映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ダンシング・ベートーヴェン

2017年12月31日 | 映画(た行)
年末の第九は格別



* * * * * * * * * *

スイス、ローザンヌのベジャールバレエ団と東京バレエ団による
「第九交響曲」の舞台裏をとらえたドキュメンタリーです。
最近あまり行かなくなったのですが、年末の第九のコンサートは大好き。
ちょうど年末でもあり、コンサート代わりにこの作品を見ようと思い立ちました。
バレエのことはあまり詳しくはありませんが・・・。



このバレエはモーリス・ベジャールがベートーヴェンの第九に振り付けをしたもの。
本番の東京公演から9ヶ月前、
ローザンヌと東京、それぞれの地で別個に練習が始まって、その様子が映し出されます。



バレエダンサーの体はそれだけで芸術作品のようですね。
無駄なくスリムで、筋肉がしっかりついている。
そしてその動きはなんとしなやかでパワフル。
それがあの荘厳な第九の音楽に合わせたダンスを繰り広げるというのだから、
全く、感嘆する他ありません。



ローザンヌといえば、世界中のバレエダンサーの登竜門みたいな地ですから、
実際様々な国の人たちがいます。
もちろん、日本人も。
人種を超えて大勢の人が一つになって作り上げるダンス。
「人類は皆兄弟」って、俗っぽすぎる言い方ですが、
まさにバレエの世界はグローバルで、
進むべき世界の最先端を行っている感じです。



そうそう、音楽の方も「イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団」による生演奏、
日本の方々も合唱で参加。
私は本作、実際に目の前で見ていたら絶対泣いていたと思います・・・。



・・・ということで、本作は素晴らしかった。
だけれども、もっときっちり全部見たい(聞きたい)、
目の前で生でみたい(聞きたい)、
という欲求不満を煽り立てる作品でもありました。
ま、それも本作の目的の一つなのでしょうけれど・・・。



ともあれ、第九を聞くと良い新年が迎えられそうな気がしてきますねえ・・・。
皆さまも、良いお年をお迎えください。


<シアターキノにて>
「ダンシング・ベートーヴェン」
2016年/スイス・スペイン/83分
監督:アランチャ・アギーレ
振り付け:モーリス・ベジャール
出演:マリヤ・ロマン、エリザベット・ロス、ジュリアン・ファバロー、カテリーナ・シャルキナ、那須野圭右、オスカー・シャコン

バレエの魅力度★★★★★
満足度★★★★☆

DESTINY 鎌倉ものがたり

2017年12月30日 | 映画(た行)
すっばらしい!黄泉の国のイメージ



* * * * * * * * * *

古都鎌倉。
妖怪や幽霊、人ならざるものが人々と共に暮す街。
亜紀子(高畑充希)は年の離れた小説家一色正和(堺雅人)と結婚し、
幸せに暮らしていましたが、不測の事態に巻き込まれ、
黄泉の国へと旅立ってしまいます。
正和は亜紀子を取り戻すため、黄泉の国へ向かいます。



何と言っても、電車で向かう黄泉の国のイメージが素晴らしい!! 
これは、そこへ行ったものの「イメージ」でそのように見えるということになっていまして、
例えばキャピキャピの女子ならピンクに彩られたリボンの国なのかもしれず、
また、尖ったヤンキーならギンギンのハードロックめいた世界なのかもしれない。
自分だったら・・・なんて想像するのも楽しいですね。
いや、それにしても、さすが小説家と言うか、
正和氏のイマジネーションは素晴らしい。
黄泉の国へ行った正和は、ある人物に合うことになりますが、
それで彼が抱えていた一つの問題が解決するのです。
本作の伏線の最も大事なところ。
・・・というか、それがなかったら全然他愛ない話になってしまうところだった・・・。





ただただ、黄泉の国のイメージに支えられた作品。
(あ、言い過ぎか・・・?)
でも、黄泉の国へ妻を連れ戻しに行くといえば
嫌でも思い出すイザナギとイザナミ神話。
そんなエピソードが下敷きになっていればもう少し見どころはあったかもしれません。



安藤サクラさんの死神はナイス!
編集者が堤真一さんということで、高畑充希さんとのツーショットは
ついテレビのCMを連想してしまいました。



<シネマフロンティアにて>
DESTINY 鎌倉ものがたり
2017/日本/129分
監督・脚本:山崎貴
原作:西岸良平
出演:堺雅人、高畑充希、堤真一、安藤サクラ、

イマジネーション★★★★★
満足度★★★.5

「まるまるの毬」西條奈加

2017年12月28日 | 本(その他)
菓子職人である父の秘密とは?

まるまるの毬 (講談社文庫)
西條 奈加
講談社


* * * * * * * * * *

親子三代で菓子を商う「南星屋」は、売り切れご免の繁盛店。
武家の身分を捨てて職人となった治兵衛を主に、
出戻り娘のお永とひと粒種の看板娘、お君が切り盛りするこの店には、
他人に言えぬ秘密があった。
愛嬌があふれ、揺るぎない人の心の温かさを描いた、読み味絶品の時代小説。
吉川英治文学新人賞受賞作。

