映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ライラの冒険/黄金の羅針盤

2009年08月31日 | 映画(ら行)
スマイルBEST ライラの冒険 黄金の羅針盤 スタンダード・エディション [DVD]

Happinet(SB)(D)

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少女の知恵と勇気で困難を切り抜けて・・・

         * * * * * * * *

フィリップ・プルマン原作ファンタジーの映画化。
3部作のうちの第一弾。
私たちの住む世界と良く似たパラレルワールドの英国。
そこでは、動物の姿をした守護精霊“ダイモン”と人間が生命を共有しています。

そこで子供たちが謎の組織に連れ去られるという事件が発生。
少女ライラが、あらゆる物事の真実を写すという“黄金の羅針盤”を手に、
親友ロジャーや他の子供たちを救い出すため、
北の大地へ向けて旅立ちます。

・・・とはいえ、この世界観や人物関係、登場する用語、
一度見ただけでは理解が難しく感じられました。
本を読んでから見たほうが良かったのではないかと思います。
ファンタジーとはいえ、単純に善と悪、善人と悪人、
割り切れるような話ではないのですね。
主人公ライラも、決して「良い子」ではなく、
意志が強く目的のためには嘘もつく。
美貌の野心家、コールター婦人の内面もかなり複雑。

これはもう、子供向けとは思わないほうがいいです。
大人も、子供もどうぞ。

ライラもコールター婦人も、顔も性格も冴え冴えとしておりますので、
かわいさは動物たち“ダイモン“で補っているように思います。
そして、これからというところで終わってしまうので、
ちょっと満足感にも欠けます。
あくまでも、全体の中の一部。

でもそんな中で、私はヨロイくまのイオレクのシーンはかなり気に入りました。
無論CGですが、迫力満点で、動きもすごくリアルです。
近頃私、札幌の円山動物園の双子のシロクマファンなもので・・・。
今、絶滅危惧種のシロクマがなぜかとてもいとおしい。
このシロクマシーンはたっぷりあるので、ぜひゆっくり見てくださいね。

一つ疑問なのは、このイオレクを乗せてしまったら、
重くて気球は上がらないのではないかと・・・。
でも、飛んでましたけどねえ・・・。

2007年/アメリカ・イギリス/112分
監督:クリス・ワイツ
出演:ダコタ・ブルー・リチャーズ、ニコール・キッドマン、ダニエル・クレイグ、サム・エリオット




映画CM ライラの冒険



「蠅の王」 ウィリアム・ゴールディング 

2009年08月29日 | 本(その他)
蠅の王 (集英社文庫)
ウィリアム・ゴールディング
集英社

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1954年に出版されたこの本。
著者W・ゴールディングは、ノーベル文学賞受賞の英国人作家。
この本は、戦後最も重要な長編小説としての評価を受けています。
様々なところで引用される本でもあるので、
私も、題名だけはずいぶん前から知っており、興味を持っていました。
集英社文庫の今年の「ナツイチ」の中の一冊として売っていたので、
この機会にと、読んでみました。


ストーリーは、一見冒険譚です。
第三次世界大戦勃発。
英国の少年たちが、疎開のため飛行機に乗ったが、
荒天のため無人島に不時着。
飛行士たちはみな死亡し、少年たちだけが生き残った。
何人かの比較的大きな少年たちと、
何人いるのかもわからない大勢のちびっこたち。

思い浮かべるのは十五少年漂流記のような、
サバイバルと友情の物語なのですが・・・。
しかし、このストーリーは次第に様相が異なってきます。


リーダーとなるのはラーフという少年。
金髪で明るく人好きのする、まあ、確かにリーダー性のある子なんですね。
このラーフのブレインとも言うべきピギーは、
聡明なんだけれど、太っちょで、動き回るのは苦手。

この二人と敵対する関係となるのが、合唱隊のグループで、
彼らを取り仕切っているのが黒髪のジャックという少年。
こちらはかなり粗野で強引。

はじめのうち、ほら貝を中心に規則を作って協力し合っていた少年たちですが
次第に獣性が目覚め、些細なことで対立。
主に、ラーフとジャックの二派の敵対関係となっていきます。
闇に潜む「獣」におびえ、狂気にとらわれた少年たちは、
ついに暴走を始め・・・。


「蠅の王」とは、悪魔ベルゼブブのことを指しているのですが、
この物語ではハエが群がる豚の生首を「蠅の王」と形容しています。
これは単なる少年の冒険物語ではなく、
一つの寓話と捉えた方がよさそうです。
解説によれば、これは『原罪』について語っていると。

神聖なもの、理想・・・。
そういうことの象徴として「烽火」があるんですね。
いつか沖を行く船が見つけてくれるかもしれない。
そういう希望の象徴。
ラーフはまず最初に、
自分たちは「烽火」を絶やさないようにしなければならない、と提唱します。
人間の善の部分を表していますね。

一方、ジャックはそんなことより、狩りを重要視します。
島には野豚がいて、
豚を狩ることで次第に自己の中に潜んでいた獣性が目覚めてくる。
少年たちは、徐々にこの血に飢えた残忍なジャックの方に引きずられてゆく。
その象徴が、ハエが群がる豚の生首ということで・・・。

でも、「原罪」というのはキリスト教的教義で、
私たち東洋人にはちょっとピンと来にくい。
草食系のDNAを未だに色濃く持っている私は、
狩りのシーンなどは眉をひそめたくなるばかりで、
その雰囲気に引かれるなんてことはこれっぽっちも感じないのですが、
皆さんはいかがでしょう。
あるいは、男女差はあるかもしれませんね。
そういえばこの物語に女は全く登場しません。
全員男子ですね。
男性の皆さん「狩り」で血が騒ぎますか???


