映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ボーイズ・イン・ザ・ボート 若者たちが託した夢

2024年04月24日 | 映画(は行)

ハングリー精神

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実話を基にした物語。

1936年のベルリンオリンピック開催が近く予定されている頃。
米・ワシントン大学で、ボートの8人乗り競技のメンバー募集がなされます。
ボート競技というのは、当時お金持ちの子息がやるスポーツだったのです。
でもこの時は、はっきりと、
メンバーには給料を出すし、寮に入ることも出来るとうたってメンバーを募集。
世界大恐慌で失業者があふれているとき。
学生も学費を払うのに四苦八苦。
そんな労働者階級の若者に的を絞ったメンバー募集だったのです。

 

かなりの高倍率の中から選ばれた、体力がありボートセンスのある若者たちは、
皆ほとんどボートなど始めてだったのですが、毎日激しいトレーニングを開始します。
しかしこの大学のボート部にはすでにチームがあって、
この度の新たなメンバーは二軍という扱いでした。
一軍のメンバーはつまりお金持ちの坊ちゃんたちということで、
二軍メンバーにはちょっと意地悪なのです。

でもこういうときはやはりハングリー精神がものをいいますよね。
二軍メンバーはどんどん力を付けていって・・・。

 

そして1936年のベルリンオリンピック。
ドイツでナチスがその力を他国に見せつけようと大々的に開かれたオリンピック。
そこでの彼らの戦いぶりも、手に汗を握ります。

 

今時真っ正面からの感動作。
よきよき。

 

<Amazon prime videoにて>

「ボーイズ・イン・ザ・ボート 若者たちが託した夢」

2023年/アメリカ/123分

監督:ジョージ・クルーニー

原作:ダニエル・ジェームズ・ブラウン

出演:ジョエル・エドガートン、カラム・ターナー、ピーター・ギネス、ジャック・マルハーン

 

努力度★★★★☆

満足度★★★★☆


パストライブス 再会

2024年04月16日 | 映画(は行)

初恋のその後

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24年間にわたる男女の「縁」の物語。

韓国、ソウルに暮らす12歳の少女ナヨンと少年ヘソン。
互いに恋心を抱いています。
しかし、ナヨンは家族とともにカナダへ海外移住。
離ればなれになってしまいます。

その12年後、24歳になったナヨンは移住に伴いノラと名乗るようになっていて、
今は研修のためにニューヨークに来ています。
そんなある日、ノラはソウルのヘソンとオンラインで再会を果たします。
お互いに思いはありながら、双方まだ自身の人生の方向も見えておらず、
間もなくまた連絡も途絶えてしまいます。

そしてまた12年後。
36歳のノラは、作家のアーサーと結婚しています。
それなりに充実した毎日。
そんなところへ、ヘソンがノラに会うためニューヨークを訪れ、
2人は再会しますが・・・。

 

 

本作は、12歳の時に海外移住したというセリーヌ・ソン監督が
自身の体験を基にしたオリジナル脚本です。

 

幼馴染みで、双方ほんのりと思いのあった2人ですが、
あっさり結婚してしまったノラとは違って、
ヘソンの思いの方が強かったようです。
24歳でナヨンを探していたのもヘソンだし、
わざわざノラに逢うためニューヨークへやって来たのもヘソン。
ノラが結婚していることも知っていたのですが・・・。

この2人のいきさつを知るアーサーも、心穏やかではありません。
妻はやはりヘソンのことをまだ思っていて、
自分から去ってしまうのではないかと・・・。
そのアーサーの気持ちが分るノラ。
ノラは好きだけれど、彼女の結婚生活を壊したいわけではないヘソン。

三者の気持ちが微妙にそして複雑に絡み合う、
ラスト付近のシーンがなんとも切ないのでした・・・。

作中「イニョン(縁)」という言葉が多用されます。
日本人の私たちにもなじみの深い言葉。

「袖触れ合うも他生の縁」などという言葉にもあるとおり、
現在の人と人との関わりは、それがほんのわずかのことであっても、
前世でやはりその人と幾ばくかの関わりがあったことを示している・・・。

ノラとヘソンも、結局は深く関わることができなかったけれど、
きっといつかの前世で何らかの関わりがあったに違いない・・・
あるいはまた今後の世で、つながりがあるのかもしれない・・・。

そうした未来にしか希望を見いだせないヘソンもまた切ないですね・・・。

私は、ノラにとってヘソンというのは、故郷そのものなのかも知れないとも思いました。
懐かしくそして愛してやまない故郷。
けれど今はそこから遠く離れて、自分の生活はすっかりここにある。
懐かしい故郷に帰って暮らそうという気持ちは実のところない。
遠く離れて思うからこその故郷・・・。