* * * * * * * * * *

西條奈加さんは、私にははじめての作家さんですが、
あら、北海道出身の方でした。
存じ上げず、失礼しました。


近頃、書店の店頭に出ている新刊の文庫本を、
図書館の単行本を借りて読むという手を使うようになりました。
だんだんケチ臭くなってきましたが・・・。
文庫化された本なら、予約もほとんどなくてすぐ順番が回ってきますし、
ある程度売れたから文庫化となったわけで、そのへんは保証付き。
単行本のほうが目に優しいですしね。
ただし、時々文庫化にあたって改稿することがあるので要注意。
文庫だと巻末に解説があるのもありがたいのだけれど・・・、
あ、そうか、後でそこだけ立ち読みしよ。
こんな読み方は非常に出版社泣かせとはわかっているのですが、
いかにも単行本は高すぎます。
仕事の現役を離れた身としては、切実・・・。
余談ばかりになりました。
まあそんなわけで本作、文庫の新刊で興味を惹かれて、読んだという次第。


さて、本題に入る前にもう一つ。
題名の「毬」は「いが」とルビがふってあるのでちょっと意外に思いました。
私は「まり」だと思っていました。
調べてみるとこの字は「いが」でも「まり」でも正解。
つまり球状をしたものが「毬」で、
それが滑らかでもトゲトゲでも同じということのようです。
なるほど・・・。


で、ようやく本題。
江戸時代、父親とその娘、そして孫娘、
三代で営む菓子屋「南星屋」の物語。
お菓子というのがちょっと心惹かれます。
ここの主である治兵衛は、実は武家の生まれなのですが、
訳あってその身分を捨てて菓子職人となったのです。
諸国を巡り歩いてその土地々々のお菓子を習い覚えるという修行の賜物で、
この店は売り切れ御免の繁盛店となっています。
ところが、この治兵衛の出自にはさらなる秘密があって・・・。
その秘密のために、孫娘・お君の初々しい恋心が打ち砕かれることになってしまう・・・。
人の心の暖かさ、せつなさとともに
時代の持つ不条理も描かれ、最後には心がほんのり。
宇江佐真理さんのファンの方なら、きっとこちらも気にいると思います。
もっと、読んでみたくなりました。


図書館蔵書にて (単行本)
「まるまるの毬」西條奈加 講談社
満足度★★★★☆

ミス・ペレグリンと奇妙な子どもたち

2017年12月27日 | 映画(ま行)
ホロコーストを逃れた子どもたち・・・?



* * * * * * * * * *

フロリダで暮らす少年ジェイク(エイサ・バターフィールド)は、
唯一の理解者であった祖父を亡くします。
その後ジェイクは祖父の遺言に従い、
イギリス、ウェールズのある島を訪れます。
そこには祖父が子供のころ預けられていたという養護施設があるのです。
ところが訪れてみると施設は廃墟となりはてています。
しかし、そこに現れた不思議な子どもたちに導かれ、
岩場をくぐり抜けて進むと、そこは1943年、
ミス・ペレグリンの屋敷には不思議な能力を持つ奇妙な子どもたちが暮らしていました・・・。



ティム・バートンによる奇妙な世界感満載。
初めの方で、祖父が
「ポーランドにはホロという怪物がいて危険なので、
ウェールズの養護施設に預けられた」

とありました。
私には、もう一つのストーリーが浮かんできます。



ドイツ侵攻を受けたポーランド。
ユダヤ人はゲットーに押しやられ、
後には収容所へ送られることになります。
そんな中かろうじて難を逃れ、
ウェールズの養護施設に保護された子どもたちがいた。
(もしかすると、ワルシャワの動物園の地下で幾日かを過ごしたかも。)
そこでつかの間平和で楽しい日々を過ごした子どもたち。
けれども、1943年のある日、ドイツ機の空襲によって施設は壊滅。
子どもたちも命を亡くしてしまった。
ちょうど従軍のため施設を出ていた一人の青年以外は・・・。
青年は、自分一人が生き残ってしまった罪悪感をいだきながら人生を過ごします。
やがて、孫が生まれた時に、彼はおとぎ話を語りだします・・・。
今は平和な世の中だけれど、何か不穏な気配を感じる。
戦争や、テロ、人種の差別。
相変わらずある、そんな危険を痛く感じながら・・・。
そして、ポーランドを抜け出してきたユダヤ人の子どもたちは、
どの子も一人ひとりが特別で大切な存在なのだと・・・。



原作はランサム・ジグズ「ハヤブサが守る家」。
原作の骨格がしっかりしているので、素敵な作品になったのだと思います。
私の好きなタイムスリップものでもありますし。

ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち 3枚組3D・2Dブルーレイ&DVD(初回生産限定) [Blu-ray]
エヴァ・グリーン,エイサ・バターフィールド,サミュエル・L・ジャクソン,エラ・パーネル,ジュディ・デンチ
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン


<WOWOW視聴にて>
「ミス・ペレグリンと奇妙な子どもたち」
2016年/アメリカ/127分
監督:ティム・バートン
原作:ランサム・ジグズ「ハヤブサが守る家」
出演:エバ・グリーン、エイサ・バターフィールド、サミュエル・L・ジャクソン、ルパート・エベレット、ジュディ・デンチ

ファンタジー度★★★★☆
満足度★★★.5

オリエント急行殺人事件

2017年12月26日 | 映画(あ行)
犯人を知ってしまっているのが、返す返すも残念



* * * * * * * * * *

トルコ発フランス行き寝台列車オリエント急行。
その列車内で名探偵エルキュール・ポアロの活躍する本作は、
どうしてか私達の憧れを掻き立てます。
その犯人像をわかってはいても、やはり見ずにはいられません。
俳優陣も豪華ですしね―。