・・・とはいえ、次第に少年たちが「蠅の王」の思うがまま操られるかのように
破滅に向かって突き進んでゆく、この迫力には圧倒されます。
悪夢のようなこの小説。
小説力あり、ですね。

で、「原罪」はともかくとして、
私はむしろ、民衆とかリーダーとか、
そういうもののあり方についていろいろ考えてしまいました。
自分で何も考えようとしないちびっ子たちは、つまり民衆なのではないかと。
それを先導するリーダーのあり方が問題なわけです。

ラーフは普通にリーダー性があって、良識の持ち主。
掲げる理想ももっている。
けれど、まだ言葉が足りない。
もっと皆をひきつける言葉、理論、そういうプラスアルファに欠けるわけです。
頭の良いピギーがもう少しましなルックスを持っていれば、
あるいは・・・、という気もします。

一方、ジャックは強烈な個性。
しかも「烽火」などという今すぐ役に立たないものでなく、
「食欲」という直接的なものに訴えてくる。
多少うさん臭かろうが何だろうが、無知な民衆はこれでコロリ。
ジャックだけが悪いのではない。
彼を祭り上げる全体がおかしな方向へ走り出す。

・・・私たちは心して理性的でなければなりませんね。
30日は選挙ですから。
目先にとらわれず、冷静に良く考えましょう・・・。

満足度★★★★★

ノーボーイズ,ノークライ

2009年08月28日 | 映画(な行)
家族や友との絆が生きる力になる

             * * * * * * * *

日韓二人の青年が心を通わせていくストーリー。
ヒョングは、日本で成功したホギョンおじさんの下で、
ボロなボートで韓国から密輸品と、キムチのツボを運ぶのが仕事。
裏社会の仕事です。
しかし、家族もいない彼は、いいお金にもなるし、
まあいいか、こんなもんか・・・と受け流す。

日本側でホギョンの下で働く亨(とおる)。
彼には守らなければならないものがある・・・。
それは惚けたおばあちゃん、身持ちの悪い妹、妹の三人の子供達。
・・・今すぐにでも、見捨てて逃げ出したいけれど、それができない。
この家族をささえるために、彼は汚い仕事でも何でもすると決めている。

二人は荷物の受け渡しをする時に会うくらいだったのですが、
あるとき、拉致された少女が日本に運ばれてきて・・・。
ついにはこの二人は、
少女と共にホギョン一派から逃亡し、少女の父親を探すことになってしまいます。


二人とも、根っこのところは常識人で、
こんなヤクザな仕事は好きでもなんでもないし、
良くないとわかってはいるのです。
でも、生きていくためには仕方ないと割り切っている。
そんな中で次第に共感を覚え、気持ちが通い合っていくんですね。
実際、亨の抱えている状況は相当に悲惨。
ちょっと、ギルバート・グレイプを思い出しました。
家族のために、この家を出て行けない、やりたいことをやれない。
そこにまた、韓国の二人まで背負い込んで・・・。
でも、皆が楽しそうに食事するシーンや、
全員一緒に逃亡の車のシーン、なんかいいですよね。
家族を大事にする気持ちは、どこの国も同じ。

ここではまた、ヒョングがいい味なんですよ。
彼はちょっとボーっとしているというか、
悪いことでも、バカみたいにまじめ。
妻夫木君だけではシャープになりすぎるところを、
ハ・ジョンウがそっと、カドを取ってくれている、
というような最良のコンビネーションを感じます。

「泣かない男なんていない。」
亨が男泣きするシーンも見所です。
どんなシーンで男泣きになるのか、ぜひ、見てくださいね。


それから、二人が町内のカラオケ大会で熱唱する「アジアの純真」。
これはもう、見逃すと損です。
こんなツーショットは二度とない!
日韓それぞれの青年俳優の魅力たっぷりで、
それが合体してさらに相乗効果を醸している。

青年の持って行き場のない閉塞感を中心に、悲惨な状況を描きつつも、
どこかほんのり温かみがある。
素敵な作品でした。
キムチが妙に食べたくなりますよ!