となれば、ヘソンにはやはり勝ち目はないのか。

 

<シネマフロンティアにて>

「パストライブス 再会」

2023年/アメリカ・韓国/106分

監督・脚本:セリーヌ・ソン

出演:グレタ・リー、ユ・テオ、ジョン・マガロ

 

切なさ★★★★☆

満足度★★★.5


ブルックリンでオペラを

2024年04月09日 | 映画(は行)

夫婦とは、家族とは、愛とは・・・

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ニューヨークのブルックリンで暮らす精神科医のパトリシア(アン・ハサウェイ)。
ひとり息子ジュリアンを連れて
現代オペラ作曲家のスティーブン(ピーター・ディンクレイジ)と再婚しています。

人生最大のスランプを迎えているスティーブンは、
妻に送り出されて愛犬と散歩に出かけますが、
立ち寄ったバーで、風変わりな女船長カトリーナ(マリサ・トメイ)と出会います。
カトリーナに誘われて船に乗り込んだスティーブンに、ある意外な出来事が・・・!

このことで、夫婦の関係が変わっていきます。
スティーブンの一時の気の迷いとも言える行動で、皆が傷つき関係が崩壊していく・・・。

 

精神科医のパトリシアは、スランプ状態のスティーブンの主治医でもあるわけですね。
でもパトリシア本人も、異常なほどの潔癖症だし、
修道女に憧れていたりもして、
若干精神状態不安定でもあるような・・・。
その夫がオペラの作曲家でピーター・ディンクレイジというのも、
あまりにもユニークな夫婦像であります。

さて、パトリシアの高校生の息子ジュリアンは
目下16歳の彼女・テレザと付き合っています。
けれど後にこのことが問題となってしまうのです。

16歳の少女と関係を結ぶと、これは犯罪であるという・・・。

でも今時、同意の上でそれを行うことに異を唱える人はあまりいないでしょう。
(昭和生まれの私は実のところどうなのかとは思いますけれど)

しかし今時それを蒸し返そうとしたのが、テレザの義父。
実に尊大で嫌なヤツ・・・。
ジュリアンがテレザと関係したことを罪に問うべく動き始めます。
さて、ジュリアンのこの危機を救うことはできるのか・・・?

良い感じに集結していく物語でした。

<シネマフロンティアにて>

「ブルックリンでオペラを」

2023年/アメリカ/102分

監督・脚本:レベッカ・ミラー

出演:アン・ハサウェイ、ピーター・ディンクレイジ、マリサ・トメイ、
   ヨアンナ・クーリグ、ブライアン・ダーシー・ジェームズ

 

家族の多様性度★★★★☆

満足度★★★★☆


ペルシャン・レッスン 戦場の教室

2024年04月03日 | 映画(は行)

命がけのペルシャ語学習

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第二次世界大戦時。
ナチス親衛隊に捕らえられた、ユダヤ人青年ジル。
彼は自分がペルシャ人だと偽り、処刑を免れます。
将校のコッホ大尉がペルシャ語を習いたいと思っていたため、
ジルをその教師役に望んだから。
コッホ大尉は、将来イランのテヘランで料理店を開きたいという夢を持っていたのでした。

さて、ジルはとっさに考えついたでたらめの単語をペルシャ語と偽り披露します。
それでコッホ大尉の信用を取り付け、
その後も毎日ニセのペルシャ語レッスンを続けることに・・・。

ここですごいのは、ジルが結果的に何千語ものニセの単語を作り出したこと。
口から出任せで単語を作るのは簡単そうに思えます。
でも、それを自分自身もすべて記憶しておかなければなりません。
コッホ大尉は厳格でありそして几帳面な性格で、
毎日の新しい単語を単語帳に書きとめ身につけていきます。
ジル自身が単語を忘れてしまえば、たちまち齟齬が発生し、
偽りの身の上のこともバレてしまうでしょう。
そうなれば、処刑は免れることができません。

こんな緊張感に満ちた毎日を耐え抜いただけでもすごいと思います。
レッスン以外の時間は、調理人としての仕事があり、
ジル自身が学習する時間は非常に少ないのです。

そんな中、ジルが見つけ出した単語を生み出すヒントは、収容所のユダヤ人の名前。
ジルはユダヤ人の名前をもじって、新たなニセペルシャ語を生み出すのです。
しかも、その名前から連想する言葉をそれに当てる・・・。
このことが、ラストの驚愕の出来事に繋がっていくのですが・・・。

毎日顔を合わせるうちに、コッホ大尉はジルに親近感を覚えるようになって、
自らの身の上を打ち明けたり、ジルのポーランド送りを阻止したり、
何かと気遣いをしはじめます。