名探偵として名を馳せるポアロ(ケネス・ブラナー)が乗り込んだオリエント急行。
その夜、実業家ラチェット(ジョニー・デップ)が刺殺されます。
列車は雪崩に遭い、ストップ。
警察もこられない中で、ポアロによる乗客への聞き取り聴取と推理が始まります。
教授、執事、伯爵、伯爵夫人、秘書、家庭教師、
宣教師、未亡人、セールスマン、メイド、医者、公爵夫人、そして車掌。
この13人の中に犯人はいる・・・・。



何と言っても雪の中を走るこの列車がいいですよねえ。
この映像が素晴らしい。
広大な大自然の中を走り抜ける列車。
それだけで、特に鉄道オタクでなくても、ロマンを感じます。



運行中の列車は、まさしく他の誰も入り込めない密室で、
絶対に中にいる誰かが犯人というわけで、
ミステリの舞台にはもってこいです。
この1900年代初期という時代も、セピア色めいていて、またステキ。



本作の冒頭は、ポアロがエルサレムである事件を解決するのですが、
この舞台が、なんとも今日の話題とぴったり符合しているのが奇跡的!
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、
いずれもの聖地であるがゆえに、人々のいざこざが約束された地でもある。
それを踏まえてのポアロの登場。
トランプ大統領は、これを見たでしょうか・・・?


さて、ポアロの人物像はどうにも滑稽で、
あまり好きとはいい難いのですけれど、
この度のケネス・ブラナーは、ずいぶんマシなのじゃないでしょうか。
あのヒゲさえなければ・・・といいたいけれど、
それがなければポアロでなくなってしまうので仕方ない。
でも、まさかのアクションシーンもチョッピリあって、斬新です。
あろうことか、断崖の上の鉄橋上で止まってしまった列車の、
その屋根を歩くシーンまであって、これは凄い! 
(もっとも、もう片側は、狭いですが歩くこともできる雪原ですけれど。)



ラスト、13人が横並びになった謎解きのシーンは、「最後の晩餐」をイメージしていますね。
真相に迫るいいシーンです。
でもやっぱり、ミステリで初めから犯人を知ってしまっているというのは
面白さも半減と言うかそれ以下だわ・・・やっぱり。
仕方のないことながら、残念でした・・・。
いっそ、ぜんぜん違う結末を見いだせないものでしょうか・・・?
宇宙人が犯人なんてのは論外ですが。


1974年のシドニー・ルメット版も見たい気持ちもありますが、
やっぱり犯人がわかっていれば、退屈さを感じてしまうかもしれません・・・。


<シネマフロンティアにて>
「オリエント急行殺人事件」
2017年/アメリカ/114分
監督:ケネス・ブラナー
出演:ケネス・ブラナー、ジョニー・デップ、ミシェル・ファイファー、ジュディ・デンチ、ペネロペ・クルス、デイジー・リドリー、ウィレム・デフォー
舞台背景★★★★★
ミステリ度★★☆☆☆
満足度★★★.5

「ひでこさんのたからもの。」つばた英子・つばたしゅういち

2017年12月25日 | 本(その他)
本当の豊かさとは

ひでこさんのたからもの。
つばた 英子,つばた しゅういち
主婦と生活社


* * * * * * * * * *

87歳と90歳の菜園生活第2弾!
伝えたい味覚の記録です。
愛知県のニュータウンで、はる、なつ、あき、ふゆ、
キッチンガーデンで野菜を育て、
換気扇のない台所でほんものの味がつまった料理を作る。
お金よりも大切なことを知っている、ばぁばとじぃじの物語。

* * * * * * * * * *

「人生フルーツ」の映画でみた、つばた夫妻お二人の生活をもう一度じっくり見たくて、
図書館に予約してあった本が、10ヶ月たってやっと順番が回ってきました。
この本の前に「あしたも、こはるびより」とういのがでているのですが、
ま、いいか・・・。
愛知県のニュータウンで、ゆったりのんびりと菜園生活を送るつばた夫妻。
本作は、映画よりもより詳しく、
英子夫人のこだわりの料理のことなどが描かれています。


こだわりというのは、極力自然のものを使うこと。
出汁はもちろん化学調味料などは使いません。
鰹節、昆布、干し貝柱、えびの頭・・・。
野菜や果物はほとんど自宅の畑でできるので、もちろん無農薬。
・・・ある意味すごく贅沢です。
お年寄りだから和食中心?と思いきや、
ドミグラスソースやピザソースも手作り。
お菓子もチーズケーキにレモンタルト・・・
うーん、ひでこさんと一緒に暮らしたい・・・。
まさに、日本のターシャ・テューダーです。


ところで、この本の編集中にご主人のしゅういちさんが亡くなったとあります。
「人生フルーツ」で、それは存じていましたが、
やはり食べる人あっての料理なので、
その後のひでこさんのことがとても気がかりです。
この本と同様に、毎日お料理をされているのでしょうか・・・?


この本は、ひでこさんの料理のレシピや靴下の編み方まで載っている素敵な本です。
図書館で借りるのではなく、本当は家に一冊置いておくべき本ですよね・・・。

「ひでこさんのたからもの。」つばた英子・つばたしゅういち 主婦と生活社
満足度★★★★☆

ぜひこちらも→「人生フルーツ」

ウォーターボーイズ

2017年12月24日 | 映画(あ行)
パワフルなシンクロナイズドスイミングに拍手!!