2009年/日本・韓国/114分
監督:キム・ヨンナム
脚本:渡辺あや
出演:妻夫木聡、ハ・ジョンウ、チヤ・スヨン、徳永えり


映画『ノーボーイズ,ノークライ』予告編



アイガー・サンクション

2009年08月27日 | クリント・イーストウッド
アイガー・サンクション [DVD]

ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン

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アリゾナ・アルプス・・・高所恐怖症の方ご注意

* * * * * * * *

クリント・イーストウッド、監督兼主演作品です。
絵の教師をしているヘムロックは実はもとプロの殺し屋。
この辺がすでに違和感のような気もしますね・・・
そしてまた、彼はかなり名の知れた登山家でもあったと・・・。
趣味の広いひとですねえ。
しかし、彼の腕を見込んでCIAからまた殺しの依頼が来る。
アイガー北壁登攀の国際チームに入って、
そのチームの一員である誰かを始末するように、と。
狙うべき人物はまだ特定できない。
追って連絡する、と。
う~む、どうもこの辺の設定も???のうちに、
どんどん話は進みます。

でも、ここからやっと、映画として見ごたえが出てくるんですよ。
始めはアリゾナで登山訓練のシーン。
大自然の中でせっせとジョギングで体を鍛えたり、
直立する岩山を登ったりします。
こういうシーンでもすべてスタントなしだったそうで、
すごいですね。
そしていよいよ、スイス。
アイガー北壁登攀となるんですが、ここはまた更にスケールアップして、
ドキドキの映像続出。
しかしそもそも、誰かが狙うべき敵で、
向こうもこちらを狙ってる。
・・・互いに命を預けあうチーム内なのに、
こんなことでは岩登りなんてできないでしょ、普通。
第一殺しあうなら、もっと安全な場所でやればいい。
そもそも、アイガー北壁って、ふもとのホテルから丸見えなんですよね。
むちゃくちゃだな・・・。
・・・・と、その映像もさることながら、突っ込みどころも満載で、意外にも楽しめてしまう一作なのでした。
まあ、申し訳程度に、ラストに意外な人物がその標的であることがわかるわけなのですけど。


クリント・イーストウッドのかっこよさを満喫できる作品ではありますが、内容にはやや難あり。
監督業も、まだまだですな・・・。


1975年/アメリカ/128分
監督:クリント・イーストウッド
出演:クリント・イーストウッド、ジョージ・ケネディ、ボネッタ・マッギー

ヤング・シャーロック ピラミッドの謎

2009年08月26日 | 映画(や行)
ヤング・シャーロック ピラミッドの謎 [DVD]

パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン

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若き日のホームズとワトソンの冒険

          * * * * * * * *

シャーロック・ホームズとワトソンが少年時代に同じ学校で出会っていた。
コナン・ドイル原作から離れ、
想像の翼を広げて作られたストーリーです。


ロンドンの名門校へ、田舎の学校からワトソンが転校してきます。
宿舎で隣のベッドになったホームズは、彼を見るなり、
名前や出身地、父親の職業、好きな食べ物まであててしまう。
すっかりホームズに心酔してしまったワトソンは、
彼と行動を共にすることになります。

高校生探偵、う~ん、まるで工藤シンイチ。
ここで起こる事件は、連続して起こる不可解な死。
これにはこの学校の退役教授ワックスフラッターも関係しているようなのですが、
その彼も錯乱の挙句に亡くなってしまいます。
事件を探るうちに、エジプトの怪しい信仰「ラメ・タップ」が浮かび上がり、
彼らはその本拠地である、街中にひそかに作られた木製ピラミッドへ・・・。


吹き矢の毒で幻覚が起こるシーンは、当時最先端のCGが駆使されていますが、
今観るととてもささやかです。

だから、
なんだかハリー・ポッターを思い出してしまうイギリスの寄宿制の学校光景とか、
食いしん坊でちょっととろいワトソン君とか、
ホームズとワトソンの会話とか
・・・そういうことに楽しみを見出すとよろしいかと思います。
若き日の二人は冒険家です。


1985年/アメリカ/106分
監督:バリー・レビンソン
製作総指揮:スティーブン・スピルバーグ
出演:アラン・コックス、ニコラス・ロウ、アンソニー・ヒギンズ、フレディ・ジョーンズ

「コミュニティ」 篠田節子 

2009年08月24日 | 本(ホラー)
コミュニティ (集英社文庫)
篠田 節子
集英社

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篠田氏デビュー当時から約10年間に発表された秀作短編集。
ジャンルは一応ホラーというべきなのでしょうか。
ただ、ホラーの枠には収まりきれないものも。

表題作「コミュニティ」は、ある夫婦が、さびれた団地に越してきて、
その地域の信じがたいような濃密な人間関係に巻き込まれていく話です。
ほとんど一つの地域共同体。
これは新しい家族の枠か?
宗教か?
単なるおぞましい話なのか?
しかしまた逆にある意味これも悪くないかも・・・とも思えてしまう。
でも、気をつけなければならないのは、
こういう場所ではひとたびその枠を外れると
大変なことになってしまうということ。

ここまで極端ではないにしても、
ごく小さな、このようなコミュニティなら、
実は身の回りにもあるのかも、と思えてきました。
人間の築く社会は、実は何でもありなんでしょうね。


また、この本の解説、吉田伸子氏が絶賛していますが、
「夜のジンファンデル」は、私も気に入りました。
ジンファンデルというのは、ワインを造るのに適したブドウの品種名。
互いに結婚している男女の、大人の恋愛小説となっております。
互いの思いをわかっていながら、最後まで一線を越えないという、
甘く切ないこの物語には、ワインのブドウが良く似合います。

