映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲(ラプソディ)

2016年07月31日 | 映画(は行)
なぜ雑種にのみ税金を???



* * * * * * * * * *

本作犬好きなら必見、と思ったのですが、
これは逆に犬好きには切なくてつらい・・・。


舞台はハンガリー・ブタペスト。
13歳リリは、母親がしばらく仕事で家を離れるため、
その間、離婚した父親の元で暮らすことになりました。
愛犬ハーゲンと共に。
ところが、雑種犬には重税が課せられるという法律ができ、
もともと犬好きでない父はハーゲンを捨ててしまうのです。
リリは必死でハーゲンを探し回りますが、見つかりません。


さて、カメラはその後のハーゲンを追います。
野犬狩りに捕まりそうになったり、
闘犬に仕立てられたり・・・。

この闘犬のための特殊調教で、ハーゲンの中の怒りと憎悪が増幅されていきます。
あんなに人なつっこかったのに・・・。
その場は上手く脱走することができたのですが、
結局は野犬狩りに捕まり収容施設へ・・・。
しかしハーゲンは施設の他の犬達を率いて反乱を起こす・・・!!





犬を虐待するシーンも多くて、辛いです。
そもそも雑種犬に税金を課すというところで、ムッとしてしまいました。
純血種だけを大事にするというのは・・・まるで選民思想、ナチズムか? 
むしろ贅沢な純血種にこそ税金を課すべきなのでは? 
税金を払いたくない人が犬を捨て収容所は溢れかえる。
犬が反乱を起こすのも当然であります。
250匹の犬を使い、群れを撮影したといいますが、
ワンちゃんたちの疾走シーンは、なんだか101匹ワンちゃんを思わせて意外に可愛かったです。
でも、実際襲いかかられたら、それは怖いですけどね。


ハーゲンのおとなしい顔と怒りの顔、
見事に表現されているのが凄いと思いました。
ハーゲンはリリのトランペットを聞くのが大好きなのです。
トランペットは、ちょっとやかましすぎないかと私などは思うのですが、
でも、それは大事なラストシーンに繋がるわけで・・・。
ここは、ピアノじゃムリだし、バイオリンでもダメでしょうね・・・。



犬を捨てられたリリは、いじけて「不良」になろうとするのですが・・・
そういう娘の姿を見てやっと父親は娘を理解し、お互いが通じ合う、
というところはなんだかあまり納得行かなかったのですが・・・。
ハーゲンが自分を虐待した人に復讐をしに行くという部分も、
それはいらなかったのではないかと思うし・・・、
結局私にはあまりピンと来ない作品でした。

ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲(ラプソディ) [DVD]
ジョーフィア・プショッタ,シャーンドル・ジョーテール,ルーク&ボディ,ラースロー・ガールフィ,リリ・ホルヴァート
TCエンタテインメント


「ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲」
2014年/ハンガリー・ドイツ・スウェーデン/119分
監督:コーネル・ムンドルッツォ
出演:ジョーフィア・プショッタ、シャーンドル・ジョーテル、ラースロー・ガールフィ、リリ・ホルバート

サスペンス度★★★☆☆
満足度★★★☆☆


「ぐうたら旅日記 恐山・知床をゆく」北大路公子

2016年07月29日 | 本(エッセイ)
人に苦情を言えない人の解決法とは

ぐうたら旅日記 (PHP文芸文庫)
北大路 公子
PHP研究所


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「旅は嫌いだ。とにかく面倒だ」というキミコが、恐山を二度も訪ねた理由とは?
四時間並んでしみじみわかったイタコの口寄せの全貌とは?
知床や網走の秘境ではしゃぐ男女にかけた呪いとは?
北のパワースポットで妄想を膨らませつつ、
暇さえあれば飲んでばかりの珍道中に思わず笑いが込み上げる。
摩訶不思議な掌編小説「ぐうたら夜話」五編も収録。
著者撮影の写真入り旅エッセイ、待望の文庫化!


* * * * * * * * * *

出ました、キミコさんの旅行記ですか~。
キミコさんの本はまるで麻薬のように私を惹きつけるので、
つい手にとってしまいます。
さて、その行き先はなんと青森の恐山。
北海道最果ての地・知床。


キミコさんは、棺桶かと思われるようなクーラーボックスにお酒をどっさり詰め込んで、
車が出るなりもう飲んでいる。
「一応運転免許もあるから、疲れたら運転替わるねー」といいつつ、
こんなに飲んでいては替われるわけもなく、
確信犯的な「口だけ」なのであります。
こんなキミコさんその他女性たちを乗せて
延々と運転を続ける"コパパーゲ"氏はなんて人間ができているんでしょ。
尊敬に値します。


それから、毎年夏には積丹(しゃこたん)へウニを食べに行くという皆様。
それはいいなあ・・・。
やっぱり心ひかれます。ウニは。


なんとも賑やかそうなお仲間たちとの一時。
人生、楽しまなきゃね!!