* * * * * * * * * *

先日「スウィングガールズ」をみて、
順序は逆になりましたが、矢口監督つながりでこちらも改めて拝見。


廃部寸前の唯野男子高校水泳部。
今や部員は根性無しの3年、鈴木(妻夫木聡)のみ。
そんな時、この水泳部顧問に新任教師佐久間が就任。
若く美人な彼女に惹かれて、たちまち新入部員で膨れ上がる水泳部。
しかし、彼女の専門はシンクロナイズドスイミングで、
しかもすぐに産休に入ってしまった。
あっという間に去っていく部員たち。
そんな中でも残った部員は、鈴木と、
なんでもいいかげんな元バスケ部佐藤(玉木宏)、
ガリガリに痩せて体力なさそうな太田(三浦アキフミ)、
秀才だがカナヅチの金沢(近藤公園)、
なよなよしている早乙女(金子貴俊)の5名。
すっかりやる気を亡くした彼らでしたが、
ひょんなことから、水族館で働く磯村(竹中直人)の指導を受けることに・・・。


この磯村こそは、実はシンクロのことなど何も知らないテキトー男なわけですが、
何故か彼のインチキな助言がピッタリとツボにはまる!!
・・・スウィングガールズでもそうでしたが、
竹中直人さんがキーパーソンですね。
ボーイズのシンクロは、実はイルカショーのイルカたちが発想の元、
というのもよく納得できました。
最後までヘタレな鈴木が本気を見せる時。
カッコイイぞ~。


今でこそ、男子のシンクロナイズドスイミングをみてもさほど驚きませんが、
本作の公開当時は「え~っ」と思いました。
でも、その男子らしいパワフルな動きがステキで目を見張ります。
衝撃的で、そして楽しい作品です。


さて本作は、妻夫木聡さんの出世作。
2001年作品なのでさすがに若いですね。
そして、モジャモジャのアフロヘアの玉木宏さんというのも笑える。
作中で坊主頭になってしまうので、2度楽しめちゃいます。
この絶妙な鈴木・佐藤コンビ、
うーん、いかにもお二人にとっても青春ですなー。
こんなふうに、二度と戻らない青春のひとときを焼き付ける映画というもの。
役者冥利に尽きるのではないでしょうか。

ウォーターボーイズ スタンダード・エディション [DVD]
矢口史靖
東宝



<WOWOW視聴にて>
「ウォーターボーイズ」
2001年/日本/91分
監督・脚本:矢口史靖
出演:妻夫木聡、玉木宏、平山あや、竹中直人

青春のみずみずしさ★★★★★
満足度★★★★☆


 gifted ギフテッド

2017年12月22日 | 映画(か行)
平凡こそが幸せなのかも



* * * * * * * * * *

生まれてまもなく母を亡くしたメアリー(マッケンナ・グレイス)は、
母の弟である叔父のフランク(クリス・エバンス)とフロリダの小さな町で暮らしています。
メアリーは天から与えられた特別な数学の才能の持ち主。
けれどフランクは、ひたすら普通の子どもとして育てたいと思っています。
というのも、メアリーの母も同じ才能の持ち主だったのですが、
その才能のために通常の人らしい心とのバランスを保てず、
自殺してしまったのです。
メアリーに決して同じ思いをしてほしくないと、フランクは願っている。
そんなところへ、フランクの母、メアリーにとっては祖母が現れます。
祖母イブリンはメアリーに高度な英才教育を施すべきだと主張。
ついには養育権を巡って裁判になってしまいます。



このような裁判では、より裕福な方が有利なようで・・・。
お金があれば幸せとは限らないですけれど・・・。
このストーリーにおいては更に、
この類まれなる才能をどうすべきかというのが問題なのです。
才能の開花は二の次で、ごく普通に育てたいと言うのにはもちろん納得しますが、
本人も数学のことを考えるのが大好きなのだし、
この才能を伸ばすことこそが世界のためでもある
・・・などと主張されれば気持ちも揺れ動きます。
けれど多分、才能というのは押さえつけても
知らぬ間に育つものなのではないかな?
それをこそ、才能という。
「二十歳すぎればただの人」、などという言葉もありますが、
ホンモノはそうではないと思う。



面白いものですね。
数学については、大学教授も舌を巻くくらいなのに、
一方では普通に小学校一年生の感情を持っている。
このアンバランスは、本当に、うまく扱わないと危険なのかもしれません。



養育権の裁判というのも映画では時々見るシーンですが、
こういう時に本人の気持ちは考慮されないんですね。
まあ小学1年生の判断に任せるわけには行かないでしょうか・・・。
でも、いつもとても理不尽な感じがしてしまいます。



フランクは独身だけれど、一人で子育てをして、
時には一人の自由な時間がほしいと言う本音も見える。
立派すぎない叔父と、彼とともにメアリーを見守りたいと思う教師ボニーもステキでした。
2人一緒にベッドにいるところをメアリーに見られてしまったのはいかにもまずかったですけどね・・・。



<シアターキノにて>
「gifted ギフテッド」
2017年/アメリカ/101分
監督:マーク・ウェブ
出演:クリス・エバンス、マッケンナ・グレイス、ジェニー・スレイト、リンゼイ・ダンカン、オクタビア・スペンサー
天才度★★★★★
満足度★★★★☆