「大人の恋愛とは、耐える恋であり、叶わぬ恋なのだ。
決して実ることのない恋なのだ。」
と、彼女は言うのですが、実はそういうのは私も大好き。
このストーリーのラストには思わずうなってしまいます。
実らないままに終わる恋こそ、
一生密やかに、胸に抱いていけるような気がします。


一篇一篇が、思わぬ方向に進展してゆく、興味の尽きない作品集です。

満足度★★★★☆

3時10分、決断のとき

2009年08月23日 | 映画(さ行)
息子に見せる男の生き様

* * * * * * * *

近頃、西部劇は珍しいですね。
1957年作の「決断の3時10分」リメイク。
アメリカでは2007年に公開されたものなのですが、
日本公開までずいぶん日がたってしまったようです。

中心人物は、悪名高い強盗団のボス、ベン・ウェイド(ラッセル・クロウ)。
それに対して捕らえられたこのベンを護送する役を務める
貧しい牧場主ダン・エヴァンス(クリスチャン・ベール)。


ラッセル・クロウの悪役とは珍しいですが、
これがまた、ただの悪役ではない。
腕が立ち、頭が切れる。
また、優しさと非情さを合わせ持つというこの男。
部下からは絶大な信頼を得ていて、
ただの乱暴ものというわけではないのです。

一方、クリスチャン・ベールの方は、借金に苦しむ牧場主。
14歳の息子は完全に彼をバカにしているし、妻も愛想をつかしかけている。
しかし、何とかここで、ベン・ウェイドの護送を成功させ、
報酬を得て、生活を立て直したいわけです。


さて、3日後の3時10分発ユマ行きの列車にベンを乗せなければならない。
ベンの移送の一行は、駅へ向かう。
しかし、ベンの仲間たちが、ボスを取り戻そうと追跡してくる。
道中、アパッチ族に襲われたり、
ベンに恨みを持つ者たちと闘ったり・・・、
そんな中ではベンとダンが共闘する場面も出てくるのです。
そして、次第にこの二人には奇妙な絆がうまれてくる。

最後には、ダンは絶体絶命の局地に立たされることになりますが・・・・。
ベンは、金をやるから逃がすように、とダンに持ちかけます。
3時10分。決断のとき。

なぜ今この作品のリメイクなのかと言えば、
今、こんな時代だからこそ、
お金だけではない、貫き通すべき男の誇り、人間の信念、
そういうものを示したかったのではないでしょうか。
ただ、お金が欲しいだけなら、もっとずるく立ち回ることはできる。
けれども、自ら正しいと思う方法を、行動で息子に指し示すこと。
命を掛けてもそれをやり通そうとする男のかっこよさ、ですね。
ちょっと感動モノでした。
そしてまた、そのダンに応える男気を見せるベンも・・・。
この男と男のバカまじめすぎるくらいの信念の応酬。
これにはやはり西部劇がふさわしいんですよ。
納得の一作でした。

2007年/アメリカ/122分
監督:ジェームズ・マンゴールド
出演:ラセル・クロウ、クリスチャン・ベール、ピーター・フォンダ、グレッチェン・モル


3時10分、決断のとき



西の魔女が死んだ

2009年08月21日 | 映画(な行)
魂が肉体を離れて自由になること・・・

           * * * * * * * *

私のお気に入り、梨木香歩原作の映画化です。
学校に行くことが苦痛になってしまった中学生のまい。
しばらく、祖母の家に身を寄せることになりました。
そこは、大自然に囲まれた一軒家。
おばあさんは、イギリス人。
日本人の男性教師と結婚して、まいのお母さんが生まれたのです。
そして、おばあさんの秘密・・・。
それは、おばあさんは魔女の血を引いているということ・・・。

しかしここは、ほうきに乗って空を飛ぶ黒い服を着た魔女が登場したりはしませんので、ご安心を。
ここで言う魔女というのは・・・、
そうですね、自然の中で生活して、
薬草の知識があったり、
人より少し霊感が働いて、先のことが見通せたりする
・・・というそれくらいのものなのですが。

まいも、その魔女の血を引く末裔として、魔女の修行をすることにします。
でも、それは
早起きして、料理をしたり洗濯をしたり、庭仕事をしたり・・・。
つまり、全く日常の営みを積み重ねていくことなのです。
そうして、まいは徐々に生きる力を取り戻していく。
・・・生きていく上ではごく当たり前のことなのに、
学校ではやらないことばかりですよね。
料理は家庭科がありますが・・・、毎日やるわけじゃない。
特に今の子供たちは、家でも全くやらないことばかり。
確かに、こういうことって本当はとても大事なんですけれど。
男女に関わらず。


多感なまいは、人は死んだらどうなるんだろう・・・と、不安になります。
パパは言ったそうな。
「死んだら、それですべてお終い。
まいが死んだって、それでもただ当たりまえに毎日が過ぎていくんだ」
って。
確かにそうかもしれませんが、それではあまりにも虚しくて、怖い。
おばあさんは言うのです。
「それは、魂が肉体を離れて、自由になることなの」と。

