
そのあこがれの君、祀島(しじま)達彦。
頭脳明晰、とんでもなく博識。
そして彩子の友人、美少女摩耶とボーイッシュなキリエ。
それからとても刑事とは思えないがさつな彩子の姉、不二子。

主にこのメンバーが ワイワイガヤガヤやるうちに事件に遭遇し、
そして事件を解決していきます。
雰囲気としては、これはコナン君なんです!!

とくに2話目。
みんなで温泉に行くはずが、何故か山奥の洋館にたどり着く。
道を間違えたことに気づいても、もう雪崩で後戻りできない。
雪の山荘で起こる殺人事件・・・。
・・・という全くベタな展開ながら、この洋館の怪しい雰囲気は綾辻行人の「館」なみ。
いやあ、なかなかのものです。

特に、この祀島くん。
この本には3話が収められていますが、
一話目は単にアドバイスを与えるくらい。
2話めは危うく推理をミスリードする3枚目?になりかけつつも、無事解決。
そして3話目ではもう堂々たる名探偵。
ということで、どんどん進化していくのです。
また、変なことに非常に詳しく推理の冴えも抜群ながら、オンナノコの気持ちにはてんで無頓着。
むしろぼーっとした感じさえ受ける
・・・というこのキャラ、すっかり気に入ってしまいました。

ユーモアにあふれ、個性たっぷりの登場人物もそれぞれ魅力的。
楽しめる本格ミステリです。
また謎は謎としてスリルある展開もなかなかのもの。
ちょっと思わぬ拾いモノをしたような、得した気分ですね。

満足度★★★★☆

お花畑で

2010年02月20日 | インターバル


突然犬の写真ですみません。
先日、我が家の愛犬が急に息を引き取りました。
明らかに具合が悪いと見えてから、たった二日ほどの出来事でした。
13歳でした。
それで喪中とさせていただき、更新をしばしストップしていた次第です。

この写真は、もう6~7年前のまだ若い頃に、いつも行く公園で撮ったものです。
霧が出ていてちょっぴり幻想的。
そのときに、遠い将来、この写真を絶対遺影に使おうと決めていました。
・・・それがこんなに早く使うことになるなんて。
なんだか映画「ラブリーボーン」の世界みたいでしょう。


家にいると、何を見ても何をしても彼女が思い出されてなりません。
「ない」がそこにある。
「非在」の「存在」。
それがとても意識されてしまい、哀しくて切ないですね。
アメリカ留学中の娘がちょうど一区切りついたところで帰省中だったというのも、
何かの符合のように思えてしまいます。
この娘が、犬を飼うことを主張して、一番かわいがっていたのも彼女でした。
(その割にはさっさと散歩を放棄したのですが)


                  * * * * * * * *


〈草の実をいっぱいくっつけて〉


君が初めてうちに来たのは
13年前の晩秋、よく晴れた日曜日でした。
空港までみんなで迎えに行ったね。
なんと、パルボに感染していて
早々に入院という騒ぎになったっけ。
そのときに、生死に関わるといわれ、
なんてはかない命・・・、
この先この命を本当に守っていけるのかと不安になったものでした。
でも一命を取り留めたその後は、ずーっととても元気。

いつも山の公園まで散歩に行ったね。
桜の舞い散る小道。
タンポポやクローバーの野原。
かさこそ落ち葉の上。
真っ白な雪野原。
カラスを蹴散らしたり、草むらに顔を突っ込んでダニがついてしまったり。
ボールを追いかけたり、雪玉を追いかけて深雪に飛び込み立ち往生。