それにしてもさんざん食べて飲んで、
札幌に帰るなり今度はジンギスカンって、すごすぎます・・・。
それはとてもマネできそうにありません。


本作中気になったのは、キミコさんが、例えば温泉ホテルに泊まる夜、
近くの部屋で、騒ぎまわる子供の声がする。
彼女は念をこめて、その家族に呪いをかける。

「あの子が思春期に思い切りグレて、
親のカード盗むわ、家出したまま帰ってこないわ
帰ってきたかと思えば借金まみれの暴力男連れてくるわ・・・
という目に遭いますように。
その時死ぬほど今日のことを後悔しますように」


もちろん彼女が心のなかで思うだけ。
確かに、時にはそう思いたくなるようなこともありますね。
直接文句を言えるほどの度胸はなし。
小市民的解決方法、私も今度使わせてもらおう・・・。


「ぐうたら旅日記 恐山・知床をゆく」北大路公子 PHP文芸文庫
満足度★★★.5



ファインディング・ドリー

2016年07月28日 | 映画(は行)
水の表現に魅せられる



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「ファインディング・ニモ」から13年ぶりの続編。
え~、もうあれから13年も経っていたのですか・・・。
アニメ作品は、常々後日レンタルで見れば良いと思っているのですが、
今回はほかにタイミングよく見られるものがなかった、
という消極的理由から見ました。
本当は字幕版が見たかったけれど、吹き替え版しかないし・・・。



今回はナンヨウハギのドリーが主役です。
あのカクレクマノミのマーリンと共に、ニモを探す旅をした、ドリー。
なんでもすぐに忘れてしまうという
特殊なキャラクターであるドリーのことはとても印象に残っていました。


その壮大な旅の1年後。
ドリーは結局マーリン・ニモと一緒に、家族のように暮らしていたのですね。
ドリーは、何故かふと両親のことを思い出し、無性に会いたくなってしまいます。
でも実は、彼女が忘れっぽいことが原因で、はぐれてしまったわけなのですが。
幼いドリーが両親とはぐれて一人ぼっちになってしまうシーンは、
実に切ないですね。

そんなわけで、今度はマーリンとニモが付き添いとなり、
ドリーの両親を探す旅に出ることになります。
「カリフォルニア州モロ・ベイの宝石」というのが唯一の手がかり。
行き着く先は人間たちが海の生物を保護している施設「海洋生物研究所」。
しかし早速マーリンたちとドリーは、
はぐれて離れ離れになってしまいます。



一人になってしまったドリーを助けるのが、なんとタコのハンク。
タコの動きを研究するために、アニメーターは水族館に通ったそうですが、
そのかいあって、素晴らしい「タコ」度です。
周りに合わせて体の色が変化。
ニンジャのようですね。
彼はしばらくなら水のないところでも動けるので、
なんとコーヒーサーバーに海水とドリーを入れて、
持ち歩いたりします。
ナイスです。

とにかく13年前とはCGの技術も格段に進歩。
水の表現が素晴らしい!!


一方、マーリンたちも必死でドリーを探し始めますが、
大変なことばかり・・・。
でも次第に彼らは「こんな時ドリーならどうするかな?」と考え始めるのです。
ドリーはなんでもすぐに忘れてしまい始末に終えず、
お荷物に感じないといえば嘘になります。
でも、前向きで、発想力が抜群で、変なことに詳しかったりもする。
ドリーのステキな部分を改めて思い出す二人なのでした。
まさに本作のテーマがそこにあります。
前作でも少し触れていたのですが、
今回はそこを全面に押し出してあるわけです。



どっち向いてるのかわからない鳥さんとか、
イジメすれすれの感じのアシカたち、
可愛すぎるラッコたち、
触ってみたいシロイルカ、
個性たっぷりのキャラクターも楽しめます。
変な悪役が出て来ないのもいい。
ま、時には手放しで楽しめるこんなアニメも良いですね~。



「ファインディング・ドリー」
2016年/アメリカ/97分
監督:アンドリュー・スタントン
吹き替え版声:室井滋、木梨憲武、上川隆也、中村アン
水のリアル度★★★★★
満足度★★★★☆

残穢 住んではいけない部屋

2016年07月27日 | 映画(さ行)
伝染し、増殖してゆく“穢れ”



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小野不由美さん原作のホラー。
本を読んで随分怖い思いをさせられまして、本作も見るのはよそうと思いつつ・・・。
まあ、怖いもの見たさです。



怪談を集めているライター「私」のもとへ、
女子大生・久保からの手紙が届きます。
彼女の住んでいる部屋で、畳に何かがこすれるような奇妙な音がするというのです。
それからそのマンションの近辺を調べるうちに、不気味なことが浮かび上がってきます。
このマンションで、自殺者が出たことはないのですが、
このマンションを出た人が、転居先で自殺し、亡くなるケースが多い。
そしてまた、このマンションのある「土地」に、
以前から不審な「死」が続いていることがわかり、
更に、ここに古くから住んでいた人の出自を遡ると、
なんと九州の福岡にたどり着くのです・・・。
穢れは増殖し伝染してゆく・・・。
この穢れの元はどこなのか・・・。



う~ん、やはり不気味ですね。
この「穢れ」がねずみ算的に増殖していけば、
日本中があっという間にタタリの土地になってしまいそうです。
作中では「私」が家を新築しますよね。
でも、どういう土地なのか、調べもしないで家を建てるなんて、どーなのよ・・・と
不安を感じてしまいました。
背後にこういう「思い」を封じ込めた新築の家のシーン。
やっぱりちょっと怖い。





さてしかし、映画よりも本のほうが怖いかなあ・・・。
本で読むときにはひたすら自分の中でイメージを作り上げていくわけで、
それが余計に怖さを生む。
はじめから映像で見ると、イメージをふくらませる予知がありません。
そしてまた本作では
「やっぱり竹内結子さんは、しっかり役柄をこなすなあ・・・」とか、
「わー、愛ちゃんだ」とか。
そして「佐々木蔵之介さん、滝藤賢一さんは、表情やライティングによっては、その顔が怖いなあ・・・」とか、
「わーい、坂口健太郎くんだっ」とか・・・、
色々余計な事を考えてしまい、
怖さを堪能するまでには至らなかったというのが正直なところです。



残穢[ざんえ]―住んではいけない部屋― [DVD]
竹内結子,橋本愛,坂口健太郎,滝藤賢一,佐々木蔵之介
Happinet


「残穢 住んではいけない部屋」
監督中村義洋
原作:小野不由美
出演:竹内結子、橋本愛、佐々木蔵之介、滝藤賢一、坂口健太郎
ホラー度★★★★☆
満足度★★★5

ヤング・アダルト・ニューヨーク

2016年07月25日 | 映画(や行)
40代は、全然若いゾ!