魔女というのは生き物の生と死の境界に、
とても近いところにいる人のことなのかも知れないと思いました。
とすればやはりこれは、私たちを取り巻く境界、
「ぐるりのこと」の話なのでしょう。

映画は初夏の瑞々しい緑にあふれた美しい映像で飾られています。
おじいさんが亡くなって、その後のおばあさんの誕生日、
びっしり実をつけた野いちご。
そこにうずくまって泣くおばあさんの姿が印象的。
野いちごのジャムはおいしそうでしたねえ・・・。

2008年/日本/115分

監督:長崎俊一
出演:サチ・パーカー、高橋真悠、りょう、木村祐一

西の魔女が死んだ 特報



「温室デイズ」 瀬尾まいこ 

2009年08月20日 | 本(その他)
温室デイズ (角川文庫)
瀬尾 まいこ
角川書店(角川グループパブリッシング)

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この物語の舞台は中学校です。
中3のみちると優子。
あと半年で卒業というところなのですが、この学校は荒れて崩壊寸前。
窓ガラスは割られ放題。
不良たちの教師へ暴力も日常茶飯事。
こんな時、子供たち誰もがすさんでいるかといえば、そうでもないんですね。
問題行動を起しているのはごく限られた者たちで、
大半は、これらの状況から自分に火の粉がかからないよう、
そっとやり過ごしている。

この、みちると優子もそんな風だったのですが、
しかし、みちるは黙っているには正義感が強すぎた。
ある日、「こんな学校っておかしくない?」と
クラスの皆に投げかけてしまったことから、
クラスの中で、みちるへの執拗ないじめが始まってしまう。
優子は小学校の時にいじめを受けたことがあり、
そのつらさは良くわかっている。
みちるに加担すればまた、二の舞だ。
優子は皆のみちるへのいじめを見るのが嫌で、相談室登校に切り替える。


なんとも、殺伐とした学校の光景に、気持ちは暗澹としてきます。
信じたくはないけれど、ここまで極端ではないにせよ、
こんなことが実際に起こっていそうです。
しかし、この二人は、
とにかくやり過ごさなければならない卒業までの日々を淡々と受け止め、
そしてほんの少しでもいいほうへ向かう可能性を信じている。
嫌がらせ、無視、そして時には暴力を受けながらも、
自分は悪くないのだから、絶対負けない、
そんな思いで、登校を続けるみちる。

私なら、とんでもない、もう学校なんか行くのは止めなさい、
といってしまいそうです。
このみちるの強さには感嘆します。
しかし、時には優子のように、逃げ出すことも必要なのではないかな。
きちんと自分を保つためには。
誰もがそんなに強いわけではない・・・。


さて、この物語ですごいのは、
こんな中学校を著者が「温室」といっているところです。

* * * * * * * *

どれだけひどい行動をしようとも、学校の枠から外れても、
私たちは学校に守られている。
ドロップアウトしたって、次のクッションを与えてくれる。
でも、決して、居心地がいいわけじゃない。
どんな状況であろうとも、望もうが望まなかろうが、
この空間で毎日を送るほかないのだ。

* * * * * * * *

なるほど、甘い香りの花が咲き乱れた温室ではなく、
荒れ果て、空気がよどんだ温室もあり、ということか。
けれども、自分たちは本当は守られている、
そういう自覚が大人への一歩なのだろうと思います。
それがわかれば、そこまでひどい行動には出ないのだろうに・・・と思えます。

周りのすさんだ状況の中で、
それぞれのやり方で頑張っている人たちが描かれています。
それは別に突っ張っているのではなく、
一見しょうもないなあ・・・と情けなく思えるようなことなのですが。
でも、これって大事。
どんな風にしたっていい。かっこ悪くてもいい。
まずはそんな中でも自分らしくやってみよう。
今も学校へ行くのがつらい多くの中学生へ、
ちょっぴりエールを送りたいと思います。

満足度★★★☆☆

HACHI /約束の犬

2009年08月18日 | 映画(は行)


ぐしょぐしょに泣けました

* * * * * * * *

言うまでもなく、日本の「ハチ公物語」のハリウッドによるリメイクです。
これが、私の敬愛するラッセ・ハルストレム監督なので、
見逃す手はありません。
ストーリーは、わざわざご紹介するまでもありませんが・・・。

大学教授パーカー(リチャード・ギア)が、秋田犬の子犬を拾い育てます。
いつしかハチは、毎日夕方5時に駅前で教授を待つようになる。
ところがある日、教授が講義中に倒れて帰らぬ人に・・・。


この映画で一番の演技をしているのは、やはりハチですね。
犬の表情なんて、そう豊かとも思えないのに、
なんでこんなにしっかり感情表現できているのか・・・??? 
これはもう感嘆に値します。
とにかく、ラストシーンなどは、今思い出してもウルウルきちゃいます。
ほとんど、「フランダースの犬」のラストシーンなみです・・・。

犬好きなもんで、とにかく、今回は写真をたくさんいれちゃいますね!

心を通わせる教授とハチ


これがまた、かわいい!!