家族が帰ってくるのを
ご飯の時間を
散歩の時間を
いつもいつもじっと待っていた気がします。

留守番が多くてごめん。

たくさん遊んであげられなくてごめん。

短縮コースの散歩が多くてごめん。

お嫁さんにもお母さんにもしてあげられなくてごめん。

病気に早く気づいてあげられなくてごめん。

振り返らなくてもいいから
向こうの花畑までまっしぐらに駆けていけばいい。
首輪もリードもいらないよね。
これまでどうもありがとう。

「Anniversary 50 カッパ・ノベルス創刊50周年記念作品」光文社カッパノベルス

2010年02月16日 | 本(ミステリ)
お祭りてんこ盛り

             * * * * * * * *

Anniversary50 (アニバーサリーごじゅう) (カッパ・ノベルス)
綾辻 行人,有栖川 有栖,大沢 在昌,島田 荘司,田中 芳樹,道尾 秀介,宮部 みゆき,森村 誠一,横山 秀夫
光文社

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ご存じカッパ・ノベルス。
なんと創刊50周年ということで、これはそのままずばりの記念作です。
ミステリ短編集ですが、その執筆陣が

綾辻行人
 有栖川有栖
  大沢在昌
   島田荘司
    田中芳樹
     道尾秀介
      宮部みゆき
       森村誠一
        横山秀夫

という豪華さ。
そしてすべて書き下ろし!!
これはもう、ミステリファンなら読まないではいられませんね。

あ、今気がつきましたが、これはアイウエオ順か・・・。
なーんだ。
しかしなるほど、それが一番無難。
ぴったりこの順番で掲載されています。
それぞれがそれぞれの持ち味をそのまま生かした、バラエティ豊かな作品群。


たとえば、はじめの綾辻行人は「深泥丘奇談」シリーズです。
これは普段はホラー系のストーリーなのですが、
この作品はこの本を意識してミステリ風味に描かれている。
50のパーツに切断され焼かれた死体の謎・・・。

次の有栖川有栖「雪と金婚式」。
いつもの火村准教授と有栖が登場します。
雪なのにちょっぴりハート・ウォーミングなストーリー。

島田荘司「進々堂世界一周シェフィールド、イギリス」。
御手洗潔登場です。
島田氏が最近よくテーマにする、知的障害者を絡めたストーリー。
重量挙げに挑む知的障害のある青年が登場します。
彼を見つめる御手洗の視線がやさしい。


・・・とここまで書いて思うのですが、
実はこの本一週間ほど前に読んでほったらかしにしてあり、
ようやく記事を書き始めまして、
するとすっかり内容を忘れてしまっている!!
ラストまで思い出せたのは島田荘司作品くらい・・・。
(これは全く個人的好みによるものです・・・。)
それぞれ秀作ではありつつも、特別ってほどじゃない。
実はそういうことかも・・・。
スミマセン・・・。

つまりこれはアニバーサリー50というお祭りの露店みたいなもんですね。
賑やかで目を引くけれど、
一つ一つ冷静に見れば特別品質のいい物が並んでいるというわけではない。
しかしお祭りなので、これはこれでその雰囲気は楽しめる、と。
というところで、ご勘弁を・・・・・。
あ、質が悪いというわけではないですよ。
すべて一定品質には達していると思います!!


満足★★★★☆

バガー・ヴァンスの伝説

2010年02月15日 | 映画(は行)
なんと詩的でドラマチックなゴルフ!!



          * * * * * * * *

1920年代末期、アメリカ南部サバンナが舞台です。
29年世界恐慌のあたりが舞台になる映画作品はとても多いですね。
これに人生が狂わされ、ドラマチックな転換が起こる、そういう舞台でもあるのでしょう。

かつて天才ゴルファーと謳われたジュナ(マット・デイモン)は、
戦争の悲惨な体験のため、ゴルフも恋人も捨て、隠遁生活に入ってしまいました。
一方その恋人アデール(シャーリーズ・セロン)は資産家の娘。
父は地元に壮大なゴルフリゾートを作ったのですが、折しも世界恐慌。
不況で人々はゴルフどころではないという時代に突入し、資金繰りに困って自殺してしまう。
しかし、アデールはたくましい!
・・・いつもながら、私はこういうたくましく自立した女性が大好きなのです!
このゴルフ場を人手に渡すことなく、何とか父の意志を継いでもり立てようと、
当時の人気・実力NO.1のゴルファー2人を招いてエキシビション・マッチを企画。
さらに地元からも、誰かを出そうということになり、ジュナに声がかかります。
地元では天才と言われた彼も、このプロ2人に比べれば素人同然でしかもブランクがある。
相当分の悪い勝負のように思えたのですが・・・。
正体不明の男、バガー・ヴァンス(ウィル・スミス)がキャディを申し出る。
さて、この勝負の行方は・・・?