その好意はありがたいけれど、実のところジルは毎日の緊張の連続で気が休まらない。
そして、無数のユダヤ人たちがあっけなく命を落としているのに、
自分だけが生きながらえていることにも罪悪感を覚えます・・・。

なんとも地獄のような日々・・・。

これが実話に基づいているということで、全く、世の中は奇跡に満ちている・・・。
ただただ、感嘆してしまいます。

 

<Amazon prime videoにて>

「ペルシャン・レッスン 戦場の教室」

2020年/ロシア・ドイツ・ベラルーシ/129分

監督:バディム・パールマン

脚本:イリヤ・ゾフィン

出演:ナウェル・パレーズ・ビスカヤート、ラース・アイディンガー、ヨナス・ナイ、レオニー・ベネシュ

偽物度★★★★★

満足度★★★★★


PERFECT DAYS

2024年03月19日 | 映画(は行)

単調な毎日にあふれるドラマ

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アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされていましたが、惜しくも受賞を逃しました。
でも、ドイツ出身の巨匠・ヴィム・ベンダース監督×役所広司となれば、
見逃すわけに行きません。

東京、渋谷で公園のトイレ清掃員として働く平山(役所広司)。
淡々とした同じような毎日。
でも彼にとっては常に新鮮な小さな喜びに満ちています・・・。

役所広司さん演じる平山は、一人暮らし。
朝目を覚まして、歯を磨き、植木に水をやって出かけます。
公園のトイレを何カ所も回り、丁寧にそうじをします。
昼食は神社の境内のベンチでサンドイッチ。

仕事の後輩・タカシ(柄本時生)の適当な仕事ぶりが気になるけれど、
特に叱ったりはしない。
とにかく寡黙なのです。

仕事が終われば銭湯で汗を流して、
地下街の飲み屋で軽く飲んで食事とする。
帰って就寝前には読書のひととき・・・。

およそこんなことの繰り返しの毎日です。

無口だからといって決していつも機嫌が悪いわけではない。
彼の楽しみはカセットテープ(!)で、音楽を聴くこと。
フィルムカメラで、木漏れ日を撮ること。
そんなささやかな楽しみもあるのです。
同じような毎日だけれど、木々の葉の織りなす光と影の揺らめきのように
一つとして同じものはない。

まさしく、生きていくって、そういうことなのかも・・・。

渋谷区内17カ所の公共トイレを世界的な建築家やクリエイターが改修するという
THE TOKYO TOILETプロジェクト。
これにベンダース監督が賛同し、同プロジェクトで改修された公共トイレを舞台に描かれています。
だから登場するトイレは、狭くて暗くてキタナイという公園のトイレのイメージではなく、
どこも個性的でオシャレな外観。
なかでも透明なガラス張りで、鍵をかけると曇りガラスになって中が見えなくなる、
などと言うどこぞのオフィスみたいなトイレには驚かされました。
ちょっと、どうやって使えば良いのか、こまってしまいそうではあります・・・。
また、中の便器等も新しくキレイなので、これは掃除のしがいがありそう。
こんな風に、成果が目で見てわかる仕事も悪くないなあ・・・と思ったりします。

そんな平山の変化に乏しい毎日ですが、ある日、若い女の子が訪ねて来ます。
なんと姪っ子が叔父さんを頼りに家出してきたのでした。
そんなことから、平山の過去がほんのちょっぴりだけのぞかれたりもして。

 

カセットテープに、フィルムカメラ。
古い時代の物語かと思いきや、スカイツリーのある立派な現在の物語。
なんともアナログですが、今逆に若い子たちに受けていたりするわけで。

単調な毎日。
端から見れば、さえない仕事のさえないオジサン。
でも、そんな人の日々もドラマです。
私たち1人1人の暮らしも、本当はたくさんのドラマに満ちているのかも知れません。

ステキな作品でした!

 

<TOHOシネマズすすきのにて>

「PERFECT DAYS」

2023年/日本/124分

監督:ヴィム・ベンダース

脚本:ヴィム・ベンダース、高崎卓馬

出演:役所広司、柄本時生、アオイヤマダ、中野有紗、石川さゆり、田中泯、三浦友和

 

アナログ度★★★★★

日常度★★★★★

満足度★★★★★


白鍵と黒鍵の間に

2024年02月19日 | 映画(は行)

過去、現在、そして未来は?