待つ・・・


ひたすら待つ・・・


好きなだけ待っていいんだよ


10年待ちました



私は以前から、犬は『待つ動物』のような気がしていました。
散歩に行くのを待つ。
ご飯を待つ。
呼ばれるのを待つ。
ご主人が帰ってくるのを待つ・・・。
とにかくいつも何かを待っているような気がする。
なぜって、待ちに待ったそのときの表情がまた格別だから・・・。
だから、この作品は、犬の特性そのものをクローズアップしているんですよね。

ハチを見守る町の人たちもステキです。
好きなだけ、待てばいいんだ・・・と。
こういう優しさが、やっぱり、ラッセ・ハルストレムなんです。
作品中、ハチの視点はモノクロで、
ハチの目線の高さで捉えた映像となっています。
ちょっと犬の気分を味わえますね。

今回、不本意ながら日本語吹き替え版で見ました。
字幕版は夕方からのしかなかったもので・・・。
リチャード・ギアの声が北大路欣也です。
・・・あれ? 犬の声じゃなかったのか。
(いえ、ハチはしゃべりませんってば!)

2009年/アメリカ/93分
監督:ラッセ・ハルストレム
出演:リチャード・ギア、ジョーン・アレン、サラ・ローマー、ケイリー=ヒロユキ・タガワ


HACHI 約束の犬(2008)予告編 Hachiko: A Dog's Story Trailer



縞模様のパジャマの少年

2009年08月17日 | 映画(さ行)
あまりにも重く衝撃的

* * * * * * * *

ユダヤ人強制収容所の所長である父を持つ少年ブルーノ。
彼は、家の敷地から外に出ることを禁じられていたのですが、
退屈のあまり物置の窓から脱走を図ります。
窓から遠くの方に、風変わりな農場が見えたようなので、
そちらへ行ってみると、そこには鉄条網が張り巡らされ、
片隅にぽつんと1人の少年がたたずんでいました。
昼間なのに縞模様のパジャマを着たその少年は、
ブルーノと同じ年のシュムエル。
二人は次第に仲良くなり、有刺鉄線越しに幾度も会って話をします。


ブルーノはユダヤ人が迫害を受けていることなど何も知りません。
無垢な少年の目を通してみる「戦争」は、疑問に満ちています。
普通に考えておかしいことでも、
大人社会では、あれこれ理屈をつけて押し通してしまうんですね。
でも、ブルーノもうすうす変だ・・と、わかってきます。
けれど、ブルーノはそれを認めたくない。
父親を、立派な人だと信じたい。
だからあえて目をつぶってしまうのです。
ブルーノは、つまり一般大衆・・・、
この作品ではそう捉えるべきなのかもしれません。

さて、ブルーノの母も、収容所で何が行われているのか次第にわかってきます。
良識人の彼女は、次第に夫を信頼できなくなり、自堕落になっていきます。
そこの描写には少し救われる気がしました。
ドイツ人誰もがユダヤ人を人と思っていない、などということはない。
耐え切れなくなった母親は、
子供たちを連れてこの家を出ることにしたのですが、
悲劇はその日に起きたのでした・・・。


縞模様のパジャマを着ているか、いないか。
ユダヤ人かそうでないかなんて、たったそれだけの差でしかないのです。
裸になってしまえば同じ人間。
ホロコーストのおろかさを痛切に物語っているこの作品。
始めから重いテーマであることはわかっていましたが、
あまりにも衝撃的に重いラストには、声をなくします。
ほとんどの人が、エンドロールの最後まで座ったままでした。
放心状態で、腰を上げることができない、という風でした。
私も、しばらくその重苦しい余韻が抜けずにいました・・・。


さて、余談ではありますが、ブルーノの家に出入りする父の部下の若き将校。
こういってはなんですが、すごくハンサムでかっこよくて、
そして怖いのですよ・・・。
まさにナチスって雰囲気でした。
こんなことを言っては不謹慎ですが、
ナチスの制服って、カッコイイ・・・。
こほん。
しかし、ナチスに深く心酔するその彼も、あることが問題になり、
戦闘の前線に送られてしまいます。
まさに非情なナチス軍。
少しでも軍の意に反すれば命取りという状況が良くわかります。

2008年/イギリス/95分
監督:マーク・ハーマン
出演:エイサ・バターフィールド、ジャック・スキャンロン、ベラ・ファーミガ、デビッド・シューリス


映画 『縞模様のパジャマの少年』 予告編



「グイン・サーガ 128/謎の聖都」 栗本 薫

2009年08月16日 | グイン・サーガ
謎の聖都―グイン・サーガ〈128〉 (ハヤカワ文庫JA)
栗本 薫
早川書房

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さて、新刊はうれしいのですが、だんだん残り少なくなってくるのも、いやですね。
ファンとしては複雑です。
冒頭、ケイロニア、シルヴィアの話がありますね。
もう、ストーリーの本筋からは外れたのかと思ったら、まだ出てくるんだ。
正直、この女には全く同情できないし、
好きになれないなあ・・・。
あんた、どこまでグインの足を引っ張るのさ!って、感じ。
まあ、まあ・・・。
とはいえ、この上まだ災いの元になりそうなんですもんねえ。
レムスもそうだったけど、「魔」というのは、人の仄暗い心に取り入るものなんだねえ。
まあねえ、だから彼女が怪しいものにつけ込まれるのは当然だね・・・。
・・・ということで、グインのケイロニアはこの先も安泰ではなさそうなわけです。
どこまでも苦労ばかりだ・・・。