私、今までこのバガー・ヴァンスというのがゴルファーの名前だと思っていました。
ゴルファーはジュナで、キャディがバガー・ヴァンスだったんですね~。
ひゃー、見てみないとわからないものです・・・。
だからこれは、ジュナの活躍がメインなのではなく、
そのジュナを導くバガー・ヴァンスこそが主役である・・・という狙いなんですね。

・・・けれど、見終わった私の印象では、やはりジュナのマット・デイモンがすごくよかった。
ゴルフってこんなにメンタル面が響くものなのか・・・と思い知らされました。
それで行くと石川遼くんの精神力はタダモノじゃ無いですよね。
あんな爽やかな顔しながら・・・。
あのジェイソン・ボーンシリーズのマット・デイモンより、こちらの方がいいなあ
・・・と私は思う。
戦争帰りのちょっとワイルドでニヒルな顔つき。
ゴルフで揺れ動くジュナの心。
そういうのがとてもよく表現されていました。

一方ウィル・スミスはなんだかいつも奇妙に薄笑いを浮かべていまして
(いや薄笑いじゃなく、ほほえみというべきなのですが)、
言葉少なで物静かではありますが、どうも逆にわざとらしい・・・。
あの、妙に精神性を伝えたがったあたり、東洋を意識しているようにも思われましたが・・・。
でも、結局彼は何者だったのでしょうかねえ・・・?

古き良きアメリカのにおいを漂わせつつ、
ゴルフはこんなにも詩的かつドラマチックなものなのだ・・・と語るこの作品、
私は結構面白かったな!

2000年/アメリカ/126分
監督:ロバート・レッドフォード
出演:ウィル・スミス、マット・デイモン、シャーリーズ・セロン


バガー・ヴァンスの伝説〈特別編〉 [DVD]

20世紀 フォックス ホーム エンターテイメント

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ラブリーボーン

2010年02月13日 | 映画(ら行)
死者の安らぐ世界はきっとある



             * * * * * * * *

14歳の少女、スーザン・サーモン。
普通に幸せな女の子でしたが、ある時突然、何物かによって殺されてしまう。
彼女は、この世と天国との合間の世界にしばしとどまって、
彼女を失った家族たちをひたすら見守り続けます。


この映画は、浮かばれない霊が何かをする・・・というホラー系のストーリーではないのですね。
言ってみれば、
このように事故や事件に巻き込まれ、不幸にも亡くなってしまった人の家族へ向けた
癒しのストーリーなのでしょう。
スーザンは自分が死んでしまったことよりも、
彼女を亡くして憂い悲しみ、お互いのいたわりや信頼さえ失って
ばらばらになってしまう家族のことが気がかりなのです。
しかし、そんなこともいつしか時が解決する・・・・。



静謐な合間の世界は、様々に姿を変えます。
時に夢のように美しくおだやか。
“この世”ではない世界。
・・・そして“天国”。
たとえ“事件”がきちんとした解決の形をとらないとしても、
死者の行くべき世界はちゃんとある。
きっとある。
そこは穏やかで、満たされた世界なのだろう。
きっと。
・・・そういうふうに思えば、
残された者も、少しは生き続けている自分に罪悪感を抱かないですむのかも。



この、スージー役のシアーシャ・ローナン。
薄青い瞳が何ともいえず印象的でした。
まさに、あちらの世界から、こちらの世界を眺めている、そんな目なんですよね。
ああ、そういえば「つぐない」にでていた彼女も、
密かに姉の情事をじっと見つめていましたっけ。
何かそういう不思議な力を感じる瞳なんです。
この先も楽しみですね。