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富永昌敬監督がミュージシャン南博の回想録
「白鍵と国権の間に ジャズピアニスト・エレジー銀座編」を
大胆にアレンジし映画化した作品。

昭和末期。

銀座のキャバレーでピアノを弾くジャズピアニスト志望の博(池松壮亮)。
謎の男(森田剛)からのリクエストで“あの曲”「ゴッド・ファーザー愛のテーマ」を演奏しましたが、
しかし“あの曲”をリクエストできるのは、銀座を牛耳るヤクザの親分・熊野会長だけで、
演奏を許されているのも、会長のお気に入りピアニスト南(池松壮亮)だけなのです。

・・・ということで、池松壮亮の一人二役?と思われるのですが、
いやいや、見ていくと本作にはちょっとねじれた仕掛けがある。

そもそもこのピアノ弾きは南博という名前で、元々ひとりの男。
彼は、敬愛する師・宅見(佐野史郎)が、ジャズピアノをやりたければキャバレーへ行け、
というのを真に受けて、キャバレーのピアノ弾きになったのです。

そんな彼は、キャバレーの次にはクラブでピアノを弾くようになる。

これはネタばらしなのだろうかと悩む所ではありますが、
つまり同時間軸上に3年の時間のずれがある同一人物を並べて描写している・・・と。

自分にとって大いにプラスになるはずの、クラブでの演奏。
しかし実態は誰もピアノなど聞いておらず、ジャズがわかるでもない。
単なるバックグラウンドミュージックになっていることにむなしさを覚え、
しかしそれすらももう感じられなくなってしまっている・・・。

つまりは、未来を夢見る博と、夢を見失った南。
南博の過去と現在を表わしているわけです。

では、この男の未来は・・・?

というところが、気になる作品ではありますね。

<WOWOW視聴にて>

「白鍵と黒鍵の間に」

2023年/日本/94分

監督:富永昌敬

原作:南博

出演:池松壮亮、仲里依紗、森田剛、クリスタル・ケイ、佐野史郎、高橋和也

 

ユニーク度★★★★☆

ジャズ愛度★★★★☆

満足度★★★.5


パラレル・マザーズ

2024年02月07日 | 映画(は行)

母と娘。女。

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写真家として成功しているジャニス(ペネロペ・クルス)は、
同じ産科の病院で17歳のアナ(ミレナ・スミット)と出会います。
そして同じ日に双方女の子を出産。
共にシングルマザーとして生きていくことを決意し、再会を誓って退院。

その後ジャニスはセシリアと名付けた娘を大切に育てていましたが、
父親であるはずのもと恋人から「自分の子供とは思えない」と言われてしまいます。
気になってDNA検査を受け、セシリアが実子でないことが判明。
ジャニスは産院でアナの娘と取り違えられたことに思い当たります。
しかし悩んだ末にジャニスはこの事実を封印し、
アナとも連絡を絶ってこのままシングルマザーとして生きようと決意。

しかし1年後、ジャニスは偶然にアナと再会。
アナの娘が亡くなったことを知ります・・・。

ジャニスは血のつながりなどなくても、十分以上にこの娘を愛していたし
これからも愛せると確信していたのでしょう。
けれど、実子と信じている娘を亡くしたアナにとって、
実の娘が実は生きていると知るべきなのかそうでないのか・・・
また悩んでしまうジャニス。

アナの母親は俳優になる夢をずっと持っていて、
この度は娘アナの出産や育児すらも捨てて、舞台で地方巡業に行ってしまいます。

自分の夢を優先する、母親として失格な母。
そう自覚している母。

そしてまた、アナの妊娠の経緯というのがまた悲しい・・・。
ではあっても、出産して子供を心から愛するアナの姿にも心打たれます。

母と娘・・・。
その有り様は様々でどれが正解とは言えないけれど、
そこにはそれなりの形の「愛」があるのでしょう。
女の生き方は一つではない、ということでもありますね。

そして本作、もう一つのテーマにスペイン内乱の悲劇があります。
アナの故郷の村で、過去に虐殺された曾祖父や親類たちが埋められた墓地があり、
改めてそこを発掘調査することになるのです。

失われかけた家族の愛と歴史がまた蘇っていく。
そして新たな命はまた形を変えて続いていくのでしょう。

ペドロ・アルモドバル監督×ペネロペ・クルス。
鉄板の名作です。

 

<Amazon prime videoにて>

「パラレル・マザーズ」

2021年/スペイン・フランス/123分

監督・脚本:ペドロ・アルモドバル

出演:ペネロペ・クルス、ミレナ・スミット、イスラエル・エレハルデ、
   アイタナ・サンチェス=ギヨン、ロッシ・デ・パルマ

 

母子の絆度★★★★☆

スペインの歴史発掘度★★★★☆

満足度★★★★★


Pearl パール

2024年01月24日 | 映画(は行)