「短編工場」集英社文庫編集部編

2017年12月21日 | 本(その他)
「生きる」こと

短編工場 (集英社文庫)
集英社文庫編集部
集英社


* * * * * * * * * *

読んだその日から、ずっと忘れられないあの一編。
思わずくすりとしてしまう、心が元気になるこの一編。
本を読む喜びがページいっぱいに溢れるような、とっておきの物語たち。
2000年代、「小説すばる」に掲載された短編作品から、
とびきりの12編を集英社文庫編集部が厳選しました。

* * * * * * * * * *

この文庫本の帯に「飛行機で読みたい本NO.1」とありまして、
つい心惹かれて手に取りました。
執筆陣がまた、豪盛ですしね。
しかしまあ、私が読んだのは主に地下鉄の電車とバスの中ですが・・・。

掲載作品は・・・
『かみさまの娘』桜木紫乃
『ゆがんだ子供』道尾秀介
『ここが青山』奥田英朗
『じごくゆきっ」桜庭一樹
『太陽のシール』伊坂幸太郎
『チヨ子』宮部みゆき
『ふたりの名前』石田衣良
『陽だまりの詩』乙一
『金鵄のもとに』浅田次郎
『しんちゃんの自転車』荻原浩
『川崎船』熊谷達也
『約束』村山由佳


著者が色とりどりのアンソロジーは、
様々なテイストが味わえるのはいいのですが、
あまりにもバラバラすぎて、戸惑いを感じることもあります・・・。


この本で私がいちばん好きだったのは奥田英朗さんの『ここが青山』。
会社が倒産し、失業した夫。
その機に、以前勤めていた会社に職場復帰した妻。
夫は当然のように家事・育児を務めるのですが、
これが思いの外性に合っていて、
これまで料理をしたこともなかったのが、メキメキと腕を上げ、
息子のお弁当作りも楽しんでこなす。
妻はもともと外交的で、仕事を活き活きとこなしている。
本人たちは大満足なのに、
何故か周りの人々は「大変ねえ・・・」と同情を示す、という物語。
こういうの、好きだわー。


さて、そんな感じで気を良くして読み進んでいくと、
浅田次郎さんの『金鵄のもとに』にぶち当たる。
南方戦線で、アメリカ兵とではなく"飢え"と闘った、悲惨な日本兵の話です。
う~ん、重い。
なんでこんなにも違う話が一つの短編集になっちゃったんだろう・・・
このアンソロジーのコンセプトは何?
・・・と、振り返ってみると、見えてきました!


つまりは、「生きる」ということなんですね。
生きることは、すなわち生活であり、人生であり、死と向き合うことでもある。
こんなテーマをバックボーンに据えて、
時にはリアルに肉薄し、時にはホラー仕立て。
SF風でもあり、骨太の人生描写でもある。
熊谷達也さんの圧倒的筆力を感じさせる『川崎船』が黒光りしています。


「短編工場」集英社文庫編集部編 集英社文庫
満足度★★★★☆

スウィングガールズ

2017年12月20日 | 映画(さ行)
落ちこぼれが集まって奏でるジャズ



* * * * * * * * * *

矢口史靖監督の大ヒット「ウォーターボーイズ」の後、
対を成す感じで作られた作品なんですね。
題材を音楽とし、「ボーイズ」から「ガールズ」へ。


東北の田舎町。
食あたりで倒れた吹奏楽部員の代わりに、
急遽集められた友子(上野樹里)を始めとした落ちこぼれ女子たち。
野球部の応援に、演奏はぜひとも必要なのでした。
ただ一人、生き残った(?)吹奏楽部員の拓雄(平岡祐太)が指導に当たりますが、
まずは誰も音を出すこともできない。
また、集まった人数では吹奏楽のチームを組むことは難しいため、
ジャズのビッグバンドのチームを編成することとします。
体力づくりのランニングから始まるハードなトレーニングの効果はあって、
なんとか「音楽」らしきものが演奏できるようになり、
当人たちも演奏の楽しさを感じるようになったのですが。
そこへ本来の吹奏楽部員たちが復帰。
友子たちはお払い箱となりますが、
せっかく起き上がった“やる気”の行き場がなくなってしまった・・・。
そこで自分たちでやるしかない、と、
まずは中古の楽器を買い揃えるためにバイトを始めるのですが・・・。


本作の公開が2004年。
「のだめカンタービレ」のテレビドラマが始まったのが2006年ですから、
まだ上野樹里さんのブレイク前。
なるほど、本作があったから、同じ音楽つながりで“のだめ”の起用となったのでしょうね。


ポンコツのビッグバンドチームが少しづつ力をつけていって、
ラストの演奏ではまさに感動。
ほんと、思わずスウィングしたくなります。
オーソドックスな青春の物語ではありますが、
おとぼけ・ユーモア風味が小気味よくて、とても楽しく拝見・拝聴しました。


授業にちーとっも熱が入らず、実はジャズが大好きのオタク、
しかし自分では全く楽器はできないという
愛すべき教師を演じている竹中直人さんが、ナイスでした。


それと、吹奏楽部の部長がなんと高橋一生さんでした。
きゃ~、若い! 
いや~ん、カッコイイ~♡
少し古い作品は、こういう楽しみがあるのでいいですよね。
あ、そういえばその「ウォーターボーイズ」、
見たことはあるけどブログ記事にはなっていないと思うので、そのうちに見ようかなあ・・・。

スウィングガールズ スタンダード・エディション [DVD]
上野樹里,貫地谷しほり,本仮屋ユイカ,豊島由佳梨,平岡祐太
東宝


<WOWOW視聴にて>
スウィングガールズ
2004年/日本/105分
監督・脚本:矢口史靖
出演:上野樹里、平岡祐太、貫地谷しほり、木仮屋ユイカ、豊島由佳梨、竹中直人
音楽の楽しさ★★★★☆
満足度★★★★☆

ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命

2017年12月19日 | 映画(や行)
命がけで守った、多くの命



* * * * * * * * * *

2次大戦中のポーランド、ワルシャワで、
動物園の園長夫妻が300人のユダヤ人の命を救ったという実話をもとにしています。



1939年秋、ドイツがポーランドに侵攻。
ワルシャワにはヨーロッパ最大級の規模を誇る動物園がありました。
ヤン(ヨハン・ヘルデンベルク)とアントニーナ(ジェシカ・チャステイン)夫妻が営んでいます。
動物園は空襲で多くの動物を失い、
また逃げ出した動物たちも危険だからと、射殺されてしまいます。
そして、動物園はナチス軍の武器置き場に活用されることになり、動物園としての機能は休業状態。

そんな中で、夫妻はある危険な行動を取ることを決意。
ユダヤ人のゲットーから密かに人々を連れ出して、
動物園の地下に匿い、他所へのがれるための手助けをしようというのです。
このことが露見すれば、もちろん命はありません。
アントニーナに横恋慕してちょくちょくやってくる
ナチス将校ヘック(ダニエル・ブリュール)の目をかすめつつ、作戦は続けられます・・・。



シンドラーや杉原千畝、そしてこの夫妻。
全体から見ればわずかかもしれませんが、
少しでも多くユダヤ人を救済しようとした人々がいたことはうれしいですね。
ついには救済されえずに、収容所へ向かう列車に詰め込まれた
多くの人たちの姿もまた映し出されていたわけですが。



ユダヤ人たちが潜む場所はヤン一家の居住する家の地下。
意外と安普請(?)らしくて、音が互いに筒抜けです。
日中はこの家に料理人がやってくるので、ほとんど音を立てることができません。
そのため彼らは日中に睡眠をとることにして、
軍が引き上げた夜になってから居間に上がり、
ようやく人並みのゆったりとした時間を過ごすことができるのです。
ふだんは当たり前に思っているごく普通の生活が、
ある日突然、崩れ去り、それがいかに貴重なものであるかがわかる。

・・・まあ、そんなことがわかる日がこないことを祈ってしまいますが。



ダニエル・ブリュールは、奥さんへの恋心と動物好きなこともあって、
ドイツ人でありながら真実を知っても、知らないふりをしてくれる良い奴の役・・・?
と、はじめ思ったのですけれどね・・・。
残念ながら違いました。
ナチスはやはりナチスなのか・・・。
ドイツ人の中にも、人らしい心を持った人もいる・・・そんな展開もほしかったのですが。



<シアターキノにて>
「ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命」
2017年/チェコ・イギリス・アメリカ/127分
監督:ニキ・カーロ
出演:ジェシカ・チャステイン、ダニエル・ブリュール、ヨハン・ヘルデンベルク、マイケル・マケルハットン
歴史発掘度★★★★☆
満足度★★★★☆

「漂砂のうたう」木内昇

2017年12月18日 | 本(その他)
生け簀の金魚たち

漂砂のうたう (集英社文庫)
木内昇
集英社


* * * * * * * * * *

明治10年、根津遊郭。
御家人の次男坊だった定九郎は、過去を隠し仲見世の「立番」として働いていた。
花魁や遊郭に絡む男たち。
新時代に取り残された人々の挫折と屈託、夢を描く、第144回直木賞受賞作。

* * * * * * * * * *

木内昇さんの作品はいくつか読んでいますが、
肝心の直木賞受賞作を読んでいなかったので、この度拝読。

遊郭が舞台なので、江戸時代?と思ったのですが、
明治に入ってからのお話でした。
明治の時代になっても遊郭は変わらずにあり続けたのですね・・・。


主人公、定九郎は武家の出でありながら、遊郭仲見世の「立番」をしています。
世が世ならこんな仕事につくはずもなかった。
しかし、明治の世となって、多くの武士は行き場を失い路頭に迷うわけです。
中には警官や役人などの職にうまくありつけた人もいたでしょうけれど・・・。
定九郎自身、今の自分の境遇に自暴自棄になっており、
虚しい日々をただ繰り返していました。


作中で、大雨で池の水が溢れ、
金魚が生け簀から溢れ出てもがいているシーンがあります。
これは明らかに遊女たちのことを例えているわけです。
郭の中ではきれいな着物を着て優雅に見えるけれど、
そこから出るともう生きていけない・・・。
実際この明治になってから、遊女たちの開放令が出たそうなのですが、
それでも女たちは出ていかなかった。
出ていっても生きていく手立てがないからです。


そしてまた、この金魚は定九郎自身の例えでもある。
彼も郭の女たちと同様、ここを出てしまえば、他に生きていく手立てがない。
定九郎のいる店で一番の花魁・小野菊は、
他よりも超然として美しく、凛とした佇まいを見せています。
定九郎は彼女を見るとイライラと心が落ち着かない。
こんな苦界にいて落ち着き払い自分を保つ彼女に、憎しみさえ覚えます。
主人公でありながら、「正義」では動かないこの男・・・。
人の心の奥底の暗がりがしっかりと描かれています。