父親役が、マーク・ウォールバーグ。
「極大射程」などで、アクション俳優のイメージがあったのですが、ここでの彼もステキです。
娘を目に入れても痛くないというふうに愛していたことがとてもよく伝わります。

巨大なボトルの中の船が実際の海に浮かんでいるシーンは、
現実シーンともリンクし、すばらしいイマジネーションでした。
ボトルに閉じ込められた船は、
死んだまま閉じ込められているスージーを暗示していたのかもしれません。

2009年/アメリカ/135分
監督:ピーター・ジャクソン
出演:マーク・ウォールバーグ、レイチェル・ワイズ、スーザン・サランドン、スタンリー・トゥッチ、シアーシャ・ローナン


映画『ラブリーボーン』予告編



「流れ星が消えないうちに」 橋本 紡

2010年02月12日 | 本(恋愛)
流れ星のように美しく輝いていて、はかなく消えた思い。
けれども、大事に胸の奥にしまっておこう。

            * * * * * * * *

流れ星が消えないうちに (新潮文庫)
橋本 紡
新潮社

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美しく切ない恋愛小説です。
高校の時に出会った、加地君と巧君と奈緒子。
けれどもこのストーリーは、いきなり加地君が“今は亡き人”というところから始まります。
奈緒子は何故か家の玄関ホールに布団を敷いて寝ている。
ここだと眠ることができるという。
少したって事情がわかってくるのですが、つまり、
自分の部屋だと大好きだった加地君と一緒に過ごしたことが思い出されてしまって、眠れない・・・。
加地君は一人旅の途中で事故にあって亡くなってしまったのです。

その加地君の親友だったのが巧君。
突然に大切な人を失ってしまった二人は、
いつしか寄り添い、つきあい始めていたのですが、何故か罪悪感が抜けない。
そしてまた加地君との思い出が大きすぎて、忘れることが出来ない。
二人の間では加地君のことを口に出すのがタブーの様になってしまっていて・・・。

高校時代の3人の出会いを絡めながら、今を生きている二人の身辺が語られます。
奈緒子の父親のこと。家族のこと。
巧のボクシングのこと。姉のこと。

今はもういない加地君。
心にしめる加地君の割合があまりにも大きくてどうしていいのかわからない。
それでも今を生きて行かなくてはならない二人が、
この大きすぎる過去の思いとどう折り合いをつけてゆくのか・・・、
そういうストーリーなのだと思います。

プラネタリウムとフォークダンスのエピソードが秀逸です。
彼ら三人の思いは、いわゆる三角関係というのとも違って、全くドロドロ感がない。
それぞれがそれぞれをとても大事に思っていることが伝わって、心が温かくなってきます。
時にはこのようにピュアで切なくて温かいラブストーリーを楽しむのもいいものですね。

私も、自分の高校時代の甘酸っぱい思いなどを思い出してしまいます・・・・・・。
何十年前ですって?
はい。
ジャネット・リンが活躍した、札幌オリンピックの頃でございますよ・・・。
トホホ


満足度★★★★☆

さっぽろ雪まつり

2010年02月11日 | インターバル
本日は趣向を変えて、ご当地イベントをご紹介します。
といっても、さすがにこれは名前だけは皆さんもご存じではないかと思います。
“さっぽろ雪まつり”



昨日夜、飲み会の前に少し時間があったので、
大通り会場を通り抜けてみました。
そもそも札幌人は子供が小さいうちくらいしか
わざわざ雪祭り会場に足を運んだりはしないんですよ。
だから私もずいぶん久しぶり。

こんなちびまる子ちゃんの大雪像はちょっと楽しいですけれど・・・。




大通公園のず~っと端の方のさびれたあたりに
市民雪像があります。
市民がそれぞれグループで自分たちの好きな物を作ります。
これは誰でも希望すれば出来るという物でもなくて、
スペースが限られているので、抽選となっています。
大雪像の迫力はありませんが、この手作り感と題材の楽しさ、
私はこのあたりが一番好きなんですけれどね。