殺人鬼の誕生

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1918年。

厳格な母と病で全身不随の父と共に、人里離れた農場で暮らすパール(ミア・ゴス)。
スクリーンの中で歌い踊る華やかなスターに憧れていて、
いつも農場の動物たち相手に歌や踊りを披露しています。

若くして結婚した夫は出征中。
父の世話と口うるさい母、そして毎日毎日の農場の仕事にウンザリしているパール。

そんなある日、パールは用事で街へ出かけたついでに、
母に内緒で映画館に寄り道します。
そして、外の世界への憧れをますます強めるのですが、
母には「おまえは一生農場から出られない」と言われます・・・。

本作、ホラー「X エックス」シリーズの第2作にあたり、
1970年が舞台であるその「X」の60年前を描く前日譚なのですね。
私はそんなことも知らずに、普通に田舎の少女が夢を持ち続けてビッグになっていく
サクセスストーリーなのかと思いながら見始めたので、
早々からの不穏な展開にビックリさせられました・・・。

すなわち、「X」においての極悪老婆パールの若き日を描き、
夢見る少女パールがいかにシリアルキラーへと変貌したかという物語だったわけです。

パールは自分がどこか人とは違うこと、
自分の感情に何かが欠けていることに気がついていて、
そのことに苦しんでもいるのですが、
でもひとたび気持ちが高ぶるともう止められず、残虐な行為に及んでしまう。
そしてそのことに喜びを見出している自分にも気がついているのでしょう・・・。
そうした変貌が実にリアルに描かれていて、まさしく、恐怖です。

最後に、やっと帰還したパールの夫が見たものとは・・・?
そして、もうわたし達には想像がついてしまいますよね。
この、夫の気の毒な運命が・・・。
パールの笑顔が最大級に恐い。

そうそう、調度時代背景がスペイン風邪の流行期で、
人々が人混みを避けたりマスクをつけたりするシーンもあって、
これも今だからこそ描けるものですね。

 

<Amazon prime videoにて>

「Pearl パール」

2022年/アメリカ/102分

監督:タイ・ウエスト

出演:ミア・ゴス、デビッド・コレンスウェット、ダンディ・ライト、
   マシュー・サンダーランド、エマ・ジェンキンス=プーロ

 

残虐度★★★★☆

恐怖度★★★★☆

満足度★★★★☆(予期せず感情が揺さぶられてしまった・・・)


ヒトラーのための虐殺会議

2023年12月09日 | 映画(は行)

狂気に飲み込まれた末

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第二次世界大戦時、ナチス政権が1100万人のユダヤ人絶滅政策を決定した
「バンゼー会議」の全貌を、アドルフ・アイヒマンが記録した
議事録に基づいて映画化されたものです。
従って、ほとんど現実に行われたとおりであろうと思われるのですが、
だから余計に恐ろしい・・・。

1942年1月20日。
ベルリン、バンゼー湖畔に建つ大邸宅にナチス親衛隊と各事務次官が集められ、
「ユダヤ人問題の最終的解決」を議題とする会議が開かれます。
国家保安部代表、ラインハルト・ハイドリヒを議長とする高官15名と秘書1名。
ユダヤ人の移送、強制収容、強制労働、計画的殺害について・・・。
ほとんど異論なく淡々と90分で終了するこの会議。

大筋は軍部ですでにできあがった内容(と言うか、すでに実行を始めている)を、
一応、お役人方に図り、了承を得て決定した、
という体裁を整えるための会議のように見受けられます。
にしても、お役人方からもほとんど反論はなく、
ほんの少し倫理について言及する人もいたのですが、
「この際、倫理のことなどに触れるな」と軽くいなされて終わってしまいます。
要はどれだけ効率的にユダヤ人を輸送し、死に至らしめて、絶滅させるか
・・・それが「ユダヤ人問題の最終解決」なのです。

こんなことが一会議室で、ビジネスライクに語り合い決定されてしまうことの恐ろしさ。
まるで絵空事のような話ですが、
これがことごとく実行されているというのがまた恐ろしい・・・。
そして、ユダヤ人から没収した財産の話になると皆色めき立つ
と言うのもとてつもなくイヤラシイですね・・・。

いったいどうやったらここまで殺人を正当化できるのか。
まさしく、ヒトラー恐るべし。

<Amazon prime videoにて>

「ヒトラーのための虐殺会議」

2022年/ドイツ/112分

監督:マッティ・ゲショネック

出演:フィリップ・ホフマイヤー、ヨハネス・アルマイヤー、
   マキシミリアン・ブリュックナー、マティアス・ブントシュー

歴史発掘度★★★★★

残虐度★★★★★

満足度★★★★☆


ベネデッタ

2023年12月06日 | 映画(は行)

奇蹟か、狂気か・・・?