けれど、なかなか納得の行くラストにつながっているのがまた心憎い。

「生きていりゃあ、なんかしら跡が刻まれる。
誰でもそうだ。
だがどんな跡であれ、そっから逃げなきゃならねぇ謂れはねぇんだ。」

この龍造の一言で、氷付きこわばり闇に沈んでいた定九郎の心が救われる・・・。
龍三こそは郭で生まれ育ち他に行くところもなく、
この仕事に励みのし上がっていくしかなかった。
だからこそ、こんな郭の仕事でも身を入れ、
プロ中のプロの目を持つようになっているのです。
そんな彼から見ると、仕事に全く身が入らない定九郎が
いかにも歯がゆくてならなかったのでしょう。
だからこその、厳しい扱い。
龍三の人物像に、しびれました。


また、こんなシビアな世界の中で、一人ポン太という人物が
何故か夢のような幻のような存在でいるのもまた興味深いのです。
結果、定九郎は郭を跡にして新天地を目指すなどという結末にはならない。
けれども明らかに彼は新しい"生き方"に変化している。
生け簀の中に閉じ込められて惨めなのではない。
生け簀の中でおのれの自由を生きてみるのもまた、一つの生き方ではある。
直木賞というのも納得の力作です。


図書館蔵書にて(単行本)
「漂砂のうたう」木内昇 集英社
満足度★★★★★

ジャック・リーチャー NEVER GO BACK

2017年12月15日 | 映画(さ行)
荷物は僅かなお金と歯ブラシ



* * * * * * * * * *

「アウトロー」の続編。
相変わらず荷物ももたず、さすらいの旅を続けているジャック・リーチャー。
彼は旅の時々に、ある事件で世話になった女性、ターナー少佐に電話をしています。
チョッピリ好意を抱いたようです。
ある時、近くまで来たため、ターナーに会いに行くのですが、
なんと彼女はスパイ容疑をかけられ、逮捕されたという・・・。
この容疑自体が何かの罠に違いないと思い、
ジャックはターナーを救い出し、事の真相を探り始めます。
次第にあぶり出されていく軍と武器業者の癒着と陰謀・・・。



ターナー少佐は勇ましい!! 
彼女は女性扱いされて「後ろの方に引っ込んでろ」などと言われるのがとても嫌なのです。
ひたすら男性と同じに行動し、
そのように扱われることを望んでここまでのし上がってきた。
だから彼女はジャックを手助けするというよりも、むしろ同等のパートナー。
常は一匹狼のジャックですが、このたびはまあ、コンビと言っていいでしょう・・・。
いやトリオか。
・・・というのも、なんと、ジャックの娘(?)かも知れないという少女が登場するのです。
全く身に覚えがない訳でもないジャック。
前作では「据え膳」も食わない男だったのに、
食うこともあるのね・・・。
さて、ジャックの動きをを快く思わない連中にとって、
彼女はちょうどよい人質となるわけなので、狙われてしまうのですが、
なかなか、勇気があって機転も利く彼女。
確かにジャックの娘かも?などと思えてきちゃいますね。



ということで、先にも言いましたが本作は同じトム・クルーズでも
「ミッション・インポッシブル」シリーズよりもアクション等は地味ですが、
その分、登場人物の感情がしっかり描かれていて、私は嫌いじゃありません。



ポケットの中は僅かなお金と歯ブラシ、それだけが荷物。
移動はヒッチハイク。
こんなジャック・リーチャーのまた続きが是非見たいです。

ジャック・リーチャー NEVER GO BACK [DVD]
トム・クルーズ,コビー・スマルダース,ダニカ・ヤロシュ,ロバート・ネッパー,オルディス・ホッジ
パラマウント


<J-COMオンデマンドにて>
ジャック・リーチャー NEVER GO BACK
2016年/アメリカ/118分
監督:エドワード・ズウィック
出演:トム・クルーズ、コビー・スマルダース、ダニヤ・ヤロシュ、オルディス・ホッジ、ロバート・ネッパー


人生はシネマティック!

2017年12月15日 | 映画(さ行)
人の死に意味なんかない



* * * * * * * * * *

1940年、ロンドン。
第二次世界大戦中、
ロンドンは頻繁にドイツ機の空襲を受けている、そんな時期です。
カトリン(ジェマ・アータートン)は、
コピーライター秘書として雇われたのですが、
人手不足から、コピーを手がけるようになります。
そしてその腕を認められ、情報省映画局へ。
ここでは国民の戦意高揚のための映画作品を作っているのです。
そして、ダンケルクでドイツ軍の包囲から兵士を救出した姉妹の感動秘話を
映画化する脚本チームに加わります。
しかし、ベテラン俳優のわがままや、政府や軍からの横やりが入り、脚本は二転三転・・・。



ダンケルクのことは少し前に映画で見たので、記憶に新しい。
私にとってはその映画よりも、
コニー・ウィリスの「ブラック・アウト」と「オール・クリア」で表されている
まさにその時代なので、空襲の様子とか、地下鉄駅に人々が大勢避難している様子とかが
映し出されているのがすごく興味深かったのです。



そして、女性が自身のスキルを活かして生きがいを見出していく
というストーリーもいいですね。
また、映画の制作現場の内幕が描かれているのが非常に興味深い。
ここにビル・ナイという超ベテランを配置して、
落ちぶれた老俳優が「途中で死んでしまう老人の役なんか嫌だ」とゴネている
という設定にするなどとは、なんてステキ!