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ドキュメンタリー映画監督のジョシュ(ベン・スティラー)と、
妻コーネリア(ナオミ・ワッツ)は40代。

子供はなく、平和だけれど、なんだか倦怠期。
同年代の友人たちは子育て期で、似たような友人たちと家族ぐるみで楽しんでおり、
なんだか取り残されたようになっています。
そんなある日、二人は
ジェイミー(アダム・ドライバー)とダービー(アマンダ・セイフライド)という
20代の夫婦と知り合います。

二人は自由でクリエイティブ。
しかし、CDではなくレコードを集めて聞くというような
レトロなものを愛したりもしている。
この新鮮な二人に感化され、
ジョシュ夫婦も活力を取り戻していくのですが・・・。
やがてジョシュはジェイミーの言動に、やや割り切れないものを感じ始めます。



本作には、60代の人物としてコーネリアの父親も登場します。
こちらは名だたる名監督。
もう8年も新作が完成しないジョシュには、大きすぎて煙たい存在。
けれど義父は、もうあらゆることを乗り越えてきたという自信の感じられるゆとりの世代。
本作中では、客観的に見れば、ジョシュが思っているほど煙たい人物ではありません。
こうして、20代40代60代を並べてみると、
人生の筋道がみえてくるような気がします。

自由だけれど、まだまだ何かあるはず・・と、貪欲さをにじませる20代。

一応の落ち着きは見せても、まだ前途は見渡せない。
若干の焦りと倦怠が相まった40代。

そして、すでに達観した60代。

あ~、しかし本作中の60代はちょっと出来過ぎですね。
60代だって何事にも達観しているわけではないし、
さらなる老後の不安がずっしりとのしかかってくるのだけれど・・・。


結局のところ、どの年代もそれぞれ必死に生きているのだ、ということなのです。
それに尽きます。





それと、40代のジョシュは視力が落ちたり腰を痛めたり、
ひたすら「老い」を意識しますが、
40代なんて、私から見ればまだまだ全然若い!!
しょぼくれている場合ではありませんよ。
働き盛り、頑張れ!!



「ヤング・アダルト・ニューヨーク」
2014年/アメリカ/97分
監督:ノア・バームバック
出演:ベン・スティラー、ナオミ・ワッツ、アダム・ドライバー、アマンダ・セイフライド、チャールズ・グローディン
ジェネレーションギャップ度★★★☆☆
満足度★★★.5

「こんちき号北極探検記 ホッキョクグマを求めて3000キロ」 あべ弘士

2016年07月24日 | 本(その他)
一度は見てみたい、野生のホッキョクグマ

こんちき号北極探検記 ホッキョクグマを求めて3000キロ
あべ 弘士
講談社


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餌を求めて遠泳するホッキョクグマ、60万羽のウミガラス、4万年前の空気の音…。
厳寒地に生きる野生の動物たちの、ほんものの「いのち」の姿。


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あべ弘士さんは、北海道の旭山動物園に25年間飼育係として勤務され、
現在は絵本作家として活躍されています。
この本は、著者が2011年、北極圏を約4週間かけてヨットの旅をした記録です。
旭山動物園は、日本で一早くホッキョクグマの「行動展示」をしたことで一躍有名になりましたが、
著者は、野生のままのホッキョクグマを見ることが念願であったようです。


2011年6月19日。
ノルウェーのロングヤービエンの港から出航。
「こんちき号」というのは、かつてトール・ヘイエルダールが
南米ペルーから南太平洋の島まで探検をした古代の筏を模した
「コン・ティキ号」になぞらえているわけです。
これは著者がつけた名前で、本当は「ジョナサン4世号」なのですって。
乗員は日本人8名、オランダ人の船長と護衛役(ハンター)・スウェーデン人1名、
料理人で紅一点のイタリア人1名。
この人物紹介のページには、お酒を飲むかどうかが逐一書かれていまして、
著者をはじめとする日本人は殆ど飲兵衛・・・。
この旅の第2のテーマが「いかにアルコールを入手するか」だったようであります。


さてさて、地球温暖化により、北極圏の環境が悪化し、
ホッキョクグマをはじめとする動物たちが絶滅危機に瀕しているとは、
最近良く聞く話です。
でも、この本を読む限りはまだまだ豊かな自然の営みが残されていて、
著者も大満足の多くの動物たちを見ることができたようです。


著者によるスケッチとユーモアのある文章で、どんどん読まされてしまいます。
でも実のところ写真もちょっぴり見たかったですけどね・・・。
動物たちは船から見るだけではなくて、島に上陸して動物たちの生息地に踏み込んでいきます。
そのため護衛役のハンターがライフルを携えて同行するのです。
そうか、ホッキョクグマも熊なんですよね。
日頃、動物園やテレビの映像で見るホッキョクグマは、ひたすらかわいいというイメージなので、
野生の熊の恐ろしさを忘れていたような気がします。
ヒグマの恐ろしさなら十分に承知なのですが・・・。
やはり私の中の都会人の意識丸見え。
お恥ずかしい限り。