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17世紀、レズビアンで告発された実在の修道女、ベネデッタ・カルリーニの
数奇な人生と、彼女に翻弄される人々を描きます。

実在の人物というところに、驚いてしまいますが・・・。

17世紀、イタリア、ペシア。
6歳でテアティノ修道院に入ったベネデッタは、純粋無垢のまま成人しています。
ある時、修道院へ逃げ込んできた若い女性バルトロメアを助け、
いつしか秘密の関係を持つように・・・。

そんな頃ベネデッタは、何もしないのに手・足に深い傷を負い血を流すという
「聖痕」を受け、イエスの花嫁になったと見なされ、修道院長に就任。
民衆からも聖女とあがめられ、強大な権力を手にします。

おりしも、空には彗星が現れ、都市ではペストが大流行。
混乱の町で、なおも権威を持つベネデッタですが・・・。

ベネデッタは幼少の頃から奇跡のような言動をする子供ではありました。
そのまま長じたのはよいとしても、いきなり世俗にまみれた女と関わり、愛欲を覚えてしまう・・・。
そしてある日「聖痕」が現れ、野太い声でキリストの声を伝える・・・。

これは奇跡なのか、それとも狂気なのか・・・。

思い込みだけで、自らの身が傷つき出血することなど本当にあるのか・・・? 
現代のわたし達はそんな奇跡が本当にあるとは到底思えないのですが、
神の摂理こそが真実と思う当時の人々ならば、聖痕もありなのかも。

けれどそれは一歩間違えば「魔女」の仕業として、処刑される危険も・・・。
ジャンヌ・ダルクのことも思い起こされます。
その真偽を判断するのは、時の「権力」で、
権力者において都合がよいか、悪いか、
つまりはそういうことで決定されてしまうわけで・・・
こわいですねえ・・・。

作中は彼女が自作自演で傷をつけた可能性も残しつつ、
神の奇蹟と同性愛のことがもつれ絡まって、
なんとも言えぬ雰囲気を生み出していました。

小さなマリア像があの行為に使われるというのが、なんとも隠微で冒涜的。

ベネデッタに修道院長の座を奪われたのが、シスターフェリスタ。
彼女は修道院長の座にありながら、神とか奇蹟には懐疑的。
ベネデッタのレズビアン行為を目撃し、中央へ訴えに行きます。
作中では最も「人間的」。
同じく修道尼であった娘の自殺や、
自ら感染しこの地にペストを運び入れてしまったこと・・・など、悲劇続き。
この人こそ救われるべきように思えますが、神は力を貸したりしません・・・。
さすがのシャーロット・ランプリングの名演技でした。

 

<WOWOW視聴にて>

「ベネデッタ」

2021年/フランス/131分

監督:ポール・バーホーベン

脚本:デビッド・バーク、ポール・バーホーベン

出演:ビルジニー・エフィラ、シャーロット・ランプリング、ダフネ・パタキア、
   ランベール・ウィルソン、ルイーズ・シュビヨット

 

歴史発掘度★★★★☆

狂女度★★★★☆

奇蹟度★★★★☆

満足度★★★★☆


僕が愛したすべての君へ

2023年12月02日 | 映画(は行)

母と共に暮らすことを選択した少年

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「君を愛したひとりの僕へ」のもう一対のアニメストーリー。

両親が離婚し、母と暮らす高校生、高崎暦。

ある日、クラスメイトの瀧川和音から突然声をかけられます。
自分は85番目の平行世界からやって来た。
そしてその世界で、自分と暦は恋人同士だった、と。

突然のことに戸惑ってしまう暦ですが、そんな和音にいつしか惹かれていきます。
そのまま付き合いを進め、同じ研究者の道を歩み、結婚した二人ですが・・・。

「君を愛したひとりの僕へ」では7歳の時に両親が離婚し、
父と暮らすことを選択した暦。
そして本作では同じ時に母と暮らすことを選択した暦。
大きく二つの分岐点で変わってしまったふたりの人生を描き出しているわけです。
同じ「暦」でも名字が違うのは、
母と暮らすことになって、母方の姓に変わったからなんですね。

それで本作は始めの方、暦と和音のラブストーリーになっていて、私はそこのところが好きでした。
ちょっとツンケンしている和音が、だけど乙女でかわいらしい・・・。

それで本作は、意外なことにほとんど“栞”が登場しません。
冒頭で、あの交差点にたたずむ例の“栞”と、
年老いて体も衰えた暦が出会うシーンがあるのみ。
そしてその答はラストシーンで明かされますが・・・。

いやあ、正直私はこの平行世界の入り込み方について、
なにがどうなってそうなっているのか、よく分かりませんでした。
雰囲気は伝わりましたが・・・?