そして、ヤガでの続きの話は、ますます異常なミロク教団、
いや、新ミロク教団というべきかな、その姿が見えてくるよね。
最も敬謙で穏やかだったはずのミロク教が姿を変え、
他国をも脅かす勢力を持ちかねない勢いだ。
宗教が暴走し、とんでもない様相を呈するというのは、
あることですもんね。
しかし、どうもこの新教団の中心には、また常の人間ではない何かの怪しい力が働いていそうな雰囲気だよね。
そうそう、その正体にまで、私たちはたどり着くことができるのでしょうか・・・。
ここでのストーリーはもっと長いものになるかと思ったのですが、
意外にも急転。
とりあえず、ヨナとスカールの脱出なるか???というところですね。
でも、それだとフロリーはどうなっちゃうんだろう。
ここに残しておくのは心配すぎるよ。
う~~む・・・。
何しろ、新しい展開があると、心配になってしまうよね。
そんなに膨らましても、その収束を知ることができなさそう
・・・と思うとつらい。
ヨナとフロリーはいい雰囲気になっちゃいましたが、
これだってハッピーエンドにこぎつけるにはもう時間がない・・・。

今回、もう栗本さんの後書きもなくなってしまいましたが、
栗本さんはあくまでも通常のペースで書いていたんだね。
もはやこれまでとあきらめて、少しでも物語を収束させようとはしていない。
ネバー・ギブアップ。最後まで、生き続ける気持ちで・・・書いていたんですね・・・。

スカールさん、頼みます。
無事ヨナを連れ帰って。ついでにフロリーとスーティもかっさらって・・・。

満足度★★★★☆



人生に乾杯!

2009年08月15日 | 映画(さ行)
年金生活者をバカにするもんじゃない!

* * * * * * * *

この作品の主人公はエミル81歳、へディ70歳の老夫婦です。
ハンガリーの作品。
冒頭に、この二人の若き日の劇的な出会いのシーンがあります。
・・・そしてあっという間に時が過ぎ、
もう愛情も冷め果てたかのようにみえる、年金生活の二人となる。

おじいさんは元共産党員で運転手を勤め上げました。
それで、共産党が公用で使っていた年代モノの高級車を
それは大事にしている・・・、というハンガリーならではの設定もあります。

さてしかし、世の中は変わって、
年金だけでは生活は苦しく、部屋代も滞り、
とうとうおばあさんの大事なダイヤの指輪を
担保に差し出すことになってしまった。
さすがにおじいさんはそれには気が引けて・・・、
なんと思い立ったのは郵便局の強盗!
それを知ったおばあさんも次には加担して、
二人はお尋ね者となりつつも強盗の旅を続ける・・・。

ユーモラスに描いてありますが、実は深刻ですよね。
日本でも、国民年金だけではとても生活していけそうもなく、
「ハンガリー、おたくもか・・・」と、思わず肩を抱き寄せたくなります。
「年寄りは働くしか能がない」なんて、バカな発言をした人もいますし。
死ぬまで働けということ?
・・・第一若い人だって勤め先がないのに。

まあ、こんな状況なので、
この二人の強盗のニュースは、意外にも世間の人たちの同情を買うわけなのです。
カッコイイ。
無理もない。
良くやった。
強盗された本人ですら、
「あの時は気が動転して怖かったけど、良く考えると、紳士的だった・・・。」
ちくりちくりと、今の社会に苦言を呈して行くこの作品、
なかなかよいですよ。

この二人を追う、もと恋人同士の男女の刑事もまたいい。
刑事もドジで、こんなおじいさんを、なぜか取り逃がしてばかり・・・。
異常に車に詳しい、オタク警官も良かった。
・・・どこにでもこういう人っているんですね。

夫婦寄り添って、世の中の枠からはみ出してやろうじゃないか、
というこの心意気。
ちょっと、あこがれてしまいます。
冒険心は二人を若返らせるし。
まあ、あくまでもフィクションとして、ですが。
夫婦より添って覚醒剤では、全然かっこ悪いですから。

2007年/ハンガリー/107分

監督:ガーボル・ロホニ
出演:エミル・ケレシュ、テリ・フェルディ、ユディト・シェル、ゾルターン・シュミエド



6月公開映画『人生に乾杯!』予告編



江差への旅

2009年08月14日 | インターバル


道外の方には、江差といってもピンと来ないでしょうね。
道南の町で、北海道としては最も歴史のある町の一つ。
でも、札幌からだとかなりアクセスが悪いですし
大抵の北海道ツアーのコースからは外れているので
こういってはなんですが、さびれている・・・と言っていいでしょう。
あえて人ごみを避けて
のんびりとしたこの町に行ってきました。