ほかにはアゴヒゲアザラシ、シロイルカ、セイウチ、ハシブトウミガラス・・・
こんな動物たちの無数の群れを、一度は見てみたい気がします。
夏は白夜で一日中日が沈まない北極圏。
そんな体験も含めて・・・。


「こんちき号北極探検記 ホッキョクグマを求めて3000キロ」あべ弘士 講談社
満足度★★★★☆ 図書館蔵書にて

ボヴァリー夫人とパン屋

2016年07月23日 | 映画(は行)
妄想をふくらませる男のおかしみ



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舞台はフランス、ノルマンディーの小さな村。
マルタンは、都会で編集の仕事をしていましたが、
嫌気が差し退職。
ここで父のパン屋を継ぎ、妻と息子とともに平穏な暮らしをしています。
彼の楽しみは読書。
特に「ボヴァリー夫人」がお気に入りで、何度も読み返している。
そんなある日、隣家にイギリス人夫妻が引っ越してきます。
チャーリー・ボヴァリーとその妻ジェマ。
名前の一致だけではなく、倦怠感をまとわせた若き人妻ジェマに、
マルタンは引きこまれてしまうのです。

ある時、夫の目を盗んで若い青年と情事を重ねるジェマを見て、
マルタンはいよいよ小説と現実を重ねあわせ、
小説のボヴァリー夫人とジェマが同じ運命をたどることを恐れるようになりますが・・・。



マルタンは、ひたすら傍観者としてジェマを追います。
実際に手を触れたりはしない。
(ハチに刺された背中の毒を吸い出すという大胆なシーンはありましたが!)
 
そうして、彼女の情事までをも見てしまうことになる。
だけれども彼女に相手にされない自分を惨めに思ったりはしないんですよ。
ひたすら自分の妄想をふくらませているだけ。
そういうところがすごくカラッとしていて、おかしみに満ちている。
本人は隠しているつもりなんだけれども、彼の奥さんも息子もそんなことはお見通しのようでした。
さすがフランスのウイットとでも言うのでしょうか、私は好きですねえ。
変にジメジメしないところが。



しかし、あの柔らかくてしかも弾力のあるパン生地をこねるシーンが、
妙に艶めかしく肉感的。
パンが美味しそうなのも確かですが、
パン生地にこんなに魅せられるとは思わなかった。


そして、思いもよらない皮肉な結末。
更に加えて、ラストシーンにはもう、笑うしかありません。
う~ん、面白かった。
そうそう、両家のそれぞれのワンちゃんたちがまた、いい味を出してました。



ボヴァリー夫人とパン屋 [DVD]
ファブリス・ルキーニ,ジェマ・アータートン,ニールス・シュナイダー,ジェイソン・フレミング
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント


「ボヴァリー夫人とパン屋」
2014年/フランス/99分
監督:アンヌ・フォンテーヌ
出演:ファブリス・ルキーニ、ジェマ・アータートン、ジェイソン・フレミング、ニール・シュナイダー、イザベル・カンディエ

妄想度★★★☆☆
セクシー度★★★★☆
満足度★★★★☆

「中銀カプセルタワービル 銀座の白い箱舟 」 中銀カプセルタワービル保存再生プロジェクト 

2016年07月21日 | 本(その他)
隠れ家の趣き、なんだかいいなあ

中銀カプセルタワービル 銀座の白い箱舟
中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト
青月社


* * * * * * * * * *

銀座の名建築「中銀カプセルタワービル」の魅力あふれる写真をふんだんに掲載。
狭小空間を活用する住人たちへの取材を通して、
建築としての価値を再確認・再発信するビジュアルファンブック。


* * * * * * * * * *

中銀カプセルタワービル、
銀座にあるそうなのですが、私はこの度初めて知りました。
東京にお住まいの方なら、「ああ、あれね」と思うのでしょうか。
1972年にできた黒川紀章設計のもの。
この一風変わったビルの趣に興味を惹かれて手にとってみました。


こういう写真を基調とした本を見るのは大好きなのですが、購入するには高すぎる。
そうだ、こういうものこそ図書館利用!というわけです。


丸い窓の「箱」というか「カプセル」が140個組み合わされているというこのビル。
一つの床面積はわずか10平方メートル。
カプセルをまるごと取り外し交換できるようになっているそうなのですが、
これまで実際に交換されたことはないのだとか。
ところが、十分なメンテナンスを施さないままに四十数年を経て、
ビルは老朽化甚だしく、取り壊しの話も出ていたところ、
カプセル内をリノベーションし、徐々に再生の動きがあり、
最近注目されているということなのです。


わずか10平方メートルの部屋をどう使うか。
事務所として使う人、セカンドハウスとする人、そして実際に居住する人、
様々のようです。
でもこの狭さが、「隠れ家」的な要素を醸し出し、
なんとも居心地が良さそうなのですね。
この丸窓も、この狭さからくる貧乏ったらしさを一掃しています。
とはいえ、雨漏りが酷く、空調も暖房もない。
(個人的にエアコンを取り付けている方が多いようです。
と言うかそうじゃなければいられないでしょう・・・。)
窓も開かない(!)。
お湯が出ない。
かなり劣悪な条件のようで・・・。
なかには前居住者の荷物がそのままになった殆どゴミ屋敷のようなカプセルもあったそうで、
でも、そこを片付けすっきりとリノベーション、
その前後の写真なども大変興味深い。
このビルのことはネットでも色々調べることができますので、
興味のある方は是非、検索してみてください。