それにしても結局どの平行世界に生きるにしても、
正解というのはないのだなあ・・・と思います。
こちらで愛犬が死んでしまって、あちらの世界へ行ってみれば、
犬は元気だけれどおじいさんが亡くなっていた・・・。

耐えがたい悲しみや不幸を避けるために別の世界へ行ったとしても、
そこでもいつかはまた同様なことが起こる。
どんな選択をしようとも、いいことばかりで埋め尽くすことはできない。

時の流れの果ての死の間際に「いい人生だった」と思えればラッキー、
くらいのものかもしれません。

今回は、宮沢氷魚さん、橋本愛さん、蒔田彩珠さんの声を
それと意識しつつ楽しみました!

 

<WOWOW視聴にて>

「僕が愛したすべての君へ」

2022年/日本/98分

監督:カサヰケンイチ

原作:乙野四方字

出演(声):宮沢氷魚、蒔田彩珠、橋本愛、田村睦心、水野美紀、余貴美子、西岡徳馬

 

(2作の総括として)

パラレルワールド堪能度★★★★☆

二作の絡み合い度★★★★★

満足度★★★.5


プアン/友だちと呼ばせて

2023年11月24日 | 映画(は行)

モトカノ巡りのロードムービー

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ニューヨークでバーを経営する、タイ出身のボス(トー・タナポップ)。
バンコクで暮らす友人ウード(アイス・ナッタラット)から数年ぶりに電話を受けます。
ウードは白血病で余命宣告を受けており、
ボスに最後の願いを聞いてほしいというのです。
バンコクへ駆けつけたボスが頼まれたのは、
ウードが元の恋人たちのもとを訪ねるための運転手をしてほしいということ。
あきれつつもやむなく引き受けるボス。

カーステレオから流れる思い出の曲が、
かつて2人が親友だった頃の記憶を蘇らせていきます。
しかし、ウードの本当の目的は別の所にあって・・・。

 

ウードの元恋人というのが1人ではなくて、何人もいるというのに
ちょっと笑ってしまいますが、
そうすることで本作は元カノ巡りのロードムービーとなっているわけ。

私、実はタイ作品を見るのはこれが初めてかも知れません。
スミマセン、あなどっていました。
画面も美しく洗練されていて、内容も粋で、面白い。

男女の恋模様を描きつつ、2人の愛憎をも絡ませた友情を浮かび上がらせる。

よいわー。
ファンになりそうです。

<WOWOW視聴にて>

「プアン/友だちと呼ばせて」

2021年/タイ/128分

監督:バズ・プーンピリヤ

制作総指揮:ウォン・カーウァイ、チャン・イーチェン

出演:トー・タナポップ、アイス・ナッタラット、プローイ・ホーワン、
   ヌン・シラパン、オークベープ・チュティモン

 

ロードムービー度★★★★☆

友情度★★★★☆

満足度★★★★☆


ピッグ/pig

2023年11月21日 | 映画(は行)

ブタを探す男

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オレゴンの森の奥深くで、1人孤独に暮らす男、ロブ(ニコラス・ケイジ)。
唯一の友達は、忠実なトリュフ・ハンターのブタ。
収穫した貴重なトリュフを取引相手の青年・アミール(アレックス・ウルフ)に売って
生計を立てています。

そんなある日、ロブは何者かの襲撃を受けて負傷し、ブタを連れ去られてしまいます。
ブタを奪い返すため、犯人の行方を追ってポートランドの街へ出るロブ。

実はそこは、彼が昔住んでいた街。
彼はかつて、誰もがその名を知る有名シェフだったのです・・・。

ニコラス・ケイジ100本目の長編映画とのこと・・・。
って、実は私、しばらくニコラス・ケイジだとは気づかずに見ていました!! 
寡黙でほとんど表情も変えず、ひげ面で恰幅がよい。
いや、なかなか気づかないでしょう、これ。
でもなるほど、気づいてみれば確かに、彼が演じるにふさわしい感じの役。

始めにこのうらぶれた男が調理をするシーンがあって、
ヤケにおいしそうだったのだけれど、
なるほど、かつての名うてのシェフ、ね。

この男がなぜその街の暮らしを捨てて、
こんな山奥で世捨て人のような暮らしを始めたのか、というのがミソ。
そして、いなくなったブタを相当の熱意で危険を冒しながらも探し回るそのわけは、
ブタがいないと生活が成り立たないから、というわけではなく・・・。

本作で、ロブの相棒役となるのが、青年アミールなのですが、
彼には彼の複雑な事情もある。
始め、ただのチャラいお兄ちゃんのように見えていましたが、訳ありの身の上。
車のカーステレオから流れるのはロックでもラップでもなく、クラシック!