この船は開陽丸。
幕末にオランダで建造された幕府の軍艦です。
戊辰戦争中に榎本武揚らを乗せ活躍しましたが、
暴風のため明治元年江差沖で座礁、沈没。
ここにあるのは、オランダに残っていた設計図をもとに
復元されたものです。
内部は展示室になっていて
海底に沈んでいた開陽丸から引き上げられた遺物が展示されています。




この場所からすぐのところに、こんな岩がありますよ。
名づけて瓶子(へいし)岩。
江差にニシンが来るようになった云われの伝説がある岩です。




またそこには、かもめ島というかもめが翼を広げた形の小さな島がありまして、
こんなかわいらしい灯台も立っています。
一番初めの写真も、この島の風景。
今は陸続きでいけますが、以前は本当に離れて島になっていて、
小船で行き来したそうな。
島の遊歩道からの眺めは絶景でした!




さて、今度は町並みの方ですが、
ここには「いにしえ街道」というおもしろい通りがあります。
歴史あるこの町のイメージ作りに、
街を揚げて取り組んでいるんですね。
こんな風に、歴史ある町並みを再現。
この家は「横山家」と言って、初代から現代まで200年以上の歴史があります。
漁業、商業、回船問屋として栄えたのですね。
この建物は160年前に建てられたもので、
北海道文化財に指定されています。
北海道には、こういう歴史あるものが少ないので、
興味があります。
ニシンが群れてきていたその昔・・・
さぞかし賑やかだったのでしょうね。
ちなみに、このあたり、「にしんそば」が名物。
「にしんそば」と言えば京都ですが、
つまり京都のニシンはこのあたりで取れたニシンが
北前船で運ばれたものなんです。
つまり、「にしんそば」のルーツはこちら。



まあ、そんな風に、実際歴史ある家屋を補修したところもありますが、
新築の民家や、お店なども、みな レトロ調になっていて、
歩くと楽しいですよ。









これは、旧檜山爾志郡役所。
現在は郷土資料館となっています。
当時の人たちの目には
ものすごく豪華に見えたでしょうね。


・・・と言うようなことで、
のんびり、ぷらぷら、
ゆったりした休日を過ごしました。
もちろん、おいしいお魚とビールも堪能しましたよ。

またそのうち、マイナー旅行をしたいと思います!






「栄光なき凱旋 下」 真保裕一 

2009年08月13日 | 本(その他)
栄光なき凱旋〈下〉 (文春文庫)
真保 裕一
文藝春秋

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いよいよ3ヶ月連続発売、最後の巻となりました。
なんだかこの物語は上・中・下と進むにつれ、
加速度的に中身が濃く激烈になり、
そして主人公たちに愛着を感じていきます。
3冊を通すとかなりのボリューム。
ですが、この3冊分割発売が功を奏して、
続きがとても待ち遠しく感じられ、
2冊目を読むときには前の話を忘れていた、
などということも全くありませんでした。


さて、この巻では始め、前巻ジローとマットの極秘任務の続きです。
二人は大変な窮地に陥るのですが、負傷で動けないマットをジローが助け、
辛くも生還を遂げます。
ジローにある疑惑を抱いていたマットですが、
真相はわからないまでも、彼の中ではある種の解答がでる。
ここのシーンは最後の方で大きな意味が出てきます。


そして、最も戦闘とは縁がなさそうなヘンリーが、
皮肉にも、激戦地のイタリアで生死の境を体験することになる。
442連隊。
日系人のみで構成される連隊です。
まるで捨て駒のように、彼らは常に戦闘の最先端に立たされる。
けれども、彼らは自らがアメリカ人であることを証明するかのように、
また、本国に残された家族たちの地位を守るために、
死を覚悟で立ち向かってゆきます。

実際、この部隊は犠牲者も相当でしたが、
それ以上に功績も大きかったようです。
このあたりの戦闘の描写がすごいんですよ。
上巻の解説者野村進氏は
「著者はおそらく『プライベート・ライアン』を
活字の力で乗り越えようとしたのではないか」
といっています。
決してかっこいいのではありません。
目を背けたくなるような悲惨な描写が続きます。
ヘンリーも全く勇敢な戦士ではありません。
恐怖で身がすくみ動けないことも。
しかし、ほんのわずかな運命の差で、
つぎつぎと命を失っていく戦友たちを見るにつけ、
次第に恐怖よりも憎しみが勝ってくるのです。
そこにはもう、祖国の為・・・などというおためごかしは存在せず、
ただひたすら自分が生き延びるため、敵を殺すしかない、
そういう憎しみのみに突き動かされている。
こういう描写がすごくリアルで説得力があります。
そして怖いです。
こんな体験は、誰であれするべきではありません。


ジロー、マット、ヘンリー。
彼らは生き延びて終戦を迎えました。
けれども、その後また、ラストでは皮肉な運命が語られていきます。

最後には、感動で文字が霞みました・・・。
なんてすごい物語なんでしょう。
アマルフィなどではなく、これこそ映画化すべきだと思います。
でも、そのためには、ハリウッドの協力が不可欠でしょうし・・・
難しいでしょうね。
ちゃちなものなら作らない方がマシ。

久し振りに大作を読んだ充実感を感じております。


満足度★★★★★