「中銀カプセルタワービル 銀座の白い箱舟 」中銀カプセルタワービル保存再生プロジェクト 青月社
満足度★★★★☆
図書館蔵書にて

インデペンデンス・デイ リサージェンス

2016年07月20日 | 映画(あ行)
映像の迫力はサスガですが



* * * * * * * * * *

1996年に公開された「インデペンデンス・デイ」、20年ぶりの続編。
前作がもう20年も前のこととは驚きです。
不気味なエイリアンと、圧倒的に巨大なエイリアンの宇宙船。
エイリアンと素手で戦って、のしてしまったパイロット・・・、
さすがに印象に残っています。



さて本作は、前作から20年後の世界。
ということで、前作に登場した俳優さんが
そのまま年齢を重ねた形で登場するのが興味深い。
リアルに時が過ぎました・・・。
ただし、一番印象に残っていたウィル・スミス演じるスティーブン・ヒラーが、
事故で亡くなっているということで、登場しないのが残念でした。
が、しかし、彼の息子が同じ道についいるというところが味噌です。



20年前のエイリアンの侵略を生き延びた人類は、
共通の敵を前に一つにまとまり、
回収したエイリアンの技術を利用して防衛システムを構築。
再びのエイリアンの侵略に備えていたのですが・・・。
ついにやってきたそれは想像を超える大迫力で地球に迫る。
再度の地球絶滅の危機が始まります・・・。



・・・ということで、確かに映像は大迫力。
とりあえず退屈はしませんが。



これは多分私の問題なのですが、
最近コミックのヒーロー物がどうにも見る気が失くなってしまっていて、
本作も少しそういう向きがあります。
ドッカン・ガッチャンが派手なだけ。
そこを除いた骨子は、まともなストーリーと言えるものなのだろうか・・・。



まあ、登場人物それぞれがそれぞれの方法で頑張っていくという
群像的な描写は悪くはないです。
老人が親を失った子供たちと避難を始めるというサイドストーリーも面白いし、
全くの事務方の人物が、勇気を振り絞って戦闘員へと変わっていくなんていうところも・・・。
でもまあ、そんなところです。
あーやれやれ、終わった、終わった。
という感想しか持ち得ないのがカナシイ・・・。

「インデペンデンス・デイ リサージェンス」
2016年/アメリカ/120分
監督:ローランド・エメリッヒ
出演:リアム・ヘムズワース、ジェフ・ゴールドブラム、ビル・プルマン、マイカ・モンロー、ジェシー・アッシャー
迫力度★★★★★
満足度★★★☆☆

ベルファスト71

2016年07月19日 | 映画(は行)
紛争ではなく戦争



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1971年。
イギリス軍新兵のゲイリー(ジャック・オコンネル)は
北アイルランド・ベルファストに派遣されます。
当時北アイルランドでは、プロテスタント系とカトリック系、
住民間の紛争が激化しています。
「麦の穂をゆらす風」など、この頃のことをテーマにした作品も多いですよね。
特にIRA(アイルランド共和軍)という武装集団が出てくると、
これはもう「紛争」ではなく「戦争」になってきます。



さて、「治安維持」ということで、街にやってきた英国軍ですが、
彼らが来たことで暴動が巻き起こります。
ゲイリーはライフルを盗んだ少年を追ううちに、
隊から離れ、置き去りになってしまいます。
しかも彼とともにいたもう一人の兵は、目の前で撃ち殺されてしまうのです。

その時まで、「治安維持」と思っていたゲイリーは、
初めてこれが「戦争」であることを認識します。

ベルファストの人々の思惑は複雑です。
カトリック・プロテスタント、
その差異は受け入れがたく人々の中に存在しますが、
敵味方が入り乱れ裏切りやスパイ行為もあったりする。
そんな中で逃げ惑い、どこに助けを求めるべきかもわからないゲイリーの、
孤独なサバイバルストーリー。
スリルに満ちています。



冒頭で、派遣前にゲイリーが弟と会うシーンがあるのです。
作品中に詳しい説明はないのですが、
両親はいないらしく、弟は施設に入っている。
ゲイリーは弟を養うために軍隊に入ったことが想像されます。
そして、たった一人の弟のために、必ず生きて帰らなければならないということが暗示されるわけです。
また、ベルファストの街にも弟と同じくらいの年齢の少年たちが登場しますが、
その子供たちを見るゲイリーの目はいつも優しい。
こういうちょっとしたサイドストーリーが効いていると思いました。

ベルファスト71 [DVD]
ジャック・オコンネル,ポール・アンダーソン,リチャード・ドーマー,ショーン・ハリス,デヴィッド・ウィルモット
TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)


「ベルファスト71」
2014年/イギリス/99分
監督:ヤン・ドマジュ
出演:ジャック・オコンネル、ポール・アンダーソン、リチャード・ドーマー、ショーン・ハリス、バリー・キーガン

緊張感★★★★☆
満足度★★★.5

海辺のカフカ

2016年07月17日 | 本(その他)
互いに知らないままに、作用しあう人たち

海辺のカフカ (上) (新潮文庫)
村上 春樹
新潮社


海辺のカフカ (下) (新潮文庫)
村上 春樹
新潮社


* * * * * * * * * *

「君はこれから世界でいちばんタフな15歳の少年になる」
―15歳の誕生日がやってきたとき、僕は家を出て遠くの知らない街に行き、
小さな図書館の片隅で暮らすようになった。
家を出るときに父の書斎から持ちだしたのは、現金だけじゃない。
古いライター、折り畳み式のナイフ、ポケット・ライト、濃いスカイブルーのレヴォのサングラス。
小さいころの姉と僕が二人並んでうつった写真…。(上)