このコンビがステキです。

 

<Amazon prime videoにて>

「ピッグ/pig」

2021年/アメリカ/91分

監督:マイケル・サルノスキ

出演:ニコラス・ケイジ、アレックス・ウルフ、アダム・アーキン、カサンドラ・バイオレット

 

グルメ度★★★☆☆

凸凹コンビ度★★★★☆

満足度★★★★☆


ブルーアワーにぶっ飛ばす

2023年11月20日 | 映画(は行)

親友と共に、故郷へ

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若手映像作家の発掘を目的とした「TUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM 2016」で
審査員特別賞を受賞した企画の映画化。

 

CMディレクターをしている30歳、砂田夕佳(夏帆)。

東京で日々仕事に明け暮れ、理解ある優しい夫(渡辺大知)もいて、
充実した生活を送っている・・・、ように端からは見えるのですが、
しかし、口を開けば毒づき、不倫をし、心がすさみきっているのです。

ある日、病気の祖母を見舞うため、親友の清浦あさ美(シム・ウンギョン)と共に、
大嫌いな地元、茨城に帰ることに。

極力帰らないようにしていた、実家。
そこを久々に訪れれば、あっけないほどに何も変わっていません。
しかし、母や父、兄、家族だけははっきりと年老いて古びている・・・。

でも彼女はそこで、忘れかけた子どもの頃の自分を見つけます。

久々に実家へ帰ったときの、ホッとするけれど案外なんにもなくて、
あっけらかんとした心境に襲われるような・・・
ちょっと身に覚えがあるような気もします。

 

夕佳とあさ美のロードムービー的になっているのも面白い。
あさ美の人なつっこく素直で好奇心いっぱいという感じが好感持てます。
シム・ウンギョンさんは、どんなドラマに出てもすごく普通っぽいのに、
なぜか印象深い。
後で思い返すと、その役は他のどんな女優にも替えられないような気がしてしまう。
好きな俳優さんです。

 

さてところが、本作には大きな仕掛けが一つありまして・・・。
どういうことだったのか、
それを考えるのも本作の面白みの一つであります。

<Amazon prime videoにて>

「ブルーアワーにぶっ飛ばす」

2019年/日本/92分

監督・脚本:箱田優子

出演:夏帆、シム・ウンギョン、渡辺大知、ユースケ・サンタマリア、伊藤沙莉、南果歩

 

意外な展開度★★★★☆

満足度★★★.5

 


法廷遊戯

2023年11月17日 | 映画(は行)

弁護不可能・・・?

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第62回メフィスト賞受賞、五十嵐律人さんによる法廷ミステリ小説の映画化。

弁護士を目指しロースクールに通うセイギこと久我清義(永瀬廉)。
同じ学校で学ぶ、幼馴染みの織本美鈴(杉咲花)。
彼ら学生の間で、「無辜(むこ)ゲーム」と呼ばれる模擬裁判がはやっています。
そのゲームを仕切っているのが、在学中に司法試験に合格した天才・結城薫(北村匠海)。
ともあれ、セイギも無事司法試験に合格し、弁護士となりました。

ある日、セイギのもとに、薫から「無辜ゲームをするから来てほしい。」と呼び出されます。
セイギが指定の場所へ行くと、そこにいたのは、
血のついたナイフを持った美鈴と、すでに息絶えた薫・・・。
その時、美鈴は言う。
「私は無罪だから、弁護してほしい」と。

終始ひんやりしたムードの漂う作品です。

美鈴が持っていたナイフには、薫の血がついていて、
誰がどう見ても彼女が薫を刺したとしか思えない。
しかし、美鈴はその後黙秘を通し、
何がどうしてそうなってしまったのかを一言も話そうとしない。
こんな状況で、どのように彼女を弁護するというのか・・・???

その鍵は、この3人を巡る過去と真実。
それを少しずつ解きほぐしていく作品となっています。

弁護士を目指すからといって清廉潔白、正義の人とは限らない・・・ということですね。
美鈴とセイギは養護施設で育ち、過酷な子供時代を過ごしている。
薫は、警察官の父が、退職の後に自殺という苦しみを抱えている。
これらがもつれた糸となって“今”を作り出しているわけです。

苦くて、ヒンヤリ。

まあ、たまにはいいか。

 

<シネマフロンティアにて>

「法廷遊戯」

2023年/日本/97分

監督:深川栄洋

原作:五十嵐律人

出演:永瀬廉、杉咲花、北村匠海、戸塚純貴、柄本明、大森南朋、生瀬勝久、筒井道隆

 

ミステリ度★★★★☆

ヒンヤリ度★★★★☆

満足度★★★☆☆