アメリカの参戦を促すために、あえてド素人のアメリカ人空軍ヒーローを
出演させなければならないというのも面白い。
当前演技は目も当てられない出来なのですが、
意外とカトリンは「イケメン」だからかまわない、と思っていたりします。
カトリンがそんなことを言うシーンが二か所もあって、
それをトムが呆れているシーンがすごく好き。
カトリンの気持ちはすごくよくわかるんですよねー。
なんだかんだと言って、女はイケメンに弱い。
ま、男性が巨乳に弱いのと同じですよ・・・。



さて、カトリンには共に暮らしている相手がいたのですが、
仕事が忙しくまた、のめり込むほどに面白くもあり、
次第に彼とは気持ちがすれ違っていきます。
そして、同じ脚本チームのトム・バックリー(サム・クラフリン)に心を寄せていく・・・。
などと書くと安っぽいラブストーリーじみてしまいますが、
ここの気持ちの移り変わりはツボをおさえていてなかなか良いのです。
そして、決して安直には終わらない。


作中で、トムがカトリンにこんなことをいいます。

「人の死に意味なんかない。
映画のストーリーならば、それは次の展開に必要な悲しみだけれど・・・。」

終盤で、この言葉を思い出さずにいられません。
死はある日突然に理不尽にやってくる。
しかし、考えてみればこれこそが本作の「ストーリー」としての出来事、
という二重性に包まれている。
結局は女性の自立に男は不必要ということかなあ・・・?



ところで、ダンケルク、
アメリカ人ジャーナリスト。
スクリューに絡まった何か。
次作が空襲監視員の話

・・・などなどのところに注目すると、
本作の脚本を書いた方は、コニー・ウィリスのファンに違いないと確信します!!

<ディノスシネマズにて>
「人生はシネマティック!」
2016年/イギリス/117分
監督:ロネ・シェルフィグ
出演:ジェマ・アータートン、サム・クラフリン、ビル・ナイ、ジャック・ヒューストン、ヘレン・マックロリー

時代の切り取り度★★★★☆
ロマコメ度★★★★☆
満足度★★★★.5

「私たちの星で」梨木香歩 師岡カリーマ・エルサムニー

2017年12月14日 | 本(エッセイ)
世界への向き合い方

私たちの星で
梨木 香歩,師岡カリーマ・エルサムニー
岩波書店


* * * * * * * * * *

ロンドンで働くムスリムのタクシー運転手や
ニューヨークで暮らす厳格な父を持つユダヤ人作家との出会い、
カンボジアの遺跡を「守る」異形の樹々、
かつて正教会の建物だったトルコのモスク、
アラビア語で語りかける富士山、
南九州に息づく古語や大陸との交流の名残…。
端正な作品で知られる作家と多文化を生きる類稀なる文筆家との邂逅から生まれた、
人間の原点に迫る対話。
世界への絶えざる関心をペンにして、綴られ、交わされた20通の書簡。

* * * * * * * * * *

まずは、師岡カリーマ・エルサムニーさんについて。
私はこれまで存じてなかったのですが・・・。
日本人の母とエジプト人の父の間に、東京で誕生。
カイロ大学政治経済学部卒業後ロンドン大学で音楽を学ぶ。
現在、執筆活動の傍ら、NHKラジオ日本でアラビア語放送アナウンサーを務め、
複数の大学で教鞭をとるとのこと。
また、このような多忙な中でも、世界各地を飛び回っているようです。
この方と、梨木香歩さんが手紙を交わしながら、
現在の世界の人々の様相などを奥深い考察を加えつつ語っていきます。


ちょうどこの本を読み始めた時に、
エジブトで300名を超える死者が出たというISによるテロのニュースがありました。
カリーナさんにとっては第二の故郷のエジプト。
ちょうどこの本でもエジプトのテロのことに触れられているのですが、
わりとと状況は落ち着いている、とあります(2016年1月頃)。
それがこの度このようなことになり、
さぞかし胸を痛めているだろうとお察しします。
ところが、日本ではこのことについての報道はほんのおざなりで、
連日、関取のいざこざの話ばかりが繰り返されていました・・・。
情けない、ホント情けないです・・・。


それはさておき、最近日本に限らず世界でも、
自国のことばかりを優先するような「内向きの政治」に変わりつつあるという状況を、
梨木香歩さんはこんなふうに言っています。

「何か道があるはずだと思うのです。
自分自身を侵食されず、歪んだナショナリズムにも陥らない
「世界への向き合い方」のようなものが、私たちの日常生活レベルで。」

言ってみればこの本はそうしたことを紐解いているようです。
こんな時に、まさしく2国間のハーフであるカリーナさんの意識の持ちようが
参考になることは間違いありません。
グローバルでハイブリット。
世界中の混血がもっと進んだら、世の中がちょっぴりステップアップするかもしれません。


「時を超えて縦に繋いでゆく意志的な能動性と、
隣人と横につながっていくオープンな受動性。
しなやかにそのバランスを取る姿勢を大切に・・・。」



「異質を嫌い、同化を謳い、他者を排斥せずにいられない」
このような、今、世界中に蔓延し、猛威をふるうウイルスのような風潮・・・それを、
カンボジアの森が、後から来た建造物を受け入れ、
抱擁し、互いに少しづつ身をよじり、形を崩し、場所を譲り合って行ったようにできればいい・・・


理想論ではありますが、常にそんなことを心の片隅に置いておきたいものだと思いました。
「歪んだナショナリズム」に陥らないように。

図書館蔵書にて
「私たちの星で」梨木香歩 師岡カリーマ・エルサムニー 岩波書店
満足度★★★★☆