四国の図書館に着いたカフカ少年が出会ったのは、
30年前のヒットソング、夏の海辺の少年の絵、15歳の美しい少女―。
一方、猫と交流ができる老人ナカタさんも、ホシノ青年に助けられながら旅を続ける。
"入り口の石"を見つけだし、世界と世界が結びあわされるはずの場所を探すために。
謎のキーワードが二人を導く闇の世界に出口はあるのか?
海外でも高い評価を受ける傑作長篇小説。(下)


* * * * * * * * * *

えーと、あまりにも面白かったので、また私らの出番らしいです。
本作、カフカという15才の少年が家出をして四国へ行き、
 不思議な体験をしながら成長していく・・・と、まあ、そんなところなのだけれど。
でもそんな言い方ではこの面白さは全然伝わらないね。
 まず、なぜ15歳で家を出なければならなかったのか。
 父と二人暮らしだったんだね。
母親と姉がいたはずなんだけれど、カフカが物心付く前に家を出てしまっていて、
 今はどこでどうしているのかも全然わからない。
 とにかく、彼は15歳、まだ中学生なんだけれども家を出る。
それがね、読み進んでいって驚くのだけれど、彼の父というのが"ジョニー・ウォーカー"という名で、
 ものすごくやばい人物として登場するんだなあ。
 こんな父だもの、一緒に住めるわけなんかない。
 彼が家を出るのは当然だと、納得。
えーと、多くの物語は「父と息子の相剋」をテーマとして取り上げ、
 息子は父親を乗り越えることが義務付けられるよね。
うん、それができて初めて、少年は大人になる、みたいな。
でもさ、この話、父親を乗り越えるどころか抹殺しちゃうんだよね。凄いよね。
う~ん、彼が直接殺害するわけでもないし、そう言ってしまうと語弊があるかもしれないけれど、
 結果としてはそういうことなんだろうなあ・・・。
つまり、自分が自分として生きていくために、DNAなんか関係ない。
 自分はあくまでもただ一人の独立した自分、ということなのかもしれない。


では母親とのことは・・・?
えーと、子どもは0~3歳くらいまでは「母子一体」であるという話を最近聞いたんだな。
 その後母子分離をして、自己と他者の認識を深めていく、と。
 カフカの場合、0~3歳の頃は確かに母親と一緒に生活はしていたのだけれど、
 多分母親の心はそこにあらずで、しっかり「一体」感を得られなかったのじゃないかなあ。
 だからね、今さらではあるけれど、現実的な意味で母親と「一体」化したわけなんだと思う。
 そうじゃなければ、カフカは自立した大人に成ることはできなかった。
なるほどねえ・・・。
 じゃ、姉とのことは?
・・・ハハ、ごめん、そこのところはよくわかんない。


でもね、私はホントは、ナカタ老人と星野くんの方のストーリーのほうが好きだったワ。
カフカのストーリーとは交互に語られる部分だよね。
 戦時中、子供の頃に不可思議な体験をして、その時からすっかり記憶が緩んでしまい、
 字も読めなくなってしまったナカタ老人。
その彼が、迷子の猫を探すうちにジョニー・ウォーカーという怪しい人物と出会い、壮絶な体験をする。
 その後老人は何故か突然西へ向かって旅を始める。
 行く際は多分、カフカのいる四国・・・。
ナカタ老人と出会い老人の手助けをすることになるのがトラックの運転手、星野青年。
 もともと人助けをするようなタイプでは全然なかったのだけれど、
 何故かナカタ老人の不思議な静かさ穏やかさや意志に引きこまれ、
 手助けをせずに入られなくなってしまう。
 二人は「入り口の石」を探すことになる・・・と。
ほんとに、いいコンビなのですわ、この二人。
でも結局この二人とカフカは最後まで会うことはないんだよね。
そう、この二人がカフカにとってはものすごく重要な役割をはたすわけなんだけれど、
 カフカはそれを知らないままというわけだ。
 せめて最後にそれと知らずにすれ違うシーンくらいあってもいいのに、と思ったりもしたけれど。
いや、人の世はそんなもんでしょう。
 人はみな知らないうちにどこかで誰かの役にたっているのかもしれない。


それで、結局ナカタ老人が子供の頃に受けた体験ってなんだったの? 
 それも明らかにはされていないよね。
私が思うに、それはその時にナカタ少年が受けた心の衝撃を
 彼自身が消してしまおうとした結果のような気がするなあ・・・。
 その意志があまりにも強かったので、周りの子供達も影響を受けてしまったけれど、
 大事にはいたらなかった・・・と。


あくまでも私らの勝手な想像だけれど、こんなふうに色々考えるところが多いし、
 そして答えもない物語。
 堪能しました。
 やっぱり村上春樹さんはノーベル文学賞を受賞すべきです。
期待します!!

「海辺のカフカ」村上春樹 新潮文庫
満足度★★★★★

団地

2016年07月16日 | 映画(た行)
しみじみいい味の夫婦と、人間離れ(?)した青年と。



* * * * * * * * * *

わけあって三代続いた漢方薬の店を売り払い、
団地へ越してきた清治(岸部一徳)とヒナ子(藤山直美)。
清治は暇さえあれば近所の林の散歩。
ヒナ子は、パートの仕事。
仲良く、といいますか、二人でいるのがごく自然という、
まさに長年連れ添った夫婦の味わいですね。
ところがあるとき、清治は団地の奥様方が清治の陰口をウワサしているのを耳にしてしまいます。
頭にきた清治は、帰るなり「死んだことにしてくれ」と床下の収納庫へ潜り込んでしまいます。
でもまあ狭い収納庫に一日中こもっていることはできません。
とにかく家から出ないことにして、
誰かが来た時にだけ、潜りこむことにしたんですね。
さて、それから数ヶ月、
団地の皆さんは清治の姿が全然見えないことに不信を覚え始めます。
奥さんの方は、何食わぬ顔でこれまでどおり暮らしているのですが・・・。
誰かが、「清治さんは奥さんに殺されたのではないか」と言い始めると、
皆つられたように妄想を膨らませ始めます。
死体はバラバラにして、凍らせたのではないか。
何処かへ捨てるつもりなのではないか・・・。
さて、そんな騒ぎもどこ吹く風、平和に暮らしている夫婦のもとに、
スーツを着た青年・真城(斎藤工)が訪ねてきます。
清治に5000人分の漢方薬を作って欲しいというのですが・・・。



