映画と本の『たんぽぽ館』

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ワルキューレ

2009年03月22日 | 映画(わ行)
なぜ計画は失敗したのか・・・

           * * * * * * *

1944年。第二次世界大戦下ドイツ。
ヒトラーのあまりにも過激な思想・政策に危惧を感じ、
祖国の平和のため、ヒトラー暗殺を企てるシュタウフェンベルク大佐。
これはその実話を基にした映画です。

とはいえ、ヒトラー暗殺はなかった、というのは史実が示していますので、
このストーリーは、
なぜそれが失敗に終わったのかを描く作品であるわけです。

この “ワルキューレ作戦”は、
もともとは、反乱軍鎮圧用に作られた既存のオペレーションを逆利用したもの。
そして、誰を仲間に引き入れてその組織をどう作っていくのか、
そういうことが非常に重要。
少しでも秘密が漏れれば命はありません。

ヒトラーから直接書類にサインをもらうシーン、
爆弾を仕掛け、その爆発を待つシーンなど、
結構スリルに飛んでいまして、ドキドキしました。


結局作戦失敗の原因は、不可抗力の「変更点」にあるのかもしれませんが、
それでも、いろいろと見えてくるものはありましたね。
幹部の優柔不断。
事実確認の甘さ。
リーダーシップにイマイチ足りない何か…。
しかしそれは、表立って動けないその状況を考えると、
仕方のないことかもしれません。

実際には、ヒトラー暗殺計画は他にも多々あったそうなのですが、
ヒトラーというのは、なんて悪運が強いのでしょう。
神が味方したなどとは全く思いたくありませんが…。
当時の通信手段が描かれているのは興味深い。
タイプライターで打った文字が電信で伝わってきます。
二つの相反する指令を受け、戸惑い、混乱する現場。
通信・放送、やはり最大重要なのは情報を制することなんですね。
ヒトラーの死は嘘っぱちでも、
その情報をキープできればこのクーデターは成功したかもしれません。
・・・逆に考えると、マスコミって、本当に怖いです。

さて、ナチスの軍服に身を包み、アイパッチまでしたトム・クルーズ。
これが実にカッコイイ。
はまり役ですね。

それから、大佐の幼い娘が大きすぎる制帽をかぶり、微笑んで敬礼する映像が、
ため息が出るくらいかわいらしくて、目に焼きついています。

・・・このように見所はありつつも、
なぜかしら満腹の満足感には欠ける…そんな印象でした。

2008年/アメリカ・ドイツ/120分
監督:ブライアン・シンガー
出演:トム・クルーズ、ケネス・ブラナー、ビル・ナイ、トム・ウィルキンソン

【公式】トム・クルーズ主演 『ワルキューレ』 予告編




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4 コメント

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Unknown ()
2009-03-27 01:18:37
期末で忙しくてコメントできなくて申し訳ありません。
やっと観ました。
なかなか面白かったのですが、たしかに、満腹じゃないですよね。
わかります。
でも、久しぶりの映画館で、テンション高めの自分だったので、十分楽しめました。
Unknown (たんぽぽ)
2009-03-27 19:59:26
>亮さま
お忙しそうですね。
でもそういうときに、ちょっとの時間のスキにみる。こういうのがまたなかなかいいんですよね。
逆に、映画なんかいくらでも見られる。すごくヒマ・・・、なんて時は逆につまらない。
同じ映画でも、シチュエイションで感想が違ってくるということもありそうです。
でもこの作品は確かに、面白くなくはないです!。
「ワルキューレ」について (風早真希)
2023-12-23 08:48:59
こんにちは、たんぽぽさん。

ナチス体制のドイツ、しかも体制内に反ヒトラーの運動と抵抗があったんですね。
これまでにもエピソード的には描かれている、ヒトラー暗殺計画の屈折した詳細を描いたのが、このブライアン・シンガー監督の「ワルキューレ」ですね。

ユダヤ人としてのブライアン・シンガー監督の半端でないこだわり。
軍人役も大好きなトム・クルーズほか、テレンス・スタンプ、ビル・ナイ、トム・ウィルキンソンらが渋い演技を見せている。

「ネコのミヌース」では、可愛かったカリス・ファン・ハウテンは、すでに大女優の風格があります。
そして、反ヒトラーの少将役で、ケネス・ブラナーの姿もある。

「ヒトラー~最期の12日間~」あたりから、ヒトラーのナチス体制が一枚岩ではなく、内部に抵抗運動があったという事が、肯定的に描かれるようになった。

ヒトラーを単なる"狂気の悪役"としてではなく、もっと歴史と権力のコンテキストの中で、ナチズムを見る方向が出てきたように思う。

しかし、この種の映画は、どのみちヒトラーに代わる新しい権力、たとえヒトラーよりは民主的なものであれ、それを打ち立てようとする限り、所詮は"権力への意志"に支配された動きであって、権力そのものを乗り越えようとすることとは無縁なのだ。

ルキノ・ヴィスコンティ監督の名作「地獄に堕ちた勇者ども」は、ナチズムが単なる一過的な狂気の産物ではなく、技術と巨大な権力を志向する時には、必ず生まれる症候群として捉え、同時に、その絶望的なまでの頽廃がもたらす、終末の美から、我々が逃れる事ができるかどうかという、試練の中に連れ込んだのだった。

恐らく、ナチズムを乗り越えるには、そういう試練なしには不可能だろう。
単なる、悪の権力に対抗して、それを倒すというだけでは、結局、新たな、今度はそれまでの支配をよりソフトにしただけの支配を生むだけなのだ。

その意味で、この「ワルキューレ」は、トム・クルーズがそのプロデュースにも関わり、セット・デコレーションや衣装に膨大な金を注ぎ込み、実際に美術的には見応えのある、贅沢なセットを作りあげたが、ナチズムそのものの理解と批判においては、非常に底が浅いような気がします。

この作品は、サスペンス映画としては一級品だが、贅沢なポリティカル・サスペンスの域を脱していない。

トム・クルーズ演じるシュタウフェンベルク大佐らのヒトラー暗殺計画は、失敗するわけだから、この映画は結果として、単なる教科書的な歴史の学習か、ヒトラーの悪運の強さの確認、歴史のアイロニーといった事しか得られないのだと思います。
Unknown (たんぽぽ)
2023-12-23 19:37:07
風早様
ご丁寧なコメントありがとうございます。
トム・クルーズが出演している時点で、エンタメ作品なので、そう深く描かれないのは仕方ありませんよね・・・。

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