雪で南国のシーサー、というのもしゃれています。




こちらは、ドイツのフラウエン教会。
建物の雪像は、美しいけれど正直あまり面白くない・・・。
こういう大雪像は、全面がステージになっていて、
私には全然わからないアイドルさんが歌ったり踊ったりしています・・・。




ライトアップされたミッキーマウスはちょっとステキでしょう。




今回の目玉は、たぶんこの「北の動物園」。
ちょっとクローズアップしてみました。









北海道ゆかりの動物たち・・・
えっ!?
いや、これは旭川の旭山動物園や札幌の円山動物園で人気の動物たちですね。
北海道にお越しの際は、ぜひ訪れてみてくださいませ。

大通りの11丁目から4丁目まで
ずーっと歩いてみたのですが、
途中、やたらと飲食のお店がでています。
ジンギスカンやら、甘酒やらの香りが漂う・・・。
北海道の味覚を楽しんでいただくのにはいいと思いますが
近寄りがたい大雪像と、露店の人混みと・・・
これで観光客の方は満足していただけるのかなあ・・・と、思ってしまいました。
たぶん、再び来ようとはおもわないだろうなあ。
ほかに“つどーむ会場”などもありまして、
こちらには大滑り台などもありますが、
子供たちの大行列です。

どこか広いところに行って、雪合戦でもした方が楽しいですよ・・・。
ちなみに、厳寒期の北海道では雪を転がして雪だるまは作れません。

まあ、雪像見物はそこそこでもよし。
さっさとススキノなどの温かい室内に避難して
冷たいビールをぐいっといくのがよろしいようで・・・。



「ワーキング・ホリデー」 坂木司

2010年02月10日 | 本(その他)
初めまして、お父さん

              * * * * * * * *

ワーキング・ホリデー (文春文庫)
坂木 司
文藝春秋

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ホストクラブで働く大和(やまと)の元に、突然訪ねてきた初対面の少年が言う。
「初めまして、お父さん」

この物語はこんなふうに始まります。
思わず引き付けられますね。
この少年進は、確かに大和が昔付き合っていて別れた女性の息子らしい・・・。
身に覚えはある・・・。
まあ、ここのところは案外すんなり納得して、
進は夏休みを死んだと聞かされていた「父」と共に過ごすためにやってきたのです。
子供なんて考えたこともない、元ヤンキーで現ホストクラブのホストである大和。
突然の父子同居の顛末は・・・。

大和はきっぷのいいホストクラブオーナーの心遣いもあって、
まもなく宅配便の配達員に転職します。
父子関係の顛末もいいのですが、この宅配便業界の話もとても興味深いのです。
通称「ハチさん便」と呼ばれる、地域密着型の宅配会社支店。
配達区域がかなり限られた範囲内なので、大和が受け持ったのはなんとリヤカー! 
小回りがきき駐車の問題がない、宅配便の新兵器はなんとリヤカーだった・・・。
また、彼らは常に同地域を回るため、地域の巡回パトロールの役割をも意識している。
子供たちの動向にも気を配る。
いいですね。
今時の地域再生に一役。
これならついでに自治体とも手を結んで、独居老人訪問なども出来そう・・・。
確かに我が家も宅配便にはずいぶんお世話になっていますし、
いろいろな可能性がありそうで、わくわくする、ストーリーです。
大和の勤めていたホストクラブの同僚や宅配便支店の同僚も、ステキな人ばかり。
働くことってこんなに気持ちのいい物だったっけ・・・、と思わず認識を改めてしまいました。
働くこととは人と人がつながることなんですね。

さて、かっこよさが売り物の元ホスト大和は、リヤカーを受け持たされてがっくり。
始めは進にもそのことを言えなかったくらいなのですが・・・。
けれども、一生懸命働く姿は、かっこいいのです。
料理も掃除も得意のしっかり者、進くんは、
時折気持ちが行き違いながらも大和が大好きになっていく。

爽やかで楽しいストーリーでした。
最後には、進くんのお母さんとヨリが戻るのか・・・?とちょっぴり期待もしたのですが、
そこはもう少し将来先送りという感じですね。
いき過ぎでないところも好感が持てました。