さて、これは一体どういう話なのか? 
団地の中の誤解と妄想の大騒ぎ。
もちろんそれはあるのですが、実は本題はそうではなく・・・。
真城の、どうにもヘンテコでトンチンカンな日本語にまず笑ってしまうのですが、
どうもそれは彼のボケというわけでもなさそう、
では何・・・?という辺りをヒントに、
なんと、本作のこの序盤まででは全く予想もつかなかった方向へ、話は展開していくのです。
唖然としてしまいました・・・・!



それにしても実に、この夫婦の妙。
信頼し合いながらもどこか辛辣な物言い。
物静かだけれども意地もある。
二人の共通の悲哀が一層絆を深めてもいる。
いい味出てます~。
完璧です。
そして斎藤工の何やら人間離れした会話や物腰。
これがまた楽しい!! 
この3人の会話を私はいつまでも聞いていたい!!


ものすご~く、ユニークで楽しめる作品。おススメです。

「団地」
2016年/日本/103分
監督・脚本:阪本順治
出演:藤山直美、岸部一徳、大楠道代、石橋蓮司、斎藤工
あっと驚く展開度★★★★★
夫婦の実感度★★★★★
満足度★★★★☆

おかあさんの木

2016年07月15日 | 映画(あ行)
ハンカチorティッシュのご用意を



* * * * * * * * * *


小学校の国語の教科書に載っていたという本作。
以前この予告編を劇場で見たのです。
それは、この国語の教科書に載っていた原作の文章が、
そのまま映しだされるだけという素っ気ないものでした。
(実際そんなに長くはないのです。)
でも、私はそこで見事にやられました。
文字を追って読むだけでドバ~っと涙が溢れだしてしまい・・・。
だから本作を劇場で見るのはちょっと敬遠していたのですが、
この度、我が家で鑑賞ということに。


本作は、原作をうんと膨らませてあります。
長野県の小さな村で、ミツ(鈴木京香)は大好きだった人と結婚し、
7人の男の子が次々に生まれました。
6番目に生まれた子は姉夫婦に請われて養子に出してしまったのですが、
それでも成長の様子をしっかり見届けることができました。
ところが夫は若くして亡くなってしまいます。
それでも子供たちは元気に成長。

やがて、戦争が始まり、まず長男に召集令状が届きます。
そして、次男、三男・・・。
結局養子に出ていた子も含めて全員が「お国のために」戦争に行ってしまったのです。

おかあさんは息子が一人戦争に行くたびに、
その息子の代わりに庭に木を一本ずつ植えます。
そして無事帰ってくるようにと語りかけます。
しかし、その祈りも虚しく、戦死の知らせが次々に届くのです。
長男、三男、四男・・・。
そして、長い戦争がやっと終わっても誰も帰ってきません・・・。
庭には、7本の木が寄り添うように立派に成長しているのに・・・。



戦争に行くというのに「おめでとう」と言われ、
戦死すれば「英霊」と讃えられる。
そんな言葉がおかあさんにとって一体何になるでしょう。


「すべての国民が結局は戦争に加担したのだ」と、
若い頃は私も思ったりもしたものですが、
戦争の是非など考えも及ばない、ただ与えられた条件の中で毎日を必死に生きるほかなかった、
そういう人々が大半だったのだなあ・・・
ということが、今更ながらよくわかります。
そういえば、「プライベート・ライアン」では、
兄弟が何人も戦死してしまったことを考慮せず最後の息子を徴集してしまったため、
その息子を連れ戻すというストーリーでしたよね。
少なくともアメリカではそういう考慮もあったということです。
日本はそんな余裕もなかったのでしょう・・・。


さて、本作何しろ結末を知っているわけですから、
はじめの方のシーンだけでももう切なくて涙・涙・・・。
見るときは、ハンカチかティッシュをお手元にお忘れなく。

ただ、最後の最後にたったひとつの救いはありますよ!

おかあさんの木 [DVD]
鈴木京香,志田未来,三浦貴大,田辺誠一,奈良岡朋子
TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)


「おかあさんの木」
2015年/日本/114分
監督・脚本:磯村一路
原作:大川悦生
出演:鈴木京香、志田未来、三浦貴大、平岳大、田辺誠一

お涙度★★★★★★!
メッセージ性★★★★★
満足度★★★★☆

「羊と鋼の森」宮下奈都

2016年07月13日 | 本(その他)
森の匂いを感じる音色

羊と鋼の森
宮下 奈都
文藝春秋


* * * * * * * * * *

ゆるされている。
世界と調和している。
それがどんなに素晴らしいことか。
言葉で伝えきれないなら、音で表せるようになればいい。
ピアノの調律に魅せられた一人の青年。
彼が調律師として、人として成長する姿を温かく静謐な筆致で綴った、
祝福に満ちた長編小説。


* * * * * * * * * *

2016年本屋大賞受賞作です。
ピアノ調律師の物語・・・。
でも、「羊と鋼」って??? 
それがピアノのことを表しているということを、
自分でピアノを弾くことのない私は、全然ピンと来なかったのがお恥ずかしい。
つまりピアノは、ピアノ線をハンマーで叩いて音を出すわけですね。
ピアノ線が「鋼」でできているのは分かる。
そしてハンマーは羊毛すなわちフェルトでできている、ということを知らなかった・・・。
だから、羊と鋼。
なるほど~。納得!


高2の時、外村は、体育館のピアノ調律の場に立ち会います。
そのピアノの音色から彼は森の匂いを感じます。

「9月の上旬、晴れた夕方の午後6時頃。
山間の集落は森に遮られて太陽の最後の光が届かない。
夜になるのを待って活動を始める森の生き物たちが、
すぐその辺りで息を潜めている気配がある。
静かで、あたたかな、深さを含んだ音。
そういう音がピアノからこぼれてくる。」


彼はこれまでピアノに触れたこともなかったのですね。
ところがこの時、このあまりにも豊かなピアノの音色に魅せられ、
自分でも作ってみたいと思う。
そこで、高校を出てすぐ調律師になるための学校へ入り、
無事調律師として楽器店に就職します。
本作はこの新米調律師の成長の物語なのです。


後で分かるのですが、外村が高校の体育館で出会った調律師は、
海外のピアニストが公演のため来日した時に指名をされるほどの、
超一流の調律師だったのです。
自分には調律師の才能がないと、落ち込む外村でしたが、
いい音を良いと感じられる耳と感性を持っている。
それこそが、調律師には一番大切な資質なのでありましょう。
きっとこんな風に、どんな人にもどこか人よりも興味が持てて、
心に響くモノがあるのではないかな。


とにかく仕事に真摯な外村くんは感じが良いです。
そして、ピアノが大好きな双子姉妹との交流も心地よい。
心がピアノの音で洗われるような心地のする、素敵な一冊でした。

「羊と鋼の森」宮下奈都 文藝春秋
満足度★★★★★

ふきげんな過去

2016年07月12日 | 映画(は行)
ふきげんな果子



* * * * * * * * * *

小泉今日子さんと二階堂ふみさんがつくり出す
ちょっぴり不思議な雰囲気のストーリーです。


女子高生・果子(二階堂ふみ)は、何にも興味が持てず、やる気がない。
死ぬほど退屈な毎日を送っています。
そんな彼女の前に現れたのが、18年前に死んだはずのおば、未来子(小泉今日子)。
ある事件を起こし、前科持ちの未来子の突然の出現に家族たちはビックリ。

しかも、彼女は果子の部屋に同居することになったため、果子は苛立ちを隠せません。
しかも、実は未来子こそが果子の実の母親と聞かされ・・・。



冒頭から、近所の運河で、子どもをワニにさらわれたと訴える母親が、
そのワニを捉えようとして毎日一日中、
運河の前でモリを持って佇んでいるというエピソードが挿入されます。
海水の混じったこんな運河にワニなんかいるわけがない、狂人のたわごと、
と近所の人達は噂しているのですが、
その母親を、果子はなぜか気になって、毎日眺めに来るのです。
何にもすることがないヒマ人・・・と、始めは映るのですが、
でも後の方になってこれは、
果子の何かの鬱屈がそうさせていたのだということがわかります。
果子を育ててくれた母は、未来子の妹。
それまでは、実の母と言われ、当然そのとおりだと思い、過ごしてきた。
だけれどもなんだか違うという思い。
違和感。
果子は、そういうものをずっと抱えてきていたのだろうと思います。
では実の母は? 
18年前に死んだと言うおばこそが実の母、としか思えません。
母はなぜ自分を置き去りにして、どこかへ行って、そして死んでしまったのか。
そんな思いが彼女の中にあった。
だから、狂っているにしても一途に子どもを思う母親の姿を、
見届けずにはいられなかったのかもしれません。
嘘のはずがない。
本当にワニがいてほしいと思いながら。



さて、ところが終盤、ラスト近くでは彼女の中のワニの意味がまた違うものになっているのです。
危険なものとして社会から孤立した存在。
人々から忌み嫌われる存在。
実の母未来子とワニが重なっている。



ふきげんな過去・・・というのはつまり
「ふきげんな果子」ということなのでしょう。
果子は本作中ずっと仏頂面、不機嫌な顔をしています。
でも、ラストシーンでのみ笑顔が!! 
そのワニの運命を見届けた果子の表情なのですが。
なるほど、この最後の表情を浮かび上がらせるための「不機嫌顔」だったということなのです。
最後のほんの一瞬なのですが、痺れます。



本作のキモはもちろん、この母と娘、二人の「爆弾娘」。
結局良く似ている。
取っ組み合いの喧嘩のシーンも凄い!! 
そしてもう一人、いいなあと思ったのが、果子のイトコに当たる小学生のカナ(山田叶望)。
夏休みなので、母親が仕事に出ている間、果子の家で過ごします。
特にに頭がいいわけではなく、ちょっとボーっとしたところがある
好奇心の強い、いかにも子供らしい小学生。
この感じが、すごくいい。
最近のドラマなどに出てくる小学生は変に大人っぽすぎますからね・・・。
でもちょっと、危険な目に遭うシーンはキモを冷やしました。
そのシーンは嫌な予感がしたんですよね・・・。
ここはどうなのか・・・?
まあつまり、未来子さんの生き方は冗談でなく、やはり危険ということか。


ユニークな作品。


「ふきげんな過去」
2016年/日本/120分
監督・脚本:前田司郎
出演:小泉今日子、二階堂ふみ、高良健吾、山田望叶、兵藤公美
不機嫌度★★★★☆
満足度★★★★☆