満足度 ★★★★★

インビクタス/負けざる者たち

2010年02月08日 | クリント・イーストウッド
事実に裏打ちされた力強い感動作



              * * * * * * * *

南アフリカ共和国。
ネルソン・マンデラ氏の大統領就任まもない頃の実話です。
マンデラ氏は27年間の獄中生活を経て大統領となった方。
その辺のところは、「マンデラの名もなき看守」という映画に詳しいので、
是非こちらも見てみるといいと思います。
                  →「マンデラの名もなき看守」


マンデラ大統領(モーガン・フリーマン)は、
長年のアパルトヘイトですっかり二分されてしまった白人と黒人の心を何とか一つにしたいと思い、
ワールドカップのラグビーに注目しました。
当時南アではラグビーはほとんど白人のスポーツ。
黒人はむしろサッカーに夢中。
ラグビーの試合では、黒人たちは白人ばかりの自国のチームではなく、
相手国のチームを応援するしまつ。
その上、弱くてちっとも勝てないこのチーム、解散寸前のところだったのですが。
大統領は、チームのキャプテン、ピナール(マット・デイモン)をお茶に招き、
不屈の魂についての話をするのです。

祖国を一つにしたい。
祖国のために勝ってほしい。




1995年、地元南アフリカで開催されたラグビーワールドカップ。
チームは奇跡の様に勝ち続け、ついに決勝戦、対ニュージーランド戦の幕が開きます。


スポーツは確かに、皆の心を一つにしますね。
わが北海道は、もともと巨人ファンがとても多かったのですが、
昨今は日ハムファンであふれています。
地元のチームを応援するとき、皆の心は一つ。
オリンピックともなれば、祝日にも掲げない日の丸がやけに目にしみる・・・。

そんなふうで、いつしか黒人も白人も一つになって、自国のチームを応援している。
まったく、イーストウッド監督には、やられます。
嫌が応にも、ぐいぐいと感動の海に私たちを引きずりこんでゆく。
でも、これは監督の手腕もあるのでしょうけれど、
元々の実話自体に力があるんですね。
大統領となったマンデラは、白人を見返そうとしたり復讐したりもせず、
「和解と赦し」を周囲の黒人たちにも求めたのです。
ネルソン・マンデラ。
この方の祖国に対する思い。
そのビジョンの確かさが、周囲の人の共感を呼び、
強いリーダーシップに結びついたのだと思います。



ピナールがマンデラの約30年を過ごした独房を見学し、中に入ってみるシーンがありますね。
この中でマンデラは決して屈することなく、信念を持ち続けた。
なんと強い魂でしょう。
ピナールの心にはもう白人だの黒人だのという区別はありません。
ただ人間として、マンデラを尊敬せずにいられない。
モーガン・フリーマンが、これまたはまり役で、すばらしかった。



大統領の警備班の様子も、よかったですね。
当然黒人だけのつもりだったのに、
大統領の希望で、前大統領についていた白人の警備要員も加わることになった。
反目する彼ら。
けれども、彼らも次第にお互い変わってゆくのです。
大統領の起こした波紋がどんどん、周囲に伝わって広がってゆく。
そういうところがまた、見る者の胸を熱くしていくんですよ。
決してスポーツのおかげばかりでもないんですね。

それからラグビーって、私もほとんど試合を見たことがなかったのですが、
これって球技ではなく格闘技ですね!!
ぐいぐいと力と力で戦う。
この迫力も映画のなせる技か・・・。
なんだか、圧倒されてしまいました。

アパルトヘイトを知らない人も、ラグビーを知らない人も、大丈夫。
理屈なく感動。ただそれのみ。
・・・しかし、わかっていればなお感動、です!!

映画 インビクタス/負けざる者たち 予告



2009年/アメリカ/134分
監督:クリント・イーストウッド
出演:モーガン・フリーマン、マット・デイモン、トニー・キゴロギ、スコット・イーストウッド